スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

今後のこと

ここを整理するのが一番使いやすいのではないかと思ってるんですけど、その整理が何だか大変そうで二の足踏んでます。snsに投稿もしてますが、やっぱり何だか仕様に慣れない。
取りあえず、極上の趣味・改メをここに持って来たいです。あと、はじめにの記事にも追記したようにpixivで書いてたレンマサホラーもここで続き書きたい。これは最初の投稿で文字数と言うかページ数をちょっと失敗しちゃって訂正したいなってずっと思っているのです。ページ変える機能あったんじゃんか、使った事ある癖に何で忘れてたの自分!
そんな感じでかなり文字数が少なくてションボリな見栄えなので、続きはここでやりたいなぁ、と。
でも、まだまだ改良しないといけないので時間掛かります。マッタリ行くよ。
スポンサーサイト

七転八倒(レンマサ)

どうせいないだろうと思ってドアを開け途端、予想に反して同室者の姿を見てしまう。
ただいまと言えば良かったかなとは思ったけど、互いに犬猿の仲なのだ。挨拶ぐらい構わないだろう。
聖川も同じ事を思ったのか、小さく「お帰り」と呟いて手元に目を落とす。どうやらお勉強中だったらしい。教室でやってくればいいものを。
やれやれと肩を竦めて、自分のソファに腰を降ろす。
いつもならまっすぐ部屋に帰ったりはしない。レディたちと戯れ、ひとときを楽しむ。恋愛が御法度なのは全員が承知している。だから、それはただのゲーム。息をするように甘い言葉を囁き、気が向けば肌を重ねる。それだけだ。
首に巻いていたタイを外して、天井を見上げる。
ちょっと疲れてるのかも知れないな。
そんな事を考えながら視線を戻し、机に齧りつく聖川を見つめる。
斜め後ろにいるオレからは聖川の顔が半分しか見えない。透き通るような白い頬、伏せられた睫毛の下にある特徴的な泣き黒子。何か呟いているのか時々動く赤い唇。
「っ、」
自分の思考にビックリして息を飲む。
何で聖川の顔なんかマジマジ見つめてんの。ヤバいでしょ。
幸いな事にこちらの様子は気付かれていないらしい。ペンを持ち替えてサラサラと何やら書いている。何か課題でも出たのかな。
ピンと伸びた背筋、浴衣の襟から覗く白いうなじ。
ドキッとする。ってか、ムラッとした。
え、何で。うんざりするほど見慣れてる筈だろ。今更、聖川を見てドキドキする意味が分からない。
って言うか、何で私服が浴衣なの?
ここは温泉ですか、お前は湯治客かっての。
そんな風に思うけど、やっぱり綺麗な物は綺麗だ。
正直言って化粧していない分、学園にいるレディたちより綺麗だと思う。でも、その綺麗さはレディたちのような柔らかいものと違って、研ぎすました刃物のようだとも思う。近づいたら斬って捨てられそうな感じがする。ちっちゃい時は可愛かったのに。
そう言えば昔は真斗って呼んでたっけ。
何も知らないで、ただ大人たちの中にいた自分と同じぐらいの子供を見つけた嬉しさに声を掛けて連れ出した。真斗も同じ気持ちだったのか、ホワホワと笑いながら手を繋いでたっけ。そのちっちゃい手が可愛くて、ずっと離したくなかったな。
ヤベぇ、可愛い。
思い出に浸って口元が弛んでいたのか、振り返った聖川が怪訝そうに顔を顰めている。
「何なんだ、ニマニマして気味の悪い」
いつもならそんな事言われたらムッとするけど、今は思い出の方が勝っている。
見る度に腹の立つ顔だと思ってたけど、当然と言えば当然なんだけど、よくよく見てみれば、あのちっちゃな真斗の面影があるし。あ、ダメだ。本気でヤバいわ。
「お願いがあるんだけど、いいかな」
目を細めてそう切り出せば、聖川が不可解そうに眉を寄せる。そんな顔されても可愛いとしか思えないのは、きっと疲れているからだ。
「何だ、改まって」
こっちに向かって座り直す。そういう所に育ちの良さが出てるよね、お前は。
「……お兄ちゃんって呼んでみて?」
そう言った途端、不可解通り越してゴミを見るような目になった。何でそんな顔するかな?
首を傾げて見つめると、それに耐えられなかったのか聖川が目を伏せる。
何だか葛藤してるみたいで可愛い。何と葛藤しているんだろ。嫌悪かな、屈辱かな。
そう思ったら、さっきのドキッがムラッとに変わった。
無理矢理でもいいから押し倒して泣かせたい。嫌がる身体を無理に開いて自分の物にしたい。
そういう趣味はないと思ってたけど、聖川相手ならアリだわ。多分。
ああ、でもやっぱり可愛く甘えられるのがイイかも。
昔みたいに心を許し切った笑顔で『お兄ちゃん』とか呼ばれたら萌え転がって何でも買ってあげちゃうね、きっと。
でも、聖川は絶対に言わない。
聖川を突き放したオレを許してはくれないから。
だから見つめ続けるのは、不意に沸いた欲望の所為だ。いつものように素っ気なく無視されておしまい。そんなのは分かっている。
ふぅ、と息をついて聖川が目を上げる。
キツい事を言われると身構えるが、オレを見るその目は記憶と同じく砂糖菓子のように甘ったるい。
え、まさか……あり得ないでしょ、ねぇ……?
ソワソワするオレを見据えて、大きくなった真斗が口の中で転がすように呟く。
「お兄ちゃん……?」

エゴイズム1(レンマサ)

子供の頃の一年は大きい。俺はそう思う。
出会った頃の神宮寺は人懐こくて面倒見が良かった。子供らしく茶目っ気のある笑顔と柔らかな物腰。だから出会ってすぐに仲良くなった。
たった一つしか違わないのに、俺の知らない事を何でも知っている神宮寺を尊敬したし、兄のように慕ってもいた。それが満更でもなかったのだろう。神宮寺は厭な顔一つせず俺と遊んでくれた。
だが、ある時を境に俺たちの関係は変わってしまった。
俺は神宮寺にハッキリと拒絶されたのだ。
その時は傷つき人知れず涙を流しもした。自分にどんな非があるのかと考え込む事もあった。しかし、時が経つにつれて考え込む事は減って行き、以前親しかった事すら忘れてしまった。
パーティーや会合などで顔をあわせる機会は度々あったものの、俺に無関心な神宮寺の姿を見るとそうせざるを得なかったのだ。
それから表面上は何も問題のない日々が続いた。
聖川の嫡男としての立場や責任のある俺は自分でも知らぬ間に父の描いたレールの上を走らされていた。それを知った時、俺は怒りと共に納得もした。道理で何をしても褒められた事がない訳だな。
父からしてみたら、俺のする事など出来て当然。ただそれだけだったのだ。
一度でいい。自分らしい生き方をしたい。父の反対を押し切って受けた早乙女学園だったのに、そこで神宮寺と再会するとは皮肉な事だ。しかも相部屋とは。
常に突っかかって来るしか能のない神宮寺と二人きりになるのは苦行に近いものだった。特に今朝のように子供の頃の夢を見てしまったあとは切なくもなる。
起き上がり気配を窺うと神宮寺はどうやらまだ眠っているらしい。そそくさと着替えを済ませ、ドアを開けて廊下に出る。早朝と言う事もあって辺りに人影はない。それにホッとする。
今は誰とも顔を合わせたくなかった。

それに気付いたのは教室にいつものメンバーが集まってからだった。
おっとりと話す七海の周りにはいつも人影が絶えない。本人にその自覚はないのだろうが、相手を和ませる雰囲気を持っている。七海と仲のいい渋谷は反対にハキハキしていて物怖じしない。だから気が合うのだろう。二人が仲良く登校して来たのを皮切りに一十木がやって来て、四ノ宮がその輪に加わる。
楽しそうにお喋りしているのをボンヤリ眺めていると、意外に目敏い七海が俺に声を掛けて来る。
「聖川さま、具合悪いんですか?」
え、と思う。
身体はどこも痛くないし、気分だって今朝の夢からかなり回復していると思っていたからだ。
怪訝な顔をする俺を見て七海が心配そうに首を傾げる。
「お顔の色が少し、」
そうだろうか。自分ではいつもと変わらないつもりだったが、七海がそう言うのならそうなのかも知れない。
そのやり取りを聞きとめたのか渋谷までもが俺を見つめて来る。
「本当、酷い顔色だよ。大丈夫?」
ズバリと言われて苦笑してしまう。こんな風に言われても腹が立たないのは渋谷が心配してくれてると分かるからだ。
「少し休んだ方がいいよ、マサ」
「そうですよ、先生には言って置きますから」
一十木と四ノ宮にまでそう言われて、大丈夫だと答えようとする。だが、答えられなかった。
口はその言葉の形に動いているのだが、声が出ないのだ。
「聖川さま……?」
七海が不思議そうに俺を見つめる。その視線に焦りすら覚えて、何とか声を出そうと口を動かす。だが出ない。
「ちょっと、本当に大丈夫?」
渋谷に肩を掴まれ、その拍子にクラっと目眩を覚える。視界がグルグルと回り、立っている事さえ出来ない。
「真斗くん!」
四ノ宮が大声で俺を呼ぶ。だが、それを最後に俺の意識は途絶えてしまう。
次に気が付いたのは病室だった。
枕元に担任の教師が座り込み、心配そうに俺の顔を覗き込んでいた。
彼女の説明によると、俺が教室で倒れたあとすぐにやって来たらしい。教室中が大騒ぎになっているのを見て何事かと慌てたが、すぐに救急車を呼んで病院まで付き添ってくれたのだと言う。
起き上がろうとするが、軽く押止められ「何があったの?」と目を覗き込んで来る。
その質問に答えようとするのだが、先ほどと同じく虚しく口をパクパクさせるだけで声は出なかった。
「声が出ないのね?」
その言葉に頷き返す。すると、何かを考え込むように腕を組んで黙り込んでしまう。
やがて顔を上げると、「詳しい検査をして貰いましょう」と宣言する。
「何が原因なのか分からないけど、そのままって訳には行かないでしょ?」
そう言ってパチンと片目を瞑ってみせる。
「大丈夫よ、心配しないで」
明るい人で良かった。フワンと笑う月宮先生にホッとする。
下手に同情されるより励まして貰えた方が助かる。この人がそう言うのならきっと大丈夫なのだろう。そう思えるからだ。
「あんまり気にしちゃダメだからねー」
そう言って手を振り帰って行く先生をベッドから見送る。
大丈夫だ。原因が分かればすぐに良くなる。
きっと七海は自分の事のように心配しているだろう。学園に戻ったら謝らなければならないな。
そんな事を思いながら目を閉じ、眠りにおちる。そして今朝と同じ夢を見た。

様々な検査を受け、下された診断は「心因性によるもの」という何とも雲を掴むようなものだった。
だからと言って医者に文句を言う訳にも行かない。何故なら俺の身体にはどこも不調がなかったのだ。苦し紛れの言い訳のように聞こえたが、案外それが事実なのだろう。
生活環境が変わり、それがストレスとなっているのかも知れない。だとしたら俺に出来る事は一つだけだ。
学園を去る。
声が出ない以上、居残ったとしても俺には出来る事は何ない。志し半ばで帰るのは悔やまれるが、他にどうしようもなかった。
事前に伝えてあったので退院したその足で寮に戻り、荷物を纏める。
この時間はまだ授業があるので部屋に神宮寺の姿はない。もう二度と会う事はないのかも知れない。そう思うと、書き置きの一つでも残してやりたくなるが、神宮寺の事だ、読みもしないで丸めてしまうかも知れない。
溜め息をついて纏めた荷物を手に取る。
僅かな間しかいなかったが、俺にはここが居心地良かった。そう思う。
生まれて始めて自分の意思で選んだ道なのだ。本当はもっとここにいて、色んな事を学びたかった。しかし声が出ない以上、俺がここで学べる事は何もないのだ。
後ろ髪を引かれる思いで寮を後にして聖川の家へ戻った俺を待っていたのは父の冷たい眼差しだった。
無理もない。
反対を押し切って早乙女学園に行ったのだ。それなのに途中で帰って来たのだから、父の目にはさぞや不甲斐なく映っている事だろう。
入院させられ、検査を受ける日々が続いた。
早乙女学園を去った時に俺の中で何かが消えてなくなっていたので、特に抗う事はせず父の言葉に従った。そんな事を一年近く続け、漸く父は俺の声が出ないと諦めたようだった。
家に戻され、告げられたのは聖川の別宅に行くように。ただ一言だった。
何代か前に芸者を囲っていたらしい。昔の事なので詳しくは知らないが、家を買い与えてあったと言うのだけは知っていた。だが、その妾宅が今も残ってるとは思わなかった。
使い物にならない息子を閉じ込めて置くのに丁度いいと言う事なのだろう。
一種の軟禁だと言うのに、俺はどこか他人事のように従った。どうでも良かったのだ。
自分の将来に何も希望を持てなくなっていた。
声が出ない原因に心当たりは全くなかったが、誰かの所為にする訳にも行かないだろう。どう考えても俺が悪い。父の反対を押し切って学園に行った事、そこで声が出なくなった事。全ては俺自身に原因がある。
小さい頃から面倒を見てくれた爺が付いて来ると言い張ったが、何とかそれを押しとどめた。まだ幼い真衣の傍にいて欲しかったからだ。ならばと数人の使用人を付けられる所だったが、それも固辞した。
声が出ないだけで他の事は出来るのだ。自分の事ぐらい自分でしたかった。
煩雑なやり取りを経て、食事の世話をする家政婦が通いで来る事になった。
始めて足を踏み入れる聖川の別邸は古い日本家屋だった。今どきにしては珍しい平屋建てで、庭に向かって縁側がある。荷物を解くのを後回しにして、縁側に座る。
これからどうなるのだろう。
不安がないと言えば嘘になる。恐らく成人までは面倒を見て貰えるだろう。幾ら使い物にならなくなったからと言って、ここで放り出してしまっては世間体が悪い。それに父が俺をあっさり見捨てるとも思えなかった。成人するまでの数年で治れば、素知らぬ顔で再び聖川の嫡男として扱うつもりだろう。
だが、治らなかったら。
その時はどこか病院にでも押し込めて、他に後継者を見つけて来るに違いない。何しろ紙切れ一枚に息子の人生を書き留めて置くような人なのだ。親子の情など期待する事は出来ない。
暗澹たる思いで庭を眺める。
掃除だけはしてくれたらしく、庭もそれなりに手入れがされている。
大人の目線近くまである生け垣に囲われ、草で覆われた小さな花壇と一つだけ木が植えてある。何の木だろうかと気紛れを起こし、揃えてあるサンダルに足を通して近づいてみる。
草で気付かなかったが、木のすぐ傍に池があった。
長らく陽が射していなかったのか、水が淀んでいて底が見えない。二畳ほどの小さな池だと言うのに、その所為なのか少し気味が悪い。
目を逸らすと同時に玄関の引き戸が開く音がする。通いの家政婦が来たのだろうか。
約束では明日からとなっていたが、様子を見に来る事はあり得るだろう。そのまま庭を回って玄関に向かおうとするが、それより早く訪問者が縁側に姿をあらわす。
細身のスーツと肩に掛かる長髪。神宮寺だった。
俺を見て神宮寺は足を止める。ネクタイは締めておらず、襟元のボタンを二つほど開けている。久しぶりに目にするその姿に懐かしいと思う反面、だらしないと顔を顰めてしまう。
だが、それを言うのはお門違いもいい所だったし、そもそも今の俺には声が出せない。小言の代わりに目を逸らし、気味が悪いと思った池を意味もなく見つめる。
そんな態度を取ってしまったのは、その直前、神宮寺がニヤリと意地の悪い笑みを浮かべたのを見た所為かも知れない。
何しに来た。
そう問い掛けたいところだが、それも出来ない。その時になって漸く俺は声が出ない不便さを思い知る。
これまでは筆談で何とかなっていたのだ。そもそも父と話す時に俺が口を開く事は滅多にない。ただ「はい」と「いいえ」を繰り返すだけなのだから頭を動かすだけで事は足りた。
病院で月宮先生にしたように目を見つめれば多少の意思の疎通は可能だろう。だが、俺は神宮寺から目を逸らしてしまっている。今更どうしろと言うのだ。
軽い苛立ちを覚えて立ち去ろうとする。だが、庭から出るには玄関に回るか、神宮寺のいる縁側に向かわなくてはならない。進退窮まり、仕方なく縁側へと視線を戻す。
神宮寺は変わらず立ち尽くしていた。俺が振り向いたのを知って、心なしか少しホッとしようだ。おかしな奴だ。いや、そうではなく。どうして神宮寺がここにいるのだ。
咎めるように見つめると、短く溜め息をついて神宮寺がその場で胡座を掻く。
「報告をしようと思ってね、」
報告。何の報告だ。
俺が聖川という財閥の嫡男であるのと同じように、神宮寺は財閥の三男として生まれた。それが神宮寺のコンプレックスの元らしいとは分かっていたが、俺にはどうする事も出来ない。それを受け入れるか拒否するか、本人にしか決められないのだ。
ただ同じ財閥と言う事で少しは互いの家の事情は分かっている。それでも神宮寺から俺に報告するような事柄に心当たりはない。
怪訝な顔をする俺から目を逸らし、自分の膝の辺りに視線を落とした神宮寺がポツンと呟く。
「真衣ちゃんと婚約したよ」
その言葉に眉が寄ってしまう。
まさか父がこんなに早く動くとは思っていなかったのだ。だが、早晩こうなるだろう事は想像していた。
長男として育てた俺が駄目になったのだから、真衣に婿を取るしかないだろう。家柄を思えば神宮寺ほど丁度いい相手はいない。だが、真衣はまだ小学生なのだ。幾ら何でも早過ぎる。
それに神宮寺は学園を卒業してからアイドルとして活動している筈。結婚は間違いなくスキャンダルだ。事務所がそれを許すとは到底思えない。
そんな俺の考えをさとったのか、神宮寺が苦笑のような物を口元に滲ませる。
「今のところは身内だけしか知らないよ。でも、徐々にアイドルは辞めされられるみたい」
眉を下げてそう笑う。
何故だ。
お前はいつもそうだ。
大した苦労もせずに全てを手に入れ、それを手放す時さえ惜しいとは思わない。自分がどれだけ才能に恵まれているかなんて少しも分かっていない。だから、そうやって少し困ったようなポーズを取るだけですぐに手放してしまえるんだ。
衝動的な怒りを覚えるが、何とかそれをやり過ごす。
声が出なくて良かったと思う。
声を出せたらきっと怒鳴りつけていた。いや、そうではなく。
おめでとう、と言うべき場面だったからだ。その両方を回避出来てホッとする。
目を合わせないままサンダルを脱ぎ、神宮寺の脇を通って部屋へと向かう。
ここに来たのは今日は始めてなのだ。突然の来訪を歓待する用意などある筈もない。さっさと荷物を解いてしまわなければ。

エゴイズム2(レンマサ)

家具は一式揃っている筈だった。だから俺が持って来たのは身の回りの細々とした物だけ。それでも自分一人では運びきれず、午後には業者が来る筈だった。
手始めに家の窓を全て開けようと思う。幾ら掃除がされてると言っても、空気が籠っているような気がする。
縁側にある窓を順に開けていると、神宮寺が「本当に声出ないの?」と無神経極まりない質問を投げかけて来る。それに冷たい一瞥を浴びせ、更に窓を開ける。それから台所に回り、そこの窓も開る。
しかし伸ばして手首を後ろから掴まれ、動きを止めてしまう。
足音がしなかったので気付かなかったが、いつの間にか神宮寺が後ろに立っていた。
「ねぇ、何で俺がここに来たのか気にならない訳?」
ご婦人を惑わす声が俺の耳元で内緒話でもするように甘く囁いて来る。その手を振り払い、僅かに距離を開ける。
何でと言われても、先ほど自分で言ったではないか。真衣と婚約した事を知らせに来たのだろうが。
そう言ってやりたいのだが、静かに見つめ返すにとどめる。すると、神宮寺が呆れたとでも言うように軽く肩を竦める。
「じゃ、質問を変えようか。どうやってこの家に入ったと思う?」
言われてみれば確かに不思議だった。
俺はこの家に来て鍵を使って玄関を開けた。そして、これまで空き家だったのと今日は自分だけなのだからと、内から施錠をしたのだった。ならば、神宮寺はどうやって入ったのだ。
怪訝に思う俺の目の前に神宮寺が「これ」と言って手を上げる。そこに握られているのは俺が持っているのと同じ鍵だった。
「聖川の家で貰って来たんだ」
どうして。
神宮寺がそれを欲する理由も、また父がそれを神宮寺に渡す理由も、全くもって見当が付かない。表情を変えずにジッと見つめると、神宮寺が口元にクスッと冷ややかな笑みを滲ませる。
「真衣ちゃんと婚約する事で神宮寺の家は聖川との太いパイプを得ただろうさ、でも俺は?あんなに苦労してなったアイドルを引退させられて、右も左も分からないまま企業のトップに立つ羽目になったんだよ。こんなに頑張ってるんだから少しぐらい見返りがあってもいいと思わない?」
何を言おうとしているのか分からない。確かに、三男である神宮寺が家を継ぐ事を前提に勉強していたとは思えない。事実、神宮寺の家は長兄の誠一郎が跡を継いだ筈だった。ならば、その言葉の通り今回の件は神宮寺にとってとばっちりだったと言えるのかも知れない。
だが、俺に言わせて貰うなら神宮寺はアイドルになる為に苦労なんてしていない。学園にいた頃、周りの生徒達は大変な努力をしていた。暢気そうに見える一十時ですら、試験の前には練習していたのだ。それなのに神宮寺は練習はおろか試験そのものをすっぽかそうとした。何とか周囲が宥め賺して試験を受けさせた結果、アッサリと合格。そんな奴が軽々しく『苦労』なんて言うべきではない。
非難を込めた目で見つめると、フッと神宮寺が視線を緩める。その表情が不自然なほど優しげに見えて、束の間、幼い頃の思い出に浸ってしまう。そんな俺の耳に唇を寄せ、神宮寺が掠れた声で囁く。
「俺が貰った見返りはお前だよ、聖川」
何を言われたのか分からずキョトンとする。
俺が……神宮寺が真衣と結婚する事に対する見返りとは、どういう意味なのだろう。
考え込んだ一瞬の隙を突いて、神宮寺が俺の手首を再び掴む。そのまま引き寄せられ、顎を捕らえられる。
何をする。
そう思った時には既に手遅れだった。濡れた軽い音をさせて神宮寺が離れる。
その間、俺はポカンと目を丸くするしかなかった。何をされたのか分からないほど子供な訳ではない。だが、どうして神宮寺にそんな事をされるのか。考えが追いつかず硬直していた。
「抵抗しないならもっとするよ?」
悪戯っぽいその声にハッとして神宮寺を突き飛ばす。理由なんかどうでもいい。この獣のような男から離れなくては。
だいたいからして神宮寺なら相手は選り取りみどりの筈だ。学園にいた時から恋愛禁止の校則を無視して、女性と見れば口説きまくっていたのだから。
すると俺の考えを読んだように神宮寺が口を開く。
「聖川家のご令嬢と結婚するんだからスキャンダルはアイドル以上に御法度っていうわけ。だからお前で我慢してやるよ」
何だ、それは。
頭に血がのぼって冷静ではいられない。力の限り神宮寺を押しやり台所を後にする。顔も見たくない。こんな奴が真衣の婚約者だなんて許せない。
明るい縁側に移動して家に抗議しようと電話を取り出すが、声が出ない事を思い出す。暫く家の電話番号を虚しく見つめ、そっと切る。第一、抗議したところで無駄だろう。
父はこうと決めた事は誰が何と言ってもやり通す。その父が神宮寺の要求を飲んだのだ。証拠はこの家の鍵だ。俺は父の決定に従うしかない。
家を出るという選択肢もある。だが、俺には無理だろう。
何だかんだ言ったところで俺はこれまで聖川の家に生かして貰っていたのだ。家を出てから行く宛などなかったし、そうなれば野垂れ死にするしかないだろう。
そうは言っても悔しさだけは押さえきれない。父にとって俺は後継者としての駒でしかなく、心配など掛けてやる値打ちもなくなたと言うのが、心底悔しかった。
様々な考えが一気に押し寄せ、呆然とする。崩れるようにして座り込むと、目に映る庭が僅かにぼやける。
こんな時ですら嗚咽の一つも出ないのか。そう思うと、悔しさにも増して虚しさに襲われる。
泣き出すでもなく、ただ庭を見つめる。すると、後ろから肩を叩かれビクッと震えてしまう。
「用が出来たからまた今度な」
振り向こうとしない俺の頭をポンポンと軽く叩いて神宮寺は玄関へと向かう。こんなにも俺の心を乱して置いて何事もなかったかのように立ち去る神宮寺が少し憎くなる。だが、それをぶつけるのは間違っているのだろう。俺の怒りの矛先は父であって、更には父の期待に応えられない俺自身にあるべきなのだ。

エゴイズム3(レンマサ)

それから一週間は何事もなく過ぎた。
通いで来てくれている家政婦は事情を聞かされているのか、俺に話しかける事を殆どしない。年齢は四十代半ばと言ったところだろう。料理をして掃除をして、そんなにない洗濯物をすると会釈を残して帰ってしまう。それでもテーブルの上に冷蔵庫に何があるかキチンとメモしてあるので困る事はなかった。
昼食を済ませ使った食器を洗うと、途端にする事が何もなくなってしまう。
どうしたものかと椅子に腰掛けてボンヤリとする。
考えようとしなくても考えてしまうのは、あのまま学園に残っていたらどうなっていただろうと言う事だ。
アイドルになると言うのはそう簡単に出来る事ではない。だから、きっと苦労しただろう。納得の行かない事だってやらされたかも知れない。だが、学園で知り合ったのは気持ちのいい連中ばかりだった。苦労しながらも一緒に成長出来た筈だ。ライバルであったが、仲間でもあったのだ。
無事アイドルになり、映画やテレビに出演し、俺は自分の思った人生を歩む。だが、それは期限付きの自由なのだ。
暫くしたら父の跡を継ぎ、結婚する。
どちらにしろ、俺に自由などない。だから声が出なくなって良かったのかも知れない。そんな後ろ向きな事を考えてしまう。
このままでいい筈などないのに、どうすればいいのか分からない。いや、そうではない。
自分がどうしたいのか分からない。
溜め息をつくと同時に表から車の音が聞こえる。トラックのようだ。
怪訝に思いながら玄関に向かうと、そこには作業服姿の業者がおり、ピアノを届けに来たと言う。
訳が分からずキョトンとするが、そんな俺に構わず作業服姿の男達がピアノを運び込む。アッと言う間に設置を済ませると「毎度、」と言い残して立ち去って行く。
残されたのは俺とピアノだけだった。
取りあえず一番広い部屋にと思って庭の見える和室に運んで貰った。防音の為なのか、畳に絨毯が敷かれており、その上にピアノが鎮座している。
艶のある黒い蓋を開け、椅子を引き、その前に腰を降ろす。
鍵盤に指を乗せると、勝手に動き出す。ショパンのエチュードだ。
爺はピアノ教師としては少し厳しく、俺の手がまだ小さいと言うのにこの曲を練習させた。間違えると最初から、何度も何度も。その甲斐あって、指が覚えていたらしい。
夢中になって思いつくまま次から次へと弾いて行く。
黒鍵のエチュードを弾き終えると、後ろから拍手が聞こえる。それにギョッとして振り返る。
いつの間に来たのか、すぐ後ろに神宮寺が立っていた。
スーツにネクタイ、だが、サラリーマンが着るようなデザインの物ではない。恐らく全て有名なブランド品なのだろう。ジャケットのボタンは閉めておらず、ネクタイに至っては首に掛かっていると言うだけで結ばれてもいない。
人を食ったような、意地悪な笑みを浮かべるその顔を睨みつける。
勝手に上がり込んで来た無礼もさる事ながら、どうやって玄関を開けたのだろうかと不思議に思う。神宮寺が帰ってからすぐに俺は鍵を付け替えたのだ。
俺が睨みつける中、神宮寺は傍の椅子から袋を取り上げる。
「楽譜も持って来たけど、いらないようだな」
そう苦笑混じりに呟くので、思わず手を出してしまう。
久しぶりにピアノを弾いて気分が高揚していたのかも知れない。声が出ない俺にとってピアノの音は唯一の『声』だったのだ。
俺が出した手をマジマジと見下ろし、神宮寺がニヤリと笑う。
「それなりの見返りを期待するけど、いいの?」
見返り?
何の事だか分からずに神宮寺を見上げる。
見つめる中、神宮寺は襟に掛けただけのネクタイを外し、それを俺の手首に巻き付ける。
ハッとして振りほどこうとするが手遅れだった。鮮やかとも言える手つきで俺の両手を封じると、神宮寺がそのまま身体を近づけて来る。
「忘れたの、お前は俺に差し出された生け贄も同然なんだよ?」
耳元でそう囁かれ、金縛りにでも遭ったかのように身体が硬直してしまう。
神宮寺の思惑に気付き、恐怖したのだ。
この男は真衣と結婚する代わりに俺を父から貰い受けたと言っていた。
神宮寺にとって俺は、そのコンプレックスを刺激するだけの存在なのだ。自分が欲しがってる物を易々と手に入れ、涼しい顔をしている。事実がどうであれ、神宮寺は俺の事をそう思っていただろう。そして立場が逆転した事も。
これまで自分が舐めて来た屈辱を俺に味あわせようと言うのだ、神宮寺は。
何の役にも立たない俺を貰い受けたのはその為だ。
怯える俺を見て、神宮寺が微かに苛立ちの表情を浮かべる。掘りの深い顔立ちの眉間に僅かに皺が寄っている。
その苛立ちをぶつけるように、俺を突き飛ばす。
両手の自由がきかないので無様に転がり、その痛みに顔を歪める。
今の俺は神宮寺の目にはさぞ滑稽に映っている事だろう。これまで俺は神宮寺に対して散々偉そうな事を言って来た。家など関係ない。そう言う度に神宮寺は「お前には分からないよ」と顔を背けていたが、今度は俺が顔を背ける番だった。
結局、関係ないと言いながら俺も家に縛られているのだから。
神宮寺に軽蔑の目で見られるのは耐えられない。歯を食いしばって横を向く。
神宮寺の手が伸びて来て、俺のベルトを外しシャツの裾を引っ張り出す。そこまで来て何をされようと言うのか漸く気付き、ギョッとする。
恐怖のままに縛られた手を振り回すと、ピアノの椅子を持ち上げネクタイをそこに渡す。そこそこに重量がある上に、無理に動かしたら顔面に落ちて来るだろう。それでも俺は抵抗を諦めきれず足をばたつかせる。
男同士でも行為に及ぶ事が出来るのは知っている。だが、何故だ。どうして神宮寺はこんな事をするんだ。
ボタンを全て外され、神宮寺の吐息が首筋を掠める。拒否する為に顔を思い切り背けると、首を痛いぐらいに噛まれてしまう。
ビクッと身体が跳ねる。
助けを求めようにも声は出ない。だいたいからして誰に助けを求めたらいいのかも分からない。
放心してしまい、身体が弛緩する。その隙をつくように神宮寺の手が俺の膝裏を撫でるので、目をギュッと閉じる。途端、目尻から涙が零れてしまう。
怖いのか悔しいのか自分でも分からない。混乱して自分の感情すらよく分からなくなっていたのだ。
横を向いたまま泣く俺の姿に罪悪感でも覚えたのか、神宮寺が音もなく起き上がり距離を開ける。それにホッとして目を開けると、神宮寺の横顔が何故か辛そうに見えて更に困惑する。親とはぐれた迷子のように唇を噛み締めている。
どうして貴様が辛そうな顔をするんだ。
そう問い掛けたいのに依然として俺の声は出ないままだ。身を捩り、何とかネクタイをほどいて起き上がる。その気配が伝わったのか、神宮寺が逃げ出そうとするので、咄嗟に肘を掴んで引き止める。
ポカンとした顔をする神宮寺に俺自身もポカンとしていた。
引き止めてどうしようと思った訳ではない。どちらかと言えば神宮寺がどこかに行ってくれた方が俺としては助かる。それなのに掴んでしまった。
ジッと俺を見つめていた神宮寺の目が不意にフワッと細くなる。どうやら苦笑しているらしい。困ったような呆れたような、そんな笑みだ。
それを見つめる内に先ほどの恐怖も怒りも忘れて神宮寺の肘を離し、力なく笑い出してしまう。

二次創作取り扱いについて

某所で書いてた物を主に持って来ました。
書いてからかなり間が空いてしまったので、自己満足の為にこちらで続きを書きます。
予定としては今のところ、うたプリ(CP:レンマサ)のみです。アニメとゲームの設定がごちゃ混ぜになってるかと思いますが、何となくって感じなのでスルーしてやって下さい。
自己満足上等で書いてるので苦情は黙殺します。

ランキングについては後日考えます。
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。