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極上の趣味 18

「待機組だが、食堂で夜を明かすのは辛いと思う。だから好きな所に移動して構わない」
但し一人での行動は控えるように。
そう言われて松村が女子を見やり、少し考える。
「そうだね、食堂は広いからそれだけ隠れる所も多い。どこか教室でもいいけど、僕としては保健室か図書室あたりがいいと思う」
「保健室は鍵が掛かっている筈だ」
「だったら図書室だね。あそこなら足音消す為に絨毯が敷いてあるから座り込んだり横になったりしても、他の教室よりは気にならないだろう」
そうか、夜を明かすと言う事は睡眠を取ると言う事だ。机や椅子を寄せてベッドを作ったとしても身体が休まるとは思えないし、固い床で横になるのはもっと辛い。
その点、図書室ならば松村の言った通り他の教室より少しはマシだろう。
幸い、図書委員である宮森がいるのでドアの数字錠は開けられるのだし。
頭のいい人はやっぱり違う。そう感心していると、西垣が「分かった」と頷く。
「使えそうな物があったら図書室に運ぼう。確か生徒会室に毛布があったと思う」
「うん、そうだね。あと必要なのは飲み物と食料かな……飲み物はここで調達出来るけど、食料はどうだろう」
無理だと思う。
今日は元々午前中だけだったし、下校時間まで残る生徒は各自でお弁当なり何なり用意していた筈だ。それでなくても厨房の管理は厳しいのだ。恐らく鍵が掛かっているに違いない。
宮森の予想した通り、厨房は頑丈なドアで区切られ鍵が掛けられていた。
「私、教室にお菓子あるよ」
先ほどのヒステリーがおさまったのか、久保が明るい声で言う。
「スナック菓子だけどないよりマシだよね。沙絵は持ってないの?」
「チョコとミント系の飴なら」
久保に訊かれて島津が答える。それに宮森は朝にコンビニでパンを買ってそのまま口にしていない事を思い出す。
「俺、パン持ってる」
「僕もお弁当があるよ」
宮森が言うと松村も声を上げる。考えてみれば当然か。
手紙をいつ受け取ったのかは知らないが、当日でない限り、下校時間間際に呼び出されたのだからお昼ご飯の準備をして当たり前だった。
そう思って他のメンバーに目を向けると、森橋が「授業終わってすぐ外で食べて来たから」と言う。辻と吉野も同じなのだろう、曖昧に頷いている。
「さっき宮森に食わせたので全部だ」
こう答えたのは西垣だ。
何の事だろうかと考えて、口に押し込められた飴の事だと思い当たる。
欲しいなんて一言も言ってないのに恩着せがましい。オマケに使えない。
松村以外の男子は使えないと宮森は認識を改める。
自動販売機でペットボトルに入った水とお茶ばかりを十本余り買う。
足りなかったらまた買えばいいし、いざとなれば水道もある。
全員がそれを持ち図書室に移動する。
数字錠を開けると、松村が西垣を振り返る。
「生徒会室にドライバーもあるかな?」
「ああ、そうだな。持って来よう」
ドライバー?と首を傾げて自分の手元を見てから松村が何をしようとしているのか理解する。
数字錠をぶら下げる金具を外して、内側に取り付けてしまおうと言うのだ。
今のままでは外からしか鍵を掛けられない。立て篭るには適していないと言える。
「だったら誰かに鍵の数字を教えておかないと」
図書委員なら誰だって知っている。それにもしかしたら生徒会役員だって知っているだろう。
だが、待機組は全員、図書委員でも生徒会役員でもない。
全員に教えてしまっても良かったが、矢張り委員として鍵の数字を言いふらすのは何となく避けたい。負い目はストレスになるからだ。
「そうだね。じゃ、僕が」
それが妥当だろう。
どう考えても待機組のリーダーは松村しかいない。
松村の耳に口を寄せて六桁の数字を伝える。
そうしながら視線を感じてふと目を向けると、何故か西垣が怖いぐらいの眼差しでこちらをジッと見つめている。
何だろ、勝手に教えるなって言いたいのかな。
でも、今は非常事態なのだから勘弁して欲しい。
心の中でそう言い訳して松村から離れると、西垣がグイッと手首を掴んで来る。
わぁ、暴力反対。
どうせ適わないって分かってるので無駄な抵抗しないでいると、松村が西垣を見てニコッと笑う。
この状況のどこに笑いの要素があったのか。
宮森が悶々と考え込んでいる間に西垣が「それじゃ」と口を開く。
「俺たちは校舎を一周して来る。何があっても外に出るな」



先頭を翼と宮森が、後ろを西垣が一人で歩いている。
場所は東校舎の階段だった。戸田が落ちた現場を見に行くらしい。
チラリと背後を振り返り、宮森は憂鬱な溜め息をこぼす。
辻はいいとして、どうして自分まで監視されなきゃいけないんだ。どう考えても理不尽だった。
これまでの出来事から、手紙の差出人が戸田を突き落としたと考えていいだろう。そして差出人の目的は過去の復讐だ。佐川アオイが屋上から飛ぶ原因となったイジメ。当時の同級生ばかりが呼び出されたのだから他にない。
だが、宮森には関係のない話なのだ。どうして顔が似ていると言うだけで自分が疑われるのか全くもって理解出来ない。
「宮森先輩」
隣を歩く翼が内緒話でもするかのようにコソッと呼びかけて来る。それに目線だけで答えると、ホッとしたように息をつく。
「さっき言った二階にいた人の事ですけど」
それを聞いて、ああそう言えばと思い出す。
戸田が落ちた時、翼は二階に人影がいるのを見たと言っていたのだ。
「あれって辻先輩だったんですかね」
タイミングで言うならそうだろう。
戸田が落ちて、西垣が職員室に行って辻を発見したのだから矛盾はない。だが、気になる事が一つある。
「でも、それだと職員室の電話線切ったのって……」
辻と言う事になる。そんな事をして何の利があるのか分からない。
「どうした、宮森」
考え込んでいるうちに足が止まってしまったのか、追いついて来た西垣に問われて、どうしようかと躊躇う。
翼が見た人影の事は言うべきだろう。だが、不用意に言ってしまうと余計な混乱を招きかねない。だが、西垣がリーダーなのは間違いないのだ。ここは言うべきだろう。そう判断して口を開く。
戸田が落ちた時、職員室付近に誰かがいたらしい。
そう打ち明けると、西垣は片方の眉を上げ、翼を見る。位置的に目撃したのが翼だと分かったのだ。頭の回転が早い事で。
「そうか。だが、それは辻じゃない」
キッパリと言い切る西垣に宮森は驚く。
仲が良いようには見えないのだから、庇っている訳ではないのだろう。
それなら、そう言い切る根拠があると言う事だ。
「戸田が落ちる時に人影を見たんだろう?」
それに翼がコクンと頷く。
「だとしたら窓に寄って、パニック起こして二手に別れて、俺が職員室に行って……だいたい五分から十分は経っていたと思う。その間に辻は逃げられた筈だろう」
そう言ってから、それに、と言葉を続ける。
「そんな事をして辻にメリットがあるとも思えない」
宮森が思ったのと同じ事を口にする。
そうなのだ。辻に限らず、校舎に残っている全員に電話線を切る理由がないのだ。
「確かに戸田を落とした人物が職員室に行って電話線を切ると言うのも難しい。時間的には可能だろう。だが、俺たちがどう動くかなんて予測出来た筈がないんだ。生徒会室と職員室は向かい合った校舎の二階にある。だが、渡り廊下を近いと思うか階段が近いと思うか……宮森だったらどっちを選ぶ?」
「そりゃ廊下ですよ」
「ああ。だが、俺は階段から行った」
そう言えばそうだったか。
宮森と翼が食堂に降りるので階段まで一緒に行ったのを思い出す。
「だが俺達三人で職員室に行こうとしてたら廊下を渡っただろう」
成る程。確かにそれは予測付かない。たとえ予測出来たとしても、確実とは言えない。
職員室の付近にいるのを見られただけで疑われてしまうのだ。
「あと、翼の話でもう一つ分かった事がある。戸田を突き落とした者と電話線を切った者、少なくとも二人以上の人物が関わっていると言う事だ」
その言葉に宮森は「あ、」と声を上げる。
確かにその通りだ。
四階から戸田を突き落としてすぐに二階の廊下にいるなんて、到底無理だ。
「会長は誰だか見当付いているんですか」
翼の質問に西垣が肩を竦めて答える。
「さぁね、そこまではまだ分からないな。戻ったら全員で話し合ってみるか」

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