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極上の趣味 19


校舎を全て見回り、生徒会室で必要な物を探す。
戸田が落ちたと思われる東校舎の四階の廊下に椅子が転がっていた事と窓が破られていた事。他に異常は見当たらなかった。
生徒会室のロッカーで毛布とドライバーを発見する。翼の話によると非常用の非難袋がどこかにある筈だと言う。今は三人で手分けしてそれを探している最中だった。
「ったく、どこに仕舞い込んだんだ」
舌打ち紛れに西垣が呟く。それに翼が顔を上げて言い返す。
「会長が邪魔だからしまっとけって会計に言ったんですよ」
「だからって、こんな厳重に仕舞われたんじゃいざという時に使えないじゃないか」
そんなやり取りに耳を傾けながら、宮森は開かずの非常扉を思い出す。
入学してから一度も開いているのを見た事がない。一度だけ好奇心からドアノブを捻ってみたが、ガッチリと固く閉ざされていた。いざと言う時に使えないと言う点では、生徒会室にある避難袋と同じだ。
「あ……これ?」
誰の机か分からないが、一番下の引き出しに懐中電灯があるのを見つける。よく見ると、ラジオや乾パン、飲料水に簡易トイレなどもある。
「ここって会計の人の席?」
翼に訊ねると頷きが返って来る。
そのままでは嵩張るので中身をバラして自分の机の引き出しに仕舞っておいたらしい。几帳面なんだかズボラなんだか分からない。
目当ての物を見つけてホッとしたのも束の間、今度はそれらを入れてあった筈の袋がない。
どれも小さくて軽い物ばかりだが、手で運ぶとどうなんだろう。
そう首を傾げる宮森に翼が「これに入れて下さい」とトートバッグを差し出す。
「ありがと」
見てみると、大きく「生徒会専用」と書かれているので備品入れか何かだろう。
手当たり次第に突っ込んでから肩に掛けると思いのほか重たかった。
ヨロヨロ歩いていると、急に肩が軽くなりたたらを踏んでしまう。
「なに、」
肩が軽くなったのは西垣が荷物を引き受けてくれたからだった。
有り難いのだが、どうして無言なんだ。ムッとして宮森が唇を尖らせると、それに苦笑していた翼が口を挟んで来る。
「言ったじゃないですか、うちの会長はコミュ障なんですって」
それは聞いた。だが、何もナンパのような話術を求めている訳ではない。単に軽く声を掛けて欲しかっただけだ。
しかも本人ではなく下級生の翼にフォロー入れさせてるのも気に入らない。
「宮森先輩はこっち持って下さい」
気に入らないままそちらを見るとクッションを二つ手渡されてしまう。翼の手には椅子に敷くタイプの座布団がある。
絨毯が敷いてあるとは言え、床に座るのだからクッションはあった方がいいだろう。枕の代わりにもなるし。
宮森がそう納得したのが分かったのか、翼がニッコリと微笑む。
「忘れ物はないですね、行きましょう」



ドライバーで図書室の鍵を付け替え、今は内側に数字錠が掛かっている。
読書の為の机や椅子は隅に追いやられ、真ん中に持って来た座布団を敷いて島津が座っている。その隣にクッションを胸に抱いた久保が寄り添い、松村と翼が二人の正面に体育座りしている。
西垣は隅に置かれた椅子に腰掛け、その背後に司が立っている。
宮森はいつもの癖で貸出しカウンターに座った。
特に何をしたと言う訳ではなかったのだが、全員の顔には疲労が色濃く滲んでおり表情も憂鬱な物だった。
それを眺めながら宮森は手にしたペットボトルの蓋を開ける。
かき集めた食料は女子が持っていた菓子の類いと宮森のパンが二つ、松村のお弁当に生徒会室にあった乾パン一袋。
これだけあれば飢える事はなさそうだが、余裕がある訳でもない。だから宮森は今夜は飲み物だけで凌ぐつもりだった。
ほんの少しの水をコクリと飲み込み、ペットボトルをカウンターに乗せる。
そんな微かな物音すら、静かな図書室内に響き渡るように感じられて何だか気まずい。
誰か何か喋ってくれないかな。
他力本願な事を思いながら見回すと、宮森の願いが通じたのか西垣が口を開く。
「東の四階を見て来た。廊下に椅子が転がってたから、窓を割ってから戸田を突き飛ばしたんだと思う」
前置きなくされた話の内容に久保がギクリと震える。
この中で最も憔悴しているのは間違いなく久保だろう。
鍵がない事を聞いた時も、好意を寄せている相手である西垣を詰ったのだから、情緒不安定になっているのかも知れない。
無理もないか。宮森はそう溜め息をつく。
中庭に落ちた戸田が動く気配はないのだから、もう息絶えてると思っていい。
すぐ近くで人が死んだのだ。それも誰かの悪意によって。
その悪意は自分達にも向けられていると分かっているのだから、情緒不安定にもなろうと言うものだ。
だが、島津は表情こそ固いものの取り乱した様子はない。励ますように久保の手を掴んでいる。
「あと、戸田が落ちた時、東の二階廊下に誰かいたらしい」
「え、」
続けられた西垣の言葉に松村が驚いたように腰を浮かせる。
「誰かって誰がいたの?」
「そこまでは見えなかった。だが、男子の制服を着ていたようだ」
「じゃ、辻かな……でも、廊下にいたって事は職員室の電話線を切ったって事だよね。辻がそんな事するとは思えないんだけど」
「俺もそう思う。だから、辻以外の誰かがいたって事じゃないだろうか」
「でも、西垣達が見回りに行ってから僕たちはずっと四人でいたんだよ」
「分かっている。俺が言いたいのは戸田を突き落とした奴の他にもう一人いるんじゃないかって事だ」
西垣の発言に場が再びシンと静まり返る。だが、すぐに松村が「そう」と声を漏らす。
「確かにそう考えるのも可能だね。それで西垣はどうするつもりなの」
松村の問いに対する答えは「どうもしない」と素っ気ないものだった。
それが少し意外だったので宮森は西垣に目を向ける。
全員の視線が集まっていると分かっているだろうが、西垣は表情を変えず淡々と言う。
「犯人探しの能力なんて俺にはないし、ここにいる全員にもないだろう。だから俺たちが一番に考えるべきなのは、ここから無事に出る事。それだけだ」
「具体的には?」
そこで宮森は手を上げる。
「あの、」
「ん、何だい?」
松村に気さくな様子で促され、宮森はコクンと頷く。
「犯人の目的が佐川アオイの復讐だとしますよね。でも、戸田センは関係ないし、何だかやり方がマドロッコしいと思うんですよね。さっきカイチョーが辻さんに言ってたけど、八年も掛けて計画したんだとしたら……何となくですけど、犯人の考えが分かる気がするんです」
西垣ではなく、松村に向かって話したので自然と敬語になった。
「わざわざ校舎に閉じ込めたのって、逃げられないようにして一人ずつ始末するつもりじゃないでしょうか」
鼠を甚振る猫のように、相手が恐怖するのを見て楽しむつもりなのだと思う。だとしたら、自ずと順番も分かりそうだ。
「多分ですけど、次に狙われるのは俺か翼だと思います」
そう言うと、それまで無関係だと思っていたのか翼がギョッとしたように宮森を見る。宮森とて悪気がある訳ではないのだが、そう考えるのが自然なのだ。
「理由は佐川アオイの件に関して無関係だからです」
「関係ない者を先に殺すと……?」
「はい、だって目撃者を残す訳には行かないでしょう。それに戸田を真っ先に突き落とした事から、犯人に躊躇いはないって事も分かります。でも、同じぐらいの確立で俺と翼は無事に脱出できるかも知れないと思ってます。まぁ、これは犯人が全部終えたあとどうするつもりなのかに寄るんですが」
復讐として関係者を皆殺し。それで満足する犯人なら、事を終えたら自首か自殺かすると思う。その場合は宮森と翼は無事だろう。
だが、戸田を突き落としたぐらいなのだ。復讐を終えたあとも逃げ延びようとするのなら目撃者は邪魔でしかない。
そして恐怖を与えようとするなら、本命は最後だろう。
「必ずとは言えませんが、同じ理由で順番が分かると思います」
「どうやって」
「佐川アオイに対するイジメに深く関わってた者ほど順番は後でしょう」
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