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極上の趣味 8

発言を封じられたのだから、質問したところで答えてはくれないのだろう。だったら、自分には関係ない事だ。
そう割り切ってしまおうとしたのだが、狭い個室に落ち着くと厭でもこれまでの出来事を思い出してしまう。
イニシャルだけの手紙、西垣の視線、森橋に呼ばれた名前。そして殺されたと思われる佐川。
それらを繋ぎ合わせると、何者かが佐川の名を騙り三年生を呼び出した。そして宮森の正体がその佐川と言う事になる。
それはあり得ない。
手紙を出した覚えもなければ、宮森は生まれた時からずっと今の姓なのだ。
つまり誤解だ。
さて、どうしたものか。
松村辺りは既に誤解だと分かっているだろう。西垣も納得したように見える。だが、その目を見ればそれが本心ではないだろうとも分かってしまうのだ。
自分自身の証明。
簡単なようでいて自力では案外難しい。
昔から宮森を知る人物がいれば、証言させてお終いなのだが、残念な事に宮森は一年前に引っ越して来たばかり。都合のいい幼馴染みなどいる筈もない。
ならば、反対に佐川を知っている人物ならどうだ?
そう考えて、すぐに意味がないと肩を落とす。
三年生の三人ともが佐川を知っている。彼らに対して別人だと証明しなければいけないのだ。
面倒臭いな。
腕を組んで考えていると、不意にドアをノックされ飛び上がりそうになる。
考え事に没頭していて誰か来た事に気付いていなかったのだ。
「はいっ、」
焦る余り語尾が裏返ってしまう。
ひと気のない放課後の学校。そしてトイレ。
バカバカしいと普段は気にもしていなかった怪談を一瞬にして思い出してしまったのだ。
誰に聞いたのか定かではないが、廊下を走る子供の足音、音楽室から聞こえる歌声、中庭の消えない血痕、黒板に書かれた「助けて」と言う文字、屋上まで続く足跡。そして、トイレの怪異。どこの学校にもあるような七不思議だ。
だが、宮森は鼻で笑う事が出来ない。
最後に挙げたトイレの怪異。
それがどんな物だったのか思い出せないのだ。
花子さんってドアをノックするんじゃなかったっけ……?
聞きかじった程度で詳しくないのが裏目に出て、花子さんがノックするのか、花子さんを呼ぶ為にノックするのか、宮森にはどちらか分からない。
そして、こういう場合、何故か良くない方向に考えてしまう。
どうしよう、ドア開けちゃってもいいの?
開けた途端、オカッパの女の子がいたりしたらどうすればいいの?
オロオロとドアを見て、目を逸らし、知らん振りをしようとするが、返事をしてしまった手前、それも難しいだろうと頭を抱える。
ジッと足元を見つめて、ふと、これで上向いて誰かが覗いてるのと目があったらどうしようと怖い想像をしてしまう。腰抜かす自信あるんですけど!
顔も上げられなくなり、進退窮まってしまう。
すると、再び。
コンコン。
「ひぃッ!」
慌てて口を手で塞ぐが、悲鳴が漏れてしまった。
もうダメだ。花子さんに俺がいるってバレちゃったよ。
涙目になっていると、「いつまでトイレに籠ってるんだ」と聞き覚えのある声がする。
西垣だ。
なかなか戻って来ないので迎えに来たのだろう。
それにホッとしてドアを開け、大急ぎで閉めたくなる。
すぐ近くに花子さんならぬ西垣の美貌が迫っていたのだ。怪談よりもこっちの方が怖い!!
「具合でも悪いのか」
目つき鋭くそんな事を問われ、宮森は慌てて首を振る。
「全然!」
その勢いのまま水道を捻り手を洗う。
ザブザブと水音をさせながら、鏡をチラリと盗み見てギョッと震える。
西垣が鏡越しに睨んでいたのだ。
睨まれていると気付いてから既に数ヶ月。
いい加減、慣れてしまえばいいものを何故か宮森はその目に慣れる事が出来ない。
「この学校の怪談を知っているか」
鏡の中で西垣がそう唇を動かす。
曖昧に首を振って見せると、冷笑を浮かべ言葉を続ける。
「手を洗っていると鏡の中に子供の姿が写るんだそうだ。丁度、今みたいな状況だな」
やめて、怖い。
慌てて水道を止め、鏡の前から一歩離れる。
そんな宮森にハンカチを差し出し、西垣がボソリと呟く。
「八年前だ」
「え?」
ハンカチを受け取っていいものかどうか悩みながら西垣を見上げる。
「全部の怪談を知ってるか?」
再度グイッと差し出されたので、渋々受け取りそれに答える。
足音、歌声、血痕、「助けて」、足跡。そして今聞いたトイレの鏡。
指折り数えてみると、六つしかない。
それに西垣が頷き、口を開く。
「もう一つは屋上から飛び降り続ける影だ」
それは……何て言うか、余り一般的ではない怪談だな。
そんな事を思いながら宮森は使ったハンカチをどうすればいいのかと躊躇ってしまう。
このまま返していいものか、或いは洗ってアイロンでも当てて返した方がいいのか。
ごめんなさいね、友達いないもんで知らないんですよ。
宮森の手からハンカチを受け取った西垣が眉間に皺を寄せる。
やっぱり遠慮なくゴシゴシ拭いたのがマズかった……?
でも、ビチャビチャだったんだからしょうがないじゃん。
開き直った宮森の思惑を無視して、西垣が言う。
「八年前、ここの屋上から子供が飛び降りた」
「は……子供って、ここ高校じゃん?」
キョトンとする余り、素で言い返してしまう。そんな宮森を見て、何やら難しそうな顔をした西垣が「行くぞ」とトイレから出て行ってしまう。
恐怖の権化でもある西垣と行動を共にするのは御免蒙りたいところだが、怪談をされてトイレに置き去りはもっと怖い。
やめて、花子さん出たらどうするの。
そんな訳でスタタッと小走りになって西垣を追い掛ける。
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