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恋猫4

 翌日からヒカリの傍に早田が付いて回るようになった。
 これまでの取り巻きと違って、ヒカリの言う事を聞く訳ではない代わりに金を要求する事もない。ただ、一緒にいて能天気な話をしてヘラヘラ笑っているだけだった。
 クラスの連中はそれを見て怪訝そうにするだけで誰も近づいては来ない。ヒカリの父が学校に多額の寄付をしているのが関係しているのだろう。問題が起こった時、責任を取らされるのは他の生徒たちなのだ。だから誰もヒカリに深く関わろうとはしないのだ。
 しかし佐久間だけは時折ヒカリを睨み付けて来る。昨日の事がよほど腹立たしかったのだろう。そう判断して、そよ風ほどにも気に掛けてやらない。元々、佐久間のようなお節介が大嫌いなのだ。
 休み時間の度にやって来てはどうでもいい事を話す早田の相手をしている方が気が楽だった。耳を傾けてみると、早田が意外と読書家だと言う事が分かる。学校で出される課題本の他にも雑多な本をよく読んでいるらしい。
 気になって訊ねてみると、卯木には及ばないが成績は上位だし、頭はいいのかも知れない。
 「須田くんも成績いい方だよね?」
 目尻を下げて早田が言う。それに頷き返して、ふと違和感を覚える。だが、それが何なのか掴み切る前に早田が言葉を続ける。
 「俺、数学が苦手でさ。明日の試験、今から憂鬱だよ」
 「個人授業、してやろうか?」
 知らず知らずのうちに早田のペースに乗せられていたのかも知れない。そう気付いて慌てて取り消そうとするが、「いいの?」と嬉しそうな声を上げる早田に今更ダメとも言えない。
 仕方なく早田を連れて教室を出たところで、卯木と出くわしてしまう。
 「冬馬、」
 呼びかけると、何の用だとでも言わんばかりの顔つきでヒカリを振り返る。そして怪訝そうに眉を寄せる。
 その表情の意味を捉え損ねて、ヒカリは更に怪訝な顔つきをして見せる。
 「どうしたんだよ」
 「ああ、いや。何でもない」
 そう言いながらも卯木の視線は、ヒカリの横にいる早田に向けられている。
 知合いか?
 そう首を傾げるヒカリに、卯木が驚きの言葉を投げかける。
 「確か、ヒカリと同じ中学だったよな」
 誰が。
 いや、この場合どう考えても早田しかいない。現に卯木は早田を見つめたままだ。
 ヒカリは中学を入学して一ヶ月足らずで転校した。それまでは卯木と同じ学校だったのだが、問題を起こして強制的に転校させられたのだ。
 女みたいな名前と顔。ヒカリにとってそれはコンプレックスでしかない。その事をからかって来た上級生に暴行を加え全治三週間の怪我を負わせてしまった。そんな経緯だったので、新しい学校ではクラスに馴染もうとせず、父親が付けたお目付役を連れ歩いていた。だから、ヒカリは早田が同じ中学だと知らなかった。
 しかし不思議なのはどうして卯木がそれを知っているのかだ。
 目で問い掛けると、珍しくきまり悪そうに肩を竦めて見せる。そして曖昧な口調で「いや、何でもない」と言って呼び止める間もなく、立ち去ってしまう。
 その後ろ姿を見送り、ヒカリは早田に目を向ける。
 「俺と同じ中学だったのか?」
 友達になろうと言った割に水臭い。そう思って軽く詰ると、早田が目尻を下げてニコリと笑う。
 「僕、中学の時は地味だったから須田くん覚えてないだろうなって思って」
 だったら、言いたくないのも分かるような気がする。
 ヒカリだって転校した理由を自分から打ち明けた事はない。自慢出来る事ではないからだ。半ばこじつけて、それと同じ心理なのだろうと理解する。
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