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恋猫3

 振り返る事なく廊下を進み、階段を降りる。背後から足音が聞こえる気もするが敢えて無視する。
 靴を履き替えたところで、それが気の所為でない事が分かる。
 「須田くんって、足早いんだね」
 天真爛漫そのものと言った笑顔で早田が首を傾げる。ヒカリがどんなに睨みつけてもその笑顔は消えない。
 本当にバカなのかも知れない。
 同じクラスと言うだけで、これまで口をきいた事すらなかったのだ。早田がバカなのかそうでないのか、ヒカリには知りようがなかった。
 肩を竦めて歩き出すと、当然のように早田が横に並ぶ。茶色の毛先がフワフワと揺れているのを横目で盗み見て、ヒカリは苛々と呟く。
 「遊びならもっと上手く遊べよ。面倒な事に巻き込むな」
 暗に告白なんかされてんじゃねーよ、と言ったつもりだった。
 佐久間に庇われるようにして立ち去った女は、どう見ても奥手そうで、早田のような奴とは釣り合わない。恋愛そのものに慣れてないように見えた。
 早田はそれに「んー、」と相槌ともつかない声を漏らして、「でもさ」と続ける。
 「片思いのままだと辛いじゃん」
 その言葉が意外だったので、思わず立ち止まり早田の顔をマジマジと見つめる。
 ヒカリの視線に照れたのか、前髪をかきあげ早田がニヘラッと笑う。
 「ちゃんと終わらさないと次の恋に進めないでしょ?」
 「遊び人は言う事が違うな、」
 茶化したつもりはなく、純粋に感心したのだった。早田に関する評価がヒカリの中で少し上がる。優しいじゃないか、と。もっと自分本位で相手の事などまるで考えてないのだと思っていたのだ。
 それに早田が不満そうに唇を尖らせるのを見て、ヒカリはムッとする。
 「何だよ、誉めてるのに」
 「誉められてるように聞こえないよ。それに僕、そんなに遊んでないからね」
 遊び人が自分の事を遊び人だと言う筈がない。だから、ヒカリは「はいはい、」と聞き流す。
 「本当だってば、中一の時からずっと片思いだし」
 それが本当なら早田は一人の人間を五年間も思い続けている事になる。執念深いと言うか何と言うか。しかし、だからこそ先ほどの言葉が出て来たのかも知れない。
 「誰?」
 好奇心から訊ねてみるが、早田はクスッと笑って「内緒」と戯ける。それがムカついたので、足を踏んでやる。すると、悲鳴を上げながらも楽しそうに笑っている。
 「僕と友達になってよ」
 「……どうして」
 笑顔のまま自然な口調で早田が言う。さっきから何度か言われているが、その理由が分からない。自分が手に負えない存在である事をヒカリは充分に自覚しているのだから。
 「須田くんと仲良くなりたいから」
 当たり前のようにそう言われて、とうとう根負けしてしまう。
 「好きにしろ、」
 突っ慳貪に言い返すと、早田が満足そうに笑みを深める。それが子供のように無邪気な笑顔なので、ヒカリもつられて少し笑ってしまう。
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