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極上の趣味 12

そうは言ったものの、成す術もなく西垣に引きずられたまま食堂に移動する。
東校舎の一階にある食堂は玄関から近く、帰る時の手間を考えたらここで待機させるのが妥当なのだろう。何せ西校舎には常に施錠された非常口があるきりだ。
鍵の掛かった非常口って何の意味があるんだろ。
宮森はそう思うのだが、他のメンバーは気にしていないらしい。
壁際の自動販売機で飲み物を買って寛ぐ気満々だ。
「他に誰かいないか見て来る。何事もなければすぐに戻る」
西垣の言葉にジュースを飲んでいた連中が注目する。それを見て、宮森は生徒会長の発言力に驚いていた。
別に従う必要などないのだ。それなのに女子二人は当然そうするべきと思ってるかのように従順だし、森橋に至っては他に選択肢はないと最初から思っているように見える。
リーダーシップとはこういうものなのか。
そう感心しながらも、個人的な感情の所為か宮森は納得出来ず口を挟む。
「皆してここで待つ必要なんかないでしょ。先に帰らせてもいいんじゃないですか」
当然だろう。
校舎の見回りは生徒会の仕事なのだ。全員がそれに付き合う必要など、本来ならどこにもない。
宮森の言葉に松村が困ったような顔をする。
「それは正論だと思うよ。でも、手紙の差出人が気になるってのが本音かな」
そう言われてしまうと、部外者である宮森にはもう異論を挟む事が出来ない。
ここにいる三年生は全員が同じ小学校の出身、多かれ少なかれ佐川アオイへのイジメに関わりがあるのだ。
そんな佐川アオイの名前で呼び出されたのだから、差出人の意図が気になるのも無理はない。
「そうだな、松村の言う通り俺は手紙の差出人を突き止めたい。だけど、これは強制じゃない。帰りたい者がいるなら帰って構わない」
松村の言葉を受けて森橋と女子二人を見て西垣が言う。
それに対する答えは全員が「残る」というものだった。
森橋は当然と言う顔つきでそう言ったし、島津も戸惑ったようではあったが「やっぱり気になるから」と理由を述べた。
ただ、久保だけがハッキリと「西垣が残るなら」と答えた。
生徒会長だし頼りたいと思っても無理はない。
そう軽く考えた宮森は「俺は帰りたいです」と言う。
全くの無関係なのだから、この言い分は通るだろうと思った。だが、西垣が「ダメだ」と言う。
「どうして。俺は関係ないでしょう」
「俺と松村に来た手紙を忘れたのか、指定された場所は図書室だっただろうが」
「だからって、」
反論しようとする宮森を怖いほど冷たい目で睨み、西垣が言葉を続ける。
「佐川と似た宮森が当番の日を狙って、佐川の名前を使って俺たちを呼び出す。偶然とは思えない。何か意図があった筈だ」
そう言うと、宮森から目を逸らす。
「俺と宮森で校舎を一周して来る。何かあったら大声で呼んでくれ」

そんなやり取りを経て、宮森はとうとう西垣と二人になってしまった。
問答無用とばかりにズルズルと引きずられ、抵抗を諦める。
ならばと、足を動かしながら頭も動かす。
朧げではあるが、西垣が宮森を睨んでいた理由も分かった。
過去にイジメで自殺した佐川アオイに似ているから。
兄弟か、或いは本人。そう思ったのだろう。
どれぐらい似ているのか分からないし、小学生と高校生では顔立ちだって変わってしまう。だから、似ていると言っても雰囲気とかそういうものだろう。
そこまで考えて、肝心な事を聞いていないと気付く。
「カイチョー、質問いいですか」
西垣に対してどう接すればいいのか計りかねている所為なのか、口調が安定しない。
だが、言いたい事が伝わればいいだろうと宮森は思う。
「何だ」
宮森の口調に頓着する様子もなく、西垣が厳しいとも思える冷たい声で問い返して来る。
「佐川アオイがカイチョーを好きだったからイジメたって事だったけど、カイチョーは佐川アオイをどう思ってたのかなって」
すると、西垣が何とも形容し難い表情をする。
強いて言うなら困惑しているような顔つきだ。
「佐川アオイが可愛いってのはさっきチラッと聞いたけど、やっぱり鬱陶しいとか思ってたの? あと、どうして皆がそれを知ったのか気になる」
どういう意味の『可愛い』なのかは分からないが、佐川アオイは男なのだ。同じ男である西垣を好きだったとして、それを口外するとも思えない。
ならば、誰かが暴いたと考えるのが妥当だろう。
「イジメのキッカケは佐川の両親が離婚した事だったと思う。十才やそこらの子供にとって親の離婚は大きな事件だ。しかも、佐川の父親が辻の父親の会社に勤めていたものだから、離婚の理由まで広く噂されたんだ」
「理由?」
「母親の浮気だそうだ」
それは、まぁ……子供にとって辛いとしか言いようがないんじゃないだろうか。
佐川アオイがどんな家庭で育ったのか、宮森は知らない。
それでも母親と子供の関係と言うのは、父親のそれと違って密接なものだと思っている。
そんな母親に裏切られて、心の整理が付かないまま、学校で噂までされたのでは登校拒否ぐらいしてもしょうがないと思う。
「無知な分だけ子供は残酷だ。聞きかじった言葉を使いたくてウズウズしてたんだろうな、佐川は『アバズレの子供』って呼ばれてた」
「うわ……」
面と向かってそんな言葉を吐かれたら、宮森なら怒る。一瞬にしてメーターを振り切る自信さえある。
だが、佐川アオイは違ったのだろう。
「教室でそう囃し立てられる事もあった。だが、辻の親父が権力者だったからか、教師は注意する事もなかった。佐川に対するイジメはどんどんエスカレートして、生傷が絶えないようになった。そこまで来たら流石に見ていられなくなって何度か佐川を庇ったんだが……それが悪かったらしい」
「どうして」
「佐川が俺に依存して来たからだ。その所為で、それまで静観していた女子までがイジメに加担するようになって更に収拾が付かなくなった」
「依存って、どんな?」
「学校にいる間は俺にベッタリだったな。授業中はずっと視線を感じたし、下校の時も気が付いたら後ろを歩いていた」
それはちょっとストーカーっぽい。
そうは思うが、イコール恋愛と言う考えも少し無理があるように思う。
「久保が言ったんだ」
「え?」
「男の癖にって、気持ち悪いとも言ってた」
そうか、と宮森は納得する。
先ほどのやり取りからして、久保が西垣に惚れてるのは確実だろう。その頃からずっと西垣に片思いしているとしたら、佐川の視線の意味もすぐに察しただろうし邪魔だから排除したいとも思っただろう。
「その時はどうして久保がそこまで佐川を嫌うのか理解できなかったが、高校にあがって分かったんだ」
恋敵だからじゃなくて?
キョトンと首を傾げると、西垣が「流石に学年が違っていたら知らないか」と苦笑する。
「久保は双子なんだ。男女の二卵性だから余り似ていないがな」
「この学校にいるんだ?」
「ああ。美しい雪と書いてヨシユキと読むらしい」
「その人と何の関係が?」
「小学校に上がる前らしいから詳しくは知らないが、誘拐されてどうやら性的な悪戯をされたらしい」
その言葉に久保の顔を思い浮かべる。
そんなハードな過去があるように見えなかった。
だが、その所為で同性同士という言葉が久保にとってタブーになったと言うのは納得出来た。
「美雪は親戚に預けられてたらしく小学校は違ったんだが、高校から地元に戻って来たらしい」
「だから、さっきは名前が出なかったのか」
「そういう事だ」
そんな話をしながら階段をのぼる。
東校舎に来たのだから職員室を見るつもりらしい。
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