スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

極上の趣味 1

ゴチャゴチャしている。
東京にやって来て、宮森が最初に思ったのはそれだった。
繁華街と言う訳でもないのに高いビルが立ち並び、カーナビを駆使しているのか細い路地にまで車が入り込んで来る。ボンヤリしていたら轢かれそうだった。
そして、極めつけが電車の乗り換えだった。
時刻表を見た時、宮森は我が目を疑った。
五分に一本、下手したら二分間隔で走っていたりもする。これで事故が起こらないのだろうかと不安になったが、その反面、駅のホームで一時間ボンヤリ電車を待つ必要がないのは有り難かった。
だが、その感謝も長くは続かなかった。
確かに行き先を確認して、やって来た電車に乗ったのだ。それなのに目的地とは違う駅に連れて行かれた。
呆然とするしかなかった。
こんな時の為にと、両親が持たせてくれたスマホを使い電車の乗り換えを調べる。
どうやら宮森が利用する路線は地下鉄と私鉄が相互に乗り入れているらしく、途中の駅で乗り換える必要があったようだ。
何これ、難易度高過ぎでしょ。スマホを握りしめたまま溜め息をつく。
これを都会の人間は当然のように乗りこなしているのか。そう思うと、小さな子供にすら尊敬の念を抱いてしまいそうだった。
それから一年掛けて、宮森は自分が使う路線だけでもシッカリ覚えようと努力した。その甲斐あって、学校までは何とか自力で行けるようになった。
それ以外の場所に行った事がないと気付いたのは二年に進級してからだった。学校以外は近所のコンビニぐらいしか行った事がない。それで事足りたのだ。
その事実に愕然とした。
思い返してみれば、環境が変わった事への戸惑いばかりが先に立ち、学校での己の立場に無頓着だった。
つまり友人と呼べる相手が一人も存在しないのだ。
宮森が通う高校は中高一貫教育を謳っており、その所為なのかほぼ全員が中学時代から顔見知りだった。宮森のような外部からの入学生は少数なのだ。
ただでさえ珍しい外部生。しかも宮森は自分の外見が目立っている事を知らなかった。
生まれつき色素の薄い髪と子供っぽい大きな目。それだけならまだしも、宮森は引っ越しの際に都会者に舐められて堪るかとピアスを開けた。
不良=ピアスと言うのが何ともステレオタイプで物悲しい。数年後には間違いなく黒歴史となっているだろうが、本人は大真面目だった。まぁ、電車の乗り換えに手間取って、それどころではなかったのだが。
そして一年経って、漸く周囲に目を向ける余裕が出来た。
すると、驚いた事に誰もピアスを開けていない。それどころか制服を着崩している生徒すらいない。頭髪が茶色なんて以ての外だ。
ヤバい、と。
宮森は真剣に焦った。ピアスは外せば何とかなるが、髪は染めなくてはまずい。教師には生まれつきだと説明してあったが、これでは教室で浮いてしまう。
始業式を終えたその足で美容院に行き、黒く染めて貰った。
しかし、手遅れだった。
一年生の時から茶髪にピアスだったのだ。本人の知らない所で噂は一人歩きしており、既に宮森は『チャラい二年生』として有名になっていた。
こうなると成績が幾ら良くても挽回出来ない。寧ろ、チャラい癖にと陰口を叩かれる始末だ。
更にまずい事に、生徒会長にまで目を付けられてしまった。
この学校の生徒会は少しばかり変わっていて、書記と庶務は必ず一年生、会計は二年生にさせるのだが、会長と副会長の選挙は二年に一度しかない。任期は二年間。
つまり会長と副会長以外の三年生は生徒会に所属する事はないと言う仕組みだった。恐らく受験の為だと思うが、会長に選ばれた生徒は大変だろうなと同情したくなる。
だが、今期の会長は同情に価しない。
去年から引き続き会長職に就いているのは、三年の西垣と言う。
容姿端麗、成績優秀、文武両道。これら四文字熟語が厭になるほどよく似合う。ついでに言うなら生徒会長も四文字だ。
それは兎も角。
西垣は教師から信頼厚い上に生徒たちにも人気がある。
スラッと伸びた背筋とキリリと引き締まった目元。それを左目の下にある泣き黒子が印象を和らげている。
一人も友人のいない宮森ですら知っている生徒会長のプロフィールは以下の通りだ。
付き合っている彼女はおらず、一番の親友は同じ学年のサッカー部主将。
絵に描いたような爽やかさのおかげで告白する女子は数知れず。美形で面倒見がいいのだから尚更だろう。
そんな好青年が宮森を見ると、目元を顰め顔全体で不愉快だと表現する。
茶髪にピアスの頃なら分かる。校内の風紀を乱す不良だと思われたのなら納得が行く。
しかし、ピアスを外し髪色も黒くしたと言うのに会長の宮森を見る目は変わらない。
目に付かないようにと必要以上に出歩く事は控え、登下校もそそくさと逃げるような足取りだと言うのに気が付いたら西垣がジットリと睨むような目で宮森を見ている。
元々孤立していたのだが、周囲もそんな生徒会長に気付いたのだろう、クラスメイトにまで敬遠されるようになってしまった。宮森が話しかけようとしても全員が素知らぬ顔で目を逸らすのだ。
そこで何だか馬鹿らしくなってしまった。
誕生日に兄から貰ったのピアスを気に入ってたし、髪を染めるにも金が掛かる。
優等生ぶったところで無駄なのだ。だったら、元に戻った方が楽。
そう結論を出した宮森はアッサリと元の姿に戻った。とは言え、少ない小遣いをやりくりしていたので美容院に行くのは躊躇われ、二ヶ月も過ぎる頃にはいわゆる逆プリンになってしまったのだが。
窓に写る自分の姿を見て、まぁいいかと思うぐらいにはものぐさな性格をしていた。
スポンサーサイト

コメントの投稿

非公開コメント

上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。