スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

女王の赤い薔薇11

「証拠がどこにある」
小刻みに震えながら先生が絞り出すようにそう言う。
春日さんはその言葉に肩を竦めるだけで何も返さない。それに自信を深めたのか、先生が顔を上げて続ける。
「お前たちは何の証拠もなく憶測だけで犯人を決めつけて……問題にするからな、覚えてろ」
それに思わず眉をひそめてしまう。
普段は穏和な印象の先生なのだ。それなのにこんな台詞を口にするなんて、まるで見に覚えがあると言っているようなものだ。
でも、本人はそう思わないのか、勝ち誇ったように春日さんを睨みつけている。
「ええ、もちろん。停学でも退学でもお好きなように処分すればいいでしょう。但し、ここから無事に帰れたら、の話ですが」
そう言って赤い唇をニッと吊り上げ笑う。
「美波先輩は確かに自殺だったのでしょう。ですが、その子供が本当に事故死だったのかどうか、今となっては分かりません。それでも元凶は先生、あなたです」
コツコツとヒールを鳴らして歩き出す。
「成る程、あなたは法を犯したと言えないのかも知れません。強姦は親告罪です。訴える者がいなければ、そもそも罪として成立しない。だから起訴はされない」
コツンと、先生の前で立ち止まり、その顔を覗き込む。
「でもね、ここは司法の場ではないんですよ」
ニッコリと嬉しそうに微笑む。
綺麗なだけで空っぽなその笑顔にゾッと背筋が冷える。
そう思ったのは僕だけじゃないらしく、誰かがゴクッと喉を鳴らす音が聞こえる。
「ここはハートの女王の裁判。裁きを下すのは女王である私」
低い声で呟かれた言葉。それが合図だったのか、ユノさんが何やら取り出して春日さんに手渡す。
細長い棒のような物だ。目を凝らすと、それが乗馬用の鞭だと分かる。
「貴方が私の薔薇を枯らせた」
そう断言すると春日さんの手許で何かがヒュッと音を立てる。続いて破裂音。
咄嗟に手で避けようとしたのか、先生が悲鳴を上げる。それを無視して、再び鞭を振り上げる。
誰も止められなかった。否、止めようともしていなかった。
春日さんは何度も鞭を振い、坂田先生は顔を押さえてその場に蹲る。それでも容赦せずに振り下ろし、訳の分からない悲鳴と鞭のしなる音に室内は包まれる。
「春日さん!!」
溜まらず僕は五十嵐さんの手を振払い春日さんの手に縋り付く。
春日さんは僕を哀れむように見て溜め息をこぼす。
「書記、」
呼ばれて服部さんが顔を上げる。
「全て書き取ったか?」
「当然、」
言いながら小さなメモ帳を広げて見せる。
呆れた。こんなに暗いのに良くもまあってな位細かい字でビッシリ何やら書込まれていた。
「死んだ方がマシ、そう思わせてやる」
そう呟いた春日さんの声には悔しさが滲んでいて、僕はもう何も言えない。
美波が死んで、その喪失感に苦しんでいたのは僕だけじゃない。春日さんも五十嵐さんも、きっとこの場にいる全員に共通した思いなのだ。
自分勝手な思い込みで美波に乱暴して、生まれた子供。僕とは一度も会えないまま死んでしまった。その機会を先生が永遠に奪ったのだ。
僕をジッと見つめていた春日さんが服部さんを振り返り言う。
「今夜中にそれを清書して私のアドレスまで送ってくれ」
服部さんがそれに敬礼して答える。
「ウサギ、アリスを家まで送ってくれ」
「女王様は?」
「帽子屋と一緒に後片付けして行くよ。一枚噛んで来たんだ。それ位は帽子屋も手伝ってくれるだろう」
始めに服部さんが部屋を出て行き、ユノさんに手を引かれるまま僕もそれに続く。
訳が分からず呆然としたまま歩く。春日さんには聞きたい事が沢山ある。
美波とはどんな関係だったのか、どうやって犯人に辿り着いたのか。
そして、どうして今だったのか。
だけど振り返ろうとしたら綿井さんが僕の視線を塞ぐように立っていた。
「行こうぜ、カワイ子ちゃん達」
軽薄そうなウィンクと一緒にそう言ったので何だか脱力してしまいそのまま帰った。
 


連休が明けて学校に行くと少し環境が変わっていた。
それまで親しくもなかった山本が何だかんだと僕の周りをウロウロするようになった。
まぁ、親切な奴だから構わないと言ったら構わないのだが少し鬱陶しい。
あと、綿井さんが休み時間の度にやって来るのにも閉口した。
そして坂田先生が学校を辞めていた。
健康を崩したと言う事だったがそんな筈ない。きっと春日さんが何かしたんだ。
スポンサーサイト

コメントの投稿

非公開コメント

上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。