スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

極上の趣味 10

振り返ると、女子が二人駆け寄って来る所だった。
軽く脱色したのか、柔らかな色合いの髪を緩く巻いた女子と、それとは対照的に日本人形のように黒髪ストレートの2人組だ。
先ほどの話から想像するに、ユルフワの方が久保で黒髪が島津だろう。
「良かった、みんないて」
ホッとしたように笑顔を浮かべる久保を見て、宮森はほんの少しウンザリする。
薄く施された化粧もあって、久保はかなり可愛い。ニコニコと天真爛漫そうに笑っていところなんか男ならデレッと脂下がってしまうに充分だ。
でも、この状況でその笑顔。
どう見ても西垣とその他二人に媚びているとしか思えない。
それが悪いとは言わないが、宮森は男に媚びる女が苦手なので、「こりゃないわ」という感想を抱いたと言う訳だった。
「変な手紙が机に入ってたから不安だったの」
そう言ってふわりと西垣の腕に絡み付く。
宮森は学年が違うのだし、他の三人に比べてネームバリューが低いのだから比較対象にはならない。だが、松村でもなく森橋でもなく、西垣に行ったと言う事は、この中で一番のお買い得って事なんだろうな。女子って現実的だし。
小さく溜め息をつくと、不意に視線を感じてビクッとする。
何だ何だ。慌てて見回すと、久保の後ろにいる島津が鋭い眼差しで宮森を見ていた。
「二年の宮森青、でしょう?」
宮森の視線に気付いたのだろう、特に慌てた様子もなく島津が声を掛けて来る。
「はい、」
否定する理由もなかったので頷き返すと「余り似てないじゃない」と小さな声で呟く。どうやら宮森が佐川アオイに似ていると言うのは一部の三年生の間では有名なようだ。
「佐川くんはもっと小さくて可愛かったのに」
「……それは小学生だったからじゃないですか?」
高校二年生と小学生だ。体格が違うのは当然だろう。
宮森のツッコミに島津が納得したように「そうね……」と頷く。どうやら男子三人よりも理解が早いらしい。助かる。
そうホッとしたのも束の間。
「え、その子が宮森って言うの?」
甲高い悲鳴のような声で久保が叫ぶ。正直言って耳が痛い。本当なら耳を押さえたいところだったが、何とか顔を顰めるに留める。
「変な手紙送って来て、何考えてるの?」
久保の方は島津よりも頭の回転が鈍いらしい。有り体に言ってしまえばバカっぽい。
「イジメは悪かったって言うけど、あれに関しては佐川だって悪かったじゃない」
そんな事を言われても、宮森には何の事だかサッパリ分からない。戸惑った顔で西垣を見ると、眉間に皺を寄せて黙り込んでいる。なので仕方なく久保に続きを促す。
「どうして佐川アオイが悪かったなんて言うんですか」
「だって、そうでしょう。ただでさえ女の子みたいな顔してるのに、西垣の事が好きだって言うから。そんなのいじめられて当然でしょ」
それを聞いてその場にいる全員の顔を見る。どうやら事実らしい。
「顔が可愛いって言っても男なんかに好かれて西垣も迷惑したでしょ?」
そうなのか。漸く合点が行った。
西垣と森橋は恐らく小学校の時から仲が良かったのだろう。そしてクラスの中心だったに違いない。
そんな西垣を好きだと言った佐川アオイ。彼はからかいの対象となり、イジメられたのだ。それに西垣は兎も角、松村が加わったとは思えないが、口出ししたらエスカレートするのは目に見えている。だから傍観するしかなかったのだ。
「しかも、飛び降り自殺だなんて当て付けがましい事して。西垣だけじゃなくて私たち全員に迷惑掛けたも同然よ」
それにしてもどうしてそういう思考回路なんだと、久保の話はかなりイライラする。
誰が誰と好きだとしても、それは久保には関係ないだろう。佐川アオイの苦悩は佐川アオイしか知らない。死んでしまったのは残念だし、正しい選択だったとは思えない。でも、だからと言って久保が佐川アオイを責めるのは違うだろう。
「久保さんは佐川アオイをイジメていたんですね」
気が付いたらそう言い返していた。
だが、そうとでも考えなければ辻褄が合わないのだ。
佐川アオイが死んだ事によって迷惑を掛けられた。しかも、久保は当て付けに死んだとまで言ったのだ。ならば、久保もイジメグループに属していたのだろう。
「違うわよ、私はちょっと……その、」
「雪華、認めなよ」
言い淀む久保に島津が冷たい声で囁く。
「イジメの発端は雪華が噂を流した事でしょう」
「え?」
松村と森橋が怪訝そうな声を上げる。どうやら当事者でも知らない事があるらしい。
「最初は女子のグループ内での噂だったんだよ。佐川くんが西垣を好きみたいだって。それが広まって辻の耳に入って、そして教室で男子がからかい出した。そこで泣いたりしたら西垣も一緒にからかわれる事になるからって佐川くんは出来るだけ相手していなかったんだけど、辻にはそれが物足りなかったみたい。次第にイジメはエスカレートして佐川くんのお小遣いを巻き上げたり、物を隠したり……殴る蹴るの暴力もあったみたいよ」
その言葉に宮森は呆気に取られ、島津を見つめる。
これまで西垣にイジメられて来たと思っていたが、佐川アオイと比べたら遥かにマシだった。小学生でそんな事されたら、学校に行くのが厭になっただろう。
「それ、誰も止めなかったんですか」
三十人以上の子供がいて、誰も何も言わなかったのか。
西垣は当事者だから言えなかったにしても、松村や森橋は何をしていたんだ。まさか関係ないからと黙って見ていたと言うのか。
「何もしなかった訳じゃないけど……結果的に何も出来なかったと言うのと同じよ」
悔しそうに島津が呟く。それを聞いて、目の前にいる上級生のこの女の子はきっと佐川を助けようと心を砕いたに違いない事が分かる。
「島津さんは佐川アオイと仲が良かったんですか」
「家が近所だったから少し話をした事があるだけ」
きっと嘘だ。
島津はイジメの全容を知っているようだから、きっと調べたのだろう。
それだけ佐川アオイの事を気に掛けていたのだ。
バカだな、佐川アオイ。死ぬ前に少しでいいから島津さんに相談すれば良かったのに。そうしたら今頃、ここにもいたのかも知れないのに。
会った事もない少年に、宮森はそう語りかけてしまう。
スポンサーサイト

コメントの投稿

非公開コメント

上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。