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極上の趣味 2

退屈なまま授業を終え、解放された生徒たちがグループを作って帰って行く。それをボンヤリと眺め、別に羨ましいとかじゃないんだからね、と声に出さず強がってみる。
高校生にもなって一人で行動出来ないほど幼稚ではない。寧ろ気侭に過ごせて自由を満喫出来るのだから有り難い。
そうは思っても、自ら望んでそうなった訳ではないので腹立たしい。
積極的に声を掛けなかった自分を棚上げして、宮森の主観では一人ぼっちなのは生徒会長の所為という事になっていた。
人はこれを八つ当たりと呼ぶ。
一人でいてもスマホをいじっていればいい。そう思うだろうが、残念な事に授業の妨げになると言う理由で校内では携帯電話が一切使えない。禁止されているのではなく、文字通り使用出来ないのだ。通信機能抑止装置という物が設置されているのだ。電波がジャミングされてしまうので、通信は不可能という事だ。
そうなると授業の合間の10分も一人では持て余してしまう。
そこで宮森は、一人でいても苦にならない何かを探すと言う、少し間違った努力をした。
その甲斐あってかどうか、辿り着いたのは読書だった。
本を読んでると頭良さそうに見えるからチャラいイメージを払拭出来るかも知れない。おまけに履歴書の趣味欄に堂々と書ける。素晴らしい。
そんな安易な理由だったが、いざ読んでみると案外嵌まってしまった。
傾向としてはミステリーが好みのようだったが、目に付いた本は手当たり次第に読んでみた。おかげで宮森の部屋には本棚に入り切らないほどの文庫本が山と積まれてしまった。
ライトノベルから実用書、純文学にSFと。
近所の古書店にある本を片っ端から購入していたので、無駄にレパートリーが豊富になった。
しかし、部屋の面積には限りがある。
気に入った本だけ手元に残して、あとはすぐに売り払っているのだが、本の山は一向に減る気配がない。このままでは家族に文句を言われる日も近い。
そう焦った宮森は図書館の存在を思い出した。
借りて読めば手元に本は残らず、財布にも優しい。
それはいいアイデアのように思えたが、図書館までの道程を思うと気が重くなった。
一年掛けてやっと学校までの道を覚えたのだ。その上、図書館だなんて絵に描いた餅のように現実味がなかった。だが、天は宮森を見捨てなかった。
何と、校内に図書室があったのだ。
それを知ってすぐに図書委員に立候補した。
幸いにも、委員に空きがあったのですんなりとその座に収まる事が出来た。
図書委員の主な仕事は本の貸出しと返却された本の整理だ。
そして、委員になってみて始めて知ったのだが、図書室の利用者は少ない。常連の生徒が数名いるばかりで、他は図書室の存在すら知らないのかも知れないと思うほどだった。
よって、貸出しを求める生徒も返却される本の数も少ない。よって、図書委員は当番制になっていた。大抵の場合、二人でカウンター業務を受け持つ。
今日はその当番の日だった。
図書室は西校舎の一階にある。東校舎に教室のある宮森は、渡り廊下を歩かなければならない。
校舎は西と東に別れており、それを繋ぐ渡り廊下。上から見たらカタカナの『コ』の字になっているだろう。
渡り廊下は一階と二階にしかないので、それぞれの校舎の三階四階からは二階まで降りないと移動出来ない。何故、こんな面倒な造りになっているのかと怪訝に思うが、恐らくどちらかを後から建て増しした結果なのだろうと宮森は思っていた。
図書室の鍵を開ける。貴重品がないからか、数字錠を使っていた。
教えられた数字に合わせてグルグル回していると、「宮森くん」と声を掛けられギクリと肩を震わせてしまう。
図書委員が図書室を開けているのだから疾しい事など何もない。頭ではそうと分かっているのに、西垣の所為で誰からも嫌われていると思っているのだ。そんな宮森を気安く呼ぶ友人など一人もいない。目に見えていじめられた事はなかったが、いつそうなってもおかしくないと思っている。だから、呼ばれると恐怖の余り挙動不審になってしまうのだ。
「は、い……?」
ギクシャクと振り返った先にいたのは、校内の有名人である三年の松村だった。
開校以来の秀才と噂され、入試からずっと学年一位の成績を保っている。
これまで面識はなかったが、流石に宮森もその名は知っていた。
松村はフレームレスの眼鏡の奥からニコニコと宮森を見つめる。人好きのする笑顔だった。だからでもないが、宮森も釣られて笑顔を浮かべてしまう。
「今日の当番は君なんだね」
「あ、今開けます」
図書室に用があるのだろう。そう合点した宮森は慌てて鍵を開ける。
窓を閉め切った室内はムッとする空気が立ちこめていた。その足でブラインドを上げ、換気用の小窓も開ける。
そんな宮森を黙って見ていた松村だったが、時計をチラリと見上げて小さく頷く。
何だろう?
不自然なその動作の理由を考えるが、宮森に分かる筈もない。すぐに忘れてカウンターに着く。
前回の続きをやってしまおうと思ったのだ。
基本的にカウンター業務だけやってればいいのだが、図書室の本を粗方読み尽くしてしまった宮森は退屈しのぎにと、本の修繕を行っていた。
いや、修繕と言うほど大層な事は出来ない。埃を払い汚れを拭き取り、中のページが破れていないかどうか確認するだけだ。
捲るのも難しいほど破れていたら除けておく。そういう本は閉架書庫の本棚にしまうのだ。借りたい生徒は専用の用紙に記入してカウンターに提出する。それを受け取った委員が閉架書庫から本を取り出し貸し出すという仕組みだった。
他の図書委員がそれほど熱心ではないので、これは宮森だけが行っている業務だった。それでも特に不満はない。卒業するまでには終わるだろうと楽観的に構えている。
今は過去の卒業アルバムをチェックしている。最近の物から遡っているので、今日は八年前のアルバムの筈だった。
松村が本の貸出しに来ないのを確認して席を立つ。
目当てのアルバムを探して本棚に目を走らせるが、ない。
前回終えた七年前のアルバムの隣は一冊分ポッカリと空いており九年前のアルバムが並んでいる。
誰か貸し出したのか?
学校の記録なのだから図書室には歴代のアルバムが揃っている。だが、在校生が過去の卒業アルバムに興味があるとは思えない。去年や二年前ならまだ分かる。しかし、八年も前の物を借りて何をするんだ。
予定が狂った事に些かムッとして、宮森はパソコンで借りていった生徒の名前を調べる。
有り難い事に検索システムがある。全ての蔵書が入力されており、貸出しと返却にそれぞれ日付を入れる事になっている。もちろん、借りて行く生徒には用紙に記入して貰う。
何かあった時にアナログとデジタル、両方から調べられるようになっているのだ。
そうする事で間違いを防ぎ、本の紛失を食い止める事が出来る。
検索項目にアルバムと打ち込み、続けて該当の年を入力する。
結果、誰も借りていない事が分かった。
しかし棚にないのだ。他の棚に分類されたかと探してみたが、アルバムは大きいので探す棚も限られている。それでも見つからない。
誰かが手順を踏まずに持ち去った。
そうとしか思えなかった。
だが、何の為に。
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