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せみしぐれ5

 それから何だか全員の口が重くなったので、俺が邪魔なんだろうって事で、部屋に引き上げた。
 レディは男の前で誰かの悪口を言わないからね。俺がいたんじゃ、盛り上がれないだろうなって気を利かせたわけ。

 そんな訳で部屋に戻ったんだけど、相変わらず聖川は眠り続けていた。

 どうしたもんかね。

 取りあえず起こさないようにそっと部屋を横切って窓を閉める。
 夏って言っても山の中だから、少し肌寒い。陽が暮れて来たら余計だろう。
 そうして置いて、鞄から携帯を取り出してみるけど、何と圏外だよ。アンテナ立たない所があるなんて凄いね。驚くより感心してしまう。
 使い物にならない携帯を鞄にしまって、自分のベッドに横たわる。

 充分に睡眠を取ったとは言い難いから、横になればすぐに眠れるだろう。
 そう思ったんだけど、慣れない環境に神経が昂っているのかなかなか眠気はやって来ない。

 目を閉じて、今日あった出来事を考えるともなく思い出す。
 土の匂いと緑の気配。ずぶ濡れになった聖川。その背中に貼り付いていた楓の葉。
 気味の悪い人形と、清純派女優の媚びるような笑顔。なくなったお地蔵様。ヒソヒソと話すレディたちの声。
 そんな事を思い出しているうちに眠ってしまったらしい。
 身体がフワフワとして、現実味がない。

 『一日に一人……全部で七人……』

 さざ波のように聞こえていたレディたちの声に混じって、聞き慣れない嗄れた声が聞こえる。

 『蝉の鳴く日に一人ずつ……それが欠けては……』

 嗄れてる上にボソボソと喋っているらしく、全部を聞き取る事は出来ない。
 何の話なんだろう?
 どうせ夢だし、深く考える事はないか。

 そう気を抜いた途端、耳元で嗄れたその声が囁いて来る。

 『代わりを探せ、必ずだ』

 ビクッと目が覚める。飛び起きて耳に手を当てるけど、何もない。
 やっぱり夢だったのか。それにしてもビックリした。

 何となく気持ち悪い夢だったな。そう思いながらシャワーでも浴びるかと着替えを用意する。
 チラリと目を向けると、隣のベッドでは聖川がスースー寝息を立てている。どうやら起こさずに済んだらしい。
 そうホッとするけど、こんなに眠る奴だっけ?と首を傾げる。

 時計を確認してみると、昼食を終えてから既に四時間近く経っていた。
 俺と違って、聖川は仕事でもない限り早寝早起きだ。それをジジ臭いと茶化した事があるぐらいだから、間違ってないだろう。
 そして、昨日は移動前日と言う事で聖川はオフだった筈なのだ。それなのにどうしてこんなに眠っているんだ。

 まさか濡れて風邪を引いたのか?
 それで具合が悪くなって眠り続けているとか……?

 主役がそれじゃ困るよな。俺だってスタッフだって、予定が詰まっているんだ。
 それに聖川は他人に迷惑を掛けて良しとする性格をしていない。どちらかと言えば、その反対だ。
 だから、自分の所為で撮影が押したりしたら、絶対に落ち込む。自分を責めるだろう。

 聖川の性格は、自分に厳しく俺に対してはもっと厳しい。
 放って置けば面倒な事になるのは目に見えている。

 だから、そっとベッドに近づき聖川の顔色を確認する。
 眠っているからか、紙のように真っ白な顔をしている。

 やっぱり具合悪いのかね?

 そう思って布団を直してやろうとして、聖川が襟元までキッチリとボタンを閉めている事に気付く。

 こんな時まで身だしなみですか。

 溜め息をつきながらボタンを二つほど開けてやる。
 白く浮かび上がる細い首筋。それを何の気なしに軽く撫でると、聖川の唇から吐息が漏れる。

 え。

 ガバッと、聖川の眠るベッドから離れる。

 何で、そんな声出すの……って言うか、どうして俺は聖川の首を撫でたりしたの。

 いやいや、別に他意はないからね。本当に天地神明に誓って、どうにかしようって思った訳じゃないから!
 ちょっと様子見ようとして、ついでにボタンを外してあげただけで……首に触ったのだって特に何か考えてた訳じゃないし!!
 下心なんて、本当にこれっぽっちも!
 ワタワタと慌てて言い訳を並べて、ふと我にかえる。

 寝てる聖川の他に誰もいない部屋でアタフタしている神宮司レン。ツッコミもフォローもいない。
 何やってんだろう、俺……。

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