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女王の赤い薔薇6

教えられた通りに進む内、既視感に襲われる。
小さい頃、手を繋いで歩いた道。誰と。
白くて暖かいその手は美波に決まっている。だが、そんな筈はないのだ。
美波は死んでしまったし、僕はもう高校生だ。
でも、この道は間違いなく美波の家へと続いている。そんなバカな。
頭を振ってその考えを押しやろうとするのに上手く行かない。
程なくして、住宅街を抜けた小高い丘の上に一軒の家が建っていた。
それを見上げてポカンとする。
どうして、ここでミステリーツアーを?
ここに来て始めて春日さんを疑う。
年齢的に考えれば親交があったのかも知れないとは思う。でも、美波の家に集まるのは親が留守とかで行き場のない子供たちだけだった筈。春日さんがそのうちの一人だっとは思えない。一人でも全然平気そうだ。でも、少なくとも面識はあった。そういう事なのだ。
そうでなかったら、この家を知っている筈はないのだから。
無人となった家の前でユノさんが僕たちを待っていた。
ピンクの花柄スカートに白いモコモコとしたパーカーを着込んでいる。その所為か、夜目にもハッキリとその姿が映って、何と言うか、一瞬前に抱いた緊張すらどこか行ってしまいそうだった。
「来た来たぁ」
間延びした声を上げ、パーカーのフードを被る。そこからタランと伸びた何かは、どうやら耳のようだった。ウサ耳パーカーか。しかも色は白と来た。
ユノさんがアリスをやれば良かったんじゃないのか。
「遅刻しちゃうよ、アリス。急いで」
やっぱり僕がアリスで、ユノさんが白ウサギか。そう思った途端、そこはお伽の国になった……ような気がした。
じゃ、春日さんは何だろう。
「早く早く、急がないと首を刎ねられちゃうよー」
その言葉でピンと来る。
春日さんはハートの女王なのだろう。似合うと言えば似合うのだが、機嫌を損ねたら躊躇いなく首を刎ねられるだろうと納得も出来てしまうので、少しばかりゾッとする。
ユノさんに手を取られるまま家の中に入る。
前に来た時と何も変わっていない。
半ば廃墟と化しているので、靴は履いたままだ。
玄関には大きなシャンデリア。不似合いでしょ、と笑っていた美波の顔が思い出す。
たった数年前の事なのに、遥か昔の出来事のように切なくなる。
美波が死んで、一緒に住んでいた祖母が入院して、この家の管理は近所の不動産屋に頼んだと聞いたが、こうして中に入れると言う事は、春日さんが鍵を持っているのだろう。どんな裏技を使ったのやら。
「んじゃ、先に点呼しまーす」
ユノさんがスカートのポケットからメモを取り出して言う。
きっと参加者の名簿なのだろう。
「名前を呼ばれたら返事して下さいねー」
急いでいると入ってた割りにのんびりした声だ。イヤな事なんか何もない、フワフワとしたおとぎの国にでも住んでいるような朗らかさ。
羨ましいと、ちょっとだけ思う。
美波が死んだと聞いてから、僕の中には暗闇しか残ってないから。
屈託ない様子のユノさんを見ていると、少しだけ昔を思い出して切なくなる。
それなのに、五十嵐さんが僕の肩を掴んで引っ張るものだから突如として現実に戻されてしまう。
「下がってろ」
どうして五十嵐さんに命令されなくちゃならないのか理解出来ない。
そりゃ、部活の一環としてここにいるんだから、生徒会長の言う事は絶対なんだろうなって思う。でも、ミステリーツアーを仕切っているのはミス研の部長である春日さんの筈だ。
言ってみるなら、生徒会と言えど、五十嵐さんは部外者。その筈なのに、まるでこの後の進行が分かってみたいに指図して来るのが少し癇にさわる。
出来るだけ険しい顔で振り返ると、五十嵐さんが戯けたように肩を竦める。
迫力ないですよね、僕の睨みなんか。
そうガックリしていると、僕の耳元に唇を寄せて来る。
「あれは篩いに掛けてるだけだ。心配しなくても犯人は最後まで残る」
犯人って、何?
キョトンと首を傾げる。
そりゃ、春日さんに何らかの思惑があるだろうなって事は何となく分かってた。そして、美波と面識があっただろうって事も、ここに来て分かった。
だからって、犯人なんて言われても何の事だかピンと来ない。
美波が死んだのは自殺で、そこに犯人なんて呼ばれる人物がいるなんて考えた事もない。
ユノさんにしては早口で参加者の名前を呼び上げている。
その声を聞きながら改めて全員の顔を見ようとするが、夕闇迫る時間帯の事でよく見えなかった。だが、これだけは分かる。
みんな、ユノさんのコスプレに呆然と見とれている。
それはそうだろう。薄闇の中に建つ廃墟、その前でフワフワと動き回る白ウサギのようなユノさん。怖いんだか可愛いんだか、よく分からない。
と、ユノさんを追いこして五十嵐さんが中に足を一歩踏み入れる。
何処から取り出したのか黒い帽子を頭に乗せ、恭しくお辞儀をする。
「さぁ、皆さん。ようこそ気狂い帽子屋のお茶会へ」
吃驚、だ。
これには参加者よりも僕の方が驚いた。
「さ、主役は当然アリス」
そう言うと僕の手を取りエスコートする。
「あ、アリスを案内するのはウサギの役目なのに~」
不満そうに頬を膨らますユノさんに五十嵐さんは冷たく振り返る。
「早くしないと女王に首を刎ねられるぞ?」
「チェッ、……と、アリス!!」
「え?」
突然、五十嵐さんの手を払い除けるようにユノさんに手を取られ吃驚して大声を出してしまう。
「予定変更だ。このまま裁判に参加しろ」
「は……?」
確か春日さんには『お化け屋敷』に皆を案内したら帰っていいって言われていたけど。
それよりユノさんの口調がいつもと違う事にビックリしてしまう。
語尾を伸ばしす甘ったるい喋り方じゃなかった。事務的な素っ気ない口調だったのだ。
訳が分からずに聞き返すがユノさんは「遅刻だ遅刻だ」とブツブツ呟きながら奥のドアを潜ってしまう。
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