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紫の獣

1.足立という一年生

人影を追って旧校舎に足を踏み入れ、すぐさま後悔する。
風紀委員なんてしていると、下校後の校舎の見回りをする事が度々ある。

今日もそうだった。
下校時刻を過ぎた午後七時五分。
八時には校舎の電源が落とされてしまうので、既に残っている生徒はいない。それなのに見回りの途中で旧校舎の廊下を歩く人影を見てしまったのだ。

築三十年を過ぎるそこは木造の三階建てだ。老朽化が進み、新校舎が出来てからは全ての教室がそこから移動した。ならば取り壊してしまえばいいものの、そう出来ない理由があるのだ。

怪談だ。

学校に怪談はつきものだと思うが、旧校舎のそれは少しばかり違う。
五年ほど前に一人の生徒が行方不明になったのだ。最初は家出を疑われたのだが、本人の持ち物が何もなくなっていなかった事から事件か事故に巻き込まれたのだろうと周囲は思った。

それから程なくして、旧校舎でその生徒の姿を見た者が続出した。
普通なら、見つかってホッとする所だが、そうは行かなかった。
その女子生徒が血だらけで歩いていたからだ。
肩の辺りがザックリと裂けており、首は異様な角度に折れ曲がっていたと言う。
その姿は誰がどう見ても『無事』とは言えず、また慌てて追い掛けてみたが角を曲がった拍子に消えてしまったという証言もあり、幽霊なのではないかと噂されるようになった。

しかし、学校側はそれを強く否定した。
彼女が消息を断ったのが、下校した後だったからだ。
駅で電車を待つ姿を同じクラスの生徒が目撃していたのだ。
それでも噂は消えるどころか、ますます派手な尾ひれが付いて行く。
更には幽霊を見たと言ってヒステリーの発作を起こす生徒も出て来た。

そこで旧校舎の取り壊しが決まったのだが、必ずと言っていいほど事故が起こる。
足場が崩れ作業員が怪我をした。或いはクレーンが倒れ、立ち往生なんて事もあった。
やがて工事を請け負った会社が辞退してしまい、旧校舎は立入禁止となったまま放置されている。
しかし、人が出入りしないそこに目を付ける輩もいる。

先日も教師の目を盗んで肝試しに入った生徒が階段から転げ落ちて怪我をしている。
だからこそ、旧校舎の廊下を歩く人影を追って来たのだ。
閉め切っていた所為か、少し黴臭い上に暗い。明かりをつけたかったが、旧校舎の電源は落とされているのでそれも叶わない。
用心の為に持っている懐中電灯を手に人影が見えた二階へと急ぐ。
そこで思い出したのだ。

自分の右目について。

俺の右目は殆ど視力がない。日常生活に支障はないのだが、困った事に奇妙なものを見てしまうのだ。
踏切の隅で踞る幼女だとか交差点で立ち尽くす血だらけの男だとか。
周りの人には見えていないらしく、気にする事なく通り過ぎて行く。
彼らはきっと既にこの世にいないのだ。
そうと気付いてからは、見えても無視するようにしている。

何故なら、俺は相当にビビリだからだ。

金縛りにでもあおうものなら心臓発作で死ねる自信があるほどのビビリだ。
そんなビビリな俺が旧校舎になんか来て無事でいられる筈がない。

さっきのは目の錯覚だったと言う事にして引き返そう。

だが、ミシと頭上から音がする。
誰かが廊下を歩いている。
幽霊なのに体重があるのか?
でも、幽霊が出る時にはラップ音がすると何かで読んだ事がある。これはもしかしてそれなのかも。

くそ、どっちだ。

生徒だとしたら、連れ出す必要がある。しかし、幽霊なら近づきたくない。
俺が逡巡している間も廊下を歩き回る足音が聞こえて来る。

くっ、仕方ない。

覚悟を決めて階段に向かう。
わざと乱暴な足音を鳴らす。それはたぶん本能だ。
山道で熊と出会わないように鈴を鳴らすのと同じで、ここにいるので出て来ないで下さいよと合図を送っているのだ。

その甲斐あってか、何とか二階に到着する。
懐中電灯でグルリと辺りを照らし、誰もいない事を確認する。
何だ。やっぱり目の錯覚だったじゃないか。
ハハハと乾いた笑いを漏らして引き返そうとするが、その肩を誰かに叩かれ飛び上がる。
言葉にならない悲鳴を上げて逃げ出そうとする。しかし叩かれた肩をガッシリと掴まれ足が縺れる。

「大丈夫ですか?」

暗闇によく響く声だった。
それに導かれるように振り返ると、小柄な男子が可笑しそうに口元をひくつかせていた。
咄嗟に足があるのを確認して、肩を掴んで来るその手を振り払う。

「下校時間はとっくに過ぎてるぞ。クラスと名前は」

八つ当たりのように問いつめるが、そいつはクスクス笑うだけで答えようとしない。

「おい!」
「そんなにビビリでよく風紀委員が出来ますよね?」

ギクッとする。
ビビリだとバレた。風紀委員の俺がビビリだなんて噂を立てられたら、取り締まるものも取り締まれない。示しがつかない。

「一年の足立です。先輩は?」

上から目線で答えられ、続けて問われムッとする。

「三年の林だ」
「ああ、あの有名な」

含みのある言い方が気になるものの、今は足立を連れてここから出て行くのが先だ。

「いいから、行くぞ」
これまでのやり取りから、てっきり口答えして来るかと思ったのだが、思いのほか素直に足立が頷く。

「旧校舎の怪談って知ってます?」

違った。全然素直なんかじゃない。
ここがその旧校舎なんですけど!
知ってるからこそ、お前だって入り込んだんだろうが。

「それが何だ」
「強面を気取っても今更ですよ?」

バカにしたようなその口調にグッと言葉を詰まらせる。
性格悪いな、コイツ!

「行方不明になった生徒が血だらけで徘徊しているって聞いたんですけど」
「それが何だよ」
「どうして誰も疑問に思わないのか不思議で」
「疑問?」

怪談に疑問なんか抱く必要がどこにあると言うんだ。整合性のつかない、理解出来ない現象なのだから、疑問なんか持ったら全てが疑問だらけになってしまう。

「何年も血だらけで歩いているって言うんだから彼女はもう死んでいるんでしょうね。でも、どうして旧校舎にいるのか、おかしいと思いませんか」

言われてみればその通りだ。
学校内で死んだと言うのなら、旧校舎に出るのは納得できる。だが、駅で彼女を目撃した生徒がいるのだ。ならば、命を落としたのは学校の敷地内ではなかったとなる。

「それが何だって言うんだ」
「だって、死んだあとにまで学校にいるって事は何らかの未練があったか、ここが死んだ場所だからじゃないですかね。あと肩から血を流していたんでしょう。学校内のどんな事故にあえば、そんな死に方をするんですか」

どんなって……そりゃ血が出ていたなら肌が裂けたのだろうとは思う。死ぬほどの出血か……いや、首が曲がっていたという話もあったな、そう言えば。

「どこか高い所から落ちたとか」

二階ぐらいじゃ死なないだろう。だったら三階かそれ以上、たとえば屋上から飛び降りたとか。
いや、そうじゃない。彼女が死んだのは学校じゃない。

「帰宅途中の姿を目撃した生徒がいるんだよ。だから、彼女が死んだのはここじゃない」

だいたいからして、校内で死んだのなら死体が発見されている筈だ。それなのに未だに行方不明扱いと言う事は、死体が発見されていないからだろう。

「ふぅん……だったら、旧校舎に未練があったのかな」

独り言のように小さな声でそう呟く。
どうやら足立は幽霊の噂を聞いて、その真偽を確かめに来たらしい。それにしても、どうして下校時刻を過ぎたこんな時間に一人なんだ。
これじゃ暗くてよく見えないし、幽霊が出ようが出まいが一人じゃ怖い筈じゃないか。

「お前、友達いないのか?」

考えた末にそう言った俺を見て、足立がクスッと笑う。

「薮から棒に失礼な質問ですね」
「だって、そうだろ。肝試しにしても一人でするなんて友達がいない証拠じゃないか」
「肝試しじゃありません」
「じゃ、何だ」
「頼まれたんですよ」

何を、誰に。
それが顔に出たのか、足立が先に口を開く。

「ここじゃ何ですから風紀室に行くなり何なりしませんか」
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紫の獣

時間が時間だったので、職員室にいた教頭に異常なしと報告して校舎を後にする。
先に行かせた足立とは帰宅途中にある公園で待ち合わせている。
本来なら下校時刻を過ぎていた生徒には反省文を提出させるのだが、事情がありそうだったので先にそれを聞こうと思ったのだ。俺がビビリだというのを口止めしたかった訳では決してない……多分。

公園につくと、ブランコに乗っていた足立が身軽な動作で飛び降りる。その反動でブランコがギーギー苦しそうな音を立てる。

「お疲れさまです」

そう言ってベンチを指差すので、それに頷いて移動する。
並んで腰掛けると、それまで気付かなかったのだが足立からほんのりと香のにおいがする。家に仏壇があるのかも知れない。

「あの校舎、取り壊そうとすると事故が起こるって聞きましたけど本当ですか」

一年生の間でも噂になっているらしい。部活動は始まっているから、そこで三年や二年に聞いたのだろう。

「俺が実際に見たのは一昨年の事故だが、足場を組んでいる途中で作業員が転落したんだったか。幸い腕の骨折だけで済んだけど、これまでの事があるから何となく工事は中止になったんだろう」
「だから噂ぐらいの情報しかなかったのか」

俺の話を聞いて、足立がボソリと独り言のように呟く。
どうやら、旧校舎に関して少し調べたようだった。誰かに何かを頼まれたと言っていたから、それに関係しているのだろう。

「それで、お前は誰に何を頼まれたんだ」

来る途中、コンビニで買った珈琲を渡しながら問い掛ける。それを受け取った足立が口を開く。

「僕の祖母は昔、祈祷師をしていたんです」

唐突な告白に理解が追いつかず首を傾げる。
それを見て、足立が疲れたように笑う。

「ここに越して来る前だそうですから、今から五十年は前の話ですよ。それをどこで聞いたのか、依頼されたんです」
「誰に?」
「行方不明になった女子生徒、佐倉小花の母親にです」

名前までは知らなかった。五年前と言えば俺はまだ中学だったし、家出と思われたので新聞沙汰にもならなかったからだ。

「最初は断ったんですけど、僕が同じ高校に進学したって知られてしまって断りきれなくなったんです」
「何を頼まれたんだ?」
「娘を見つけて欲しい、と」

五年も経って今更?
いや、五年経った今も諦められないのだ。
生きているのか死んでいるのか、それすら分からないのだから心の持って行き場がないのだろう。
だが、足立は旧校舎の怪談を知っていた。と、言う事は。
そこで目撃された幽霊が行方知れずの佐倉という女子生徒だと思っているのではないだろうか。

「それはもう死んでいる前提なのか?」

ハッキリと口に出して言わないが、同じ学校にいる誰もがそう思っている。旧校舎の幽霊、それは行方不明になった少女とイコールだ。
だが、肉親ならば今もどこかで生きていて欲しいと願うのが普通ではないだろうか。
俺の考えを裏付けるように足立が肩を竦める。

「ご両親はそう思っていませんよ。でも、家出するにしてもその理由もなかったし、荷物も特になくなってない。本人の意思で帰らないのではなく、帰れないのだろうと思っている、そんなところでしょう」
「そう、か……そうだよな」

どんなに可能性が低くても、娘が生きていると信じている。足立に頼んだのは、ただ帰りを待つのにも疲れたと言ったところか。
それを面白可笑しく噂している自分たちが恥ずかしくなる。

「それにしても、その……キトーシって何だ?」
「そこ説明いりますか?」

足立がバカにしたように目を丸くするので、グッと黙るしかない。
くそ、一年の癖に生意気な。

「ところで、林先輩って見えるんじゃないんですか?」

がらりと変わった話題にトボケる事も出来ず黙り込む。
ここで「何の事?」と問い返す事は可能だろう。でも、足立は確信しているらしくジッと見つめて視線を逸らさない。

「ああ、やっぱり……だから、あのビビリようだったんですね」
「それは忘れろ」
「無理ですね。近年稀に見るビビリようだったんですから、今からでもインターネットで拡散希望しときましょうか」

楽しそうに告げられたその言葉に顔から血の気が引く。
そんな事されたら明日から『アイツ、ビビリなんだぜ』と後ろ指差されてしまう。そうなったら学校はおろか近所を歩く事すら出来なくなる!

「それだけは!」

なりふりなんか構っていられない。土下座する勢いでそう頼み込むと、「どうしようかなぁ」と悪魔のような声がする。

「居残りの反省文を書かなくていいし、他にも何だってするぞ!」
「……本当に?」

俺の言葉尻をとらえたとでも言うように足立がそう問い返して来る。それに頷き顔を上げて後悔する。
足立が嬉しそうにニンマリと笑っていたからだ。



委員会を終えて風紀室に戻ると、廊下に見覚えのある人影があった。
足立だ。
俺の姿を認めてニコリと笑う。並んで歩いていた他の委員が「可愛いじゃん」と呟く声が聞こえる。確かに明るい所で見る足立は可愛らしい。

大きな目と長い睫毛、白い肌に真っ赤な唇。小柄な体格だからかどこか女の子っぽく感じるし、ニッコリと笑う姿はそこらのアイドルより全然可愛いし綺麗だ。たが、俺には悪魔の微笑としか思えない。或いは獲物を見つけたハンターだ。

「林先輩、ちょっといいですか?」

厭だと答えたら昨日の事を言いふらされるかも知れない。
まぁ足立は友達が少ないようだから大丈夫だろうけど、可能な限り危機は回避したいと思うのが人情だ。

「ああ、」

頷いて風紀室のドアを開けようとして思いとどまる。ここで話したら俺がビビリだと、他の委員にもバレてしまうではないか。

「ちょっと待ってろ」

そう言いおいて風紀の書類を手早く片付け、すぐに戻る。
風紀室にいる委員どもが何やら囃し立てているが、今は無視だ。そんなものに構っている余裕なんかない。

「で、話って何だ」

適当に歩きながら促すと、足立がニコリと笑う。

「肝試しに付き合って下さい」
「断る!」

俺がビビリだと知っていながらそんな事を言うなんて、こいつは相当のイジワルに違いない。

「お礼はちゃんとしますよ?」

どんなお礼だろうが、厭な物は厭だ。だいたいからして、俺が金に目が眩むような人間だとでも思ってるのか。

「先輩のその目、封じてあげます」
「……え?」

今、何て言った?
俺は自分の目の事を誰かに言った事なんかない。家族ですら視力が弱いぐらいにしか思っていないのに、どうして昨日会ったばかりの足立がそれを知っているんだ。

「正確には封じる訳じゃないんですけどね」
「どういう事だ」
「先輩の右目、取り憑かれてますよ」

取り憑かれ……って何に!
クワッと目を見開く俺を見て、足立が困ったように小さく笑う。
「僕もちゃんと修行した訳じゃないのでよく分からないんですが、それでも先輩の右目にいるものとは波長が合うみたいで何となく分かるんです」

分かるのか分からないのか、ハッキリしろ。
いや、何がいるのか分からないって意味で、何かがいるのは分かってるって事か。

「それ、じゃ……もしかして俺の目が普通になるって事なのか?」
「視力は戻らないと思いますけど、ない物を見てしまうって事はなくなると思いますよ」

マジか!
そしたら、もう踏切を避けて遠回りする事もなく、深夜にトイレも行けるようになるのか。余談だが、何故か俺がトイレに行くと奴らはここぞとばかりにおちょくりに来る。それにいちいちビビってしまうからいけないと分かってるのだが、ビビるなと言われてビビらないなら最初からそうしてる。

「あ、でも……ちゃんと修行した事ないって」
「小さい時に祖母から禁止されたので。でも、失敗したとしても先輩に危害が及ぶ事はありませんよ」

何だか引っ掛かる言い方だな。
でも、今の話が本当だとしたら俺にとってメリットばかりなのは確かだ。
成功したら俺はもう怖い思いをしなくて済むし、失敗しても今と変わらない。
だったら、引き受けるしかないだろう。

「でも、どうして俺なんだ?」

旧校舎はボロボロだし、怪談の舞台でもある訳だから一人じゃ怖いと言うのなら納得出来る。でも、昨日は一人で行った癖に今日になってどうしてだ。

「虫が嫌いな人って誰よりも先に虫を見つけるでしょう。そういう事です」

おまえ、幽霊とゴキブリを同じレベルで話したな。まぁ、嫌われ者と言う点では似てるんだけど。

「分かった、その条件で飲もう。いつ行くんだ?」
「今から行きますよ」

………はい?
今って言ったか、それってもしかして現在ナウって事なのか?
強張る首をグギギと動かして窓の外に目を向ける。
下校時刻の近い午後六時。西の空はまだほんのりと明るいが、そんな物あっという間に沈んでしまう。朝昼晩で区切るなら今は晩だ。つまり夜。

「いやいや。明日にしよう、そうだ、明日の明るい時間がいい!」

これまでの経験から、奴らが出るのは何も夜だけに限った事ではないと分かっている。でも、心理的に夜はダメだ。暗いと言うだけで色々と怖過ぎる。

「何言ってるんですか、さっさと済ませた方がいいじゃないですか」

そうだけど。でも、だけど!
本気で無理だって。夜の旧校舎で血まみれの幽霊とご対面なんかしたら、泣く自信あるぞ。いや、それどころか気絶するかも知れない。
ブンブン首を振る俺に呆れたような溜め息をついて、足立が言う。

「行きますよ」

紫の獣

2.旧校舎の幽霊

ちっちゃい癖に偉そうな……とか、そんな事思う間もなく、旧校舎まで連れて来られる。
うぉ、真っ暗じゃないか。駄々を捏ねてる間に陽が暮れたのか。

イヤだなぁ、本当に。

夜空をバックに聳える廃墟のような旧校舎。ホラー映画かよってぐらいサマになってるじゃないか、オイ。
うぅ、絶対出る。これは絶対に奴らが出るぞ。イヤだ、怖い!
財布に入れてあるお守りを引っ張り出して握りしめる。それに目敏く気付いた足立が「それ何ですか」と問い掛けて来る。

「俺が頼れるのはこいつだけだ……」

そう言って手のひらを開く。俺が握りしめていた物の正体を知って、足立がバカにしたように短く笑う。

「交通安全のお守りじゃないですか。旧校舎の中で車に轢かれるとでも?」
「何もないよりはマシだろ!」
「はいはい」

肩を竦めて中に入って行く。出来る事なら、このまま見送りたいのだが、すぐに「早く!」と鋭い声が飛んで来る。

くそぉ、一年の癖に生意気な。

こんな所に置き去りにされたら、それはそれで怖い。だからでもないが、足立に駆け寄る。
準備よく持って来たらしいペンライトを取り出す足立に問い掛ける。

「肝試しって、出たらどうする気なんだ?」
「連れて帰りますよ」
「幽霊を?」
「はい」

それでいいのか?
確かに、足立が頼まれたのは行方不明になった娘を見つけてくれって事だったから、どんな状態なのかまでは考慮しなくてもいいのかも知れない。でも、だ。
普通、娘の幽霊連れて来られたら困るんじゃないのか。

「それは、もう死んでるって前提でいいのか?」
「これだけ時間が経ってますし、幽霊の目撃証言もありますから」

それはそうだ。
両親としては、一番の希望は生きた娘が発見される事なんだろうけど、五年も経ってるんだから諦めてもいるだろう。だったら足立に依頼したのは、娘の亡骸、或いは魂だけでもって事なんじゃないのか?
でも、足立の口調が酷く事務的なのが気になる。

「成仏させてやるって事でいいんだよな?」
「そこまでは頼まれてませんから」

いやいや、頼まれなくても考慮しろよ。お前には血も涙もないのか。鬼か。
どこの世界に、両親と血まみれの幽霊になった娘を対面させる祈祷師がいるんだよ。酷いわー、こりゃないわー。
足立の性格に呆れるあまり、恐怖を忘れてしまう。

「でも、そう簡単に行くとも思ってません」

お、そりゃそうだよな。
幾ら何でも悲しみに暮れる家族に追い打ちかけるなんてしないよな。安心したぜ。
そう胸を撫で下ろしたのも束の間。続けられた言葉は俺が思ったのと方向が違っていた。

「目撃情報は全て旧校舎ですから、もしかしたらここから出られなくなっているのかも知れません」

違った。両親の気持ちとか何も考えてないや、コイツ。でも、確かに足立の言う通りだ。
教室でもグラウンドでもなく、今は使われていない旧校舎にだけ出ると言う事は、そこに引き寄せられて離れる事が出来ないのかも知れないな。

「地縛霊って奴か……?」

信号や踏切にいるのは見かけた事あるけど、その場に突っ立ってるだけで自分が死んだ場所からどこに行けばいいのか分からないって感じだったぞ。
旧校舎に出るのはそうじゃないだろ。驚いて追い掛けたら消えたって言うんだから、多少の距離を移動したんじゃないのか。
それとも、俺の知識が間違ってるだけで、地縛霊ってのは思いのほかフリーダムなのか?

「それを確認する為に来たんですよ」

そう言って足立が手を差し出して来る。
何かくれるのかと見つめるが、別に何も持ってない。

「手を繋いであげますよ、怖いんでしょう?」

そう言った口元にはバカにしたような笑いが浮かんでいる。
顔は可愛いけど、本当に可愛くないな!


悪態ついてみたって怖い物は怖い。
どうしてそこまで怖がるのって聞かれたら、そりゃ死んでるからだよって答える。
だってそうだろ。何で死んでるのにそこにいるのって思うよ。まぁ、いるのは個人の自由だ。それを俺が兎や角言う筋合いではないのかも知れない。
だったら、こう言い直そう。

俺の視界に入るんじゃねー!
半透明だったり俯いてブツブツ言ってたり、そんな物見たら誰だって怖いわ!

ああ、うん。例に上げたのだと死んでても生きてても怖いけどさ。
そんな訳で、可愛気のない足立の腕をぎゅうぎゅう握りしめて歩く。
痛いんですけど、とかホザイていたが無視だ、無視。俺の感じている恐怖に比べたらそれぐらいの痛み、どうって事ないだろ。

「目撃情報では二階の廊下でしたっけ」

一階には目もくれず、階段へと向かう。
うぅ、本当に幽霊を見る為に来たんだな、コイツ。
そこでハタと気付く。
足立は幽霊と遭遇したらどうするつもりなんだろう。

目撃する事によって、その存在を確認したいと言うのは分かる。だが、相手は幽霊だ。しかも、血だらけで首が折れていたらしいから普通の死に方ではなかったのだろう。
自殺と言うのはないと思う。ならば、事故か他殺……きっと殺されたんだと俺は思う。

何故なら未だに死体が発見されていないからだ。事故だったなら、五年もの間、誰の目にも触れずにいるとは考えられない。
そして、殺されたと言う事は、だ。それだけ恨みも大きいんじゃないのだろうか。

自分を殺した犯人に対する恨み、そして楽しそうに生を謳歌している俺たちへの怨み。
意識せずにゾクッと震える。
もしかしたら佐倉小花と言う女子生徒がここに捕われているのは、自分が死んだ時と同じ年頃の人間全員を恨んでいるからではないだろうか。どうして自分が死ななければならなかったのか、自分じゃなく他の人物が死ねば良かったのに。

それは八つ当たりと言うか逆恨みのようだが、そう思う気持ちも分かる。
自分にばかり不幸が舞い込めば誰だってそう思うだろう。しかも殺されたのなら余計だ。

「おい、足立」

じゃっかん震えた声で呼びかけると、足立がペンライトを俺に向ける。
暗闇に慣れた目にはその僅かな光ですら眩しくて思わず顔を顰める。

「幽霊の存在を確認したら帰るんだよな……?」

足立の目的は行方不明になった女子を見つける事。だが、見つけたからと言って即日、両親の元に引きずって行くって事はしないだろう。

何か……ほら、そういう特別な儀式みたいな、準備みたいな物が必要だろ?

そう期待を混めて問い掛けたと言うのに足立は「そんな訳ないでしょ」と鼻で笑う。

「連れ出せるようなら、そのまま佐倉家まで引っ張って行くつもりです。それがダメなら原因を調べます」

地縛霊になった原因を探るのか……ご苦労な事だ。
そう他人事のように感心していたら足立が続けて言う。

「風紀の協力があれば、そう難しくないでしょうしね」

お前って奴は……この件が解決するまで俺を脅し続けるつもりか。いや、こいつの性格を思えば、卒業するまでと言わずいつまでも俺を脅すつもりに違いない。

何でこんな事になったんだ。
もういっそビビリだと自分で公表してしまった方がいいかも知れない。
そうだ、そうしよう。
足立に右目を治して貰ったらおかしな物を見る事もなくなるんだから、俺が自分でビビリだと言っても実際はそうじゃなくなるんだ。

「バックレようとしても無駄ですよ」

続けられた言葉にギクリとする。そんな俺を見つめて、足立がうふふ、と不穏な笑いを浮かべる。

「祓う事が出来るなら憑ける事も出来ますからね、寧ろそっちの方が簡単ですよ」

あぅ。見透かされてる……って言うか退路が断たれてる。
可愛い顔してお前が鬼か悪魔か。ああ、祈祷師だっけ。

このまま俺はパシリ決定かよ、くそ。

紫の獣

3.女装美少女


時間止まらないかなぁ。
そんな事をボンヤリ考えていたらアッと言う間に過ぎて、気がついたら放課後になっていた。
こういう時に限って早く過ぎるんだから、神様って意地悪だ。
溜め息をついて、仕方ないから風紀室に向かう。
ノロノロと廊下を歩いていると、イヤでもグラウンドの向こうにある旧校舎が視界に入って来る。

あぁ、また行く羽目になるのかな。しかも深夜とか、壮絶にイヤ過ぎる。
風邪……は、今からは無理か、だったら腹痛とか。食あたりで腹が痛い言えば、幾ら足立でも今日は見逃してくれ……ないんだろうな、たぶん。
いい薬ありますよとか言って腹痛の薬渡されて終わりそうだ。

はぁ、イヤだなぁ。

ウンザリと足を進めていると、背後から「林、」と呼び止められる。
鈴のように通る声、聞き覚えのあるそれに俺の鬱度が上がる。
でも無視したら後が怖いのは足立以上だ。
仕方なく振り返ると、白いブラウスにグレーのベスト、チェックのミニスカートを履いているどこからどう見ても女子と分かる服装の女子が怪訝そうに立っていた。
左腕には『風紀』と書かれた腕章でも分かる事だが、俺と同じ三年の風紀委員だ。名前を森と言う。

森は間違いなく女子なのだが、見る度に訳の分からない違和感を抱かずにはいられない。
真っすぐに切り揃えた前髪、その下にあるのは長い睫毛に覆われた黒めがちな瞳。肌の色は白く、唇は化粧する必要もないほどに赤い。

誰がどう見ても美少女だと言うだろう。だが、俺には何となく女装しているように見えて仕方がないのだ。
顔立ちは整っているし、制服も似合ってる。それでいて、美少年が女装しているような違和感を覚えてしまうのだ。

「明日の服装検査、男子の方は大丈夫そう?」

口調が乱暴な訳でもない。他の女子と比べたら綺麗な言葉遣いに思える。だが、それすらもどうしてだかオネエ言葉のように聞こえてしまう。

「ああ、女子はどうだ?」

確認のためにそう問い返すと、自信に満ちた頷きが返って来る。

そりゃそうだ。
この高校にはギャルが一人もいない。化粧やアクセサリーは校則で禁止されているし、スカートの丈も細かく決められている。
でも、俺が入学した時には女子の半分は化粧してたしピアスにネックレス、そしてスカートはパンツが見えそうに短かった。
それら全員を更正させたのが、何を隠そう女装美少年のような美少女である森だ。

入学早々、風紀委員になった森はそれまでやる気のなかった委員たちを追い出し、自分が認めた者だけを残した。そしてギャルたちを一掃したのだ。
最初の頃は口頭での注意だった。だが、風紀委員とは言え一年生の言葉に耳を傾けるギャルなど皆無だった。そこで、実力行使に出たのだ。
朝の登校時間を狙って水の入ったバケツを持って待機して、化粧している三年生に次から次へと水を浴びせた。俺も遠目にその現場を目撃したのだが、あの時の森は高笑いしてた。それはもう楽しそうに笑い声を上げていた。
無邪気で高慢なその笑い声に圧倒されたのか、ギャルたちは呆然としていたように思う。
それを機に、うちの高校からはギャルが消えた。

だから、実質的には森は風紀のトップなのだが、名目上は俺が委員長という事になっている。チェスはキングよりクイーンの方が動けるんだよ?と嘘くさい笑顔で森は言っていた。

だが、はたと考え直す。
女装しているように見えようが、森は間違いなく女。性格に多大なる問題はあるものの、きっと女だと思う。
そして男より女の方が怪談を好む。遊園地に行くと、女は必ずと言っていいほどお化け屋敷に行きたがる、そういう種族なのだ。

「なぁ、旧校舎の怪談知ってるか?」

並んで歩きながら問い掛けると、「は?」と間の抜けた声が返って来る。
薮から棒過ぎたのか、こいつは怪談に興味のない珍しい方の女だったのか。或いは本当に美少年の女装なのか。難しい三択だ。
だが、全て不正解だったらしく森が口元に手を当ててクスクスと吹き出す。

「林はそういう話、苦手でしょ?」

そう、お互い風紀委員としてやり取りする事が多いので森には俺がビビリだと見抜かれている。だが、森の攻撃対象は女子に限られているらしく、言いふらされてる気配はない。

「苦手だ、知りたくもない、大嫌いだ」

ボソボソと言い返すと、森が呆れたように溜め息をつく。

「クールで寡黙な風紀委員長さまって言われてるのに……残念だよねぇ」

そう言われてるのは知ってる。だからこそ、風紀に入ったようなものだし。
俺をバカにして満足したのか、今度は不思議そうに首を傾げる。

「だったら何で?」
「……聞くな」

どう説明したものか迷って、どうにも説明がつかないと諦める。
幽霊見えちゃうのを何とかして貰うために幽霊を捕まえに行くなんて言える訳はない。

困り果てて短く吐息をつくと、「まぁいいけど」と森が言う。

「旧校舎の怪談って花子さんのこと?」

花子さん?
誰だ、それ。

「男に弄ばれて捨てられて自殺した生徒がいたんだって」

続けられた森の説明を聞くと、どうやら佐倉小花とは別人らしい。
だったら、昨日の幽霊か?

「いつ死んだんだ」
「そこまでは知らないよ。でも、セーラー服姿って言うからかなり昔なんじゃない?」

やっぱり、昨日の幽霊か。
男に捨てられたぐらいで死ぬなんて、勿体ない。それが本人の選んだ事なのだろうけど、時間が経過すれば忘れられたかも知れないのに。

「血まみれで旧校舎を徘徊して、自分を捨てた男を探してるらしいよ」
「何のために」
「そんなの決まってるでしょ」

俺の質問に森が呆れたように肩を竦める。

「復讐するためでしょ」

シンプル且つ納得の行く答えだった。
幽霊になって、廊下を這ってまで旧校舎にいるのだ。何か明確な目的があると考えていいだろう。
だけど、足立は切り落とされた足を探しているんじゃないかと言っていた。
どっちが正解なんだ?


「それにしても、」

風紀室に入りながら森が言う。

「幽霊が見えるってどういう感じなの?」

これまで正面からそういう話をした事はない。
説明するまでもなく森にはバレていたのだ。それだけ俺が目に見えてビビっていたと言うだけなのか?

「急にどうしたんだ、珍しいな」
「何かね、一年にもそういう子がいるらしいんだよ」

もしかして足立の事か?
あいつは見えるとかそういうレベルじゃないみたいだけど。

「本人が言い出したのかどうかは分からないけど、入学早々それで問題起こしちゃってね」

そう言いながら自分の席に向かい鞄を降ろす。

「何でも幽霊とかそういうのが見えるらしいって噂になって、その所為で目を付けられてイジメみたいな事されてたらしいんだよね」

違ったか。
俺の知ってる足立は間違ってもいじめられて黙ってるような性格じゃない。

「イジメって言ってもちょっとからかわれるぐらいだったのかな。まぁ、そういうの見えるって言っちゃう子をちょっと痛いって思うのは普通だしね」

それは分かる。
俺だって自分がそうじゃなかったら、何言ってんだコイツぐらいは思うだろう。

「で、どういう経緯なのかは分からないけど幽霊がいるならここに出してみろって事になったらしいよ」

言いそうだ。どんな理由であれ、注目を浴びる存在に嫉妬する輩はいる。
だから分かる。
そう言った奴らも本気ではなかったのだろう。売り言葉に買い言葉、或いはただの言いがかりだったのかも知れない。

「それで?」

小さく頷いて先を促すと、森がサラッと答える。

「出たって噂だよ」

出たって、まさか本当に?
でも確かに足立ならやりそうだ。黙ってやられる性格じゃないしな。

「犬の吠える声が聞こえたんだって。教室にいた全員が聞いてる。でも、当然ながら校内に犬なんかいる訳ないから、言い出した連中は腰抜かしたそうだよ。で、当の本人は涼しい顔して笑ってたそうだから、お触り厳禁扱いになったんだって」

やっぱり足立だ。
そんな状況で笑ってられる奴なんてそうそういないだろう。どうやったのかは知らないが、その場にいた全員が犬の声を聞いたのなら、それは足立が呼び出したからなのだろう。道理で友達がいない訳だ、と納得する。

「だからちょっと興味あるんだよね」

続けてそう言う森を改めてマジマジと見つめる。
そういうものが見えるとバレてから、森にバカにされた事がないと思い出したのだ。
何もバカにされたいと言うのではない。だが、普通は疑うぐらいするものじゃないのか?
そう疑問をぶつけると、怪訝そうに「何で?」と問い返されてしまう。

「見える見えないって、目がいいとか足が早いとか、そういうのと同じでしょ。別にバカにする事じゃないし、私は見えないから見える人にはどう見えてるのか知りたいとは思うけど」

森の言葉に顔を顰める。
俺は見たくて見てる訳じゃないんだ、こっちの身にもなってみろ。
それに足が早いとかと同じレベルで済ましていいとも思えない。しかも森は何やら書類を開いてるし……これは世間話か。
俺がムッとした気配を察したのか、森が顔を上げる。

「猫だって可愛いのとブサ可愛いのがいるんだから、見える見えないはただの個体差でしょ、見えない人にはどうやったって見えないんだから。見えないからって、私は頭から否定する気はないってだけ」

猫と同じか。
そう思って漸く森が女装しているように見える訳が分かる。
女らしくないのだ。
見た目は女だし、乱暴な仕草や言葉遣いな訳ではない。しかし、思考回路や情緒が女のものじゃない。
随分と割り切った考え方をする。それが悪いと言うのではない。むしろ好ましいとすら思う。だが、一般的な女と比べてやはり情緒と言うか感情の持ち方がおかしい。
森はもしかしたら足立以上に合理的な考えの持ち主なのかも知れない。

「分からないからって否定しても、実際にいるなら意味ないでしょ。だから私に見えないものを見るって事がどういうものなのか理解した上で判断したいだけ」
「理屈っぽい奴だな」

思わずそう漏らすと、森が手を止めて「あはは」と笑い出す。

「うん、確かにそうかも。で、どんな風に見えるの?」

踏切や交差点で立ちすくむ人影、ビルから飛び降りて来るのもいる。
最近では、旧校舎で花子さんらしい幽霊も目撃している。あれはかなり強烈だった……思い出すだけで身の毛がよだつ。

「そう言えば、お守り渡したんだった」
「誰に?」

不思議そうに森が首を傾げる。

「花子さん……だと思う」
「へぇ、花子さんって本当にいるんだ」

感心したように呟いてから、「プッ」と吹き出す。

「何だよ」
「だって、変でしょ。何で幽霊にお守り渡すの」

言われてみれば確かにその通りだ。しかも交通安全。
自分でもあの時に何を考えていたのか分からない。

「ま、ご利益があるといいね」

クスクス笑いながら言われ、曖昧に頷き返す。
幽霊にご利益って、どんなご利益なんだ。

紫の獣

地元出身の教師に聞いてみたところ、二十年程前までは、女子の制服はセーラーで男子は学ランだったそうだ。ならば、あの幽霊はそれ以前に死亡した誰かなのだろうか。

昼休みに風紀室で足立と弁当を突つきながら情報を交換する。
残念な事に俺はちょっとした有名人なので、足立といる所を目撃されたら変な噂を立てられるかも知れない。その点、この時間なら委員たちも風紀室に来る事はない。

それに話の内容が内容なのだ。幽霊だの殺人事件だのと、好奇心を掻き立てる単語だらけなので、人に聞かれない方がいい。
それだけで足りるのかと問いつめたくなるほど小さなお弁当を突つきながら足立が言う。

「佐倉小花と昨日の幽霊はやっぱり別人だったでしょう?」

そう考えるのが順当だろう。
五年前に死亡したと思われる佐倉小花が二十年ほど前の制服だったセーラー服姿で化けて出る理由なんかないからだ。

「そんな訳で今日の放課後もお願いします」

そう言って弁当の蓋を閉める。食べ終わったらしい。
几帳面な性格なのか、綺麗な使い終わった箸をティッシュで拭っている。

「何を?」
「もう一度旧校舎に行きますよ」

何て事ないように足立が言う。

「どうして」
「僕が頼まれたのは佐倉小花を見つける事で、昨日のは別人だと思われるからです」

えー。昨日みたいなのはちょっと。

何とかして逃げられないかと脳をフル回転させる。
昨日の幽霊は佐倉小花は別人である。
だから佐倉小花を探しにもう一度、旧校舎に行く。

足立の言い分は尤もなように聞こえるが、果たして本当にそうだろうか。
確かに近道ではあるのだろう。
何しろ足立の目的は佐倉小花の発見なのだから。
だが、物事には順序と言うものがある筈だ。

二十年以上前の制服姿で徘徊する幽霊。それが佐倉小花の失踪と無関係とは思えない。

「なぁ、ちょっと質問なんだけど」
「どうぞ?」

余裕ある笑顔で促されて、思いついた事をそのまま口にする。

「元々いた幽霊に取り殺されるってのはあり得るのか?」

昨日の幽霊は二十年もの間、旧校舎を這いずっていると仮定する。
そんな執念だか怨念だかがいっぱいの幽霊なんだから、生きてる人間を取り殺す事もあるんじゃないのか。

「昨日の彼女が佐倉小花を殺したと?」
「ああ、可能性としてはゼロじゃないだろ」

俺の言葉を吟味しているのか、足立が腕を組んで考え込む。
地縛霊に殺されて地縛霊になったのだとしたら、昨日の幽霊が佐倉小花を離してくれない限り、旧校舎から連れ出すのは無理だろう。
だとしたら、昨日の幽霊の身元を探って、その死因を調べるべきじゃないのか。

「あり得ないとは言いませんが、可能性としては低いと思います」

あれ、そうなの?
キョトンと首を傾げる俺を見て、足立がどうでも良さそうに吐息をつく。

「昨日の幽霊は僕たちが見えていないようでした。つまり、生きてる者に興味ないんじゃないかと。それなのに佐倉小花を取り殺したりするでしょうか」

幽霊に取り殺されたのだととしたら衰弱死でしょうし。
続けてそう言う。

ああ、そうか。
確かな事は分からないけど、怪談話に出て来る佐倉小花は出血していたんだっけ。だったら、どこか怪我したって事になって衰弱死は当て嵌まらない。
幽霊がナイフで攻撃して来たりしたら、怖いなんてものじゃないよな。そうかそうか。

「でも、旧校舎に出る幽霊が二人いるんだ。しかも、どっちも女子。何か関係があるんじゃないのか」
「興味ありません」

あ、ちょっとコイツの性格分かった気がするぞ。
推理小説は解説から読むタイプだな、きっと。
几帳面なのに面倒くさがり。
過程よりも結論が大事なんだろう。だから手っ取り早く答えを出そうとしているのか。

「もっと外堀から固めて行こうぜ」

結果を重視するなら効率良く進めたい気持ちはよく分かる。だけど、過程を素っ飛ばして結論に飛びついても、それが間違いだったらどうするんだ。こういうのはゲームと一緒だ。
こまめにセーブするのは大事なんだ。セーブポイントが遠いからって先にガンガン進んだら詰んだ時にどうしようもなくなる。

それなのに足立には想像つかないらしい。怪訝そうに顔を顰めている。

「もう少し調べてみてからでも悪くないんじゃないか」

行方不明になった佐倉小花と旧校舎にいた片足のない幽霊。二人が同一人物ではないと推測できる以上、それぞれについて調べる必要はあるだろう。

だが、足立は胡散臭そうに俺をジットリと見つめる。
考えてる。さては俺が何を考えてるのか勘繰ってるな。

「悪くない提案だとは思いますけど、まさか……」

低く押し殺した声。まだ何も言われていないと言うのに、その声に狼狽してしまう。
まるで図星をさされたような気分だ。
しかし、続けられた言葉でそれが現実となってしまう。

「まさかとは思いますが、旧校舎に行きたくないからそんな事言ってるんじゃないですよね……?」

探るような目で俺の顔を覗き込んで来る。

お前、勘いいな!
なんて口が裂けても言えない。それを認めたら、きっとハードルを上げて来るに違いない。この数日で足立の性格は少し把握したんだ。
目が泳ぎそうになるのを必死で堪えて無表情を保つ。
それに騙されてくれたのか、やがて億劫そうな溜め息をこぼして足立が目を逸らす。
勝った!

「分かりました。先輩の言う通り、先に調べてみましょう」

そうだ、それがいいと思うぞ!
昨日あんな目にあったばかりで、すぐにまた旧校舎に行くなんてどんな豪傑でも無理だって。尻込みして当然だって!

「でも、僕は調べるあてがないので先輩にお願いしていいですか?」

え、俺に丸投げするつもり?
キョトンと首を傾げると、足立がその唇にニヤリと意地悪そうな笑みを刻む。

「先輩が言い出した事ですし、お願いできますよね?」

う……まぁ、一年生の足立と三年の俺じゃ持ってる情報網が違うし。
風紀委員なんてしてると、生徒間の噂なんて自然と耳に入るしな。
仕方なく、しぶしぶ頷くと足立が嬉しそうに言葉を続ける。

「じゃぁ、期限は今日の午後十時までにしましょうか」
「は……?」
「それなら日付が変わる前までに旧校舎に行けますよね?」
「え、ちょっと待て」

空耳か、何かと聞き間違えたか。
片足のない、いまだ血を流し続ける幽霊の出る旧校舎にそんな時間に行く気か?
午後十時って言ったら夜だぞ、夜。しかも深夜だ。怪談の冒頭でよく出る「草木も眠る丑三つ時」ってのまで数時間しかないんだぞ!
顔面蒼白とはこの事だ。
ハードル上げるどころか、こいつ巨大な崖を作りやがった!

「放課後からって計算しただけでも六時間はありますね。先輩なら何とかできますよね?」

ニコニコニコニコ。
無駄に可愛い笑顔を振りまきやがって、この性悪が。

紫の獣

5.家路


結局、他に収穫のないまま夜になってしまった。

一応、風紀の記録を調べてはみた。だが、関係ありそうだと思ったのは、肝試しに行って風紀に見つかった生徒のものだけだった。
おかしなものを見たと証言している生徒が数人いて、しかも全員の話が食い違っていた。その事から推測されるのは、矢張り旧校舎には花子さんと佐倉小花、二人の幽霊がいるのだろうと言うことだった。

それが分かったところで、どうしようもない。
このまま家に引きこもってるという選択肢のない俺は囚人さながらの足取りで待ち合わせ場所である公園まで向かう。
幽霊が見えてしまう目、それを何とかして欲しいのは本当だ。だけど、相手は生意気とは言え、一年生。俺が言う事を聞く必要はない筈だ。それでも何故か足立には逆らえないと思い込んでしまっている。どうしてだ。
ジーンズに黒っぽいパーカーを着込んだ足立が俺を見てベンチから立つ。

「何か分かりましたか」

森から聞いた花子さんの話をすると、何故か冷ややかな視線が返って来る。

「何だよ」
「何度も言いますが、昨日の幽霊は佐倉小花とは別人だと結論を出しましたよね」
「ああ」
「だったら、どうして佐倉小花について調べないんですか」
「いや、何て言うか……ほら、関係あるかも知れないし」

モゴモゴと言い訳すると、「もういいです」と足立がそっぽを向く。

「収穫はなかったと言う事ですね。だったら、さっさと旧校舎に行きましょう」

短気だ。ビックリするぐらい気が短い。
しかも言うと同時に歩き出したよ、この子。
いってらっしゃーいって見送ってしまえたらいいのだが、そうは問屋が降ろさない。
足立の右手はガッチリの俺の左腕を掴んでいる。ああ、やっぱ行かなきゃダメなのか。
ズルズルと引きずられるようにして学校の前までやって来る。

流石に教師も残っていないらしく、校舎は真っ暗だった。
大胆にも足立が校門を乗り越えようとするので、慌てて引っ張り裏門へと向かう。
風紀なんてやってると、自然と校内の抜け穴に詳しくなってしまう。その一つに案内してやり、無事に侵入を果たす。
さっさと歩き出す足立に従い、コソコソと旧校舎に向かう。

夜空をバックに聳える旧校舎は冗談抜きで怖い。
しかも幽霊がいると分かっているのだから、本気で逃げ出したくなる。まぁ、足立が逃がしてくれないんだけど。

入り口の鍵を外して中に入る。因みに鍵は職員室と生徒会、そして風紀がそれぞれ管理している。俺が持ち出したと知られたら大問題になる。
それが分かっているのかどうか、足立は平然とした様子で廊下を進み階段へと向かう。

やっぱり二階に行くらしい。
この前みたいに花子さんが出て来たらどうするんだ。
かと言って、ここで置いてけぼりを食ったら失神する自信がある。
慌てて追い掛け、無意識に足立の手を掴む。
それに驚いたのか、足立が足を止め振り返る。僅かな明かりしかないが、それでも足立がバカにしたように不遜な笑いを浮かべているのが分かる。

ええ、どうせ俺はビビリですよ。
半ば開き直ってギュッと握りしめるが、別に振り払われることはなかった。
夜の学校で男が二人きり、手を繋いでいる。
冷静に考えたら寒いことこの上ないが、この状況で冷静な判断なんかできる筈もない。
こわごわ階段をのぼると、どこからかミシッと音がする。

「っ!」

何でもない、きっと何でもないんだ。旧校舎は木造だから何かの拍子にどこかが軋むぐらい普通だ。もしかしたら俺たちの足音かも知れないし!

必死にそう言い聞かせていると、今度は頭上からミシッと音が聞こえる。

ギャー!
もう無理、本当に無理!
帰ろう、今すぐ帰ろう。そして忘れてしまいたい!!

パニックを起こして足立の手をグイグイ引っ張る。それが痛かったのか、邪険に振り払われてしまう。

「ちょっと落ち着いて下さい」

不愉快そうに言い捨てられて俺は涙目だ。
来たくて来た訳じゃないのに、この仕打ち。鬼か、お前は。そんなんじゃ女子にモテないぞ。
言い返そうと口を開き掛けるが、それより早く足立が「静かに」と言う。
何だろうかと黙り込む。すると、どこからか人の声……いや、泣き声が聞こえて来る。

辛そうに時々しゃくり上げる声は、聞いているこちらが悲しくなりそうだ。

「やっぱり二階ですね」
「は……はは花子さんか?」
落ち着いた声で呟く足立に吃りながら問い返す。だが、「いえ」と素っ気ない。

「行ってみましょう」

まだ知り合って数日だけど、本当にこいつのメンタルはどうなってるんだと疑問に思う。
だって、この状況で啜り泣きが聞こえてるって言うのに、この動じなさ。異常だろ。
俺が逃げるとでも思ったのか、今度は足立から手を繋いで来る。
絶対に離すものかとぎゅうっと握ると、うんざりしたように足立が言う。

「汗ばんでて気持ち悪いんですが」
「こんなの緊張して当然だ!」
「はいはい」

どうでも良さそうな返事をしながら階段をのぼる。先ほどよりも声がクリアになった。

「あ、いた」

足立の言う通り、廊下の先で踞る人影が見える。
身体を丸めるようにして座り込んだその人影はチェックのプリーツスカートを履いていた。



よかった、花子さんじゃない。また血を流しながら這い回っているのを見たら今度こそ気絶しそうだった。
でも、そうすると泣いているのは佐倉小花と言うことになる。
嗚咽を漏らし、苦しそうに辛そうに泣いている。

「痛い、痛いよぅ……お母さん、助けて……誰か、」

しゃくり上げながらそう声を漏らす。見ていられずに近づく。
すると、白いブラウスがどす黒く染まっていた。血だろうか。

「痛い、帰りたい……痛いの、助けて……」

左肩、鎖骨の辺りから血が流れ出している。黒く変色した血が、佐倉小花が押さえる指の隙間からドクドクと流れ出している。一目見て、ナイフか何かで刺されたのだろうと分かる。
目の前にいるのは幽霊だが、血を流して痛がっている。放って置く訳には行かない。

佐倉小花の傍に膝をついて、手をどけさせる。ブラウスの前を少し開き確認すると、思った通り鋭い刃物で付けられたと思しき傷が付いている。
ハンカチを取り出し、押し当てる。可能な限り力を入れて圧迫する。

「だ、れ……?」

泣きながら佐倉小花が問い掛けて来る。それに「風紀だ」と答える。

「大丈夫だ、こうしてれば血は止まる。すぐに救急車を呼ぶから大丈夫、安心しろ」
「本当……?」
「ああ。治療して貰ったら家まで送る。痛いのなんてすぐに終わるから、それまで頑張れ」

言い聞かせるように顔を見つめる。それにコクンと小さく頷く。

「家まで絶対に連れてってやるから、あと少しだ」

押し付けてるハンカチがみるみる黒く染まって行く。こんなに血を流して生きている筈はない。そもそも五年前に行方不明になっているのだ。もう死んでいるのだろう。
だからと言って怪我の手当をしないでいいとは思えない。目の前で泣いていたら手放って置けないだろ、普通は。

「家……帰れるの……?」
「ああ。だから、それまで頑張れ」

誰が何と言おうとそうしてやる。大きく頷くと、それまで黙っていた足立が「佐倉さん」と声を掛ける。

「今、どこにいますか」

おかしな質問だった。
佐倉小花は俺の目の前で血を流して座り込んでいる。足立だって声を掛けた。それなのに、どこにいるのか分からないのか?

「二階……奥の教材室、」

佐倉小花の返事に小さく頷き、足立がパーカーのポケットから数珠を取り出す。それを傷口に押しあて優しい声で話し掛ける。

「痛みはすぐに引きます、落ち着いて。そう、目を閉じて深呼吸して下さい」

戸惑ったように佐倉小花の目が俺を見る。俺だって何だかよく分からない。でも、足立がそう言うならその通りにした方がいいのだろう。
頷いて見せると、それに安心したのか佐倉小花がゆっくりと目蓋を閉じる。それを待っていたように足立が口の中で何やら呟き出す。独特なリズムと抑揚、お経のように聞こえるが何となく違うような気もする。

「あ……」

不思議そうに佐倉小花が短く声を上げる。

「見えましたね、その光に意識を集中させて下さい」

コクンと頷いた佐倉小花が「ありがとう」と言う。それと同時に流れていた血が止まり、黒く濡れていた筈のハンカチが乾いている事に気付く。

「……あぁ」

成仏、したのだろうか。
痛いと言って泣いていた少女は消えていた。
暗い廊下にいるのは、不自然な姿勢で座り込んだ俺とその横に立つ足立だけだった。

「何で、」

呆気に取られる俺に肩を竦める。

「幽霊の傷の手当をする人なんて始めて見ました」
「いや、だって放って置けないだろ」

幽霊だろうが何だろうが、痛いって泣いていたんだ。何とかしてやりたいと思って当然じゃないか。

「お人好しですね、まぁそのおかげで佐倉小花は成仏できたようですけど」

やっぱり成仏したのか……何だ、そっか。
ホッとして脱力してしまう。

……怖かった!全力で怖かったぞ!!

恐怖が去った安心感に思う存分、身を委ねる。
そんな俺を無視して足立が口を開く。

「じゃ、あと一仕事しますか」
「は?」
「家に連れて帰るって約束したじゃないですか、それを果たさないと」

疲れたようにそう言って奥にある教材室に向かう。

紫の獣

そう思ったのに、教室にいないとはこれ如何に。

クラスを聞いていなかったから、それなりに苦労して突き止めた訳だけど、呼び出して貰ったら「今日休みですよ」と言われてしまった。
キョトンと俺を見上げて来る一年坊主をマジマジと見つめる。だんだん、一年生の顔色が悪くなって来たような気もするが、そんな事に構ってられる筈もない。

休みだと……昨日別れた時にはピンピンしてたじゃないか。どう考えてもサボりだ。その理由はおそらく、俺を避けているのだろう。
昨夜の寝不足もあって、眉間がぎゅうっと狭まって行くのが自分でも分かる。

そう、昨日はあれから眠れなかった。どうなったのか気になったし、何より夢見が悪かった。
佐倉小花の幽霊は泣いてただけで別に恐ろしくはなかった。でも、そう割り切って考えられるものじゃない。

幽霊ってだけで怖いんだよ。
何かされた訳じゃないけど、死んでるのにそこにいるって事実がもう怖い。
その所為だと思うが、うとうとしては目が覚めるというのを繰り返した。しかも、夢の中でまで旧校舎にいたような気がする。

幽霊と出会った恐怖は時間と共に薄まるかも知れない。だが、このモヤモヤは事の顛末を説明して貰うまで消えそうにない。だから何としても足立の説明を聞きたかったんだが。
でも何でだ。
どうして急に避けられるんだ、その理由が思いつかない。

顔を顰めたまま考え込んでいると、目の前にいる一年生が泣出しそうな気配がする。これだから一般の生徒とは口をききたくなかったのに。

「悪い、ありがとう」

そう言うと、ピュッと音がしそうなスピードで一年坊主がどこかへと走り去る。
昔のアメコミでああいう走り方するウサギがいたな。まぁ、あのウサギは怯えてた訳じゃないけど。

さて、どうしたものか。
風紀の権限を使えば、足立の自宅はすぐに分かるだろう。いや、使うまでもなく全校生徒の名簿が風紀室にある筈だ。
だが、居留守を使われたらそこまでだ。むしろ警戒させてしまうかも知れない。

悶々としたまま一日を終え、校舎の見回りに行く。
下校時間が近い所為か、グラウンドから引き上げて行く運動部員たちが俺を見て慌てたように逃げ出す。
森曰く、俺は黙っていれば『怖い』人間に見えるのだそうだ。
実体はヘタレだけどね、と続けられたが。
まぁ、確かに視力がよくない所為で目つきは悪い。180越えの男に睨まれたら、そりゃ怖いのかも知れないな。
校舎を見回り、異常がない事を確認して教頭にそれを確認する。
教頭は生徒たちからMr.神経質というあだ名を付けられている。
実際に神経質なのかどうかは知らないが、そう思わせる外見をしている。
五十を少し過ぎているのだが、メタボとは程遠い痩せ形だし度の強い眼鏡を掛けている。サイズがあってないのか、それを何度も押し上げる仕草は神経質と言うより面倒くさそうな人間に見えて仕方ない。
とは言っても、そんなに関わりはないので面倒も何もないのだが。
何はともあれ、報告を終えて帰ろうかと鞄を取りに行く。

廊下を歩いていると、いやでも旧校舎が視界に入ってしまう。だが、もうあそこに佐倉小花はいないのだ。恐れる必要など何もない。
足取り軽く自分の教室に行くと、そこには思わぬ待ち人の姿が。

「やっと来た」

そう言って俺の席から立ち上がったのは休んでいた筈の足立だった。



言ってやりたい事は山ほどある。質問だって沢山ある。
俺が帰ったあと、佐倉小花の両親に何て説明したのか。
これでも一応テレビのニュースはチェックしたんだ。五年前に行方不明になってた佐倉小花の遺体が見つかった訳だから、何かしらニュースになってるだろうと思ったのだ。
しかし結果は否だ。
どこのテレビ局もそんなニュースは流してなかった。それはつまり警察沙汰になってないって事なんじゃないか?
でも、それはおかしい。どう考えても納得できない。

ただの事故で死亡したのなら、ニュースにならない事もあるだろう。
だが、佐倉小花の幽霊が負っていた傷。あれはどう見ても誰かに刺されたものだった。
旧校舎で何者かに殺された。
そう思っていいだろう。それなのにニュースになってないという事は、足立か或いは佐倉小花の両親が表沙汰にしたくないと思っているのだろう。

その理由が知りたい。

興味本位ではあるが、ここまで関わったんだからどう決着がついたのか知りたいと思うのが人情だろう。
それなのに足立はまるで待ちくたびれたとでも言わんばかりに「帰りますよ」と歩き出す。
勝手に待ってた癖に偉そうだな。
そうは思ったものの、ここで言い合いをして教頭に見つかったら面倒な事になる。慌てて鞄を掴んで足立を追い掛ける。
俺を待っていた筈なのに足立は振り返る事なく、さくさくと歩く。その足取りに迷いはなく、当然のように駅前のカラオケボックスへと入って行く。
何でまた。
別にカラオケなんてしたくないし、そもそも足立と二人でカラオケに来るほど仲がいい訳でもない。
怪訝に思いながら部屋に入ると、足立がニコリともしないまま肩にさげたトートバッグから何やら取り出す。

紙だ。いや、違うな……何だかお札みたいな?

「何するんだ?」

怪訝に思いながら覗き込むと、呆れたような視線が返って来る。

「解決したら右目に取り憑いているのを祓うって約束したじゃないですか」

あ……そうだった。
確かにそう約束した。でも、解決ってどう解決したんだ。まずはそれを説明しろ。

「いいから座って目を閉じて下さい」

俺の言い分に耳を貸そうともせずに、足立がソファを指差す。仕方ないので、腰を降ろしはするが目を閉じる事はしない。

「何ですか」
「ちゃんと説明しろ」
「あとで」

短くそう言うと、グイグイ目蓋を引っ張って来やがる。やめろ、睫毛抜ける。
振り払って、今度は自分で目を閉じる。

「深呼吸して、自分の呼吸音に意識を集中して下さい」

言われた通り、耳を澄ませながら深呼吸する。徐々に手足から力が抜け、だらしなくソファに寄りかかる。

「ん……」

足立の息が俺のそれに重なって聞こえなくなる。
上も下もない、真っ暗な水の中を漂っているような不思議な感覚。それに身を委ねていると、突如として物凄い痛みに襲われる。

「痛ぇ!!」

思わず大声を上げて飛び上がる。痛い!
痛いって言うか熱い!
熱した鉄串を刺されたのかと思うほど、目の奥が熱いし痛い。

「チッ」

そう舌打ちしたのは足立だ。
俺が目を押さえて悶え苦しんでいるのを見て舌打ち。何なの、この子。マジで鬼かよ。

「うぅ」

呻きながら流れる涙を手で拭う。血かと思ったが、赤くはないのでただの涙のようだった。

「困りましたね」

平然とそんな事言われても、何に困ってるのかさっぱり見当がつかない。だいたいからして、困ってるようには聞こえない。

「何がだ」

まだ熱を持ってるような気がして、ジュースの入ったグラスを目に押し当てる。
片目で見つめていると、足立がお札のような物を拾い上げる。
あれ、何で破けてるんだ?

「祓えません」

……はい?
えっと、確か自信満々に言ってたよな。それなのに今になって出来ないってどういう事?
俺が怪訝な顔をしたからだろう。足立はウンザリとした溜め息をついて向かいのソファに腰を降ろす。

「犬を放ったんですが、反対に食われました」

意味が分からん。
犬なんてどこにもいないし、食われたって何に?
そこで思い出したのは、森から聞いた話だ。
幽霊を出せと言った連中は犬の声を聞いたんだよな。まさか、犬ってその犬?

「これでも時間掛けて育ててたんですけどね……大損ですよ」

足を組んで自分のドリンクに手を伸ばす。
この場合の犬はペットとかって意味じゃないだろう、たぶん。
よく分からないけど、漫画で見た事あるぞ。式神とかって言うんじゃないか?
足立のそれが食われたって事は、だ。俺の目にいる奴はそれより強いって事になるのか。

「でも、分かった事もあります」
「何だ」

やっと痛みが引いて来て、グラスを降ろす。
医者に行った方がいいのかな。でも、きっと意味ないんだろうな。

「先輩に取り憑いてるそれ、無理に祓ったら死にますよ」

死ぬって誰が。まさか俺……?

紫の獣


足立の話によると、俺はどうやら誰かに呪われているらしい。
右目にいる奴はそれから守ってくれている。だから、無理に追い払ったら俺は死ぬって事らしいのだが、釈然としない。
何故かって。
そんなの、俺は呪われる覚えなんかこれっぽっちもないからだ。

「きっと先輩個人に対する呪いではないと思います」
「じゃ、誰だよ」
「家じゃないでしょうか」

家って言われても、うちは何度も引っ越してるからなぁ。
そんな考えが顔に出たのか、足立が「土地の事じゃありませんよ」と言う。

「ご先祖……と言っても、そう古くはないでしょう。二代か三代、それぐらいですかね」

そんな事言われてもやっぱり心当たりはない。
物心付いた頃には親父と二人だったんだ。製薬会社勤めの親父はかなりの仕事人間で家に殆どいないし、親戚の方はいるのかいないのか俺は知らない。
そう告げると、呆れたように足立が鼻を鳴らす。
ごめんなさいね、何も知らなくて。

「お母さんはいないんですか」
「いないな、俺が小さい時に死んだって聞いたけど」

思い返してみると、変な話だ。
死んだと言われてそれ以上、母親について詮索した事はなかったのだから。
それを聞いたのがいつなのか分からないが、どんな人だったのか気になるのが普通のような気がする。それなのに俺は足立に質問されるまで母親って存在そのものを忘れていたような感じなのだ。
考え込む俺を見て何と思ったのか、足立が立ち上がり近づいて来る。

「もう一回目を閉じて下さい」

厭だよ!
分からないだろうけど、メチャクチャ痛かったんだぞ!

「少し探るだけです」

そう言って俺の目に手のひらを乗せて来る。

「呼吸をあわせて、いいですか」

有無を言わせぬ口調に思わず従ってしまう。
強制的に目を閉ざされた所為か、足立の息遣いがハッキリと聞こえる。それに意識を集中させると、静かに沈んで行くような錯覚を覚える。






シロウちゃんはいい子だね。
そう言って俺の頭を撫でる優しい手。
そっと目を開くと木目の浮き出た天井が見える。
撫でて来る手の持ち主は逆光になって黒い影のように見えた。
僅かに身じろぎすると、どうやら俺は畳の上に敷かれた布団に仰向けで寝ているらしい。
ここはどこだろうか。
親父と一緒に何度も引っ越しをした。そのどこにも和室はなかったように思う。
開け放した障子の向こうでは葬儀が行われているらしい。
喪服姿の男女が次々とやって来てはどこかへと消えて行く。
ああ、そうか。
今日は二つ年下のいとこの葬式だ。
ある日突然やって来た二人のいとこ。上が男で下は女の子だった。
その女の子が風邪をこじらせ、肺炎にかかって死んだのだ。
俺も本当なら葬儀に遺族として参列するべきなのだろう。だが、こうして臥せっている。
そう言えばと思い出す。今でこそデカくなったが、小さい頃は周りの子供に比べて背が小さく病気がちでもあった。
特にどこか悪かったと言うのではない。きっと虚弱体質だったのだろう。
季節の変わり目には必ずと言っていいほど体調を崩して寝込んでいた。
風が吹いているわね。
その声に目を向ければ、枕元に祖母が座っていた。さっき頭を撫でてくれたのはこの祖母だったらしい。
障子から外を眺め、困ったように溜め息をつく。そして、どこから取り出したのかモコモコとした黒いものを布団の上に乗せる。
子犬だった。
濡れたように艶やかな黒い毛並み。警戒しているのか、俺を見て頭を低くさせている。
この子はね、シロウちゃんと同じ名前なのよ。
その声に促されてそっと頭を撫でる。すると、意外なほど大人しくしているのでこわごわ抱き上げる。子犬らしく俺の顔をペロリと舐める。
どうして同じ名前なの?
どうしてかしらね、でも、漢字は違うのよ。その子の目を見てごらんなさい。
言われて犬の顔を覗き込む。すると、子犬も俺をキョトンと見上げて来る。
不思議な色をしているでしょう。だから、その子は紫の狼と書いて『シロウ』なのよ。






「んぁっ!」

急な覚醒に付いて行けず、変な声を上げてしまう。
何だったんだ、今の。
そして、どうして急に醒めたんだ。

オドオドと目を走らせると、すぐ傍で足立が難しい顔をして立っていた。

「シロウ?」

そう小さく呟く声で足立も俺と同じものを見ていたのだと分かる。でも、違うんだ。
さっきのが夢だったのか過去の記憶なのか、俺には分からない。でも現実と違う事だけは分かる。
俺には祖母さんなんていなかったし、犬を飼った事もない。
親父と一緒に転々と引っ越しばかりしてたんだから、ペットを飼うなんて不可能なのだ。
だったら、さっきのは何なんだ。夢だとしても、整合性がなさ過ぎる。
それだと言うのに何故なんだ。
足立に名を呼ばれた途端、途方もない嬉しさがこみ上げて来た。
鳩尾がカァッと熱くなってジッとしてられない。何だ、これ。



本当に何だ、これ。
そうは思うけど、意思を無視して俺の身体が勝手に動く。飛び上がるようにして足立に抱きつき、その首筋の匂いをスーハースーハー……何してんの、俺。

これじゃ変態じゃん!

違う、俺は決してそんな事はなくて!
そりゃ、足立の顔は可愛いなって思ったよ。でも、だからってこんな変態行為を働くような趣味嗜好は持ち合わせていない……筈!
でも、何だろうな。足立からほんのり漂うお線香のにおいってちょっと癖になる……って言うか、落ち着く?

「あ、やっぱりシロウなんだ」

再び名前を呼ばれて、そりゃもうあり得ないほど嬉しくなる。俺に尻尾が付いてたら引き千切れんばかりに振っていただろう。

「ああ、はいはい。ちょっと林先輩とかわって」

そう言って雑な手つきで俺の背中を撫でる。それに俺は悲しい気持ちになる。
何だ、これ。混乱して来たんだけど。
ここにいるのは俺、林司郎だ。そして足立が俺にかわれと言ってるのも林。じゃ、ここにいる俺は誰だ?
グルグル考え込んでると足立が俺の頭をポフポフと撫でる。

「シロウはいい子だね」
「うぁっ!」

足立の言葉をきっかけに身体のコントロールが戻って来た。慌てて足立の上から飛び退く。
あぅあぅ。どう言い訳したらいいんだ。
嬉しさの余り飛びついたのは俺。それに足立は押し倒された。
ハッキリと全部覚えてる。あらぬ誤解を受けたとしても仕方ない。でも、違うんだ!
俺の意思じゃなくて……じゃ、誰の意思なんだよぉ!
起き上がった足立は乱れた前髪に手を当てて溜め息をこぼす。

ごめんなさいぃ!

言い訳のしようはなくて取りあえず謝ってみる。
そんな俺を見て「なるほど……分かりました」と呟く。
何が?
何が分かったんだ?
一人で納得してないで、俺にも説明してくれよ!

「確証はありませんが、どんなカラクリなのか理解しました」

だから、その説明をしてくれって!
そう詰め寄ろうとしたのだが、今の出来事の所為でいまいち強く言えない。

「同化してますね」
「……何と?」

急にそんな事言われても心当たりなんかある訳ない。だから距離を取ったまま首を傾げる。

「今の家がどこなのか覚えてませんか」

まるで何もなかったように平然とした様子で荷物を片付け始める。
足立が言うのが、今の白昼夢みたいなものの中に出て来た家だと言うのは分かる。だが、その所在地なんか知る訳ない。
そもそも、俺に祖母はいないし親戚もいないと思う。
いや、そうじゃない。記憶がない。
どんなに思い出そうとしても俺の記憶は小学校の高学年ぐらいからしかない。これまで困らなかったから不自然に思わなかったのだが、どうして何も覚えてないんだ。

「きっと記憶を封じられたんでしょう」
「誰に?」
「先輩のお祖母さんに」

会った事ないんだけど。
ん……会った事はあるけど、俺がそれを忘れてると?
思い出そうと腕を組んで考え込んでいると、足立が「ところで」と低い声で呟く。

「微かになので僕の気の所為かも知れないんですが」
「何だよ」

綺麗な顔が無表情だと怖いんだな。何だか人形みたいで不気味だ。

「先輩から旧校舎の幽霊の気配がしたんですけど、どういう事ですか」

どういう事って、俺にそれが分かる訳ないだろ。
反射的にそう思ってから、ちょっと待てと考え直す。
俺から幽霊の気配がしたって、何か……まさかと思うが、幽霊に取り憑かれたって事か?

サァッと顔から血の気が引く。

言われてみれば、確かにそんな気もして来る。
だって、昨日の夢で俺は旧校舎にいたんだ。でも、何でだよ。
佐倉小花は成仏したってお前が言ったんじゃないか。
そこで思い出す。
旧校舎にはもう一人幽霊がいたんだった。
二十年以上前に自殺した『花子さん』。
だからって、どうして。俺が何かしたのか?

「何か持ち出したか、反対に何か置いて来たりしてませんよね?」

そう言われて思い出す。
置いて来た。置いて来たってか、花子さんにお守り渡しちゃったよ。
もしかしてその所為なのか?
真っ青になりながらそう言うと、しょうがないとでも言うように足立が深く息を吐き出す。

「情けを掛けるのが悪いとは言いませんが、見境なくそんな事してたら身がもちませんよ」

だって、女の子だったんだぞ。しかも血だからで……何か縋る物があれば少しはいいんじゃないかって思ったんだけど……確かに足立の言う通り、最後まで面倒見られないなら同情しても意味なんかないか。

「……ごめんなさい」

シュンと肩を落として頭を下げる。それを見て、何を思ったのか。足立が「分かりましたよ」と言う。

「代わりにその花子さんを何とかしましょう」

紫の獣

6.戻り風


教科書を読み上げる教師の声を聞きながら、溜め息をつく。

今朝も変な夢を見た。その所為で眠りが浅く、昨夜の疲れが抜けきっていないような気がする。足立の言う通り、俺に夢を見させているのが花子さんだとしたら、何が目的なんだろう。

佐倉小花のように家に帰りたいとか?
或いは他に何かさせたいのだろうか。

うぅむ。
考えてみるが、さっぱり分からない。
そんな事をしている間に授業が終わり、昼休みになる。
いつものように弁当片手に席を立つと、クラスメイトに呼ばれる。

「一年生が呼んでるぞ」

その言葉に予感がして廊下に出ると思った通り、足立がいた。出来れば会いたくなかった。
いや、会わない事にはどうにもならないんだけど、昨日の今日で顔をあわせるのは非常に気まずい。押し倒したのは俺の方なんだから悪いとは思ってるけど、その件に関してまだ混乱中なんだ、悪かったな。

それにしても、足立は目立つ。小柄だが姿勢がいい。顔の美醜は客観的に判断できるものではないのだろうけど、足立のそれは綺麗と言って差し支えないと思う。
だが、女に対して感じるものとは違う。骨格はどう見ても男のものだ。その所為なのか、凛とした美しさのようなものを感じる。
何だろう。昨日抱きついた所為なのか、足立を見てそんな事思うなんて少し変だ。少しどころか大いに変だ。

俺の好みは女子。足首がキュッと締まった女の子がいい。網タイツとか赤いハイヒールの似合う足首とそこに繋がる脹脛!
だから違う。足立にトキメくなんてある訳がない!

「お昼、一緒にいいですか?」

上級生を相手にしている所為か、口調だって丁寧だ。でも、こっちが断るなんて微塵も思っていないに違いない。そこはかとなく生意気な気配がする。

「ああ」

頷いて風紀室に行く。
花子さん対策をするのだろう。そう思ったので、誰もいない風紀室に連れて来たのだが、生憎な事に先客がいた。

森だった。

パンを齧りながら何やら作業をしていたらしく、入って来た俺たちを見て盛大に舌打ちする。

「邪魔だったか?」

そう問い掛けると、口の中のものを飲み込んで「別に」と答える。

「そっちは一年生だよね」

森に問われて「足立正午です」と返事をする。
へぇ、足立の名前ってマヒルだったのか。これまで名前を知る機会がなかったから知らなかった。

「今朝の検査の書類作ってただけだよ。お昼食べるんでしょ、どうぞ」

そう言って手際良く書類をまとめだす。
お言葉に甘えて中に入り、適当な椅子に座る。
しかし足立は入り口に突っ立ったまま、動こうとしない。どうしたのだろうかと振り返ると、困惑したように森を見ていた。

「副委員長の森だ」

紹介してやると、やっとペコリと頭を下げる。もしかして人見知りか?
いや、俺に対しては最初から言いたい放題だったからそれはないか。じゃ、女子が相手だと上手く喋れないとかか?

向かい合う足立と森を見て、それはないかと首を振る。
森は確かに美少女だが、どこか嘘くさい。やっぱり女装しているように見える。
それに比べれば足立は地味だが、綺麗は綺麗なのだ。男子より女子と仲良くなりそうなタイプに思える。

足立がチラリと俺を見る。その視線で漸く気付く。
昨日の事を話すつもりなら、第三者がいては困る。そういう事か。

「悪いが、席を外してくれないか」

森に言うと何となく察したのか、肩を竦めて立ち上がる。

「まぁ、いいけど……そう言えば教頭から苦情があったよ」

食べかけのパンを袋にしまいながら森が言う。

「旧校舎に出入りしている生徒がいるって」

その言葉にギクッとする。
忍び込んだのがバレたか?

「倉庫の荷物が動いていたらしいよ」

あ、くそ。そう言えば、佐倉小花を探して段ボールを動かしてから戻さなかったな。
でも、まさか教頭が旧校舎に行くなんて思わなかったし。

「……前に見回りした時に少し触ったかも知れない」
「何で?」

俺の言い訳に森が不思議そうに問い返して来る。
そりゃそうだ。見回りはいいとして、教材室にある段ボールを動かす理由なんてない。見て回るだけなら別に邪魔でも何でもないんだ。不審に思われて当然だった。

「僕が触って崩してしまったんです」

そう言ったのは足立だった。

「先輩と二人きりになれたから緊張してしまって……」

ん……何かおかしくないか?
俺と同じように怪訝な顔をしていた森だが、すぐに納得したように頷く。一人で分かってないで俺にも説明してくれ。

「一年生連れ込んで何やってるの」

責めるような森の言葉に心当たりなどこれっぽっちもない。何って、俺が何かしたか?

「林先輩を責めないで下さい、僕が勝手に追い掛けたんですから」

しおらしい態度の足立なんて始めて見たけど、何だか厭な予感がして来たぞ。まさかと思うけど、まさかだよな?

「誰と付き合おうと林の勝手だけど、旧校舎は立入禁止なんだから逢い引きするならよそでやりなよ」

やめおろぉ!
変なフラグを立てるんじゃない!
ただでさえ、今の俺は変なんだよ。だから、そういうフラグ立てられたら流され……いやいや、断固として流されないぞ!!

無意味な自問自答をしている間に、森は足立を見て、俺を見て諦めたように肩を竦める。

「見た目だけで言えばアリだとは思うけど、いいの?」

よくない!
何がアリだと言うんだよ。しかも、どうして足立に聞いてるんだ!

「クールな二枚目に見えるけど、かなりのヘタレだよ、コレ」

そう言いながら俺を指差す。
確かに俺はヘタレだけども!
怖がりだしチキンでビビリだけども!

「そのギャップが素敵なんですよ」

足立がニッコリと森に返す。
気持ち悪っ!
『素敵』と言われたのも気持ち悪いが、足立の顔に浮かんでいる微笑みが最高に気持ち悪い!!

「他の委員には風紀室に行くなって言っておくけど、校内で変な事しないでよ」

そう言い捨てて森が立ち去る。
待て、違うんだ。頼むから待ってくれ!
そんな俺の願いも虚しく足立と二人残されてしまう。
やっぱりか。誤解をされた……いや、そう誘導したのは足立だ。
何考えてるんだ、お前。
ギロッと睨みつけるが、涼しい顔で無視しやがる。本当にいい根性してるな。

「お前、何て誤解を……」
「別に構わないでしょう。これで誰も来ないでしょうし」

立ち聞きされないためだと言うのか。本当に効率で物事を考える奴だな。
そのおかげで俺はあらぬ噂を立てられるのか……切ない。


森が立ち去ってすぐにさっさと席について弁当を広げる。

「佐倉小花の両親と話し合ってみたんですが、今のところ騒ぎ立てるつもりはないようです」

急にそう言われてキョトンとする。花子さんの事かと思ってたのに、どうして佐倉小花の話が出るんだ?
それに騒ぎ立てるつもりがないってのもおかしな話だ。
幽霊となった姿しか俺は見ていないのだが、あの怪我は事故で負ったものじゃないと一目で分かるものだった。誰かに刺されたとしか思えない。

「でも、娘が死んだのにそれは不自然じゃないか?」
「話がこじれそうだったので交渉しました」

交渉って、どうやって。
そう思ったのが顔に出たのか、足立がうんざりとした様子で溜め息をつく。

「花子さんの件と一緒して解決してしまおうかと」
「どういう事だ?」
「一つの場所に二人の死者、関係がないとは思えません。片方は自殺と言われていますが、もう一人は明らかに他殺でしたよね。だったら、自殺と言われている方も誰かに殺されたのではないか、そう考える事だって可能でしょう」

それは……花子さんも誰かに殺されたって事か?
俺の顔色を読んだのか、足立が小さく頷く。

「その場合、同一人物による犯行だと考える事もできますよね」

そりゃ、こんな狭い地域に殺人を犯すような奴が二人もいると考えたくはない。
でも、正確には分からないが二つの事件の間には十年以上の開きがあるんだ。少し不自然じゃないか?

「それを言い出したらキリがありません。今はこの前提で話を詰めてしまいましょう」

あー、ゲームする時はセーブしないでどんどん進めるタイプだったな、そう言えば。
あとで詰んだ時どうするんだとは思うけど、他に建設的な意見がある訳でもないので黙って頷く。

「昨日も夢を見ましたか」
「ああ。旧校舎にいる夢だった」
「具体的に。覚えてるだけでいいですから、見たもの感じたものを全部言って下さい」

言われて思い出す。
夢の内容そのものは別に怖くはなかったと思う。

「……旧校舎の廊下だと思う。今よりも少し綺麗な気がする……放課後で外は暗いが廊下は電気がついているのか明るい。誰かと待ち合わせしていて俺は一人で歩いている」
「誰と?」
「それは分からない。ただ、どうしても会わないといけない相手だ。何か……大切な用があるんだろう、少し俺は焦ってたのかも知れない」

そうだ、夢の中で俺は気が急いていた。
早く早く、相手が逃げ出す前に捕まえなければ。そればかり考えて廊下を歩いて……いや、小走りになっている。
その足元を見ると、何故か短いソックスを履いている。しかも足首が細くて華奢だ。
ギョッとする。けど、それに構わず勝手に足は動いている。
他に人影のない廊下、窓の外に広がる闇。
その暗がりの中、旧校舎から漏れる光でぼんやりと浮かび上がるピンクの花。桜か……いや、違う。あれは桃の花だ。
いやいや、ちょっと待って。
うちの学校に植えてあるのはポプラと松だけで、どちらも花をつけない筈だ。じゃ、この景色は何だ。どうして桃の花が咲いている?
慌てて立ち止まろうとするのだが、スカートを揺らして走り続けている。

……スカートだと?

驚きの余り、呼吸が乱れて視界が一変する。
はっ、今のは何だったんだ。白昼夢か?
キョロキョロと見回していると、足立が疲れたように溜め息をつく音がする。

「準備がなかったので仕方ないですね」

昨日に続いて今日までか。
どうやら今の白昼夢は足立が見せたものなのだろう。
恐らく俺が見た夢を花子さんが見たものを再現したのだろう。それはいい。いいのだが、180越えの大男がスカート履いて、三つ折りソックスって……ある意味、暴力としか思えない。しかも、それが自分なのだ。色々な意味でヤバい。

「なん……?」

混乱の余り苦しい呼吸で訊ねる。

「先輩の意識を花子さんに同調させました」

その言葉に少しばかり安堵する。
さっきのは花子さんの視界だったらしい。よかった。俺がセーラー服着てた訳じゃないんだ……本当によかった、安心した。
でも、そんな事してどんな意味があるんだ。単に俺が冷や汗掻いただけなんじゃ……。

「じゃ、桃の花も?」
「それは先輩自身の記憶だと思います」

俺の記憶?
でも、うちの学校で桃の花なんか見た事ないんだけど。

「以前の家にあったんじゃないんですか」

足立が言うのは、祖母に頭を撫でられた家の事だろう。
でも、それ以上は考えても分からない。何しろ、それらが本当に自分の経験した事なのかどうか実感が持てないんだからしょうがない。

「男に殺されたと思っていいんでしょうね」

唐突に足立がそう呟く。その声にハッとして目の前の現実に意識を向ける。

「どうして」
「花子さんは男に捨てられて死んだって事になっているんですよね。別れ話が拗れて、男に殺されたと考えるのが妥当じゃないでしょうか」

そうなのか?
まぁ、いつの事なのか、花子さんの身元も当時の状況も、何も分からないんだ。俺たちが知っているのは、花子さんが片足を切り落とされて死んだらしい。それだけだ。
あ、厭な想像しちゃったよ。

「なぁ、ちょっと思ったんだけど……もしかして佐倉小花と花子さん以外にも殺されたって事はないよな……?」

足立の言う通り、二人の女子高生を殺したのが同一犯だとする。
動機も殺害方法も分からないが、その前提で話を進める。
そうすると、やっぱり不自然なのは時間だ。
佐倉小花が死んだのは五年前、花子さんは分からないが制服が以前のものなので、その頃とすると、凡そ二十年前。

十五年も間を開けて、犯人が再び人を殺したと?
だったら、他にも被害者がいたと考えた方が、こう……何て言うか、言葉は違うかも知れないけど納得できる気がするんだよな。

「もし、そうだとして……旧校舎に他にも幽霊がいたら先輩はまたお節介焼きますか?」

それは……どうかな。
花子さんの時は咄嗟にお守り渡しちゃったし、佐倉小花の時は計らずも成仏のお手伝いができた訳なんだけど……積極的に助けたいとは思わないかな。臆病者と罵られてもしょうがないけど、俺はやっぱり幽霊が怖い。
俺が返事をしない事で察しが付いたのだろう。足立が「大丈夫ですよ」と言う。

「旧校舎にいるのは花子さんだけですから」
「どうして、そう言いきれるんだ?」

怪訝に思ってそう問い返すが、足立は曖昧に首を振るだけで答えなかった。

紫の獣

放課後、見回りの当番だったので一人で校舎を歩く。

俺は基本的に一人で行動する事が多い。
森にはビビリだとバレているのだが、他の委員はそれを知らないからだ。
見た目通り、無口で何を考えているのか分からない。そう思われているのだろう。端的に言ってしまえば、怖がられてるのだ。
だから、見回りなどの時に俺と一緒に来てくれる委員は皆無だ。別に淋しくなんてないんだからね!

と、強がってみるが本当に淋しいとは思わない。
放課後の見回りは時間が遅いので、女子にさせる訳にも行かないし、俺が怖いのは死んでる人間だけだ。生きてる人間相手なら負けないと思っている。
部室棟をまわり、残っていた生徒に注意をして校舎へと戻る。
帰りながら職員室に寄って異常なしと報告すればあとは帰るだけだ。

昨日と、今日の昼間。続けて白昼夢を見せられた所為なのか、ものすごく身体が怠い。早く帰って風呂にでも入ってサッパリしたいところだ。
そんな事を考えながら廊下を歩いていると、見たくもないのに旧校舎へと目が向いてしまう。

明かり一つない真っ暗な旧校舎。そこの廊下に誰かが立っていた。
花子さんか?

腕に鳥肌が立つ。帰ろう、一刻も早く明るい所に行くべきだ!
教室の電気を消すのも怖い。怖いけど、つけたままにしたら後で教頭にお小言食らう!
できるだけ教室を見ないようにして電気のスイッチを押して廊下を早足で駆け抜ける。
矛盾しているようだが、本当に早足で駆け抜けた。だって、走ったりしたら余計怖いじゃんか。
職員室について教頭の貧相な顔を見て、ここまで安堵するとは……花子さん恐るべし!

何とか報告を終えて学校を後にする。だが、「シロ」と声がして足が止まってしまう。

え?
何で動けないの、俺。

動かないのは足だけだと気付いたのは、キョロキョロと見回してからだった。
何だか知らないけど歩けない。もちろん、走る事もできない。
挙動不審なまでにオロオロしていると、クスクス笑う声がする。

「もしかしたら思ってたんですが、本当に操れるとは」

屈託ない口調でそう言うのは足立だった。
一度帰宅したのか、ハーフパンツにいつかのパーカーという私服姿だった。

「何だ、これは。お前がやってるのか」
「はい」

躊躇いもなくコクンと頷く。
それに怒りが湧くのだが、どこか奥の方で喜んでいる自分がいる。
何だよ、これ。面倒くさい。自分の中に他の誰かがいるような気がして非常に面倒くさい。

「同化しているって言ったでしょう、これからその説明をしますね」

そして何故かの我が家である。
二年前に越して来たばかりの2DKには、親父との二人暮らしなので家具は必要最低限しかない。ま、親父はほぼ会社に泊まり込みなんだけど。
俺が鍵を開けると、どうしてだか足立が「お邪魔します」と言って先に上がって行く。それを止める事もできず、リビングに案内する。
ソファなんて洒落たものはないので、座布団をすすめる。ちなみに俺は床にそのまま座り込んでいるんだけどね。

「それで、同化って何となんだよ」

そう促すが、足立は聞いているのかどうか興味深そうにリビングを見回している。

「ああ、犬です。シロウって名前の黒犬」

そんな気はしていた。白昼夢で俺はシロウって犬を抱っこしてたし。
ただ、問題なのはそのシロウが普通の犬じゃない気がするって事だ。
散々眺めて満足したのか、足立はやっと俺を見る。

「前に言いましたよね、僕は修行するのを禁止されたって」

そう……だったか?
言われてみれば、確かにそう聞いたような気がするけど、それが何だって言うんだ。

「シロウは僕が作った式神です」

そう言って座布団の上で足を崩す。体育座りのように膝を立てるのだが、何でこんなに色白なんだ。しかもすね毛ないし、女子より綺麗な足してるな、お前。

「まぁ、知らなくてもしょうがないんですが、先輩の出自からして本来なら知ってて当然なんですけどね……」

何を訳の分からない事を。
でも、言い返しても倍以上に言い返されるだけなので黙っておく。

「三年という歳月をかけて僕は何とかシロウを使役する事ができるようになりました。でも、奪われたんです」
「誰に……?」
「先輩のお祖母さん、比与森ツルです」

え……っと?
何で足立が俺の祖母さんの名前を知ってるんだ?
しかも、どうして祖母さんが足立の犬を奪わなくちゃならないんだ?

「比与森ツルは、うちの祖母の同業者でした」
「それって、」
「はい。祈祷師、いえ拝み屋と言った方が分かりやすいですね。彼女は邪道ばかりを請け負う拝み屋でした」

ジャドウって、邪道?

「人を呪い殺す、それが彼女の仕事でした」
「………は?」

呪い殺すってマジで言ってるのか?
だとしたらお前ちょっとアレだぞ。何て言うか、えっと病院とか行った方がいいと思うな、うん。


呆気に取られる俺を無視して、足立が淡々と言葉を続ける。

「その代償に彼女は娘を失っています」
「娘って、まさか」
「先輩のお母さんですね」

アッサリと言われた。
これまで記憶の欠片すらなかった母だが、祖母の仕事で死んだと言われたら複雑にもなる。
祖母の仕事を知っていたのかどうか。今の法律では人を呪い殺しても、不能犯扱いになるだろうけど、人殺しと言われても仕方ないと思う。それを娘として止めようとは思わなかったのだろうか。
そして、祖母にも聞きたい。

他人を呪う事によって自分の娘が死んだ時、何を考えてどう感じたのか。

「あ、じゃ……もしかして」

白昼夢で見たいとこの葬式。あの子が死んだのも祖母が他人を呪ったからなのか?

「呪いを放つ事を厭魅と言って、それは時として風にたとえられます。厭魅をする事で相手に風が吹く。そして、その風はいつか返って来る。だから邪道を行う者は少ないのですが、実は風を避ける方法があります」
「どうやって」

何ぶんにも素人なので、足立の話を完璧に理解できているかどうか自信がない。
そんなだから先の話も想像がつかないので素直に質問すると、「裏技があるんです」と足立が言う。

「……比与森ツルがどうやって厭魅していたのか分かりませんが、おそらく動物霊などを使役していたのでしょう。そういう意味では僕とシロウも同じなのですが、方法が違うし使い方も違っています。比与森ツルは力でねじ伏せ己に従わせていた、返って来る風はそのぶん強くなりますが、相手は動物です。目が効かない、人間と同じようには見えていないんです、そこが付け目です」

あ……何となく分かった気がする。
身代わりを用意したんだ、きっと。
家族を守るため、自分の血を絶やさないために祖母は全員の身代わりを用意していたんだ。だが、それは破られた。どうして。

「人形……」

そうだ、おひな様。
昼間に見た夢の中に出て来た桃の花。あれはひな祭りの事だったのか。
俺は男だから全くもって興味などなかったが、飾られたひな人形をどこかで見た事がある。何だか気味悪いと思いながら眺めていたんだっけ。

「心当たりがあるようですね」
「ああ、ひな人形だ。離れの物置にしまってあったのを伯母さんが見つけた」

そうだ、口から漏れた言葉が記憶となって俺の中で蘇る。
伯母は母さんのお兄さんと結婚したと言っていた。二人の子供が生まれ、ささやかながら幸せな生活の中、突如として夫が死んでしまったとも。
父さんはそれを聞いて、離れを貸し出したんだった。
いや、待て。この記憶は何だ。俺はずっと父さんと二人だったし、離れがあるような大きな家で暮らした事はない。
それなのに、何故か自分の記憶としてそれを思い出せてしまう。
混乱した目で足立を見ると、同情するように俺を見つめていた。

「僕が接触した事でシロウが力を取り戻したんでしょう、先輩の封印された記憶が蘇ったんですね」

じゃ……これは本当にあった事なのか。
愕然とする。
そりゃ、確かにこれまでのものと齟齬を来す訳じゃない。俺は一定の年齢までの記憶がなかったのだから、矛盾はない。それを疑問にも思わず生きて来たのだから、受け入れられない訳じゃない。
だからって、そうなんだぁって納得できるものでもない。

「人形……あのひな人形を出した所為でいとこは死んだのか?」
「おそらくは」

そうなのだろう。夢の中でも祖母は風が吹いてると言っていた。
いとこはまだ小さくて、俺よりも年下で……それなのにちょっとした手違いで死んでしまったのか。

「本題ですが……風はまだやんでいません」

だからこそ僕はシロウを奪われたんです。
そう足立が続けて言う。

「先輩のお祖母さんは相当な力があったんでしょう。死んだ後も家族を守ろうとした、だから僕の式神を奪い、それに先輩を守らせた」

おばあちゃん!!
助けてくれようとしたのは有り難いけど、孫は現在進行形で困り果ててるよ!

いやいや、落ち着け。
足立が返せと言うのなら返すしかないと思う。
それで俺が死んだとしても、足立には関係のない事だ。それに死因的にはきっと事件にならないと思うし。
ただ問題なのは、返そうにも返せないこの状況だ。
あの犬……犬でいいのか?
今は便宜上、犬って事にしておこう。
それが俺と同化してるって言ってたよな。無理に引っ剥がして大丈夫なのか?

「大丈夫ですよ、返せだなんて言いませんから」

マジか!
いい奴だな、お前!
足立に感謝の眼差しを向ける。いやぁ、綺麗なのは顔だけじゃなかったんだな。心根も優しいじゃないか!

「その代わり、」

そう言って足立がニッコリと笑う。その笑顔に何やら厭な予感がして逃げ出したくなるけど、俺の中にいる犬がそれを許してくれない。

「シロウの代わりを先輩にして貰います」

代わりって……シロウって犬の事だよな、犬か、そうか……俺って犬になるのか。そんな進路考えた事もなかったな。参ったな、こりゃ。
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