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マッドハターでお茶会 説明

ミス研第二弾です。
自分としてはこのお話が一番好きだったりしてます。
ライトミステリを意識して書きました。なので、まだBL色は薄いです。女装ネタ注意。

◆登場人物おさらい◆

君塚真澄 一年生 主人公 
ユノ   二年生 美少女 
春日詩音 三年生 天然美人
五十嵐  三年生 生徒会長

佐波   三年生 空手部
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マッドハターでお茶会 1

いつものように放課後、部室に行こうとすると背後から呼び止められてつい立ち止まってしまう。
「え?」
目の前には見知らぬ、恐らく上級生だろうと思われる男子生徒。
マイナーな部活に入った事によって変に目立ってしまったのだろう。これまでにも何度か軽そうな人に声を掛けられた事がある。そういう時の対処法は曖昧に笑いながら後じさり、隙を見て部室までダッシュ。そのあとは部長の春日さんが何とかしてくれる。いつも、そのパターン。
でも、今日の人は何だか違う。
角刈りって言うのかスポーツ刈りって言うのか、よく分からないけど髪が短くて眉がキリリッとしている。硬派ですよーって外見が主張している。
「君塚真澄君だね?」
問われた声も低くて渋い。性別を見失った変態がナンパして来たのではなさそうだった。だから、つい「ハイ」と頷き返す。だって、男らしい眉の下にある目が縋るように必死だったから、それだけ重要な用事なのだろうと思った。
僕の返事を確認すると、有無を言わせぬ力で手を掴み引っ張るように歩き出す。
あれ。
判断ミスったかな、これ。
そう思ったけど、後の祭りだった。

「シオ~ン、大変!大変なんだよぅ!」
そう叫びながら部室に駆け込むと部長である詩音はソファに足を投げ出し大判の本をパラパラと捲っていた。
「あ、ユノ。丁度いい所に。お茶」
顔も上げずにそう命令するとまたもや本をパラリと捲る。
「ハ~イ…って、そうじゃなくて真澄ちゃんが大変なのぉ!!」
詩音の耳元でそう叫んでやると煩そうにではあるが何とか顔をこっちに向ける。
「何?また誰かに拉致された?」
それにコクコクと頷く。
ハァと溜め息とついて本を閉じる。表紙にはポップな絵柄。デペロと読み取り辛い字で書てある。何だろ?本のタイトルかな?それとも著者名?
「今月入ってこれで何度目?」
「ん~とね、六人目かな」
「今日が八日だから、土日を除いてほぼ毎日一人にコクられている事になるな」
「そうだね~。真澄ちゃん、モテモテだねぇ」
何だかホノボのしてしまう。
「相手が男でなければもっと良かったんだろうがな」
サラリとキツイ一言を付け足す。詩音はそういう奴だ。
詩音は元々、その人格が酷く掴み辛い。
いつだって誰かの口真似のような喋り方をするからだ。
だけど、真澄ちゃんが入部してからそれが変わった。
今みたいに物凄く素っ気ない口調になる。
多分、これが詩音の素なんだろうな。
「ユノもいい加減、慣れたらどうなんだ?」
その言葉にハッとする。
そうだ。真澄ちゃんが大変な事になってるんだったわ!
「ダメ~、今日のは特にダメ!あんなの許せない」
怪訝そうに詩音が眉を寄せる。
「だって、あんな不細工、真澄ちゃんに似合わないよ~!!」
呆れたように上を向いて溜め息をつく。何でそこで呆れるかな?
詩音って本当、不思議だわ。
「で、私にどうしろと?」
「勿論、助けに行くんだよね?」
ニコニコ笑って言ってやる。
口では冷たいけど、本当は詩音だって真澄ちゃんが心配なのだ。それも、物凄~く。
「厭なら自分で断るでしょ」
そう言うとまたもや本を開こうとするので強制没収。
「真澄ちゃんが厭がっても、相手が聞かなかったらどうすんのよ~」
「あ?」
「だって、今日のは空手部の主将だよ?真澄ちゃん、細いもん。絶対、力づくでどうにかされちゃうよ。厭がる真澄ちゃんを押し倒して…あぁ~ん、口ではとってもじゃないけど言えな~い」
詩音が目を細めて睨んで来る。
「ユノはその場にいたんでしょ。だったらユノが助けてあげればいいんじゃないの?」
うっ。
鋭い。
流石、部長。流石、詩音。女王様なだけはある。
「つまり、ユノもその相手が怖かったんだ?」
「だって、空手部だよ?骨とか叩き折られたらどうすんの~?」
「と、言うよりユノの場合、この状況を面白がってるように見えるんだが?」
あらあら、全部お見通しって訳ですか?
詩音は再び溜め息。おまけに疲れたように首を回してる。
スッゴイ馬鹿にされた気分。
「で、二人は何処に行ったの?」

マッドハターでお茶会 2

春日さんのその声に慌ててドアを開ける。
廊下を歩いていたらユノさんの大声が聞こえたので、盗み聞きしてしまった。
ユノさんって、少し妄想癖があるよね。想像力が逞しいって言うか。
だって僕が三年生に呼び出されただけで、どうして押し倒されるって結果になるんだ。さっぱり理解出来ない。しかも、春日さんの声が洒落にならないぐらい低かったのもマズい。僕はいいけど、隣にいる三年生が危ない。
「スミマセン、ここにいます」
それに驚いたように振り返ったユノさんが歓声を上げながら駆け寄って来るが、ピタリとその足を止める。
僕の横にいる佐波さんに気が付いて目を細め威嚇するように低く唸る。
犬みたい…。
「この強姦魔!」
突然のユノさんの言葉に驚愕したのか、佐波さんは棒立ちのママ動けないでいる。
チラリと様子を窺うと、春日さんがソファで小さく肩を竦めていた。フォローする気ないんですか、あなた。
仕方ないから僕がユノさんに向けて恐る恐る説明を試みる。
「あの、ユノさん違うんです。佐波さんは春日さんに何か相談したい事があるそうで」
「えぇ?!」
口を開けてユノさんが佐波さんと春日さんを見比べる。
「止めて置きなよ~。詩音はそりゃ、美人さんだけど性格がムチャクチャ悪いんだから~。詩音にするならやっぱり真澄ちゃんの方がイイよ~。可愛いし、素直だしぃ」
たった数秒前の自分の言葉を忘れたのか、ユノさんが何故か佐波さんに僕を推薦している。もっと自分の発言に責任を持って下さい、本当に。
「いえ、そういう話ではなくて…このミステリ研究会に何か依頼したいみたいなんです」
佐波さんが慌てた様子で僕の言葉に頷く。
それを胡散臭そうに見ていてユノさんだったがやがてクルリと振り返ると春日さんを見る。
「どうする?」
「追い返せ」
素っ気ない言葉。
こうなる事は予想が付いていた。
春日さんは基本的に気紛れだ。極度の面倒臭がりとも言える。この前のミステリーツアーだって、企画したはいいけど自分で動いたのは最後だけだったし。
「お願いします!もう、ここに見捨てられたら俺、どうしたらいいか…」
佐波さんがその巨体で涙ぐむ。
それにギョッとしたのは僕だけでなくユノさんも同じだったようで、先程の仕打ちなど忘れたように春日さんに喰ってかかる。
「何で~?!こんなに必死なんだからぁ、話ぐらい聞いてあげてもイイじゃないぃ」
うん。取りなしてくれてはいるんだけど、その間延びした喋り方。
物凄くバカにされてるような気になるんじゃないだろうか。
そう思って佐波さんを見ると矢張り、本当に泣き出してしまった。
男泣き…って言うより苛められっ子みたいだよ、その泣き方。
ウェッウェッと嗚咽を漏らしながら佐波さんが泣いて、僕は少し呆れてそんな佐波さんを見て、ユノさんも困ったように春日さんを見て、春日さんは涼しい顔で手元の本をパラパラ捲っている。
「春日、いるか……って何だ、これ?」
グッドタイミングなのかバッドタイミングなのか生徒会長の五十嵐さんがノックもせずにドアを開ける。
佐波さんの泣き声で苦情が来ないよう、五十嵐さんを無理矢理引っ張り込んでドアを強制的に閉めてしまう。
「何の見せ物だ?お、空手部の佐波じゃないか。何だ、春日に苛められたのか?」
それが当たらずとも遠からずで、僕には答えられない。
佐波さんが何度も頷いている。
それを見た五十嵐さんは実に嬉しそうに春日さんを見る。
本当、見た目からは想像付かないほど性格が歪んでる。
「春日ぁ、弱い者苛めしちゃイケマセンって教わらなかったか?」
「ハッ、空手部の主将なんだろ。私より弱い訳ないじゃないか」
確かにその通り。
でも精神的には佐波さんは春日さんより弱いんだろうな。
「どう見ても春日の方が強そうだぞ」
莫迦かコイツみたいな目で春日さんが五十嵐さんを見る。
僕だったらそんな目で見られたら悲しくてビルの屋上から飛び下りたくなってしまうだろうけど、流石は五十嵐さん。全く動じる気配がない。
「春日より佐波のが弱いと思う人」
と、言って手を上げる。
つい、吊られて手を上げてしまう。
ユノさんは自信満々に手を上げている。
佐波さんまでもが泣きながらも手を上げている。……って、それでイイのか空手部主将?
「ホラ、全員一致で春日が強いという事になったぞ」
春日さんはその言葉に本を置くとスリッパをはいて立ち上がり、五十嵐さんに向かい合う。
「この暇人」
「お互い様」
小さく舌打ちすると春日さんはユノさんを振り返り言う。
「お茶」

マッドハターでお茶会 3

特別にチョコを出してあげる。真澄ちゃんにあげるついでだし、詩音に散々泣かされて可哀相だったし。
レトロな銀紙に包まれたお菓子。こういうお菓子探すのって実は大変。
製造してない訳じゃない。でも、今どきは流通に適した物しか店頭に並ばないんだな。しかも売り上げはガッチリ管理されてるから、少しでも売れなかったらすぐに姿を消してしまう。だから当然コンビニなんかでは売ってない。
じゃ、どうやって?
そんなの、このユノさまが小売りもしてくれる問屋を一軒一軒回ったからに決まってるじゃない。
趣味の為には何だってやる。バカバカしい事ほどガムシャラに。
でも、これを買って来た労力を思うと、何だか食べちゃうのが勿体なってしまう。
詩音は無言で紅茶をすする。
猫舌め。
サラサラヘアの白皙の美人がどうして音立てて紅茶をすするかなぁ。
「私が美人だが性格の悪い部長の春日だ。で……?」
うわぁ、さっき言った事、根に持ってるよ。
しかもキツーイ目つきで佐波を見てるって言うか睨んでる。
ちょっと怖いかも。
「助けて下さい!」
その場に土下座せんばかりの勢いで佐波が言う。
それでも詩音の目は冷たい……じゃ、なかった。
完璧、興味ありませんって感じで真澄ちゃんの食べ終わったチョコの包装紙を器用に折り曲げてる。
「もう毎晩、毎晩眠れないんです。夜になると女の声がどこからかして、」
佐波って多分、同級だよね。何で敬語?
「どうしてウチに?」
「この前のミステリツアーの話、聞きました。例の幽霊を退治したんですよね?!」
ズルッと椅子からずり落ちてしまう。
どうやったらそういう話になるのぉ?
詩音はムチャクチャ怒った顔で五十嵐を見る。
五十嵐も詩音を見て軽くウィンクしてる。
ヤぁラシイ。
二人で見つめ合っちゃって。しかもお互いにしか通じないテレパシーだ。ま、この二人は特別だし、以心伝心ぐらいしちゃうでしょ。
フンと詩音が鼻を鳴らしてバカにしたように五十嵐から目を反らす。
何だかなぁ。この二人って仲がイイのか悪いのか。
そんな無言のやり取りに気付いてないのか、佐波が堰を切ったようにベラベラ喋ってる。
夜中に声がして目を覚ますと、嗄れた女の声が恨みつらみを呟いているらしい。そこですぐさま心霊現象って思っちゃう辺りどうなのって思う。まずは戸締まりの確認でしょ、普通。
それを聞いてるのか聞いてないのか、詩音が何やら目を伏せて考え事している。
何を考えているんだろ?
多分、何も考えていない。詩音はそういうヤツ。
やがてスゥッと目を開き、真直ぐに佐波を見る。
何だか別人みたいに厳かな口調で言う。
「分かりました」
それに佐波が目を輝かせ、身体を前に乗り出す。って、言うより真澄ちゃんまでもが面白そうに詩音を見つめてる。
何する気なんだろう、詩音は。
「お守りを渡します。この鶴が貴方の身を必ずや守ってくれるでしょう。これを肌身離さず持ち歩いて下さい」
そう言って何か銀色に輝く折り鶴を佐波サンに差し出す。
佐波サンはハハァッとか言いそうな姿勢で畏まってそれを受け取る。
……って、えぇ?!
その物体の正体に気が付いて詩音を見るけど涼しい顔。
五十嵐はヤレヤレと肩を竦めているし、真澄ちゃんも興味が失せたのかアカラサマに欠伸なんてしている。
だけど佐波は至って真剣で……。
何だか少し可哀相になって来たかも。
大泣きしたとは思えない程、爽やかな笑顔を残して佐波が立ち去るとボソッと五十嵐が言う。
「この詐欺師」
「ペテンですよね」
真澄ちゃんまでもが五十嵐と同じ意見を述べる。
「何の事かな。それより多忙な筈の生徒会長はどうしてここにいるんだ?」
詩音の言葉にハァッと溜め息をついて五十嵐が答えようとするけど、ちょっと待て。
「今のなぁにー?」
何か訳分かんない内に解決しちゃったみたいでツマンナーイ。
「夜、眠れない言うから眠れるようにお守りを渡したんだよ」
シレッとして詩音が言う。
「だってチョコの包装紙でしょ?」
でも何でただの包装紙がお守りになるの?
「このバカが下らない噂を流してくれたオカゲで勘違いした野郎が来た。ここまではイイ?」
ウン。そこまでは了解。
小さく頷く。
「誤解だって説明しても無駄だろう。大体からして何でヒトの尻拭いを私がしなくちゃイケナイんだ、しかも五十嵐の。だから誤解はそのままに、相手の求めるモノを与えたんだ」
「それがあの鶴?」
「何でもイイんだよ。それらしく演出してやれば」
「カワイソウ、騙したのー?」
「人聞きの悪い。心霊相談なんてハナから範疇外だし、大体からして今の……佐波は騙されたかったんだ。私が悪い訳じゃない」
今の間は名前を覚えてないからなのね。
それにしても。う~ん、確かに詐欺に引っ掛かるのはその人が騙されたいって思う気持ちもあるからって聞いた事あるけど。
「で、五十嵐は何の用だ」
切って捨てるように五十嵐に目を向ける。
こういうトコロが冷たいんだよね、詩音って。
いっつも最後までコッチに付き合ってくれないんだもん。

マッドハターでお茶会 4

ユノさんがウンウン唸りながら茶器を片付ける。
春日さんのした事に納得できないのだろう。
佐波サンの相談は矢張り心霊相談。廊下を歩いている時にうわ言のようにブツブツ呟いていた内容と照らし合わせてもそれしか考えられなかった。
何でも夜、部屋に一人でいるとどこからか低い唸り声と女の囁き声がするらしい。何と言ってるのか聞き取れないそうだけど、如何にも恨んでますって声だとか。確かにそれはちょっと厭だ。
だけど、確かに心霊相談は春日さんの守備範囲ではないし、何よりそんな話に春日さんが真面目に付き合う筈がない。
「お茶会」
五十嵐さんが唐突に言う。
「何の事だ?」
「ミステリツアーにまつわる噂だ。超絶美少女を囲んでのお茶会があったってな。まぁ、最初に篩いに掛けられた奴はそう思っても仕方ないだろうな。何せ、目的がさっぱり分からないまま追い返されたんだから」
五十嵐さんの言葉にドキッとする。否、正確にはビクッとした。
何だか厭な予感がする。
「で、是非ともミステリ研究会にもう一度、ミステリツアーをやらせろ、或はそのお茶会だけでもやらせろって投書が殺到している」
「部費は潤ったので当分その予定はないね」
切って捨てるかのようにあっさりと春日さんが言う。
それにフッと嗤う五十嵐さん。何か秘策でもあるのだろうか?
「……」
春日さんが目を細め、そんな五十嵐さんを睨み付ける。
「確かに。ミステリ研究会にメリットはないな」
お、意外な事に五十嵐さんが認めた。
それでも春日さんは細めた目のままジッとしている。明らかに警戒しているって感じ。
「ミス研主催のミステリツアーに超絶美少女が現れたんだから、当然その美少女はミス研の関係者だって誰もが思うよな。どうする?」
突然、五十嵐さんが僕を見る。
「え?」
どうするって、何が?
首を傾げていると春日さんが小さく舌打ちする。女の子なのにハシタない、とかは思わない。
「ミスった、」
「まぁ、仕方ないな。春日だってまさかここまで評判になるとは思ってなかっただろうし。あ、それともこうなるのを見越して『アリス』の出番を準備してなかったのか」
「煩い」
小気味良いリズムでやり取りする二人の会話はまるで意味が通じない。
苛立ってる春日さんに五十嵐さんが目を細めて笑う。
「ま、どちらにせよもう手後れだ。俺一人じゃ止められないな」
「嘘をつけ」
「ホントだよ」
「……何が何でも『お茶会』をやらせるつもりなのか」
「悪いね」
全く心の籠っていない声で五十嵐さんが答える。
「真澄ちゃん、ごめん」
春日さんが突然、謝って来る。
訳が分からずぼんやりしてしまう。
そんな僕を放って五十嵐さんに再び向き直ると物凄くテキパキと話を進める。
「で、いつなんだ?」
「来週の土曜日はどうだ?」
「一人幾ら」
「1000円が限界だな」
「何人ぐらい集まりそうなんだ」
「多すぎると安っぽくなるから前と同じぐらいでいいだろう」
「じゃ、7:3」
「アコギだな。せめて6:4にしろよ」
「何言ってんだか。大事な部員を貸出すんだ。それぐらいイイだろ」
「会場費にセッティングにこっちは実働なのにそれは無理ってモンだろ」
「じゃ、いい。私に害はないから」
何だか訳の分からない話を切るように春日さんが僕を見る。
何だか厭な予感。
「真澄ちゃん、ほんとごめんね~」
久し振りに軽い口調。でも、目が全然、笑ってない。凍える程に冷たい目をしている。
ハッキリ言ってかなり怖い。
「恨むならバカな噂流した誰かさんを恨んでね~」
「あ、卑怯じゃないか」
五十嵐さんが慌てたように言う。
「あの……?」
ん?と二人してこちらを向く。
「一体、何のお話をしているんですか?」
僕の言葉に二人とも動きを止める。
そのまま一秒、二秒。
「ククッ、」
最初に堪え切れなかったのは五十嵐さんだ。
口元を押さえて肩を震わせている。と思ったら仰け反って爆笑し出した。
それに吃驚していると春日さんまでもが目に涙を浮かべて笑いを堪えている。
「カ~ワイイ!ナイスボケ!!」
引くって。これは絶対に引くって!
思わず三歩下がった時、洗い物を終えたユノさんが腰に手を当ててやって来る。
「もぉう~、シオンも五十嵐も。そんなんじゃ真澄ちゃん分かる訳ないじゃん!」
怒っててもフワフワしていて可愛い。
「ちゃんと説明してあげなよぅ。訳も分からずに売られちゃったら真澄ちゃんが可哀想でしょう~?!」
確かに。
訳分かんないデス。
でもその前に。
「売られる?」
僕の漏らした一言にユノさんが振り返る。
「そうだよー。この二人は真澄ちゃんを売り買いしようとしてんだよぉ」
「え……じゃ、『お茶会』は生徒会が主催するんですか」
「そうそう。ウチとは関係ない生徒でしたってパフォーマンスだね。だから生徒会に真澄ちゃんを貸出しって事になる。こんなアホと一緒に行 動するのは厭だろうけど、でもこのまま『アリス』がウチの人間って定説が出来上がっちゃうとどうしてもその正体がバレちゃうからね」
ヘラヘラ笑いながら春日さんが言う。美人なのはこの際、マイナスポイントになりそうだ。
そう、か。
考えるまでもない。ユノさんも春日さんもあの場にいたんだ。だからそれ以外の部員が『アリス』って事になると残りは……僕か。
「そりゃ、もう分かってる奴もいると思うけど、確信はないだろうから特に口止めなんて必要ないでしょ。でも噂にはなるね。そして噂には尾ひれってモノが付くから、どうしても美少女=『アリス』=真澄ちゃんって図式が出来上がっちゃう訳よ」
それをカムフラージュする為に生徒会でお茶会をやるのか。
で、お互いの取り分で揉めてたって訳か。
何だか脱力……。

マッドハターでお茶会 5

どれがいいか悩んじゃうなぁ。
花柄のレトロなワンピースがいいかな、それともこっちのベルベット調のスカートがいいかな~。
ああ、楽しみ。
服のサイズが真澄ちゃんと同じで良かったなぁ。そのおかげでこうしてスタイリストなんて任されたんだから張り切っちゃうよ。
……って、一晩悩んだのに。
悲しい。
持って来れなかったから宅配便で送ったのに。
その所為でまた先生に怒られたのに。
真澄ちゃんはどれもこれも厭だ厭だばっかりで。その厭がりようが半端でなくって。
仕舞いには詩音まで真澄ちゃんの味方になっちゃうし。
何だったの。あの楽しいお悩みタイムは。
「あ、コレなら真澄ちゃんも余り抵抗ないんじゃない?」
詩音はそう言って取り上げたのは膝丈のハーフパンツ。
それでも真澄ちゃんは顔を顰めていたけど、他のを見て諦めたみたい。
「じゃあ!」
んもうっ!!って顔してたんだろうな。
真澄ちゃんが驚いたようにこっちを見る。
「あとは任せてよ。それ位いいでしょー!」
圧倒されたのか、詩音までこっち見て目を丸くする。
だって一晩、悩んだんだよ?
宅配便で学校まで送ったんだよ?
なのに何で一番、地味なの選ぶの!!
だったらコーディネート位させてよ!
って、言いたかったけど何だかう~う~唸ってしまった。
「うん、ユノの功績を認めようじゃないか。何を合わせたら可愛くなるかな」
詩音がこっちの機嫌を取るようにバツが悪そうに言う。
「コレとコレ」
瞬時にダンボールから取り出す。
クラシカルなデザインで襟元にリボンの付いたオーバーブラウスを見せてパンツと同じ素材の細身のジャケットを広げる。
「真澄ちゃん、着替えて」
「……ハイ」
素直に真澄ちゃんが服類を受け取り立ち上がる。それを見てたら妙に機嫌直っちゃったよ。
「エヘヘ、」
さっきキレ掛けたのが恥ずかしてちょっと笑ってみる。詩音が細くて白い指を伸ばして頭を撫でてくれる。
うふ~って満足していると真澄ちゃんが困ったように固まってる。
「どうしたの?」
「え……っと、何処で着替えれば」
「ココでいいんじゃない?ね、詩音?」
「ああ、問題ない。と、言うより外に出られた方が問題あるな」
んん、あ、成る程。
『アリス』になった真澄ちゃんを他の人に目撃されたら意味ないんだった。
「はぁ。でもココで着替えるのもちょっと問題が」
「何、」
「あの、お二人は女性ですよね?」
あら、照れてる。可愛いんだから。
照れるって言葉には縁のない詩音はあっさり頷く。
「生物学上、私は女に分類されるけどそれがどうした?」
「で、僕はこれでも一応、男なんですよ」
「『一応』と付ける辺り謙虚なんだな」
「少しは学習しましたから」
詩音に慣れたのか、真澄ちゃんが疲れたように言い返す。いい傾向だと思うよ、うん。
何か真澄ちゃんって弱々しいって言うか、頼りないって言うか……つまる所、誰かに守って貰わないと生きられないように見えるんだよね。だから、詩音に言い返せるほど鍛えられたと言う事は、それだけ強くなったって事で。この先、安泰だね!
言い返された詩音も真澄ちゃんの変化に気付いているんだと思う。口元をニヤニヤさせながら続きを促す。
「何が言いたい?」
「着替えてる間、外にいて下さい」
真澄ちゃんがそう言うと詩音がこっち見て片方だけ眉を上げて見せる。


何とか二人を追い出して着替えてみる。ここまで来たら逆らっても無駄だ。
パンツは何とか入ったが問題はブラウスだ。腰で絞られたデザインだし、ストレッチ素材ではないようなのでどう考えてもボタンが閉まらない。
だけど、羽織ってみたら見た目より少し余裕がある。
あれ?
ユノさんってもしかして着痩せするのかな?
あっさりとボタンも閉まり着替えは完了。
うん、スカートでない分、余り女装したって感じがしない。
「いいですよ」
廊下にそう声を掛けるとユノさんがまっ先に部室に入って来る。
普段からは想像できないテキパキとした動きで僕の襟元のリボンを結んでくれる。
大きめの鞄からソックスを出し僕に手渡す。そして今度はダンボールから紐で編む革靴を取り出す。
渡されたそれら小道具を全て身に付けるとユノさんが盛大な溜息をつく。
「う~ん、ちょぉっと男の子っぽい女の子って感じ?じゃなかったら少年を目指したコーディネイトの女の子?」
何だ。やっぱり女装してんのと変わらないのか。
「ジャケットは前しめないでね」
言われた通りにする。
「うん、可愛いんじゃない」
春日さんまでそんな事を言う。
貶されてる訳じゃないんだけど……複雑だ。

マッドハターでお茶会 6

ミス研の人間が二人もいたんじゃカムフラージュにならないって言われて今、一人ぽっち。
場所は五十嵐の家。そこの五十嵐の部屋。
目立つ格好はするなよって言われてたからメイドさんファッショーン。
外でだとちょっと目立っちゃうから態々、トイレ借りて着替えたんだけど。
なのに五十嵐には怒られた。
余計、目立つって。
何でかなぁ?
五十嵐の家ってメイドさんがいるからコレでいいと思ったんだけどなー。そう言ったら、「いるのは家政婦さんで、普通の服装にエプロンしてるだけだ」って言い返されちゃった。うん、確かにそうだった。
閑話休題。
お茶会の場所は目の下の庭。
絶好のロケーションって奴?
ただ単に五十嵐に閉じ込められたってだけなんだけど。監禁されちゃってるのよ。
カーテンの影から覗いてみるとバッチリ詩音と目が合って思わず手なんか振ってみる。
詩音はフッて冷笑を浮かべるだけで手を振り返してはくれない。
当たり前だ。
詩音の前には夜遊び魔人の異名を持つ綿井が座ってるらしい。
どれどれ、真澄ちゃんは……っと。
ありゃ、五十嵐の横にいる。
どうせ生徒会権限とか何とか言って真澄ちゃんを言いくるめたんだろうけど。職権乱用もいいところだよ。
参加人数は全部できっかり十人。
告知は一切せずに、おまけに絞りに絞って集まったメンバー。
何が凄いって詩音以外、全員男。それが集まって皆して真澄ちゃんを見つめている。これは考えようによっては怖いような笑えるような、面白い光景かも。
中には本当に謎の美少女だと思って見蕩れちゃってる人もいるんだろうけど、綿井辺りは気付いてると思うんだ。伊達に女の子と遊んで来た訳じゃないだろうし。でも、綿井は転校して来てからずっと真澄ちゃんに惚れてたらしいから、このお茶会に参加してるのも納得。うん。
そんな人数をあっさり収容できてしまう五十嵐家の庭は広い。
詩音の出した条件で『絶対にテーブルと人数分の椅子を用意する事』ってのがあったけど、それもあっさり用意できちゃってるし。
五十嵐ってもしかしてお坊っちゃま?
見ているだけで会話が全く聞こえないからツマラナイ事、甚だしい。
ボンヤリしてたら眠くなって来て、欠伸した頃にやっと最後の客がやって来た。
幽霊に怯えていた佐波さんが椅子に腰掛ける。これで全員、揃った。

皆して何だか訳の分からないテンションで喋っていて煩い。
一度に全員が喋ってるから誰の話も聞き取れない。
僕はただ曖昧に笑っているだけ。
誰一人として冷静ではないんだから。とか、思ってたら冷静な人がいた。
春日さんだ。
どこか遠くを見て皮肉な笑みを一瞬浮かべからこっちを見る。
物凄く怖い目でジッと僕を見る。
『口開くなよ』
そう言っているのだ。
流石に喋ってしまったら正体がバレてしまうから一切、声を出すなって命令されている。
勿論、僕だってそんなのは困るから素直に従う。
けど、何だか釈然としない。
そもそも、こんな事になったのは前のミステリツアーで僕にアリスをさせたからじゃないのかな?って、事は春日さんの所為って事になる。
なのに、どうして僕がこんな理不尽な目に合わなきゃいけないんだろう?

およ?
何だ?
綿井が突然、むせたよ。
あれれ?
他の人もゲェゲェしてる。
その内、何人かは口を押さえてどこかに駆け出す。
何があったんだろう。
平然としているのは詩音と五十嵐と……。
真澄ちゃんが吃驚したように持ってたカップを取り落とす。
まさか、毒でも盛られたのかにゃ?
慌てて部屋を飛び出そうとして、気が付く。
外から鍵掛けられてたんだった!!
はうっ!
再び窓まで駆け寄りハラハラしながら庭を見ると詩音がカップを取り上げようとしているぅー!
「ダメぇ~!!」
窓開けるのも忘れてそのまま叫ぶ。
しかし詩音はカップを口に付けず、鼻先に近付け匂いを嗅いでいる。
本当に毒なの?

どうして?
何でこんな事になったんだろう?
どう考えても原因が思い付かない。
春日さんがカップを静かに戻し、五十嵐さんを見る。
それにつられて五十嵐さんに目を向けると何故か小さく笑っている。
「上でユノが暴れてるから出してやれば?」
その言葉に振り返るとユノさんが二階の窓から見えた。
手をパタパタと振って……確かに暴れている。
五十嵐さんは仕方ないな、という風に肩を竦め立ち上がる。
その後ろ姿を見送って春日さんが僕を見る。
「犯人はアリスだな?」

マッドハターでお茶会 7

「いや~ん、早く救急車呼んだ方がいいよぅ」
のんびり歩く五十嵐を追いこして庭に出てそう叫ぶ。
詩音がそれを聞いて苦笑いを浮かべる。
どうしてそう悠長にしてられるかなぁ?
「そんなたいした事じゃないよ、ユノ」
「何でぇ?」
「だって、お茶に入れられてたのは酢なんだから」
ス。
スって、お酢の事?!
「それに犯人も分かってる」
「え、嘘ォ?!」
「アリスだよ」
アリスって、真澄ちゃんが?どうして?
「今日はアリスのティーパーティーだから主役のアリスが皆にお茶を振る舞った。つまり、カップに注いだのはアリスだ。その時に隙を見てポットに酢を混入させたんだろうね。先にレモンをカップに入れておけば発覚はしにくいだろうし」
「何で、ま……アリスがそんな事すんの~?」
マズイ、マズイ。
真澄ちゃんだなんて言ったら今日のお茶会の意味がなくなっちゃう。
「仕返しって事かな?」
「どうして春日さんは飲まなかったんですか?」
真澄ちゃんがとても残念そうに言う。それを見ると、本当に真澄ちゃんが犯人だったんだぁ。
「予測していたからね」
何て事ないように詩音が言う。
「真澄ちゃんがやられるだけの大人しい子だとは思ってないから、そろそろ何か仕掛けて来るんじゃないかなぁと思って」
詩音がヘラヘラと笑う。
ん~、このギャップはキツいかも。
五十嵐を振り返ると「俺は春日が飲まないからもしかして、って思って」と答える。
つまり真澄ちゃんは一番仕返しをしたかった人物にはできなかった事になるのかな。
「あの……」
言われて思い出したけど、佐波さんもお茶に口を付けてないんだった。
「一体、どういう事なんでしょうか」
その巨体に似合わないオドオドした態度で詩音に訊ねる。
「何でもないんだ、気にしないでくれ。それにしても君はラッキーだったね」
思わぬ詩音の言葉にその場にいた誰もがきょとんとする。
「何しろ、君のお茶にだけ毒は盛られていたんだからね」
え。
えぇ~?!

春日さんの言葉に思わず仰け反ってしまう。
五十嵐さんが疑わしそうな目で僕を見る。僕はそんな事してないのに。
佐波さんに特別、恨みがある訳でもないのにどうして僕が毒を盛らなくちゃならないんだ。どうせなら春日さんと五十嵐さんにする。
「君、女の幽霊は相変わらず現れるんだろう」
春日さんの言葉に佐波さんが頷く。
「女は何を言っている?声が小さ過ぎて聞き取れないのかな?」
「そうです。だから気味が悪くて相談したのに」
「誰かに恨まれる覚えは?」
佐波さんが首を振る。
「だ、そうだ。ユノ」
春日さんがユノさんを見る。
驚いた事にユノさんが物凄く悔しそうな顔をして佐波さんを睨んでいた。
「チョウムカツクぅ~」
金髪の頭をブンブン振ってユノさんが言う。
「詩音はいつ気が付いたのぉ?!」
「ユノが約束の時間より早く来てたからね。何かする気なんだな、と思った」
「うわぁ、余計ムカツク~。皆、嫌い!!」
そう叫ぶと真っ黒いレースのドレスを靡かせて走り去ってしまう。
呆然としていると洗面所に行っていたのか、皆が戻って来る気配がした。
「取り敢えず、アリスは隠れた方がいい」
春日さんの指示で五十嵐さんに導かれて家の中に入る。

マッドハターでお茶会 8

沈んで行く夕陽を見ながらちょっと悲劇ぶッてみる。
今の生活に不満はないけど、だからと言って過去がなかった事にはならないでしょ。
でも、いつまでも過去を引きずるなんてガラじゃないって分かってるから、ここらでケジメ付けようとしたんだよ。
諸悪の根源、過去の汚点、黒歴史。
思い出すだけでワーワー叫びながら足をバタバタさせたくなる。そんな思いをしなくてもいいように、キッチリと佐波に復讐して終わりにしようと思ったんだよ。
高校に入って、血を吐く思いでダイエットした。身長はどうしようもないから、せめて細くなりたかった。筋肉で筋張った手足なんかいらないって思った。欲しかったのは白くて華奢でお人形のような外見。
それを得る為に努力したんだ。
なのに肝心な事に気が付かなかった。
佐波が同じ高校だなんて考えもしなかった。知ってたら進路を変えた。でも、違う学校に行ってたら詩音とも出会えなかったんだよねぇ。そう思うと色々と複雑だわ。
人生ままならない事ばかりでウンザリしちゃう。
ハァって溜め息とつくと、遠くから悲劇とは程遠い間延びした声。
「ユ~ノぉ、」
大好きなシュークリームを片手に振りながら詩音が呼んでいる。
一人になりたかったのにぃ。
「ホラ、」
近くまで来ると当然のようにシュークリームを一つくれる。
無言で受け取って口に入れる。
「反省した?」
その言葉を無視してモグモグと口を動かす。
「私の好きなユノは素直なイイ子なんだけどなぁ」
そう笑いながら鼻を摘まんで来る。息できない!!
慌てて飲み込んでプハァッて息をする。
「ちょっと卑怯だったね」
詩音が優しく言う。
「……うん、」
「よし、それが認められるなら大丈夫。未遂だったんだし、もう忘れよう」
もう一つシュークリームをくれるからついエヘヘとか笑っちゃう。もう本当に詩音には適わないなぁ。

「あの……一体、」
無言でいても仕方ないので五十嵐さんに言ってみる。
「ん?」
「ユノさんと佐波さんって」
「ああ、中学時代の知合いだよ」
五十嵐さんが机の中をゴソゴソやりながら答える。
「どうしてユノさんが……その、毒を?」
「多分、毒じゃないと思う。ユノにそんなモノ仕入れる事はできないから恐らく洗剤か何かだろう。腹痛でも起こせばいいとでも思ったんじゃないのか。俺も考えが浅かったね。ユノが佐波を今回誘うって言った時に気付くべきだったよ」
そう言うと目当てのモノを見つけたようで僕の横に並んで座る。
カチッと音がする。
見てみると呆れた事に煙草を吸っている。
まだ高校生で生徒会長なのに。
「中学の時、ユノは負け知らずだったから試合で佐波に負けたのがよっぽど悔しかったんだろうな」
「え、試合って?」
「佐波は何部だ?」
「……空手」
「そういう事だ」
ふぅんと納得し掛けて気が付く。
ユノさんって空手やってたの?
あんな細いのに!
「高校入って細くしたんだよ。それまでの自分を忘れたいからってな」
そこで五十嵐さんは何故か笑い出す。
「まぁ、実際は試合の所為ではないだろうな。ユノはああ見えて真っ当な人間だから、負けを認められないほど弱くはない。だから佐波と揉めたのはお互いの感情が上手く噛み合ってないと知ったから、と私は考えている」
「感情……ですか……?」
訳が分からず問い返すと、さほど吸ってなかった煙草を灰皿に押し付けてしまう。それからヒラヒラと手を振って煙を払う。
「ユノは佐波の事を頼れる先輩と思っていた。いつか越えるべき壁のように思い、仲間として尊敬していたんだと思う。でも、佐波の方は違ったんだ」
「えっと……ユノさんを嫌ってたとか?」
「その反対だ」
嫌いの反対は好き。それの何が問題なのか分からない。
キョトンと首を傾げていると、五十嵐さんが困ったように小さく笑う。こういう顔を誰にでも見せているのかな、だとしたらとんだタラシだ、この人。
「佐波はユノが好きだったんだよ、恋愛対象として」
「ああ……それは、うん」
言動が変とは言え、ユノさんは可愛い。喋らなければ本当にお人形のような可愛さなのだ。
だから佐波さんがユノさんに恋愛感情を持つと言うのも分かる気がする。まぁ、僕はユノさんに惚れる事はないけど。
そして、二人の仲が拗れたのも頷ける。
佐波さんがどんなにユノさんを好きでも、ユノさんはそうじゃないのだ。嫌いだったら話は簡単だったのかも知れない。でも、恋愛対象としてではないがユノさんが佐波さんに抱く感情もまた『好き』なのだ。ユノさんからしたら複雑な心境だったろう。これまで仲間と思っていた相手なだけに裏切られたと思ったかも知れない。
「だから佐波さんのお茶に何か入れて復讐しようとしたんですか?」
「復讐なんて大袈裟なものじゃないだろう。嫌がらせ、いや腹いせと言った方が近いんじゃないかな」
何を混入させたのか知らないけど、確かにユノさんのキャラを思えばそちらが正解な気がする。訳の分からない言動だし行動も突拍子ないけど、サッパリした性格なのだ、ユノさんは。
「あれ……でも、佐波さんは変わる前のユノさんが好きだったんですよね?」
「ああ、告白したと聞いたが」
「だとしたらユノさんの外見に惹かれたって訳じゃないんですね」
変わる前がどんなだったのか知らないけど、空手をしていたくらいなんだ。それなりの体格をしていたんじゃないのか?
そんなユノさんに告白するほど好きだったと言う佐波さん。
それって本当に心の底からユノさんの事が好きって事なんじゃないかな?

マッドハターでお茶会 9終

「詩音は幽霊の正体も分かってんでしょ?」
「ああ、間違いないと思う。携帯電話だろ」
チェッ。
全部、お見通しってヤツか。
「予め佐波の携帯電話に留守電用のメッセージを吹き込んで置く。そして深夜、眠っていると思われる時間に電話を掛ける。部活で疲れている佐波は当然のように熟睡中で電話に出ない。留守電に切り替わり、メッセージ録音になる前に電話を切る。それをひたすら繰り返す。機種によるけど佐波の持っている携帯は同一の番号からの着信の場合、最後の一回しか記録が残らない。佐波は多分、携帯を枕元に置いていたんだろうな。だから再生された自分の携帯電話の留守電の音声を耳が拾ってしまった。普通、自分の携帯の留守電用のメッセージな んて聞いたりしないから心当たりなんかない。単純な佐波はそのまま心霊現象だと信じ込んでしまってウチに相談に来た。最初の計画は弱ってる佐波を見て笑ってやろう、それぐらいだったんだろうけど五十嵐が持って来た話でもっと直接的な嫌がらせを思いついた。それが真澄ちゃんの計画と重なってしまって私たちに露呈する結果となった。違う?」
ここまで来ると本当、脱帽。
お見事。
アナタには適いません。
「ま、明日にでも佐波には謝って置きなさい」
そう言って何事もなかったようにニッコリ笑う。
真澄ちゃんは詩音が自分の顔立ちに無頓着だと思っているようだけど、本当は分かっていて利用してるんだよって教えてあげたい。
ここぞと言う時に狙ったように綺麗な顔で笑うんだよなぁ。それだけで誰も何も言い返せない。
本当、美人って得だよ。

部室で試験勉強をしているとユノさんがやって来た。
ソファに寝転ぶようにして画集を眺めていた春日さんが顔を上げ「ユノ、お茶」と言い掛けて思いとどまる。
僕も異様な雰囲気に気付いて顔を上げるとユノさんが青ざめていた。
「どうした?」
「コ、コ……」
ユノさんがカクカクしながら何かを言おうとする。
春日さんが起き上がりユノさんの頭を撫でてあげる。
「落ち着いて。ホラ、深呼吸ー」
その言葉に従ってユノさんが深く息を吸って吐く。
「で、何があった?」
「コクられた!!」
「……」
二、三秒の間を置いて春日さんが吹き出す。
もう、大爆笑ってこういう事なんだなぁって納得しちゃうくらいの笑い方。
「誰にですか?」
ノートを閉じながら訊ねるとユノさんが僕を見る。
「あの体が大きいだけの小心者にぃ!!」
何故かユノさんは怒っているようだ。
「アハハ、最高ぉ!」
春日さんがソファを叩きながら笑い転げる。
「一度振られたのにまた告白したのかぁ、佐波は案外いい性格しているなぁ」
「詩音は知ってたんでしょう?」
「えぇ~、まっさかぁ。ま、ウチに相談するなんて、あわよくばユノに近づきたいって下心があるんじゃないかなぁって思ったけど」
何をかは知らないけど、春日さんはユノさんの言う通り『知って』いたんだろうな。
軽い口調になる時は大抵そうだから。
「もぉ、信じられないぃー!」
ユノさんはプンプン怒って春日さんを睨んでいる。そんな顔しても可愛いだけなのに。
でも、そうか。やっぱり佐波さんはユノさんの外見に関係なく好きなんだ。案外お似合いなんじゃないかな。
涙目で上目遣いに睨む美少女と、涙を堪えて爆笑する美人。その二人を眺めて溜め息をつく。
今日も相変わらず変人の集いだな、ミス研は。

<終>
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