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女王の赤い薔薇9

誰かが小さく口笛を吹いた。
「さて、白ウサギ?」
春日さんが色っぽい流し目でユノさんを見る。
ユノさんはそれに全く怯む事なく中央に進むとポケットからレポート用紙を取り出す。
「はい、今回の裁判は誰が……女王様の薔薇を枯らしたのか、であります」
つっかえつっかえユノさんが読み上げる。
春日さんがそれに鷹揚に頷く。
「女王様一番のお気に入りの美しい薔薇の花びらを毟り、枯らせた犯人がこの中におります。今回は公平を期す為に本件とは無関係であるアリスも同席させております。宜しかったでしょうか?」
ユノさんの言葉に春日さんは僕を見て仕方がないとばかりに渋々と頷いてみせる。
それにホッとした様子でユノさんが続けて言う。
「薔薇はその華美な外見とは裏腹に奥ゆかしく可憐でした。誰もが薔薇を敬愛し、憧憬を抱きました。なのに、花が開き切るその前に無惨にも枯らした犯人に情状酌量の余地はありません。女王様、吟味を」
「罪状はウサギの言う通り。しかし、私とて横暴ではないのだから犯人にも反省する時間を与えたいと思う。今この場で潔く名乗り出るなら極刑は許しましょう」
そう言うと参加者を感情の窺えぬ目で見回す。
ミステリーツアーだった筈なのに裁判になっている。だけど、それを指摘する人は誰もいない。みんな雰囲気に飲まれてしまったのか、呆然と立ち尽くしている。
その隙にユノさんが僕の手を取って壁際の椅子に座らせる。
「さぁ、自分の罪を白状しなさい」
迫力に満ちた春日さんの声が部屋に響く。
それに、僕は膝の上でスカートの裾を握りしめる。
美波が死んだ理由は分かった。
五十嵐さんの言う通り、何者かに襲われ身籠りその子供を殺された。
美波がそんな酷い目に遭う理由なんかない。でも、それが事実なのだ。
そして、その犯人がここにいる。
本当なら警察に通報するべきなのだろう。でも、事件を公にしたところで美波の両親も僕も不愉快になるだけだ。そもそも、美波は自殺なのだ。捜査と言っても、美波の子供は事故として扱われただろうし、強姦事件は被害者がいなければ立件出来ない。
ならば、この形容し難い感情の行き場はここ、女王の裁判しかない。
「ハハッ、ごめんなさいで済むなら犯人だってとっくにそうしているさ」
軽やかな声がして僕達が入って来たドアとは反対のドアから五十嵐さんが入って来る。
「さっさと犯人の名前を言えよ」
「……帽子屋の出番はもう終わった筈だが?」
「折角だから最後まで見物させて貰おうと思ってね」
五十嵐さんの言葉に莫迦にしたような目をして春日さんは参加者を再び見据える。
「そう、不本意ながらこの軽薄な帽子屋が言った通りある程度、犯人の目星は立っている。だから諸君をこんなマッドティーパーティに招待した」
そう言って、チラリとユノさんを見る。
「はぁい、じゃ先ず一年生は一歩下がって下さいねー」
場にそぐわない明るい声でユノさんが指示を出す。
急にそんな事を言われて戸惑ってるのか誰も動かない。
「いいんですかぁ、その場にいると犯人に一歩近付きますよ?」
慌てて山本達数人が一歩下がる。
「ふぅん、こんなに混ざってたんだ。女王様ぁ、この人たちどうしますか~?」
「帰しなさい」
「了解でぇす。んじゃ、皆さんお疲れさまでしたー」
訳が分からずに固まって動けない一年生をユノさんがグイグイ廊下に押しやる。
廊下から不平の声が上がったがユノさんが有無を言わせずに玄関まで押しやっているのだろう。喧噪が徐々に遠ざかる。
待つまでもなく息を荒くしたユノさんが戻って来る。
「女王様ぁ!」
泣きそうな声で何かを訴えると春日さんがニッコリと優しく頬笑む。
「よしよし」
軽く頭を撫でられて、えへへと嬉しそうにユノさんが笑う。どんだけ仲良しなんだ、この二人。
「じゃ、次は質問でーす。簡単な問題だから頑張って答えてねん」
ウサギの耳をパタパタと振りながら言う。
「この屋敷には誰が住んでいたでしょうか?はい、君からウサギの耳に聞かせておくれ」
一番近くにいた人物を捕まえフムフムと耳を近付ける。
「はぁい、君こっち。次は君」
と、言う風に残りの参加者達を二組に分ける。
前に三人、後ろに四人。
「女王様、こちらの三名の者はこの屋敷の住人を存じておりました」
「そうですか。では彼等を解放なさい」
「はぁい」
「えっ、」
ユノさんの声に被るように小さな声がした。意表を突かれたような驚いた声だった。
五十嵐さんが腰を浮かし掛けた僕の肩を押さえる。その目を見上げると安心させるように優しかった。
「女王様、」
その時、手を上げたのは服部さんだ。真直ぐに春日さんを見て言う。
「僕もこの場に同席させて下さい」
「断る。事件に関係ないと分かった以上、この場に留まる事は許せません」
「でも、僕も疑われていたのでしょう?ならば無実だった僕は誰が犯人なのか知る権利があると思います」
「その権利は認められません。これ以上の滞りは許しません」
「女王、俺からも提案」
僕の背後にいた五十嵐さんが手を上げる。
「服部はいてもいいと言うか、いた方がいいと思う」
キッと春日さんがきつい視線を寄越す。視線だけで失神してしまうんじゃないだろうかって程、怖かったが、五十嵐さんはそれに怯まない。
「この裁判、記録を残すんだろ。だったら記録係がいた方がいいんじゃないのか?」
春日さんの目が増々吊り上がる。何を言いたいのか分かる。
『阿呆、ボケ、カス、役目終わったなら口出すな』って絶対に言いたいんだ、春日さんは。
結局、春日さんはそれ以上服部さんを追い出そうともせず、五十嵐さんを完璧に無視して裁判を続けた。
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