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極上の趣味 14



ガシャン!

何かが割れる音が響く。
その場にいた三人が揃って、音のした背後を振り返る。すると、廊下側の窓の外、そこを白い何かが上から下へと落ちて行く。
「何、今の」
思わず声を上げ、廊下に出る。
はめ殺しの窓に手をついて中庭を覗くと、園芸部が世話をしている花壇に埋もれるようにして白衣の裾が見える。
「え、人……?」
しかも白衣と言う事は、さっき会った戸田なのかも知れない。
でも、どうして。
校舎の窓は全て開かない造りになっているのだ。それなのに、どこから落ちたんだ?
中庭から校舎へと視線を移動させると、後ろから翼が「四階です」と指差す。
見ると確かに四階の窓が一枚割れていた。
「取りあえず助けに行かないと!」
そう叫んで宮森は階段に走ろうとするが、西垣がその場から動こうとしない事に気が付いて足を止める。
「カイチョー、どうしたの」
焦れて大きな声を上げる宮森を見て西垣が小さく首を振る。
「無駄だ」
「は……無駄って行ってみないと分からないじゃん」
言い返して再び花壇を見やると、草花に隠れてよく見えないが白衣が赤く染まっている。
「救急車呼ぶとか!」
「どうやって?」
「それは電話……で、」
そこまで言って、校内では携帯電話が使えない事を思い出す。だが、学校の固定電話を使えばいいと考え直す。
「とにかく一階に!」
「出られないだろ」
「……え?」
冷静な声で言われて宮森はカクンと首を横に倒す。
出られないってどうして?
怪訝な顔をすると、西垣が溜め息混じりに言葉を続ける。
「校舎の玄関は既に鍵が掛かっている。下校時間の前に担当の教師が見回りをして、鍵を掛ける事になっていたんだ。俺はその後に確認して職員用の通用口から出るように言われていた」
事務的に淡々と話す西垣は何を考えているのか全く分からない無表情で、宮森はそれに厭な予感がする。
「通用口の鍵って、まさか……」
「さっき戸田に渡してしまった」
その言葉に先ほど見た血で染まった白衣を思い出す。宮森も見た。
戸田は西垣から受け取った鍵を白衣のポケットに入れたのだ。
「つまり……ここから出られないって事?」
そんなバカな。
呆然と呟く宮森に西垣が「そんな訳ないだろう」と言う。
「職員室に行けば警備会社の電話番号があるだろうし、何より救急車を呼ばないといけないだろ」
「あ、そうか……」
下校時刻を過ぎても校舎に残っていた事がバレてしまう。だが、そんな事を言ってる場合ではないのだ。
花壇に倒れた人影はピクリとも動かないのだ。一刻も早く救急車を呼ぶべきだった。
「宮森は翼と一緒に食堂に行ってろ。俺は職員室に行って救急車を呼ぶ」
ここに突っ立ってても埒があかない。
西垣の言葉に頷き、翼を見ると小さな頷きが返って来る。
渡り廊下を過ぎて階段で西垣と別れる。
気を抜いたら走り出してしまいそうだったので、手摺りを掴みゆっくりと階段を降りる。
横を歩く翼も同じ心境なのか、固い表情のまま宮森の歩調に合わせていた。
「さっき、音がした時」
その翼が唐突に口を開くので、宮森はビクッと肩を震わせてしまう。
「な、なな何……?」
激しくどもる宮森に呆れたのか、翼が苦笑を浮かべるがすぐに表情を引き締めて言葉を続ける。
「二人とも僕の方を見ていたでしょう?」
戸田が落ちた時の事だと漸く理解して「うん」と頷き返す。
「生徒会室のドアは開いたままだったし……だから戸田先生が落ちた時、僕はそれが見えたんです」
「何が?」
「東校舎の二階に誰かいたんです」
「え?」
「一瞬だったから誰だったのかは分かりません。でも、男子の制服でした」
翼の話が本当なら、自分達以外にも誰かがいるという事だ。
そこで西垣と松村が話していた事を思い出す。
佐川アオイの名で呼び出された二人は、他にも同じように呼び出された三年生がいると言っていたのだ。
その話の通り、森橋と久保、島津がいた。
そして、二人は辻も残っている筈だと言っていた。
ならば、その辻が見回りの目を避けて東校舎にいたのだろうか。
「それに、戸田先生が落ちたでしょう……だから、他にも誰かいるんじゃないかと」
「どうして?」
話してるうちにだいぶ気分が落ち着いた宮森は翼を見て問い返す。
「その……」
言いづらい事なのか、翼がモゴモゴと口籠る。足を止めてジッと見つめていると、その視線に根負けしたらしく、言葉を続ける。
「校舎の窓が全部開かない造りなのは知ってますよね。その窓なんですが、防犯シートが貼られていて……ちょっとぶつかったぐらいじゃ割れないんです」
「そうなの?」
「はい。数年前に子供が入り込んで校舎の屋上から飛び降りたのは知ってますよね」
佐川アオイの事だろう。だから宮森は小さく頷き返す。
「その時に学校側が取った対策の一つです。外からの侵入者を防ぐ為にそうしたんです」
そう言えば図書室も換気用の小窓しか開かない造りになっていた。
許可なく校舎に侵入した場合の罰則が厳しいのはその為なのだろう。
「だから、戸田先生がちょっと蹌踉けただけじゃ窓は割れないんです」
「誰かに突き落とされたって事?」
そう言いながら生徒会室での一部始終を思い出してみる。
翼が奥にいて、宮森と西垣は廊下に背中を向けて話していた。そこに窓の割れる音。慌てて廊下に飛び出すと、戸田が窓の外を落下して行くのが見えた。
そこから分かるのは、窓が割れてから戸田が落ちるまで数秒とは言えタイムラグがある事だった。
「誰かが窓を割ってから戸田を突き飛ばした……?」
防犯フィルムが貼ってあったと言うのだから、窓を割るには何か道具が必要だろう。たとえば椅子とか。
その事から分かるのは、戸田が落ちたのは事故ではなく誰かの悪意による物だという事だ。
でも、誰が。
佐川アオイの復讐だろうか。しかし、戸田は関係ない筈だ。
ならば、その誰かは戸田が邪魔だったから。そんな理由で四階から突き落とした事になる。
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