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女王の赤い薔薇10

「さて、そろそろ犯人を特定してしまいましょうか」
コツ、と音をさせて春日さんが四人に向かって歩く。
「名前は?」
夜遊び魔人がチャラい外見に似合わない狼狽えたような仕草で目を逸らす。
「綿井礼、2-Bだ」
「去年、転校して来た?」
「そうだよ!」
ドンと春日さんが押す。綿井さんが服部さんの方に転ぶ。
「貴方は?」
「守坂雪野。学年も?」
名前を聞いてビックリする。
試験の度に貼り出される順位表では常に一位だし、特待生として入学したと噂で聞いた事もある。そんな秀才が胡散臭いこの行事に参加しているだなんて思わなかった。
しかも見た目も予想と違う。
名前しか知らなかったからもっとガリ勉タイプの嫌味な人かと思っていたけど、目の前にいるのは男子とは思えない小柄でクリッとした目が何だか猫っぽい。
その目が勝ち気そうに春日さんを見据えている。それに苦笑を漏らして、春日さんが首を振る。
「いいえ、結構。貴方はアチラへ」
言われた通り守坂さんはユノさんの横に並ぶ。
「大森勇太」
今度の人は春日さんに問われる前に名乗る。
この人も有名だ。この人がいるおかげでバスケ部の練習はいつも見学者で溢れている。守坂さんと同じく、こういう行事に興味がありそうには見えなかったので待ち合わせ場所でその姿を見た時は驚いた。
「大変、結構です。アチラへ」
すらっと春日さんの指が伸びて僕の方を示す。
これで残りは一人……。
別け方が何だかチグハグで誰が犯人なのか分からない。
僕は知らず身を乗り出し、中央に立つ春日さんを見つめる。

そして最後、坂田先生の前に春日さんが立つ。
「春日、一体これは何なんだ?ミステリ研究会はいつもこんな企画をしているのか?ミステリツアーだって言うから来てみたのに裁判ゴッコだ。何の遊びなんだ?」
そんな坂田先生を静かに見つめて春日さんが弱く頬笑む。
「このツアーは、先生を誘き出す為に企画したものです」
「え?」
春日さんの言葉に坂田先生がキョトンとする。
僕だって同じだ。
どうして坂田先生が、美波を?
呆然とする僕をよそに、五十嵐さんがスッと春日さんの隣に立つ。
赤いブラウスを着た春日さんと、黒い帽子を被った五十嵐さん。二人とも背が高いので、絵になる。
そんな五十嵐さんを横目でチラリと見た春日さんが一歩後ろに下がる。
「美波先輩が学校を辞める時、我々はご両親から相談を受けていたんです」
その言葉が意外だったので目を丸くして五十嵐さんを見る。
「そこで先輩に何があったのか、これからどうするのか、全て聞きました。学校を辞めて子供を生む事、我々はそれに反対したかったのですが、当の美波先輩がそれを望んでいるのだと知って、それならば応援しようという気持ちになりました」
「でも、先生に全てを踏みにじられました」
五十嵐さんの言葉を遮るようにして春日さんが口を開く。
「ご両親は知らないようでしたが、同じ学校に通っていた生徒なら耳にした事のある噂があります。それは根も葉もない、どちらかと言えばヤッカミのような物でしたが、先生はその流言飛語に惑わされ、自分勝手な思い込みで美波先輩を死なせた。私たちは別に仇を取りたいと思っている訳ではない。そんな事をしても美波先輩は生き返らないし、事件がなかった事にはならない。私たちは……私はただ、先生を許せない。そう思っているだけです」
「噂って何ですか!」
僕が離れていた間、美波に何があったと言うのか。
美波は周囲からどう思われていたのか。
それが原因で死んでしまったなんて、どんな噂だったと言うんだ。
思わず声を上げてしまった僕を見て、春日さんが困ったように目を伏せる。
「美波先輩は美人だったし気だても良かった。だから、妬まれたんだよ」
そう言ってユノさんに目配せすると、待ってましたとばかりにタブレットを手渡す。
「近所にビッチがいる。高校生を部屋に連れ込んでやりまくってる糞ビッチだ。すれ違い様にそう言ってやったら、顔色変えてた。ザマミロ」
え……何。急に。
僕の戸惑いをよそに春日さんは淡々と続ける。どうやらタブレットに表示されている文章を読み上げているらしい。
それにしても内容が内容だ。この場にそぐわないし、聞いていて気分のいい物でもない。
「俺にもやらせろって言ってみようか」
そこで何やら操作する。ページ移動したのかも知れない。
「ビッチだと思ったら処女だった。マジかよ」
読み上げた春日さんの顔にはハッキリと嫌悪が浮かんでいる。
きっと僕も同じ表情になっていると思う。
春日さんが読み上げている文章、それを書いた人が美波を強姦して自殺させたって事になる。
「勘のいい人なら分かると思うけど、今のはある人物がネットに書き込んだ発言だ。これ以降、彼が書き込む事はなかったが、以前の投稿で同じ学校に通っている事は分かっていた」
「画像が何度か投稿されていたからな」
そう言ったのは五十嵐さんだった。
「駅前の風景や学校の近所の定食屋のメニューが投稿されていたんだ。知ってる人間が見たらすぐに分かる。これを最初に見た時、俺たちは同じ学校の生徒が美波先輩を襲ったんだと思った」
酷い。
誰が見てるか分からないネットにどうして投稿するんだ。美波が先生に何をしたと言うんだ。
美波はビッチなんかじゃない。小学生の時に会ったのが最後だけど、僕が知っている姉さんは優しくて頼れるお姉さんだったんだ。
「三年は知ってるだろ、美波先輩の家に行った事があるんだから」
五十嵐さんがそう言うと、それまでメモを取っていた服部さんが手を止めて頷く。
「部活をやってない連中がよく招待されてたよな」
「ああ。美波先輩は昔から行き場のない子供に優しかった。お茶と他愛のないお喋り、それがどれだけ楽しいか、大人には分からないんだ。だから、分かるように事実を捩じ曲げた結果、美波先輩が男を連れ込んでるって事になったんだろう」
「そう。生徒だったら美波先輩が家で何をしていたのか、全員知っていたんだから」
五十嵐さんの話に春日さんが同調する。
「だから、私は美波先輩を襲った彼は生徒ではないと思った。だったら、残りは教師しかいない」
その言葉に坂田先生を見る。
暗いのでよく分からないが、先生の顔色は紙のように真っ白だ。
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