スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

女王の赤い薔薇12

春日さんが企画したミステリーツアーが美波の仇を取るためのものだったのは分かった。
そこまでするのだから、春日さんが美波と何らかの関わりがあったのも理解した。
でも、どうして今だったのか。
美波が死んで一年が過ぎているのだ。
その間、坂田先生だと分からなかったと言うのなら仕方ないが、あのツアーはどう考えても下準備に時間を掛けている。
まるで僕が入学して来るまで待っていたようなタイミングだ。
思い出してみれば、僕がミス研に入った切っ掛けもちょっと不自然だ。
春日さんはあの時、屋上で何をしていたんだ?

守坂さんと別れて教室に行くと、坂田先生が学校を辞めたと噂になっていた。
何でも病気療養の為と言う事だったが、そうじゃないと僕は知っている。
春日さんが何かしたのだ。でも、何を?

ジリジリと放課後になるのを待つ。
構って来る煩い連中を無視して部室に向かうと、ユノさんが一人で本を読んでいた。
「あれ、春日さんは?」
そう声を掛けると、「うー」と唸りながら顔を上げる。
「本当に来たんだねぇ」
本日も派手な衣装に身を包み、僕を見る。
白いワンピースに黒いブラウス、赤いフード付きのカーデガン。傍らには籠が置いてあり、ツインテールの髪は淡い栗色。多分だけど、赤ずきんなのだろう。
フードを下ろしたユノさんの顔は困ったと言うように眉が下がっている。
「もう来ないと思ってたよー」
「どうしてですか。それより春日さんに聞きたい事があるんですけど」
美波と知合いだったのか、坂田先生が本当に犯人なのか、そして坂田先生はあれからどうなったのか。
この際、ユノさんでもいいから聞いてみようかと口を開きかけた時、部室のドアが引かれ生徒会長である五十嵐さんが顔を覗かせる。
「春日はどうした」
部室を見回して、僕と同じようにユノさんに問い掛ける。それに対してユノさんが逆毛の立った猫のように威嚇のポーズで言い返す。
「教える訳ないじゃん。部外者は出てけー」
ツアーの時も思ったけど、この二人は仲が悪いらしい。と言うより、ユノさんが一方的に嫌っているようだ。
五十嵐さんはそんなユノさんに慣れているのだろう。アッサリとそれを無視して、部室に入って来るとソファに座り足を組む。
「ユノ、お茶」
その口調と仕草が春日さんにそっくりで驚いてしまう。
ユノさんは五十嵐さんに従うつもりはないらしく、フーフー威嚇するように唸っている。
「こんな物を手に入れたんだが」
五十嵐さんがポケットからチラシみたいなのを取り出す。
何だ?と覗き込んで仰け反ってしまう。
新聞部の出した号外だった。大きな見出しの下にはやけに綺麗な写真。
『アリスとティーパーティー』
「人気者だな」
ニヤッと笑って僕を見る。 気が滅入って細かい字なんて読む気もしない。
パッと見た限りでは、ミステリーツアーであったお茶会の様子が書いてあるらしい。
「ふにゃっ、何でアリスだけなの。ウサギはぁ?」
「正体が分かってんだ。誰もそんな物好きじゃないんだろ」
「うぅ、納得行かない」
「それより、春日さんは?」
話題を変えたくて露骨に大きな声で言ってしまう。
「詩音はね、今日学校に来てなかったよ」
「え、」
「でも大丈夫。放課後来るって連絡あったから」
そう言うと、本を片付けて冷蔵庫を開ける。覗いてみると、ガラス製のポットが冷やされていた。
それからグラスを四つ取り出してセッティングする。
あんなに威嚇していたと言うのに五十嵐さんの分も用意するらしい。人がいいと言うか何と言うか。
それに、ここにいるのは三人なのに、コップは四つ。
きっと春日さんの分なのだろう。そう思っていると、ガラッと戸が開く。
振り返ると、春日さんが冷ややかにこちらを見ていた。
皆、その場で硬直してただ只管そんな春日さんを見る。
「バカ二人、それにボケが一人」
「誰が莫迦で、誰がボケなの?」
めげない。この言葉はユノさんの為にあるのだろうか。
「バカは……」
ユノさんを見てそれから五十嵐さんに視線を移す。
「え?私かぁ、参ったなこりゃ」
照れたようにユノさんがテヘヘと鼻を掻いて笑う。何故だ。
「バカってのは気に入らないが、確かに一人惚けているのがいるな」
五十嵐さんがそんなユノさんを無視して僕に目を向ける。
ボケって言われても、何が何だか分からないんだから混乱するのは当たり前だと思う。
春日さんは僕の視線を鬱陶しそうに手で軽く振払うとついでに五十嵐さんを追い払い、定位置のソファに腰掛ける。
「で?」
僕にではなくユノさんに話を促す。
「私はここ数日眠る間もない程に忙しかったから今日は久し振りにゆっくりできると思ってたんだけど、何の用なのかな?」
「えへ、ごめんね。でも気になるじゃなぁい?」
全く『悪い』なんて思ってない口調でユノさんが言う。ユノさん以外の人物だったら即座にあの世行きだ。
「坂田、どうなったの?」
ユノさんがあどけない表情でそう訊ねると春日さんはハッと鼻先で笑ってソファに仰け反る。
「始末した」
「始末……?」
一介の高校生が、教師を始末……って、まさか。
「と、言っても殺した訳じゃない」
僕の顔色を読んだのか春日さんが全く抑揚のない声で続ける。
「闇金に手を出していたから、居場所を教えてやって迎えに来させただけだ。ま、今頃はどうだか知らないけど。私が帰った時にはまだ生きていたね」
鬱陶しそうに長い髪をかきあげる。
ユノさんは春日さんの言葉に困ったように僕を見て、それから更に困ったように五十嵐さんを見る。
その視線を受けて五十嵐さんが口を開く。
「春日、脅すような物言いをするな。ここにはいたいけな子供が二人もいるんだから」
「へえ、どこに?」
ユノさんが手を上げて小さく跳ねる。
それに春日さんは諦めたように額に手を当てて目を閉じてしまう。
「あの、」
今、訊かなかったらきっとチャンスはない。
そう判断したから思いきって言葉を発してみたものの、三人の視線をまともに浴びて途端に焦る。
「どういう事なんですか、皆さんは美波を……その、知ってたんですか?あの話は本当なんですか?」
順序立てて聞こうと思っていたのに必死で紡いだのはこの程度。
春日さんは今日始めて見る優しい顔つきで暫く僕を見つめる。
その澄んだ目を見つめ返す内に何だか胸が痛くなって泣きたくなってしまう。
「小さい頃から彼女には世話になっていた。当然、ユノと五十嵐も彼女とは面識があった」
「え、」
「覚えてないか?何度か一緒に遊んだよ。君は掴み所のないちょっと風変わりな子だったな。ただ、美波先輩は心配していた。友達が少ないんじゃないかって。まぁ、毎週遊びに来てたから美波先輩に依存してるのかなとは思ってたよ」
やっぱり、『あの』美波の事なのだ。
優しくておとなしくていつも微かに頬笑んでいた。
思い出す美波は、だからいつも笑顔で。
だからそんな姉さんがそんな酷い目に会ったなんて俄には信じられなかった。
美波姉さんの事を家で話してはいけなくなった。
だから美波姉さんと同じ道を辿って、彼女に何があったのか知ろうと思った。
あんなヒドイ出来事だったなんて。
僕が子供だから両親は言えなかったのだ、きっと。
こんな事なら知らなければ良かった。でも、知りたいと思ったのは僕なのだ。
「だから真澄ちゃんを裁判に立ち会わせるつもりはなかった。辛かっただろう、済まなかったね」
ふわ、と果敢な気に春日さんが微笑む。
やっぱりこの人って綺麗だな、と場違いな事を思ってしまう。それと同時に、デジャヴュに襲われる。この笑顔をどこかで見た事があると思った。
「あ……しーちゃん?」
幼い頃の記憶と一致する。
お菓子を貰ってニッコリと微笑む小さな女の子。大人しくて無口で、誰とも仲良くならなかった双子の一人。
「覚えてたか」
そう言って肩を竦めるところを見ると、矢張り春日さんはエキセントリックなしーちゃんと同一人物らしい。
え、全然違うし。
中学高校と、どんな経験を積んだらここまで変われるんだ。神秘的な美少女だったしーちゃんが物凄い変人になってるなんて……何と言うか勿体ない気がする。
だけど、しーちゃんの隣にはいつもかのちゃんがいた。もしかして、かのちゃんもそういう変化を遂げてしまったのだろうか。
「あの、かのちゃんは……?」
そう訊ねると、春日さんはニヤリと意地の悪い笑みを浮かべる。
「高校生にもなってベッタリな訳ないだろ」
「はぁ……」
「両親が離婚して、今は離れて暮らしてるよ」
そうだったのか。じゃ、劇的ビフォーアフターの理由はかのちゃんと離れてしまったから。仲が良かったし。
間違っても元から変人だったとは思いたくない。神秘的な美少女の中身がこんな風だったなんて……何て言うか詐欺だ。
溜め息をついて気分を入れ替える。
「あの、もう一つ聞いていいですか」
春日さんがそれに片方の眉を上げる。
スポンサーサイト

コメントの投稿

非公開コメント

上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。