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七転八倒(レンマサ)

どうせいないだろうと思ってドアを開け途端、予想に反して同室者の姿を見てしまう。
ただいまと言えば良かったかなとは思ったけど、互いに犬猿の仲なのだ。挨拶ぐらい構わないだろう。
聖川も同じ事を思ったのか、小さく「お帰り」と呟いて手元に目を落とす。どうやらお勉強中だったらしい。教室でやってくればいいものを。
やれやれと肩を竦めて、自分のソファに腰を降ろす。
いつもならまっすぐ部屋に帰ったりはしない。レディたちと戯れ、ひとときを楽しむ。恋愛が御法度なのは全員が承知している。だから、それはただのゲーム。息をするように甘い言葉を囁き、気が向けば肌を重ねる。それだけだ。
首に巻いていたタイを外して、天井を見上げる。
ちょっと疲れてるのかも知れないな。
そんな事を考えながら視線を戻し、机に齧りつく聖川を見つめる。
斜め後ろにいるオレからは聖川の顔が半分しか見えない。透き通るような白い頬、伏せられた睫毛の下にある特徴的な泣き黒子。何か呟いているのか時々動く赤い唇。
「っ、」
自分の思考にビックリして息を飲む。
何で聖川の顔なんかマジマジ見つめてんの。ヤバいでしょ。
幸いな事にこちらの様子は気付かれていないらしい。ペンを持ち替えてサラサラと何やら書いている。何か課題でも出たのかな。
ピンと伸びた背筋、浴衣の襟から覗く白いうなじ。
ドキッとする。ってか、ムラッとした。
え、何で。うんざりするほど見慣れてる筈だろ。今更、聖川を見てドキドキする意味が分からない。
って言うか、何で私服が浴衣なの?
ここは温泉ですか、お前は湯治客かっての。
そんな風に思うけど、やっぱり綺麗な物は綺麗だ。
正直言って化粧していない分、学園にいるレディたちより綺麗だと思う。でも、その綺麗さはレディたちのような柔らかいものと違って、研ぎすました刃物のようだとも思う。近づいたら斬って捨てられそうな感じがする。ちっちゃい時は可愛かったのに。
そう言えば昔は真斗って呼んでたっけ。
何も知らないで、ただ大人たちの中にいた自分と同じぐらいの子供を見つけた嬉しさに声を掛けて連れ出した。真斗も同じ気持ちだったのか、ホワホワと笑いながら手を繋いでたっけ。そのちっちゃい手が可愛くて、ずっと離したくなかったな。
ヤベぇ、可愛い。
思い出に浸って口元が弛んでいたのか、振り返った聖川が怪訝そうに顔を顰めている。
「何なんだ、ニマニマして気味の悪い」
いつもならそんな事言われたらムッとするけど、今は思い出の方が勝っている。
見る度に腹の立つ顔だと思ってたけど、当然と言えば当然なんだけど、よくよく見てみれば、あのちっちゃな真斗の面影があるし。あ、ダメだ。本気でヤバいわ。
「お願いがあるんだけど、いいかな」
目を細めてそう切り出せば、聖川が不可解そうに眉を寄せる。そんな顔されても可愛いとしか思えないのは、きっと疲れているからだ。
「何だ、改まって」
こっちに向かって座り直す。そういう所に育ちの良さが出てるよね、お前は。
「……お兄ちゃんって呼んでみて?」
そう言った途端、不可解通り越してゴミを見るような目になった。何でそんな顔するかな?
首を傾げて見つめると、それに耐えられなかったのか聖川が目を伏せる。
何だか葛藤してるみたいで可愛い。何と葛藤しているんだろ。嫌悪かな、屈辱かな。
そう思ったら、さっきのドキッがムラッとに変わった。
無理矢理でもいいから押し倒して泣かせたい。嫌がる身体を無理に開いて自分の物にしたい。
そういう趣味はないと思ってたけど、聖川相手ならアリだわ。多分。
ああ、でもやっぱり可愛く甘えられるのがイイかも。
昔みたいに心を許し切った笑顔で『お兄ちゃん』とか呼ばれたら萌え転がって何でも買ってあげちゃうね、きっと。
でも、聖川は絶対に言わない。
聖川を突き放したオレを許してはくれないから。
だから見つめ続けるのは、不意に沸いた欲望の所為だ。いつものように素っ気なく無視されておしまい。そんなのは分かっている。
ふぅ、と息をついて聖川が目を上げる。
キツい事を言われると身構えるが、オレを見るその目は記憶と同じく砂糖菓子のように甘ったるい。
え、まさか……あり得ないでしょ、ねぇ……?
ソワソワするオレを見据えて、大きくなった真斗が口の中で転がすように呟く。
「お兄ちゃん……?」
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