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極上の趣味 7


それでも付いて行こうと思ったのは、松村が菩薩のような慈悲深い笑みを浮かべていたのに絆されたのと、西垣が怖いという心理からだった。
射抜くような目でジッと見つめられたら誰だって怖い筈だ。
そう言えば西垣は生徒会長になる前の数ヶ月間、弓道部にいたと聞いた事がある。道理で目つきが鋭い。
そんな現実逃避にも似た納得をしていたら、三年生の教室のある西校舎から見回る事になったようだ。現在地から近いからだろう。
軽くそう考えていたが、階段をのぼる二人の会話から他にも思惑があるのだと知れる。
どうやら他にも手紙で呼び出された者がいると確信しているようなのだ。しかも三年生。
先ほどは聞き流してしまったものの、西垣が名前を上げたのは全員三年生の筈だった。何しろ、それぞれが有名人だ。
西垣が名前を上げた辻という三年生はすこぶる評判が悪い。
傷害と暴行で何度も警察沙汰になっているが翌日には釈放されている。噂では、親が相当の金持ちらしく息子の不祥事を揉み消しているのだとか。
久保は雪華という名で流行のユルフワ系女子だ。見た目だけでなく中身もそうだと有名だ。
そして森橋は一年生にもいるが、恐らく三年生の方だろう。二人は兄弟だ。
弟の方は翼と言って今年度の生徒会会計を務めている。宮森とも委員会で何度か顔を合わせた事がある。
兄の方は司と言ったか。サッカー部の主将で西垣の親友。
前後の脈絡からして兄の方だろうと宮森は当たりをつけたのだが、本当にそうだった。
律儀に自分の教室にいたのを発見したのだ。
窓際の席で雑誌を捲っていたらしい、物音に振り向いた顔は怪訝そうなものだった。
「西垣と松村か。珍しい組み合わせだな」
どうやら長身の二人の影に隠れて宮森の姿は見えなかったらしい。
「どうしたんだ、もう見回りの時間か?」
そう言いながら雑誌を閉じてそこで漸く宮森に気付いたのか、ギクリと震える。
はじめて間近で見るサッカー部の主将はこれまた大きかった。宮森とて172cmあるのだが、目線は森橋司の肩ぐらいの高さにしかならない。
「佐川……」
呟かれた名前に宮森は眉を寄せる。
別に校内にその名を轟かせる有名人ではない。だから自分の事を知らない生徒がいても当然だった。しかも学年が違うのだから接点もない。
だが、佐川という名前は良くない。何故なら、宮森の名前は青と言うのだ。
佐川と青、つまりA.Sになってしまう。
「別人だそうだ、司も手紙を受け取ったのか?」
西垣の問い掛けに森橋司が「ああ」と頷く。
「見せてくれ」
その催促に躊躇うようにチラリと宮森を見る。
そんな目で見られても宮森としては心当たりがないので首を傾げるしか出来ないのだが。
諦めたように森橋が取り出した手紙を全員で覗く。
そこには先の二通と同じように時刻と場所、但し三Bと教室が指示されていたが、何より違っていたのは鉛筆の走り書きを消した跡があった事だ。目を凝らしてよく見ると、それは「ヒトゴロシ」と書いてあったようだ。
「え?」
不穏な言葉に思わず声を上げてしまう。そんな宮森の視線を嫌って、森橋が目を逸らす。
「間違いないようだな」
何が?
そう訊ねたいのだが、その場に漂う空気が重たく宮森は口を開けない。
西垣は手紙を返すとポケットから飴玉を取り出す。三角形のイチゴ味の奴だ。
何をするのだろうかと見つめていると、包装紙を剥いて宮森の口に押し込んで来る。唐突な動きだったので思わず、その指に噛み付く。
「痛いぞ」
物理的な圧力を感じそうな目で睨まれ、宮森は咄嗟に歯を浮かせ西垣の指を離す。その意図を察したと言うのもあった。
どうやら宮森に質問させたくないらしい。無理矢理、見回りに付き合わせておいて何て勝手なんだ。
だが、ここで口を挟んでも森橋も松村も教えてはくれないだろう。
何しろ『ヒトゴロシ』なんて物騒な単語なのだ。何かの比喩であったとしても説明したくないに違いない。
素直に口の中で飴をコロコロさせる。本当なら噛んでしまいたいところだったが、三人の話を黙って聞くのに丁度よかったのだ。
「これはもう間違いないね」
松村がそう口を開き、西垣が頷く。
「ああ、どうやら佐川の復讐をしたい奴がいるらしい」
佐川って誰?
ここまでのやり取りで朧げに分かったのは、何者か知らないが佐川という人物は宮森と似ているのだろう。だから西垣と松村は差出人を見て、宮森をその佐川だと思った。
だが、森橋の手紙にあった走り書きと西垣の言葉から察するに、コロサレタのはその佐川某らしい。
筋が通るようで矛盾している。
シャリッと飴を噛み砕き、宮森は漸く発言する。
「ちょっとトイレに」
言い捨てるようにしてそそくさと廊下を進む。
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