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恋猫1



 世の中は理不尽で満ちている。
 ヒカリは、物心付く前から世の理不尽を噛み締めていると言えた。
 両親は年の離れた夫婦だった。その為なのか、夫婦揃って第一子の誕生に期待を掛けていたらしい。医師に言われたのか、或いはただの思い込みでか、二人とも生まれる子供を女の子と決めつけていた。それは当たっていたが、母親が軽い衝突事故に遭い流産してしまった。
 両親は娘の為に用意していた名前を第二子にそのまま付け、ヒカリの性別に関係なく女の子として育てた。
 髪を梳かしリボンを付け、歩く度にヒラヒラと揺れるスカート。ことある毎に「女の子なんだから」と言われ、ヒカリは疑問も抱かず従っていた。
 姉の流産を母親はなかった事にしたかったのだろうと思う。事故に遭わなければ、あの日に出かけなければ。そんな後悔を続けて、少しずつ狂っていったのだ。
 年配の資産家と結婚した母親は肩身の狭い思いをしていたのだろう。父親もそれを知っていたから妻の狂乱に気付かぬふりを続けた。父親は、面と向かって女の子扱いこそしなかったものの、ヒカリを長男としても扱わかなかった。
 それでもヒカリは両親を恨んではいなかった。ただ自分の境遇を理不尽だと思うだけだったし、理不尽と言うのなら子を失った両親の方がその思いを強いだろうと分かっていたのだ。それに小学校に上がった年に母親は他界しているのだ。故人を責めたところでどうにもならない。
 ただ赤の他人に名前や容姿を揶揄されると頭に血がのぼってしまう。
 物心付くまで女の子として育てられた所為か、ヒカリは普通と違って見えるらしい。小学生の男子からしたら、それは格好の標的だったのだろう。からかって、いじめて泣かす為の標的だ。
 しかし、見た目とは違ってヒカリの気性はかなり激しい。腹が立ったらすぐに殴るし、相手が鼻血を流しても蹴り続ける。母親が死んでからは女の子として振る舞う必要もなかったので、尚更だった。
 その頃に卯木と知り合った。手に負えない乱暴者となったヒカリの監視役兼、幼馴染みとして宛てがわれたのだった。
 卯木は、同い年とは思えない長身で、腕力で勝てるような相手ではなかった。更には頭も切れて年長者のような落ち着きまで持ち合わせていた。
 卯木は喧嘩ばかり繰り返すヒカリを助ける事はしなかった。無関係を装い、ヒカリが勝利したあとに決まって「須田はバカだな」と言うのだった。
 「相手をボコボコにしてもしょうがないだろ。報復されて、それに仕返しをして、ずっと同じ事の繰り返しじゃないか」
 卯木の言う通りだった。ヒカリは上級生のグループに目を付けられ、何度も喧嘩を繰り返していた。だからと言ってバカにされたのでは面白くない。顔を顰めて睨み付けるヒカリに、卯木が苦笑を漏らす。それがまた年齢に似合わぬ大人っぽい表情だったのをヒカリはよく覚えている。
 「大人を利用すればいい」
 卯木はそんな事を言う小学生だったのだ。
 それからヒカリは上級生に絡まれる事がなくなった。その代わり、全校生徒から遠巻きにされた。誰も近づかないのだから、当然のようにヒカリが喧嘩する事もなくなった。
 卯木にその理由を訊ねてみたが、はぐらかされるだけでハッキリとした答えはなかった。だが、当時から今に至るまでヒカリは確信している。
 何をどうしたのかは分からなかったが、卯木が何かしたのだ。
 恐らく父親が卯木に何とかしてくれと頼んだのだろう。そんな事を頼む親も親だが、それをアッサリとやってのけるのが卯木という男なのだ。屈折しているとは言え単純なヒカリに適う相手ではい。
 その卯木が目の前でデレデレしている。言い忘れたが、卯木はこの界隈では知らぬ者のない女誑しだ。男らしい外見と計算高い頭脳を駆使して女達を口説く。それでいて成績優秀で生徒会長を勤めているのだから、女達にとって卯木と関係を持つのは一種のステータスとなっていた。そんな男が鼻の下を伸ばして下心一杯といった顔をしているのだ。一生、自分には勝てないと思っていた相手のそんな姿を見て、ヒカリは何となく裏切られたような気持ちになってしまう。
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