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miu 5

 結局、一度と言わず二度三度。
 卯木は僕の中に放って漸く満足したようだった。解放されてホッとするが、まだ中に入っているような感覚に背中が震える。おまけに起き上がった途端、足の間に白いのが流れ出して気持ち悪い。泣きそうだ。
 どうせジャージに着替えるからと、自棄を起こしてシャツでそれを拭い取る。
 そんな僕をおかしそうに眺めている卯木は元の制服姿に戻っている。本当に腹の立つ。
 「着替えるんだろ、持って来させるよ」
 僕のジャージの事だろう。だけど、誰に。
 怪訝に思って顔を上げると、携帯を畳んでいる。誰かにメールしたようだ。
 「誰に頼んだんだよ」
 「すぐに来るさ」
 卯木の言葉が終わってすぐ廊下を走る足音がする。まさかと思うけど、もう持って来たのか?
 だが、そんな事に構っている余裕はない。今、ドアを開けられたら何をしていたのか一目瞭然だからだ。
 慌ててブレザーを羽織り、身体を隠そうとする。それと同時にノックもなしにドアが開かれる。
 「早かったな、ヒカリ」
 卯木の呼びかけに驚いてそちらに目を向ける。
 確かに須田ヒカリが立っている。だが、手ぶらだ。僕のジャージはどうしたんだろう。
 「何て事すんだよ!」
 僕には目もくれずに須田が卯木に詰め寄る。どうやらかなり怒っているらしい。
 「前に言っただろ、佐伯は僕が落とすって!」
 「お前がグズグズしてるから悪いんだろ」
 「最低、お前に相談した僕がバカだった」
 遠慮ない言葉のやり取りに幼馴染みと言うのは本当なんだ、と感心してしまう。ボンヤリする僕を振り返り、須田が悲鳴のような声を上げる。
 「うぅ、冬馬に先を越されるなんて」
 「あの……僕の着替え、」
 「そのままでいい」
 「え?」
 訳が分からずキョトンと首を傾げる。このままで帰れる訳ないだろ、ブレザーとズボンは無事だけどシャツは着れたものじゃないんだ。家までどうやって帰れと言うんだ。
 「タクシー呼んだから」
 そう言って須田が僕の手を取る。
 その言葉に不思議を通り越して怪訝になる。だって、須田はこれまで僕を散々いたぶって楽しんでいたのだ。急に親切にされても素直に従う気にはなれない。
 渋っていると、背後から卯木が僕の肩を掴む。
 「家に連れ込む気だろ」
 「悪い?」
 卯木の問いかけに須田が刺々しい口調で言い返す。
 どうして僕が須田の家に行かなくてはならないのか謎だ。だいたいからして僕の意思は無視なのか?
 「構わないさ、私も行くからね」
 「来るな、この色ボケが」
 「ヒカリはまた祐希をいじめるかも知れないからな、監督役で行ってやる」
 そう言うとラックからタオルを取り出し、僕の肩に掛けて来る。
 「取りあえずはそれで隠せ」
 「うん、」
 コクンと頷くと、須田が「何で名前で呼んでるんだよ!」と見当違いな事を叫ぶ。
 「あんまり煩いと置いてくぞ、ヒカリ」
 須田に素っ気なくそう言って、僕の肩を抱く。正直、身体が辛かったので助かる。寄りかかるようにして歩き出すと、卯木が僕の耳元で囁く。
 「私がいれば世界は変わるよ」
 すぐに前を向いて歩き出す。その口元には悪戯した時のような笑みが浮かんでいる。確かに須田の態度は僕に対してかなり友好的だ。どこまでこの男が計算していたのかは分からないが、僕の世界が変わりつつあるのは本当だった。
 世界は理不尽に満ちている。僕は理由もなく疎外されていた。それを認めたくない為に世界を嫌っていた。幼稚だったのだ。それが厭なら、僕自身が変わるしかない。
 「そうだね、今はそんなに嫌いじゃないよ」
 卯木の横顔を見上げて僕はそう告げる。
 少しずつ世界を好きになろう。そう思う。
 卯木がいる世界なら、そんなに嫌いじゃない。
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