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せみしぐれ2

 横を向いてニヤニヤしていると、廊下からドアがノックされる。
 それに動いたのは聖川の方が早かった。

 「はい、分かりました」
 スタッフと言葉を交わして、ドアを閉めるとこちらを見る。
 「食事だそうだ、どうする」

 本当ならもう少し眠っていたい所だったけど、何事も第一印象が大事だ。
 仕方なく起き上がって乱れた髪を指で整える。
 俺より先に来ていた聖川は別荘内に詳しいらしく、「こっちだ」と言って歩き出す。
 その背中を追いながら、何となく話しかけてみる。

 「主役のレディとはもう会った?」
 「ああ、先ほど一緒になった」

 ふぅん。もう会ったんだ、相手役に。
 俺もそうだけど、女優だって所詮は聖川の引き立て役。だからなのかどうか、無名の新人。
 ここに来る途中、車の中でプロフィールは見たけど如何にも清純派って感じの美少女だったね。
 どんなレディとだって仲良くなりたいと思うけど、その子をどうこうしようとは思わない。
 だってそんな事したら聖川は俺を軽蔑するだろうし、ドラマ以外でも修羅場なんてゴメンだからね。
 ただ、何となくだけど俺より先に会ったと言うのが面白くない。
 「可愛かった?」

 意地悪したくてそう問い掛けるが、聖川は考える素振りさえ見せず「普通だろう」と言う。
 こいつは人の美醜に余りこだわらない。自分はそんなお綺麗な顔をしている癖に、いや、だからなのかな。
 相手がどんな美人でも気にしないし、その反対でも同じ。誰に対しても公平に優しい。

 「ただ、」

 それなのに歯切れ悪く言葉を飲み込むので、気になって「何?」と問い返す。

 「少し厄介な性格かも知れないな」
 そんな事を言うなんて珍しい。聖川は外見に惑わされない分だけ、相手の人柄を知るまでは批評めいた事を口にしない。
 まさか俺がいなかった半日で女優とそこまで親しくなったとも思えないし、何かあったのかな。

 「どうして?」
 「いや……何でもない」

 言ってしまった事を後悔するようにユルく頭を振る。
 これは絶対に何かあったな。何だろう、俺のいない間、近所を散歩してた時に何があったんだろう。
 モヤモヤと考え事をしながら歩いている内に食堂に到着する。
 俺たち以外は既に揃っていたらしく、全員の目がこちらを向く。それに軽く会釈して空いている席に着く。
 グルリと見渡してみると、他の仕事で何度か会った事のあるスタッフもいたりして、少しだけ肩の強張りが解ける気がした。
 そちらに改めて会釈して、ふと正面の暖炉に人形が飾られてるのが目に入る。
 日本人形なのだろうか、和服姿で足を投げ出して座っている。
 身に付けた赤い着物は所々汚れているから相当古い物なのだろうと分かる。
 その顔を見てギクッとする。

 やけにリアルなのだ。暖炉の上に座っているぐらいだし人形なのだから子供が抱けるぐらいの大きさなのだろうと思う。だが、それを無視すればまるで生きているように精巧な顔の造りだった。
 俺の視線を辿ったのか、向かいに座るスタッフが「ああ」と説明してくれる。
 「さっき、散策の途中で見つけたんですよ」
 見つけたって言われても、こんな物が道の上に落ちているものなの?
 「滝の傍に小屋みたいのがあって、そこにあったんです」
 「勝手に持って来ちゃったの?」

 それじゃ泥棒でしょ。
 俺の言葉にスタッフが慌てたように手を振る。
 「空き家みたいだったし、可愛いと言って聞かなかったので」
 そう言ってチラリと、離れた席にいる女優を見る。聖川と何やら喋っているらしく、こちらの視線には気付いていないようだ。
 「人形だって誰もいない家で汚れたまま放っとかれるより、ここにいた方がいいんじゃないですかね」
 自分勝手な理屈だね。
 でも、角を立てても仕方がない。
 新人とは言え、相手は主演女優だ。スタッフとしては、機嫌を損ねる訳には行かないんだろう。

 「滝って聖川が落ちた?」
 「ああ、それなんですがね……」
 話題が変わったのでホッとしたのか、スタッフが気持ち身を乗り出す。
 その話によると、はしゃいだ女優が足を滑らせ、それを聖川が咄嗟に庇って落ちたらしい。
 聖川らしいと言うか何と言うか。
 聞こえて来る女優と聖川の会話は「すみません」と「大丈夫だ」の繰り返しだ。
 いつまで続けるんだか。
 そう呆れていると、女優も気が付いたのか「ありがとうございました」と頭を下げる。

 「気にするな、お前が何ともなくて良かった」

 そう言ってニッコリと聖川がニッコリと微笑む。
全員がそのやり取りを見ていたらしく、うっとりとした沈黙が流れる。誰かの「王子様だ」と言う呟きが聞こえる程だ。
 でも、俺は苛立ってしまう。誰にでも優しいのは美徳だけど、それで相手が誤解しちゃったらどうするの。
 案の定、女優も顔を赤らめているし。どうするの、ほら。
 だけど、やっぱり聖川は聖川だ。
 何事もなかったかのように出された食事に手を付け、「うまいな」と給仕するスタッフに笑顔を見せている。可哀想に、女優は放置だ。
 分かってたけど、そういう奴だよ。お前は。
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