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紫の獣

2.旧校舎の幽霊

ちっちゃい癖に偉そうな……とか、そんな事思う間もなく、旧校舎まで連れて来られる。
うぉ、真っ暗じゃないか。駄々を捏ねてる間に陽が暮れたのか。

イヤだなぁ、本当に。

夜空をバックに聳える廃墟のような旧校舎。ホラー映画かよってぐらいサマになってるじゃないか、オイ。
うぅ、絶対出る。これは絶対に奴らが出るぞ。イヤだ、怖い!
財布に入れてあるお守りを引っ張り出して握りしめる。それに目敏く気付いた足立が「それ何ですか」と問い掛けて来る。

「俺が頼れるのはこいつだけだ……」

そう言って手のひらを開く。俺が握りしめていた物の正体を知って、足立がバカにしたように短く笑う。

「交通安全のお守りじゃないですか。旧校舎の中で車に轢かれるとでも?」
「何もないよりはマシだろ!」
「はいはい」

肩を竦めて中に入って行く。出来る事なら、このまま見送りたいのだが、すぐに「早く!」と鋭い声が飛んで来る。

くそぉ、一年の癖に生意気な。

こんな所に置き去りにされたら、それはそれで怖い。だからでもないが、足立に駆け寄る。
準備よく持って来たらしいペンライトを取り出す足立に問い掛ける。

「肝試しって、出たらどうする気なんだ?」
「連れて帰りますよ」
「幽霊を?」
「はい」

それでいいのか?
確かに、足立が頼まれたのは行方不明になった娘を見つけてくれって事だったから、どんな状態なのかまでは考慮しなくてもいいのかも知れない。でも、だ。
普通、娘の幽霊連れて来られたら困るんじゃないのか。

「それは、もう死んでるって前提でいいのか?」
「これだけ時間が経ってますし、幽霊の目撃証言もありますから」

それはそうだ。
両親としては、一番の希望は生きた娘が発見される事なんだろうけど、五年も経ってるんだから諦めてもいるだろう。だったら足立に依頼したのは、娘の亡骸、或いは魂だけでもって事なんじゃないのか?
でも、足立の口調が酷く事務的なのが気になる。

「成仏させてやるって事でいいんだよな?」
「そこまでは頼まれてませんから」

いやいや、頼まれなくても考慮しろよ。お前には血も涙もないのか。鬼か。
どこの世界に、両親と血まみれの幽霊になった娘を対面させる祈祷師がいるんだよ。酷いわー、こりゃないわー。
足立の性格に呆れるあまり、恐怖を忘れてしまう。

「でも、そう簡単に行くとも思ってません」

お、そりゃそうだよな。
幾ら何でも悲しみに暮れる家族に追い打ちかけるなんてしないよな。安心したぜ。
そう胸を撫で下ろしたのも束の間。続けられた言葉は俺が思ったのと方向が違っていた。

「目撃情報は全て旧校舎ですから、もしかしたらここから出られなくなっているのかも知れません」

違った。両親の気持ちとか何も考えてないや、コイツ。でも、確かに足立の言う通りだ。
教室でもグラウンドでもなく、今は使われていない旧校舎にだけ出ると言う事は、そこに引き寄せられて離れる事が出来ないのかも知れないな。

「地縛霊って奴か……?」

信号や踏切にいるのは見かけた事あるけど、その場に突っ立ってるだけで自分が死んだ場所からどこに行けばいいのか分からないって感じだったぞ。
旧校舎に出るのはそうじゃないだろ。驚いて追い掛けたら消えたって言うんだから、多少の距離を移動したんじゃないのか。
それとも、俺の知識が間違ってるだけで、地縛霊ってのは思いのほかフリーダムなのか?

「それを確認する為に来たんですよ」

そう言って足立が手を差し出して来る。
何かくれるのかと見つめるが、別に何も持ってない。

「手を繋いであげますよ、怖いんでしょう?」

そう言った口元にはバカにしたような笑いが浮かんでいる。
顔は可愛いけど、本当に可愛くないな!


悪態ついてみたって怖い物は怖い。
どうしてそこまで怖がるのって聞かれたら、そりゃ死んでるからだよって答える。
だってそうだろ。何で死んでるのにそこにいるのって思うよ。まぁ、いるのは個人の自由だ。それを俺が兎や角言う筋合いではないのかも知れない。
だったら、こう言い直そう。

俺の視界に入るんじゃねー!
半透明だったり俯いてブツブツ言ってたり、そんな物見たら誰だって怖いわ!

ああ、うん。例に上げたのだと死んでても生きてても怖いけどさ。
そんな訳で、可愛気のない足立の腕をぎゅうぎゅう握りしめて歩く。
痛いんですけど、とかホザイていたが無視だ、無視。俺の感じている恐怖に比べたらそれぐらいの痛み、どうって事ないだろ。

「目撃情報では二階の廊下でしたっけ」

一階には目もくれず、階段へと向かう。
うぅ、本当に幽霊を見る為に来たんだな、コイツ。
そこでハタと気付く。
足立は幽霊と遭遇したらどうするつもりなんだろう。

目撃する事によって、その存在を確認したいと言うのは分かる。だが、相手は幽霊だ。しかも、血だらけで首が折れていたらしいから普通の死に方ではなかったのだろう。
自殺と言うのはないと思う。ならば、事故か他殺……きっと殺されたんだと俺は思う。

何故なら未だに死体が発見されていないからだ。事故だったなら、五年もの間、誰の目にも触れずにいるとは考えられない。
そして、殺されたと言う事は、だ。それだけ恨みも大きいんじゃないのだろうか。

自分を殺した犯人に対する恨み、そして楽しそうに生を謳歌している俺たちへの怨み。
意識せずにゾクッと震える。
もしかしたら佐倉小花と言う女子生徒がここに捕われているのは、自分が死んだ時と同じ年頃の人間全員を恨んでいるからではないだろうか。どうして自分が死ななければならなかったのか、自分じゃなく他の人物が死ねば良かったのに。

それは八つ当たりと言うか逆恨みのようだが、そう思う気持ちも分かる。
自分にばかり不幸が舞い込めば誰だってそう思うだろう。しかも殺されたのなら余計だ。

「おい、足立」

じゃっかん震えた声で呼びかけると、足立がペンライトを俺に向ける。
暗闇に慣れた目にはその僅かな光ですら眩しくて思わず顔を顰める。

「幽霊の存在を確認したら帰るんだよな……?」

足立の目的は行方不明になった女子を見つける事。だが、見つけたからと言って即日、両親の元に引きずって行くって事はしないだろう。

何か……ほら、そういう特別な儀式みたいな、準備みたいな物が必要だろ?

そう期待を混めて問い掛けたと言うのに足立は「そんな訳ないでしょ」と鼻で笑う。

「連れ出せるようなら、そのまま佐倉家まで引っ張って行くつもりです。それがダメなら原因を調べます」

地縛霊になった原因を探るのか……ご苦労な事だ。
そう他人事のように感心していたら足立が続けて言う。

「風紀の協力があれば、そう難しくないでしょうしね」

お前って奴は……この件が解決するまで俺を脅し続けるつもりか。いや、こいつの性格を思えば、卒業するまでと言わずいつまでも俺を脅すつもりに違いない。

何でこんな事になったんだ。
もういっそビビリだと自分で公表してしまった方がいいかも知れない。
そうだ、そうしよう。
足立に右目を治して貰ったらおかしな物を見る事もなくなるんだから、俺が自分でビビリだと言っても実際はそうじゃなくなるんだ。

「バックレようとしても無駄ですよ」

続けられた言葉にギクリとする。そんな俺を見つめて、足立がうふふ、と不穏な笑いを浮かべる。

「祓う事が出来るなら憑ける事も出来ますからね、寧ろそっちの方が簡単ですよ」

あぅ。見透かされてる……って言うか退路が断たれてる。
可愛い顔してお前が鬼か悪魔か。ああ、祈祷師だっけ。

このまま俺はパシリ決定かよ、くそ。
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