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紫の獣

放課後、見回りの当番だったので一人で校舎を歩く。

俺は基本的に一人で行動する事が多い。
森にはビビリだとバレているのだが、他の委員はそれを知らないからだ。
見た目通り、無口で何を考えているのか分からない。そう思われているのだろう。端的に言ってしまえば、怖がられてるのだ。
だから、見回りなどの時に俺と一緒に来てくれる委員は皆無だ。別に淋しくなんてないんだからね!

と、強がってみるが本当に淋しいとは思わない。
放課後の見回りは時間が遅いので、女子にさせる訳にも行かないし、俺が怖いのは死んでる人間だけだ。生きてる人間相手なら負けないと思っている。
部室棟をまわり、残っていた生徒に注意をして校舎へと戻る。
帰りながら職員室に寄って異常なしと報告すればあとは帰るだけだ。

昨日と、今日の昼間。続けて白昼夢を見せられた所為なのか、ものすごく身体が怠い。早く帰って風呂にでも入ってサッパリしたいところだ。
そんな事を考えながら廊下を歩いていると、見たくもないのに旧校舎へと目が向いてしまう。

明かり一つない真っ暗な旧校舎。そこの廊下に誰かが立っていた。
花子さんか?

腕に鳥肌が立つ。帰ろう、一刻も早く明るい所に行くべきだ!
教室の電気を消すのも怖い。怖いけど、つけたままにしたら後で教頭にお小言食らう!
できるだけ教室を見ないようにして電気のスイッチを押して廊下を早足で駆け抜ける。
矛盾しているようだが、本当に早足で駆け抜けた。だって、走ったりしたら余計怖いじゃんか。
職員室について教頭の貧相な顔を見て、ここまで安堵するとは……花子さん恐るべし!

何とか報告を終えて学校を後にする。だが、「シロ」と声がして足が止まってしまう。

え?
何で動けないの、俺。

動かないのは足だけだと気付いたのは、キョロキョロと見回してからだった。
何だか知らないけど歩けない。もちろん、走る事もできない。
挙動不審なまでにオロオロしていると、クスクス笑う声がする。

「もしかしたら思ってたんですが、本当に操れるとは」

屈託ない口調でそう言うのは足立だった。
一度帰宅したのか、ハーフパンツにいつかのパーカーという私服姿だった。

「何だ、これは。お前がやってるのか」
「はい」

躊躇いもなくコクンと頷く。
それに怒りが湧くのだが、どこか奥の方で喜んでいる自分がいる。
何だよ、これ。面倒くさい。自分の中に他の誰かがいるような気がして非常に面倒くさい。

「同化しているって言ったでしょう、これからその説明をしますね」

そして何故かの我が家である。
二年前に越して来たばかりの2DKには、親父との二人暮らしなので家具は必要最低限しかない。ま、親父はほぼ会社に泊まり込みなんだけど。
俺が鍵を開けると、どうしてだか足立が「お邪魔します」と言って先に上がって行く。それを止める事もできず、リビングに案内する。
ソファなんて洒落たものはないので、座布団をすすめる。ちなみに俺は床にそのまま座り込んでいるんだけどね。

「それで、同化って何となんだよ」

そう促すが、足立は聞いているのかどうか興味深そうにリビングを見回している。

「ああ、犬です。シロウって名前の黒犬」

そんな気はしていた。白昼夢で俺はシロウって犬を抱っこしてたし。
ただ、問題なのはそのシロウが普通の犬じゃない気がするって事だ。
散々眺めて満足したのか、足立はやっと俺を見る。

「前に言いましたよね、僕は修行するのを禁止されたって」

そう……だったか?
言われてみれば、確かにそう聞いたような気がするけど、それが何だって言うんだ。

「シロウは僕が作った式神です」

そう言って座布団の上で足を崩す。体育座りのように膝を立てるのだが、何でこんなに色白なんだ。しかもすね毛ないし、女子より綺麗な足してるな、お前。

「まぁ、知らなくてもしょうがないんですが、先輩の出自からして本来なら知ってて当然なんですけどね……」

何を訳の分からない事を。
でも、言い返しても倍以上に言い返されるだけなので黙っておく。

「三年という歳月をかけて僕は何とかシロウを使役する事ができるようになりました。でも、奪われたんです」
「誰に……?」
「先輩のお祖母さん、比与森ツルです」

え……っと?
何で足立が俺の祖母さんの名前を知ってるんだ?
しかも、どうして祖母さんが足立の犬を奪わなくちゃならないんだ?

「比与森ツルは、うちの祖母の同業者でした」
「それって、」
「はい。祈祷師、いえ拝み屋と言った方が分かりやすいですね。彼女は邪道ばかりを請け負う拝み屋でした」

ジャドウって、邪道?

「人を呪い殺す、それが彼女の仕事でした」
「………は?」

呪い殺すってマジで言ってるのか?
だとしたらお前ちょっとアレだぞ。何て言うか、えっと病院とか行った方がいいと思うな、うん。


呆気に取られる俺を無視して、足立が淡々と言葉を続ける。

「その代償に彼女は娘を失っています」
「娘って、まさか」
「先輩のお母さんですね」

アッサリと言われた。
これまで記憶の欠片すらなかった母だが、祖母の仕事で死んだと言われたら複雑にもなる。
祖母の仕事を知っていたのかどうか。今の法律では人を呪い殺しても、不能犯扱いになるだろうけど、人殺しと言われても仕方ないと思う。それを娘として止めようとは思わなかったのだろうか。
そして、祖母にも聞きたい。

他人を呪う事によって自分の娘が死んだ時、何を考えてどう感じたのか。

「あ、じゃ……もしかして」

白昼夢で見たいとこの葬式。あの子が死んだのも祖母が他人を呪ったからなのか?

「呪いを放つ事を厭魅と言って、それは時として風にたとえられます。厭魅をする事で相手に風が吹く。そして、その風はいつか返って来る。だから邪道を行う者は少ないのですが、実は風を避ける方法があります」
「どうやって」

何ぶんにも素人なので、足立の話を完璧に理解できているかどうか自信がない。
そんなだから先の話も想像がつかないので素直に質問すると、「裏技があるんです」と足立が言う。

「……比与森ツルがどうやって厭魅していたのか分かりませんが、おそらく動物霊などを使役していたのでしょう。そういう意味では僕とシロウも同じなのですが、方法が違うし使い方も違っています。比与森ツルは力でねじ伏せ己に従わせていた、返って来る風はそのぶん強くなりますが、相手は動物です。目が効かない、人間と同じようには見えていないんです、そこが付け目です」

あ……何となく分かった気がする。
身代わりを用意したんだ、きっと。
家族を守るため、自分の血を絶やさないために祖母は全員の身代わりを用意していたんだ。だが、それは破られた。どうして。

「人形……」

そうだ、おひな様。
昼間に見た夢の中に出て来た桃の花。あれはひな祭りの事だったのか。
俺は男だから全くもって興味などなかったが、飾られたひな人形をどこかで見た事がある。何だか気味悪いと思いながら眺めていたんだっけ。

「心当たりがあるようですね」
「ああ、ひな人形だ。離れの物置にしまってあったのを伯母さんが見つけた」

そうだ、口から漏れた言葉が記憶となって俺の中で蘇る。
伯母は母さんのお兄さんと結婚したと言っていた。二人の子供が生まれ、ささやかながら幸せな生活の中、突如として夫が死んでしまったとも。
父さんはそれを聞いて、離れを貸し出したんだった。
いや、待て。この記憶は何だ。俺はずっと父さんと二人だったし、離れがあるような大きな家で暮らした事はない。
それなのに、何故か自分の記憶としてそれを思い出せてしまう。
混乱した目で足立を見ると、同情するように俺を見つめていた。

「僕が接触した事でシロウが力を取り戻したんでしょう、先輩の封印された記憶が蘇ったんですね」

じゃ……これは本当にあった事なのか。
愕然とする。
そりゃ、確かにこれまでのものと齟齬を来す訳じゃない。俺は一定の年齢までの記憶がなかったのだから、矛盾はない。それを疑問にも思わず生きて来たのだから、受け入れられない訳じゃない。
だからって、そうなんだぁって納得できるものでもない。

「人形……あのひな人形を出した所為でいとこは死んだのか?」
「おそらくは」

そうなのだろう。夢の中でも祖母は風が吹いてると言っていた。
いとこはまだ小さくて、俺よりも年下で……それなのにちょっとした手違いで死んでしまったのか。

「本題ですが……風はまだやんでいません」

だからこそ僕はシロウを奪われたんです。
そう足立が続けて言う。

「先輩のお祖母さんは相当な力があったんでしょう。死んだ後も家族を守ろうとした、だから僕の式神を奪い、それに先輩を守らせた」

おばあちゃん!!
助けてくれようとしたのは有り難いけど、孫は現在進行形で困り果ててるよ!

いやいや、落ち着け。
足立が返せと言うのなら返すしかないと思う。
それで俺が死んだとしても、足立には関係のない事だ。それに死因的にはきっと事件にならないと思うし。
ただ問題なのは、返そうにも返せないこの状況だ。
あの犬……犬でいいのか?
今は便宜上、犬って事にしておこう。
それが俺と同化してるって言ってたよな。無理に引っ剥がして大丈夫なのか?

「大丈夫ですよ、返せだなんて言いませんから」

マジか!
いい奴だな、お前!
足立に感謝の眼差しを向ける。いやぁ、綺麗なのは顔だけじゃなかったんだな。心根も優しいじゃないか!

「その代わり、」

そう言って足立がニッコリと笑う。その笑顔に何やら厭な予感がして逃げ出したくなるけど、俺の中にいる犬がそれを許してくれない。

「シロウの代わりを先輩にして貰います」

代わりって……シロウって犬の事だよな、犬か、そうか……俺って犬になるのか。そんな進路考えた事もなかったな。参ったな、こりゃ。
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