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miu 3

 厳しい卯木の声にハッとして目を上げる。黒い髪の間から卯木が僕を見つめている。
 「だからと言って僕にはどうする事も出来ません」
 見たい者は見ればいい。
 視線に物理的な力はないのだから、僕にそれを止める権利はないし、特に害もない。
 卯木の言う通り、僕の事をそういう目で見ている相手がいるとする。もしかしたら僕はそいつの脳内で何回も抱かれているかも知れない。だが、それを現実に移さない限り責める事は出来ないだろう。
 「否定しないね」
 ニヤッと卯木が唇を歪める。何となく、罠に嵌ったような気がするのは錯覚だろうか。
 「何をですか、」
 警戒しながら問い返すと「周囲を見下していると言う事を」と卯木が返して来る。
 「君は周りにいる全員を蔑み、誰とも関わりを持とうとしない。そうだね?」
 目眩のような衝撃に襲われる。
 どうして、こんな奴に見透かされてしまったのか。上手く隠せていると思ったのに。いや、それより早く否定しなくては。
 焦る余り言葉が浮かばず、ただ口を開ける。そのタイミングを計っていたように卯木が言葉を繋げる。
 「分かるよ、私も同じだから」
 それまでのニヤニヤ笑いから一転して真剣な顔をする。
 完全に置いてけぼりだった。何をとか、どうしてとか、そんな言葉すら思い浮かばずポカンと卯木を見つめる。
 「飛び抜けているからこそ誰にも理解されない、私たちの根底にあるのは孤独だよ」
 「僕は……お前とは違う」
 なりふり構っている余裕などなかった。
 真実を口にされ、僕は逆上していた。いや、混乱していたのだ。
 小さい時から誰も僕の言葉を理解してくれなかった。相手の言葉を先回りばかりする僕は厭な子供として疎外されたのだ。
 家族も教師も同級生も、誰一人として僕を理解しようとしなかった。だから僕も理解しない。
 世界から弾かれたのだ、だったら僕もこんな世界いらない。
 卯木は確かに優秀だ。それ故に子供だと言うのも事実だろう。だが僕なんかよりずっと器用に生きている。
 きっと卯木の本性は残忍で酷い男なのだ。それなのに女にモテると言う事は、上手く自分を隠している証拠だ。僕にはそれが出来ない。
 だから誰とも親しくならず、輪に入る事が出来ないのだ。
 「どう違う?」
 俯いた僕の肩に手を乗せ、卯木が唆すように囁き掛けて来る。
 「淋しいからって女に逃げたりしないし……キスした相手を忘れる事なんか出来ない」
 これじゃ告白したも同然だ。
 僕は卯木を嫌っているが、同時に惹かれてもいるのだ。
 その強いカリスマ性、卯木なら僕の全てを理解してくれるかも知れないと心のどこかで期待していた。
 「忘れてないよ、祐希」
 耳元で名前を呼ばれ、ビクッと背中が震える。
 マズい、このままだと卯木に流されてしまう。焦った僕は更に墓穴を掘ってしまう
 「忘れてたんだろ、僕を女と間違えてナンパしてキスまでしといて放ったらかしだ。そんなに下手だったか」
 「間違えたんじゃない、祐希の事は入学した時から知っていたんだから。ああでもしなかったら声を掛けられないと思ったんだよ」
 「嘘だ、単に忘れてただけの癖に」
 そう言って口元を手で押さえる。これ以上は駄々を捏ねるのと一緒だ。いや、もう既に充分過ぎるほどに駄々っ子だ。
 下を向いた僕の髪を軽く撫で、そのまま頬に滑らせて来る。それに促されて顔を上げると、卯木が困ったように小さく笑っていた。
 「あれから何度も話しかけようとしたさ、でもお前に話しかけるのは勇気がいると言っただろ?」
 「じゃ、どうして」
 今日に限って話しかけて来た。そう言おうとして気が付く。この男、幼馴染みを利用したんじゃないだろうな。
 「そうだよ。ヒカリには悪いがチャンスだと思った」
 ああ、やっぱり……コイツにとっては幼馴染みですら駒の一つに過ぎないのか。
 「悪いなんて思ってないだろ」
 拗ねた声で問いつめると、ニコッと笑って誤摩化す。酷い男だ。
 「助けてやったんだから文句はないだろ?」
 それはそうだけど。
 卯木の事だから、もっと早くから外で聞いていたに違いない。ギリギリまで放置する辺り、感謝するには値しない。
 だから僕は手を降ろして非難の眼差しを向ける。
 「どうしてもっと早く助けてくれなかったんだ」
 そうすれば僕は裸にされる事もなく唇を切る事もなかったんだ。それなのに卯木は嬉しそうにニコリとする。
 「祐希の裸が見たかったから」
 「最低だ、お前」
 横を向いて吐き捨てるように言うと、「褒め言葉だと思っていいのかな?」と卯木がふざけた事を抜かす。
 「祐希、」
 卯木が不意に僕の名前を口にする。その声は苦く甘く、僕の身体を震わせる。
 「お前には私が必要だろう?」
 「……自惚れてる」
 決めつけるように言われて腹を立てるよりクスッと笑ってしまう。
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