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トランプ兵の反乱8

「綿井ク~ン」
語尾を鼻に掛けた甘い声で春日さんがいう。
否。
それは好意を持っているようなモノではなくて。何と言うか。
「何だよ、何企んでやがるっ」
言われた本人にも分かってしまうくらい、下心アリアリの声だった。
「何ってぇ、そんな警戒しないでよぉん」
春日さんの顔を見て大きく溜息をつくと綿井さんが前髪に手を当てる。
「いいか、春日。俺はお前の本性を知ってんだ。今更、そんな声しても顔されても騙されないって-の」
「えへっ」
両手を口に当ててカワイ子ブッた笑顔を浮かべる。
「別に騙そうとしてるんじゃないもん。ただ、ちょっとお願いがあるだけだもん」
「それを下心って言うんじゃねぇのか?」
「へぇ、折角アリスとのデートをセッティングしてあげようと思ってるのにぃ」
「なっ!」
春日さんの陰に隠れていた僕までもが驚きの声を上げてしまう。
「何だよ、マジで?!」
「そんな事は聞いてません!」
内容は違うがほぼ同時に春日さんに詰め寄ってしまう。
「お、君塚。今日もカワイイな~」
こんな時でも僕をからかうのを忘れない綿井さんってある意味、凄いのかも。
「但しぃ、お願いを聞いてくれたらね」
「何でもしてやるぞ」
やる気満々になってるし、綿井さん。
「ん~とね、今日から暫くの間、アリスと一緒に帰って欲しいナリね」
「何でっ!」
つい春日さんを怒鳴ってしまう。
後日の約束なんてどうにでもできる。ドタキャンだろうが何だろうがやってやる。
だけど、今日の約束じゃ逃げる時間がない。
どう考えても春日さんは僕が綿井さんを苦手に思っているのは知っている筈だからだ。 ただの嫌がらせなのか?
しかも『アリス』だ。
「待ち合わせは閉門間際」
春日さんの言葉に通り魔の事を思い出す。
昨日、春日さんはその時間に学校を出て襲われたのだ。
でも。
「昨日、失敗したのに今日も来るんですか?」
僕の質問に春日さんは人を食った笑みを浮かべる。
「今日、来なくても来るまで続ければいいだけじゃ~ん」
悪魔だ、この人。
そして何の根拠のないまま、囮作戦三日目。
どこから調達して来たのか、サイズピッタリの女子標準服を着込んで今日も閉門間際まで学校にいる。
「ヨシ、そんじゃぁ真澄ちゃん」
春日さんがどうしてだか、嬉しそうに言う。
「今日も可愛いよぉう。頑張ってね~」
ユノさんの呑気な声に送られて校門に行く。
綿井さんが「よっ」と手を上げるのに小さく頭を下げて門を潜る。
ハッキリ言ってこんな計画、乗り気ではない。
女装すんのもいい加減、慣れて来た(それも困る)からこの際、構わないと言えない事もない。
ただ、春日さんが何も教えてくれないのが不満だった。
春日さんには通り魔の見当が付いているようなのだ。そして襲われる条件も。
僕に分かっているのは春日さんが全部お見通しって事だけで、それだってもしかしたら当てずっぽうなのかも知れないのだ。
だからその根拠を教えて貰えれば僕だってもう少し納得したと思う。
考え事に夢中になってどうやらかなり速度が上がっていたようだ。
問題の路地に差し掛かり、ほんの少し不安になって振り返ってみる。
後ろにいる筈の綿井さんの姿は見えない。
どうしようか。
綿井さんが来るまで待った方がいいのかな。
でも、こんな何もない所で立ち止まっていたら不自然だし。
春日さんの口ぶりからすると、通り魔は被害者の女の子の後をつけてたみたいだし。
だったら普通に歩いて行かなくちゃいけないんだろうな。
できるだけゆっくり歩いていると、ポケットに入れた携帯電話が振動する。
「も、」
「どこだ?!」
応答しようとしたら、先にアチラが問い掛けて来る。
綿井さんだ。
「え?どこって…、駅に向かう途中ですけど」
戸惑った声で返事をする。
「途中のどこなんだ?」
何だか焦燥した声。慌てている?
「どこって、…もしかして後ろにいないんですか?」
不安と驚きで後ろを振り返ろうとしたのと同時に気配を感じた。
「悪ぃ、今直ぐ追い付くからそこで待ってく、」
綿井さんの声が途中までしか聞こえない。
突然、物陰から現れた人物に首を絞められたのだ。
咄嗟に犯人の手にした紐状なモノの内側に手を入れ、何とか食い止めるが力の差があり過ぎて余り意味がない。
僕の指毎、紐が首に食い込んで来る。
結構、って言うか…かなり苦しいかも。
足がもつれて倒れても犯人は僕の上に乗って本格的に首を絞めて来る。
気絶しちゃいたいけど、そのまま死んでしまうのは厭だ~。
そんなしょうもない事を思っていると軽い衝撃に続いて突然、呼吸が楽になる。
何とか起き上がり軽く咳き込んでみる。
「大丈夫か?!」
綿井さんがそんな僕を立たせてくれる。
ああ、犯人に飛び掛かったのか。
「これが…大丈夫なら大抵の…事は大丈夫だと、思いますよ」
僕の言葉にシュンと綿井さんが項垂れる。
「悪ぃ、ごめんな。俺の所為で」
「本当に」
そう言ったのは僕ではなくて、冷たく低い女性の声。
二人で揃って声のした方を振り向くと、そこには仁王立ちした春日さんがいた。
「私は何て言った?アリスから目を離すな、と言わなかったか?」
春日さんの言葉に綿井さんが増々、肩を落とす。
「綿井が絶対にアリスを守るって言うからできるだけ関わる人数を減らしたんだ。なのに、このザマか。こんな事なら五十嵐に頼むんだったよ」
そう言えば、今回に限って五十嵐さんは一枚噛んでいなかった。
いつもは呼ばなくても来るのに、どうしたんだろう?
そんな事をぼんやり考えていると春日さんが路地の反対側で倒れたままの犯人に近寄る。
「どうして罠に掛かったりなどしたんだ」
さっきとは違う、どこか遣る瀬ない感じの怒った声で犯人に問いかける。
「始めから君を捕まえる為の罠だと分かっていたのだろう?」
春日さんは怒りのままに犯人の肩を掴み無理矢理その顔を僕に向ける。
「そのタイは借り物なんだ。返して貰えないかな、服部君」
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