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女王の赤い薔薇7

「さ、アリス」
五十嵐さんに手招きされて部屋の中央のテーブルに着席する。
「さて、お茶は行き渡ったかな?それでは今日のこのパーティを皆さんが楽しめるように先ずは乾杯!」
そう言って五十嵐さんがティーカップを持ち上げると、それに吊られて参加者達も乾杯する。
何が何だか分からずに僕だけがカップを両手に抱えたままキョトンとする。
「おやおや、可愛いアリスはすっかり混乱しているようだ。それではアリスの為に、そして諸君の為にも今日のパーティに関して少し説明をしておこうか」
何で五十嵐さんが説明するんだろ?
春日さんの話だと、僕はアリスの格好をしてこの屋敷の前まで皆を連れて来る。そしたら玄関にユノさんがいるからそれとバトンタッチして後は帰っていいって事だった。
なのに五十嵐さんがマッドハターで、しかも説明をする言う。
説明って何を?
「アリス、そんなに可愛い顔で睨まないでくれ」
参ったと言わんばかりに五十嵐さんが眉間に指を当てて言う。
可愛いかどうかなんてどうでもいいが、これが睨まずにいられるか。
「さてさて、諸君はこの洋館にまつわる恐怖談を知ってるかな?」
参加者の全員が困惑したように互いに顔を見合わす。
「困った人達だな。自分が参加するイベントについて少しぐらい下調べしないのか?ま、いい」
そう言うと帽子を手に取り指先でクルクル回す。
「何、簡単な話だ。昔、この屋敷にはお金持ちの一家が住んでいた。仕事の忙しい両親は留守がちだったが、優しい祖母と可愛らしい娘……そう、丁度アリスのように可憐な乙女が住んでいた」
五十嵐さんがいらん注釈を付けるので軽く睨む。そもそも、何キャラなんだそれ。
「おっと、話が逸れてしまったかな?面倒見のいい娘は近所の子供たちを集めて、今のようにお茶会を開いたりしていた。まぁ、そんな訳で一家はとても幸せだった。だが、娘が年頃になると言い寄る男が尽きなくなる。両親はおおらかな人で気にも止めて なかった。娘も素直な性格だったのでけんもほろろに断るような事はしなかった。だが、意中の人はいなかったんだな。そこで悲劇が起こる」
帽子が五十嵐さんの指から逃げて床に音もなく落ちる。
「娘に関する根も葉もない噂が飛び交った。違うと否定しても、ムキになるのが怪しいと言われる始末だ。そこで娘は、そんな噂もそのうち消えるだろうと気にしない事にした。それが間違いだった」
そこで言葉を切って僕を見る。
先ほどまでの茶目っ気たっぷりなものではなく、それは気遣うような優しい眼差しだった。でも、そんな目で見られても僕に心当たりはない。
いや、少しだけある。
五十嵐さんの言う『娘』は美波の事なのだろう。でも、よくない噂って?
キョトンと首を傾げると、困ったように溜め息をついて再び言葉を続ける。
「ある晩、蒸し暑い夜だった。娘は自分の部屋が二階にあるから油断してたのだろう。窓を開け放したまま眠ってしまった。深夜、人の気配がして目を覚ますと 見知らぬ男が娘の上に乗っていた。助けを求めようにも両親は仕事で留守だし、他に家にいるのは耳の遠くなった祖母だけ。手足を縛られ口も塞がれ、娘は抵抗らしい抵抗も出来ず男に強姦されてしまう。翌朝、元気のない娘を気遣って両親 は色々質問するが答える筈がない。そして悲劇はそれから数ヶ月後に起きた」
お伽話風なのに、何だか少し生臭い。否、この話は聞きたくない。
まさか美波が……信じられない。
テーブルの周りにいる全員の顔を見て五十嵐さんが言葉を続ける。
「娘は妊娠していた」
ビクンと誰かが震えた。ただ、蝋燭だけの明りの中、それが誰だったのか分からなかった。
「両親はそれを知って驚いた。娘に相手の名を問い質すが、何しろ娘も知らなかったのだから答えられる訳がない。そして今度は娘に子供を中絶するように説得 する。が、これも娘は拒否する。娘の心中は分からないけど、両親もこれには困り果ててしまった。そうして言い争っている内に五ヶ月を過ぎてしまい、中絶さ せられなくなってしまう。妊娠が分かった初期の頃は娘は今にも死んでしまうのではないかと絶望した顔つきをしていたが安定して来るにつれ、落ち着きを取り 戻し、慈愛溢れる眼差しでまだ生まれぬ我が子を見つめるようだった。それに両親は折れた。娘に子供を生ませてやる事に決めたんだ。それから娘は学校をやめ、半年程過ぎて娘は 無事に元気な赤ちゃんを産んだ。ま、大変は大変な事なのだろうけど、誰の子か分からない赤ん坊でも娘にとっては掛け替えないのない我が子だ。こうして一家が平和を取り戻した頃、またもや悪魔は訪れた」
淡々と話す五十嵐さんが少し怖くなる。
「男は娘が子供を産んだと噂で聞いていても立ってもいられなくなってある日、この屋敷を訪れてみた。生憎、両親と祖母は外出しており娘と赤ちゃんの二 人だった。そこで何があったのか誰も知らない。だが、帰宅した両親が見たものは血まみれで息をしていない赤ん坊と正気を失った娘だった。娘はその後、施設に入れられたが治療の甲斐なく自殺してしまう。両親は世間体を気にして祖母を連れて余所に引っ越し、この屋敷は廃虚となった。その娘の幽霊が我が子を求めてこの屋敷に現れるというだけの怪談だ」
具体的な名称が何一つ出て来ない所為か、それとも五十嵐さんの語り口の所為か、酷く現実離れしたまるで造り話のような感じがした。
まぁ、今の話が嘘八百だったとしても演出なのだ。
きっと現実ではない。
握りしめた拳を見つめながら、違うと口の中で呟く。
そんな事があったなんて絶対に僕は信じない。
きっと今の話は適当にでっち上げた出鱈目だ。
「さぁ、アリスお茶が冷めてしまったね。おや?今の話が怖かったのかな?」
考え込んでいた僕の反応はやや遅かった。
五十嵐さんは僕の肩を抱き寄せるとチュッと頬にキスして来た。
「んぎゃ!何す…」
途中で五十嵐さんに口を塞がれる。
「魔よけのお呪いだよ。それにしてもアリス、女の子なのだからもっと可愛らしい悲鳴の方がいいね」
あ、僕の正体が皆にバレるって事か。だとしたら五十嵐さんがそんな事しなければ僕はあんな声を出さずに済んだんじゃないのか?
「さて、そろそろ次のステージへ向かう時間がやって来たようだ。皆さんのご武運をお祈りしてますよ」
そう言われて見てみると奥のドアの前に僅かな明りでも一際目立つ白い塊、否、ユノさんの姿が見えた。
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