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極上の趣味 20


宮森の言葉をどう思ったのか、全員が怪訝そうな顔になる。
どうやらここにいる面子は普段ミステリ小説を読まないらしい。
「そこで八年前に何があったのか、もう一度教えて下さい。出来れば一人ずつお願いします」
そうなのだ。
西垣に聞いた話と、久保から聞いた話。
既にその時点で齟齬を来しているのだ。
西垣は佐川アオイの両親が離婚したのがイジメのきっかけだったと言い、久保は佐川アオイが西垣を好きだったからと言った。
どちらが間違いなのか。それとも両方がキッカケだったのか。
もし後者だとするなら、他にもイジメの要因があったのかも知れない。それによって関係者それぞれの深度が変わって来る。
「松村さんからお願いします。あと、出来れば他の人は違ってても黙ってて下さい」
それにムッとしたのは、それまで震えてばかりいた久保だった。
「何であんたに指図されなきゃならないの!」
宮村はそちらを向いて首を傾げて見せる。
「指図なんかしてませんよ、単にお願いしただけです」
「じゃ、それに従う必要はないわね!」
「ええ、もちろん。ただ、話さない或いは他の人の話を邪魔する理由を僕が色々邪推しても構わないのであれば」
そう言ってニコッとする。
誰かが小さく口笛を吹く音がする。だが、宮森は久保から目を逸らさずジッと見つめ続ける。
その視線にたじろいだのか、久保が「何よ、邪推って」と呟く。
「勝手に悪く想像するって事ですよ。文句言えませんよね、久保さんも佐川アオイと似ているってだけで俺を嫌ってたんだから。ああ、でも久保さんの場合は他の人と違って佐川アオイに負い目を感じてませんよね、純粋に嫌ってただけだ。だって佐川アオイは久保さんにとって恋敵だったんだから」
だからこそ佐川アオイの悪口を言いふらしたのだろう。万に一つでも西垣が佐川に興味を抱かないように、興味を抱いたとしても近づけない為に佐川アオイをいじめる事で孤立させたのだ。
厭な女。
宮森は声に出さず唇の動きだけでそう言う。
それが伝わったのか、久保が悔しそうに下を向くが、せいせいするなんて事はなく、どちらかと言えば他の人の前でよく知りもしない女子を罵った不快感だけがあった。
「全く君は」
呆れたように松村が口を開く。
「見た目を裏切る性格をしているね。まぁ、いいよ。どうせ閉じ込められて他にする事もないんだ。君の質問に答えてあげるよ」
そう言って何かを思い出すように目の焦点をぼやけさせる。
「さっき西垣と久保さんの話が食い違っているって言ってたけど、それは二人の立場の所為じゃないかと思うんだ。小学校の時って男子と女子は余り口を効かなかったし、お互いにバカにしあうような空気があったからね……男子の間であった事を女子が知らないのは当然だし、その反対もそうだよ」
宮森のいた学校では子供の数が少なかったので、男子も女子も関係なく全員が仲良かった。だから、都会は違うんだなぁとピントの外れた感想を抱いたのだが、後半に関しては松村の意見に同意だった。
一緒に遊ぶと言っても男子と女子では興味の対象が違うのだ。テレビゲームに誘っても「ネクラ」と罵られ、掃除をさぼれば「これだから男子は」と怒られた。
そして女子の遊びを宮森は知らない。お菓子食べながら雑誌を捲ってキャーキャー言ってるだけだった。それを見て宮森たち男子は「これだから女子は」と呆れていたのだ。当時は意識してなかったが、お互いに意識し過ぎてバカにする事で優位に立とうとしていたのかも知れない。
「じゃ、松村さんが知っている事を話して下さい」
「うん、僕が知ってるのは佐川くんの両親は離婚なんかしてないって事かな」
「え?」
聞き違えたかと首を傾げる視界の隅で西垣が驚いたように身を乗り出すのが見えた。
おいおい、男子同士でも情報を共有してるって訳じゃないじゃん。
「イジメが酷くなってから一度、家に行ってみた事があるんだ。その時、佐川くんのお母さんを話をしたんだけど……これは言ってもいいのかな」
話しながら何か思う所があるらしく、松村が迷うように考え込む。
「何か問題でも?」
「いや……たぶん大丈夫だ。離婚の話は確かにあったらしいよ、佐川くんはお母さんに引き取られて転校するって聞いたから。でも、原因はお母さんじゃなくてお父さんの方だったらしい。ハッキリとは教えて貰えなかったんだけど、推測するに、誰か知合いの保証人になってその借金返済の為らしい。僕が知ってるのはそれぐらいかな」
そう言うと司を見る。その視線に促されたのか、司がチラチラと翼の様子を窺いながら口を開く。
「何て言うか、期待に添えなくて悪いけど……俺は佐川がいじめられてた理由を知らないんだ」
申し訳なさそうに萎縮する。颯爽としたスポーツ青年が形無しである。
しかも、弟である翼が「兄さんはバカだから」と口を挟んで来る。
「一つの物事しか考えられない単細胞なんです。小学校の時からずっとサッカーやってたからヘディングのし過ぎで脳細胞が死んでるんだと思います」
「あ……そう、」
呆気に取られて曖昧に頷き返した宮森だが、頭の中では翼の言葉をどう理解したものかと考える。
何しろ極度のブラコンだ。ただ悪し様に罵っただけとは到底思えない。ならば、今の言葉の解釈はこうだ。
サッカーバカの司はクラスの出来事に関心がなかった。だから佐川アオイへのイジメも何となくは分かっていたものの、自ら関わるつもりもなかったので何も知らないと言う事だ。
それに溜め息を零したいのを我慢して島津を見る。
島津は最初に会った時こそ、宮森に興味を示したが、それは矢張り佐川アオイに似ていると思っていたからだろう。実際、苛立った声で「似てない」と言われたのだ。わざわざ言う時点で気にしていたと白状したようなものである。
だが、それ以外はずっと大人しい。大人しいと言うよりも発言するのを避けているように思える。
「あの日……」
島津が前髪を払いながら口を開く。
「最後に佐川くんと会ったのは私だと思う」


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