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極上の趣味 15

何とはなしに暗い気分のまま食堂に行くと、全員がソワソワと宮森を見つめて来る。
何て説明しよう。そう迷っていると、一番奥に座っていた森橋兄が翼を見つけたらしく、「おい!」と尖った声を上げる。
「何でそいつがいるんだよ」
爽やかスポーツ少年だと思っていたが、どうやら宮森の偏見だったらしい。
森橋司の態度はどこからどう見てもヤンキーのそれだった。
「あー、何かお兄ちゃんに届いた変な手紙を見ちゃったらしいです」
茶化すつもりはなかった。だが、色々あって疲れていたので猫を被るのが面倒になったのだ。
宮森の口調に司が更に目を怒らせる。
あぁ、こりゃブラコンだ。
そう思ってチラリと翼を見ると、いつもの事なのか涼しい顔をしている。こっちもか。
考えてみれば、翼は司を心配して校舎に残っていたのだ。ブラコン以外の何ものでもない。
「そんな事よりさっきの音だけど」
猫被りをやめたついでにため口で言う。すると、久保と身を寄せ合っていた島津が「何の音だったの?」と問い掛けて来る。
「戸田センが四階から落ちたらしいッス」
続けて、鍵がないので外に出られない事。よって、自分達は救助に行けない事を告げる。
「だから、カイチョーが救急車呼んでるところ」
戸田が突き落とされたらしい事と他にも誰かいるらしい事は敢えて言わないで置く。言ったところで何の役にも立たないし、余計に混乱させるだけだと思ったからだ。
そこまで話したところで、廊下から騒がしい物音が聞こえて来る。
何か言い争いをしているらしい。何事かと思ったのは宮森だけではなかったようで、松村が食堂のドアを開ける。
そこには西垣に襟首を掴まれた辻がジタバタと引きずられて来るところだった。
遠目に見た事はあったが、こんな至近距離で見るのは始めてだった。
真っ先に宮森が思った事は、目つき悪い男だなってものだった。
如何にも不良ですと言わんばかりの髪色と髪型。ワイシャツのボタンは三つほど開けられ、襟元に細い金の鎖が見える。ズボンは当然のように腰履きで、進学校では珍しく頭悪そうな出で立ちをしている。
そんな辻を引きずる西垣の後ろにもう一人いる事に気付く。
こちらも金に近い茶髪で、制服は一応キチンと着ているものの、矢張り不良っぽい。
「吉野、コイツを何とかしろ」
辻がそう怒鳴るので、後ろにいる人物は吉野と言うらしいと分かる。
「何とかって言われても……」
モゴモゴと口の中で言い訳を呟く所を見ると、不良っぽい外見に似合わず、吉野は気が弱いらしい。
それに意味のない親近感を覚え、宮森は西垣を見る。
「二階の廊下にいたから連れて来た」
端的にそう説明すると、西垣が辻を食堂に突き飛ばす。荒っぽいその手つきから、良く思ってないらしい事が分かる。校内でも有名な不良だ、いや、もしかしたら前科が付いているかも知れない人物なのだ。生徒会長をしている西垣が良く思っている筈もなかった。
床に倒れるようにして座り込んだ辻に松村が手を貸す。
優等生である松村も辻を嫌っているものとばかり思ったが、そうでもないらしい。
辻を立たせてから「西垣」と呼びかける。
「何だか気が立っているみたいだけど何かあったのか」
松村の問い掛けに西垣が躊躇うように目を逸らす。
戸田の事なら既に宮森が伝えてあるので、気まずく思う必要などないのに。
「カイチョー、救急車来るって?」
来ない道理はない。だから確認の為にそう言ったのだが、西垣が左右に首を振る。
「来ない……と言うか呼べなかった」
「え?」
「電話線が切られていた」
その言葉に食堂内がシンとなる。
誰もが戸惑い、発言するのを恐れているかのようだった。
俄には信じられなかった。
物心付いた時から携帯電話を持ち歩き、パソコンを起動させれば世界中と繋がる。そんな宮森たちにとって電話が通じない世界なんてある筈がない、そう思っていた。
それがこうも簡単に覆るとは……貧血を起こしたように頭がクラクラして、宮森はギュッと目を閉じる。
「職員室にある電話は全滅だった。校長室も試そうとしたけど、鍵が掛かっていて中に入れなかったんだ」
各自が持っている携帯電話は校内では使えない。
つまり、外に連絡を取る手段は皆無と言う事だ。
「こうなるとは思わずに鍵を戸田に渡してしまった。申し訳ないが、暫く校舎から外に出る事もできないだろう」
西垣がそう言うと、宮森の背後からヒステリックな声が響く。
「どういう事、何で戸田に鍵渡しちゃうのよ!」
振り返ってみると、久保が目が吊り上げて西垣を睨んでいた。
先ほどまでは西垣に好意を寄せているように見えたが、切羽詰まった状況では色恋沙汰など後回しになってしまうのだろう。
今にも掴み掛からんばかりの久保を島津が両手で掴んで宥めている。
「雪華、落ち着いて」
「落ち着ける訳ないでしょ!厭よ、閉じ込められるなんて!」
「だからって大声出してもしょうがないでしょう」
女子二人のやり取りを黙って見ていた森橋が不意に「なぁ」と呟く。
「戸田が落ちたのと電話線が切られてたのって、手紙と関係あるのかな」
その言葉に全員がハッとしたように凍り付く。
手紙の差出人が戸田を突き落とし外との連絡手段を断ったのだとしたら、その人物の目的は間違いなく復讐だろう。
そして中庭に落ちた戸田はピクリとも動かない。
こうなってしまっては相手を説得したところで思いとどまってはくれないだろう。だいたいからして、誰なのかも分からないのだ。説得のしようがない。
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