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極上の趣味 13

先を歩く西垣に付いて行くと、予想通り職員室のドアに手を掛ける。
すんなりと開いたドアの隙間から中を覗き込むと、何やら作業をしていたらしい教師が驚いたように顔を上げた所だった。
三年の学年主任をしている戸田だった。
宮森のクラスは受け持ちではないので授業を受けた事はなかったが、まだ二十代だと言うのにくたびれた外見をしているので何となく覚えていた。
「見回りか、西垣」
そう言いながら宮森を見て怪訝な顔をする。
生徒会に属していない宮森を連れているのが不可解なのだろう。
だが、西垣は戸田のそんな視線を無視して頷き返す。
「戸田先生は研修に行かなかったんですか」
「ああ。仕事が終わらなくて、少し遅れて行く事にしたんだ。それよりまだ残っていたんだな」
「はい。他にも何人かいたので食堂に集めてあります」
「何人いるんだ?」
「俺と宮森を含めて全員で六人です。まだ他にも残っているかも知れません」
「そんなにいるのか」
戸田が疲れたような溜め息をつく。
下校時刻はとっくに過ぎているのだ。ペナルティを課せられると分かっていながら、校舎に残っている生徒がいるのは教師にとって面倒でしかないだろう。
「一人ずつ帰らせるのも手間なので見回りを終えてから全員帰らせようと思ってます」
「鍵は持ってるのか」
「はい、通用口の鍵を」
「そう……じゃ、鍵はここに置いて行った方がいいな。何かあった時、生徒に鍵を持たせてたってなったら問題だし。見回りが終わったら呼んでくれ」
それに西垣が眉を上げて戸田を見る。
確かに生徒に鍵を預けて自分達は慰安旅行なんてバレたら大問題になる。ここで戸田に鍵を預けてしまえば、少なくとも西垣の責任にはならないし、学校側も多少の体面は保てる。
西垣もそう思ったのか、鍵を戸田に渡す。
それを受け取った戸田はぞんざいな手つきで白衣のポケットに押し込むと席を立つ。
「じゃ、僕も見回りするか」
職員室を出て数歩進んだところで戸田が言う。
「僕は二階を見るから宮森は三階を、西垣は四階を頼んでいいか?」
そう言われてしまっては断れない。
二階には保健室や放送室など、鍵の掛かる部屋が多いのだから教師である戸田が行った方が効率がいい。どう見ても戸田はさっさと終わらせたいようなのだから余計だった。
それに頷き、その場で戸田と別れる。
階段を上り三階まで来たところで不意に向かいの西校舎で何かが動くのが見えた。
「あれ、」
宮森の声を聞き逃さなかったのか、西垣もそちらに目を向ける。
「今、何かあったような……」
「誰かいたな」
言うが早いか、西垣は渡り廊下に向かって走り出す。咄嗟の事だったので、考える間もなく宮森も後を追う。
自分達の足音に紛れてパタパタと走り回る足音がする。その足音からすると、どうやら相手は小柄な人物のようだ。
それにトイレで聞いた七不思議を思い出してしまい、宮森は何だか厭な気分になる。
西垣の話によると、この学校の七不思議が子供に纏わるものになったのは八年前の事らしい。そして、西垣の同級生だった佐川アオイは十才の時に自殺している。
そこから考えられるのは、この学校に出る子供の幽霊は佐川アオイと言う事になる。
宮森は佐川アオイと会った事はなかったが、元同級生が幽霊になっていると言うのはどんな気持ちだろうか。
「二階に行った、追うぞ」
西垣の言葉に従い階段を駆け下りると、小さな人影が廊下を奥へと走っていた。
「追い詰めたな」
この先は生徒会室しかない。相手が誰なのか知らないが、生徒会長である西垣がすぐ隣にいるのだ。まさか生徒会室に鍵を掛けていないと言う事もないだろう。つまり、窓を破らない限り相手はどこにも逃げられない。
そう思って足を緩めると、人影が生徒会室に吸い込まれるようにして消える。
「え?」
声を上げたのは宮森だったが、西垣も訝しんでいるのが気配で分かる。
「鍵掛けなかったのかよ」
突慳貪に問い掛けると、「そんな筈はない」と冷静な答えが返って来る。
取りあえず生徒会室の前まで行き、ドアに手を掛ける。ガチャンと手応えがして、どうやら内側から鍵を掛けられたらしい。
「顔は見えたか?」
「そこまでは見えなかったけど、うちの制服着てるのは分かった」
だからこそ宮森は子供の幽霊という可能性を捨てる事が出来たのだ。
「心当たりがある」
そう言うと、西垣がドアに鍵を差し込む。図書室と違って数字錠ではなく、差し込むタイプの鍵を使っているらしい。
カチャンと音がして鍵が開く。
ヒッと声がして、小柄な人物が生徒会室の奥へと逃げ込む。
「翼、何をしているんだ」
西垣の言葉の通り、そこにいたのは生徒会の庶務をしている一年の森橋翼だった。
宮森は委員会で何度か顔を合わせた事がある。
その時の印象では小柄な体格と相まって制服でなかったら小悪魔的な美少女っぽというものだったが、目の前にいるのはどこか怯えた目をした小動物のようだった。
「会長……」
観念したのか、ガックリと項垂れる。
宮森は翼の気持ちが痛いほどに分かってしまう。
西垣の目は怖いのだ。目つきが鋭いし、眼力がある。そんな目で睨まれたら、何もしていなくても謝りたくなるのは宮森だけではないらしい。
「下校時間を過ぎているのが分からないのか」
「……すみません」
ションボリと肩を落とす翼を見て、西垣がフゥと溜め息をつく。
「司に来た手紙を見たのか」
それに対してコクンと頷く。
「そうか、お説教は司にして貰え。食堂にいる筈だから」
「会長にも手紙が届いたんですか」
翼の問い掛けに西垣が頷く。
兄弟なだけあって同じ小学校を卒業したようだ。ならば、兄に届いた手紙を見て佐川アオイの件を思い出したとしても不自然ではない。
「あ、だったら翼がカイチョーと見回りすればいいんじゃないかな?」
何しろ生徒会の役員だ。宮森が同行するより理に適っている。
なのに、西垣が「ダメだ」と言う。
それにムッとして目を向けると、やけに真剣な顔をして宮森を見つめていた。
「宮森は俺と一緒に行動しろ」
高圧的な物言いに反発を覚える。沸き上がった感情のまま口を開き言い返す。
「何でだよ、俺は関係ないだろ!」
高校に入ってから、西垣の所為でずっとボッチだった。
それでも面と向かって文句を言わなかった。
西垣が怖いと言うのもあったが、何事にも本気になりたくないと言う宮森の性格がそうさせたのだ。なのに、何故だか本気で腹が立ってしまった。
「宮森先輩、」
翼がそっと肩に手を乗せて来るのに、ハッとする。
沸騰しそうな頭の片隅では、何でこんなに怒ってんだろと不思議に思う自分もいた。その所為か、風船が萎むように怒りは小さくなりアワアワと意味もなく口を押さえる。
「会長に悪気はないんです、怒らないで下さい」
何故か翼がそうフォローして来る。
怒るだなんて滅相もない。寧ろ、今の俺の発言がごめんなさいですよ!
訳の分からないテンションのままブンブンと首を振る。
それを見て、翼が困ったように小さく笑う。
小柄な翼がそういう表情をすると女子より柔らかな雰囲気になる。
「すみません、会長がコミュ障……じゃなくて口下手なんです」
翼の言葉に、宮森はギョッとして目を丸くする。
柔らかい口調で毒を吐いたぞ。やっぱり生徒会怖い……。
「目つき悪いから誤解されがちだけど、本当はノミよりも小さな心臓してるんです。だから宮森先輩から話しかけてあげて下さいね」
コテンと首を傾げて見上げて来る。
生徒会長に向かってノミとは……外見が可愛いだけに言葉の辛辣さが増してるように感じる。
「そ……そうなんだ」
西垣よりも翼の方が怖い。これまではそれぞれ単品でしか見た事なかったので分からなかったが、セットになると翼の黒さが際立って見える。
そう判断した宮森は翼には逆らうまいと心に決めて曖昧に頷く。
と、その時。
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