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miu 1

 嫌いだ。
 こんな学校、こんな世界。
 物心付いた頃から、僕は孤独を抱えていた。疎外感といつも一緒だった。何をしても、どんなに頑張っても、誰も僕に見向きもしない。世界は理不尽に満ちている。
 高校に入学して間もなく、僕は上級生のグループに目を付けられた。
 成績がいいから、顔が女みたいだから。そんなどうでもいい理由で暴力を振るう。
 グループの中心は三年の須田ヒカリだ。僕からしたら、須田の方が女みたいな顔をしていると思う。それも美少女だ。
 瞳と同じなので栗色の髪は生まれつきなのだろう。全体的に色素が薄いらしく、肌は透き通るように白く、唇は赤くふっくらとしている。体つきもどちらかと言えば華奢な方だ。
 客観的に見て、須田と僕は顔立ちが似ている。そんな筈はないのに生き別れの兄弟かと思ってしまった程だ。それなのに、強者と弱者に別れてしまったのは、ただ単に僕にツキがなかったのだ。
 須田の父親は大企業の社長だという噂だ。学校に多額の寄付をしていると言う。その所為なのか、教師ですら須田に注意出来ない。誰も須田を止められないのだ。
 須田は我が侭な上に高慢で自己中心的だ。取り巻きに囲まれ、女王様のように振る舞っている。その逆鱗に触れるのを恐れて、誰も僕を助けてはくれない。
 今だって僕を取り囲んで殴ったり蹴ったりしている。きっと、何をしてもいいサンドバッグだとでも思っているのだろう。そうでなかったら、どうして薄ら笑いを浮かべていられるのか。
 姑息にも、制服で隠れる所ばかりを狙って来る。そして稀に僕の持ち物を取り上げ壊す。おかげで僕は財布を持ち歩かなくなった。
 「面白くないな」
 旧校舎のトイレに連れ込まれ、散々殴られたあとだった。
 壁に凭れて腕を組んだ須田が唐突にそう呟く。その言葉に全員が動きを止め、須田に注目する。
 「何かマンネリだよね、もう」
 トンと床を蹴って背中を浮かせる。言葉の通り、須田の顔には退屈そうな色が浮かんでいる。
 僕に飽きてくれたのかと、少しだけホッとする。
 最初の時こそ抵抗して泣き叫んだが、今はそれもしない。声も上げず、何をされても人形のようにジッとしていた。気紛れな須田はそんな僕の反応に飽きたのだろう。だが、続けられた言葉は僕の予想を裏切っていた。
 「剥いちゃってよ」
 子供のようにあどけなく言う須田に取り巻きの視線が集中する。何を言われたのか理解出来ないのだろう。それは僕も同じだった。
 剥くって、何を?
 怪訝な顔をする取り巻きと僕に痺れを切らしたのか、須田がツカツカと近づいて来る。そして僕の襟を掴み、思い切り引っ張る。
 僅かな痛みと共にボタンが幾つか弾け飛ぶ。それに漸く、須田の思惑を知った僕は顔色を変える。
 須田は僕を裸に剥けと言ったのだ。
 取り巻き連中もそれと気付いたのだろう。四方から手が伸びて僕の服を剥ぎ取ろうとする。
 流石に抵抗して暴れるが、相手は複数、おまけに上級生ばかりなのだ。軟弱な僕とは体格が違う。
 トイレの床に押さえ付けられ、下着一枚にされてしまう。
 「それも脱がして」
 須田が舌なめずりしながら呟く。取り巻きがそれに従う。
 全裸にされ、引きずり起こされる。手で隠したいのだが、左右から腕を掴まれ不可能だった。屈辱に唇を噛み締めるしか出来ない。
 「ふぅん、痣だらけだ」
 僕の身体を上から下まで見下ろし、須田がクスクスと笑う。お前の所為だと言い返したいが、口を開けたら嗚咽が漏れそうだったので我慢する。その代わりキッと睨みつける。
 そんな僕の反応に気をよくしたのか、須田が更に笑顔を浮かべる。
 「いいよ、やっちゃって」
 え、と思う間もない。足元を払われて床に膝をつく。そのまま背中を押さえつけられ、四つん這いになるしかなかった。
 見えない背後でカチャカチャと何やら物音がする。続けてジッパーを降ろす音がして、僕は何をされようとしているのか漸く理解する。
 普通の暴力には飽きたので、今度は違う暴力を振るおうとしているのだ。
 まさかここにいる連中にそういった趣味があるとは思わないが、何しろ高校生なのだ。ふとしたキッカケで高まる事もあるだろう。この場合、何をしても許されるという状況が性欲の引き金になったのだ。
 「やだ、離せ!」
 始めて大声を上げる。痛いのは我慢出来るが、服従だけは出来ない。
 抵抗しようとして顔を上げる。その途端、須田に髪を鷲掴みにされ、痛みに涙が滲む。
 「泣いちゃって、カワイソウ」
 クスクスと意地の悪い笑い声を上げながら僕の口に指を押し込む。咄嗟に噛み付くと、頬を張られる。その衝撃に僕の視界がガクガクと揺れる。
 その隙に須田が「やっちゃって」と取り巻きに命令する。
 一人で終わる訳がない。このままだと、この場にいる全員に犯される。考えただけでゾッとして吐き気がこみ上げるが、腰を掴まれ抵抗すら出来ない。
 「そこまでだ」
 閉め切ったトイレのドアが開いて、落ち着いた声が聞こえる。それに全員が凍り付いたように動きを止める。
 真っ先に動いたのは僕だった。押さえつける手が緩んだ隙に逃げ出し、トイレの隅に駆け込む。そんな僕を目で追いながら須田が憎々しそうに口を開く。
 「卯木、お前……」
 須田の言う通り、僕を助けてくれたのは三年の卯木だった。
 黒髪は真面目そうに見える筈なのに、卯木に限ってはそう見えない。緩い巻き毛で目元を隠しているからかも知れない。いや、僕が卯木に対して偏見を抱いている所為だ。
 卯木は生徒会長でありながら派手な女遊びで有名だった。他校の女子だけにとどまらず大学生や社会人、果てには人妻とも関係を持っているという噂だ。だから遊び人として僕の記憶に刻まれている。
 確かに卯木は高校生にしては大人びた風貌をしている。そのアンバランスさが女にとっては魅力に映るのかも知れない。だが、身に纏った空気は冷たく、優しさなど欠片も感じさせない。
 そんな品行方正とは言い難い卯木が生徒会長をしている理由は一つだ。
 頭が切れるのだ。
 成績は勿論だが、それ以外の所でも卯木は頭がいい。更には、要領がよくて押しも強い。どんな状況でも、自分の思う通りに周囲を動かしてしまう。この男が言えば晴れの日でも雨だと思ってしまいそうになる。それほどに説得力があり、また強いカリスマ性もあった。
 そして、権力に媚びるような男ではない。何しろ世界中で自分が一番偉いと思っているような奴なのだ。
 須田を止められる者は誰もいないと言ったが、卯木だけは例外だった。この二人は幼馴染みなのだ。
 「邪魔するなよ」
 須田が尖った声を上げる。それに対して卯木がニッと唇を吊り上げる。
 「いいね、ヒカリの邪魔が出来て楽しいよ」
 幼馴染みと言っても高校生にもなれば、その関係は変化するのかも知れない。とてもではないが仲良しには見えない。
 トイレの隅で慌てて服を着ながらそんな事を思う。飛んでしまったボタンを拾い集める気にはなれず、仕方なくネクタイで誤摩化す。
 「行くぞ、佐伯」
 卯木にそう声を掛けられ、訳が分からないまま廊下に出る。
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