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極上の趣味 21

全員が初耳だったようで驚いたように空気が揺れる。
宮森はいち早くそれに気付き、誰かが口を開くより先に手を伸ばして騒ぎになるのを防ぐ。
「もう少し具体的にお願いします」
宮森の要請を受けて、島津がコクンと頷く。それにあわせて艶のある黒髪がサラリと流れる。
「放課後に教室で仲のいい何人かとお喋りしてて……それで誰かがトイレに行きたいって言うから一緒に付いてったんだと思う。トイレまで行ったら男子トイレの方から物音が聞こえて……最初は何だか分からなかったけど、くぐもった悲鳴のように聞こえたし、佐川くんだと思ったから気になってコッソリ覗いてみたの。そしたら……」
そこで何て言おうか思案するように言葉を切る。
長い睫毛に縁取られた目が涙で潤んでいるようだった。
「ただ事じゃないって思ったから声を掛けたら、辻が血相変えて飛び出して来た……突き飛ばされて私は尻餅ついたけど辻は振り返らずに逃げてったわ。訳が分からないままそれを見送っている間もまだ声は聞こえてたし、立てないぐらい辻に暴力でも振るわれたのかと思って中に入ってみた。一番奥の個室に佐川くんはいた。服は殆ど脱げていて痣だらけで血だらけだった。何があったのか、だいたい分かっていたから血を拭き取って服を着せて帰るように言ったのよ。騒ぎになるのは佐川くんも厭だったろうし」
「それから……?」
宮森がそっと促すと、島津はフゥと溜め息をついて肩を竦める。
「それだけ。私は友達に呼ばれて廊下に戻ったから後の事は知らない。あと、いじめられてた理由も具体的には分からない。気が付いたらクラスの空気がそうなってたとしか」
「誰が中心になってたか分かりますか」
「それは辻だったわ。あの頃はクラス中が辻の顔色を窺ってたから、クラスの中心って言うかボスみたいな感じだった。親が金持ちとか関係ないって今なら分かるけど、子供の時は分からないから、周りの大人……自分の両親とか学校の教師とか、そういう人達の真似をしてたんだと思う」
宮森にもその心当たりはあったので黙って頷く。
大人が思っている以上に子供は影響を受けやすいのだ。
「そうですか……カイチョーは佐川アオイの両親の離婚がキッカケで、久保さんは佐川アオイが女々しかったから、そう言いましたよね?」
宮森の言葉に二人が頷く。それを見て、宮森は言葉を続ける。
「島津さんの言った通り、クラスの空気がそうなってたから佐川アオイはイジメられたって事なんだと思います。でも、自然とそうなった訳じゃない」
「どういう事?」
不思議そうに島津が問い質す。
宮森はそちらを向いて「簡単な事です」と答える。
「辻さんがそう仕向けたんです。クラスのボスであった辻さんならそれが可能だったろうし、カイチョーの話もそれを裏付けてます」
「両親の離婚……?」
「それを言いふらしたのは辻さんでしょうね。離婚の原因が借金だったなら、職場の上司がそれを知らなかったとは思えません。それを家で話したのを辻さんが聞きかじったんだでしょう。ただ、離婚の原因をどうして母親の浮気って事にしたのかは分かりませんが」
「本人に聞いてみる?」
松村がそう言うが、宮森はそれに首を振る。
「カイチョーに反抗的な辻さんが正直に答えてくれるとは思えません。それよりも吉野さんはクラスでどうでしたか」
「どうって、大人しくて余り目立つタイプじゃなかったと思うよ」
三年生を代表して、松村が言う。
「今は髪を染めて少し派手になってるけど、小学校の時は背も低かったし地味だったような気がするな」
「そうなんですか?」
「うん。成績も目立って良くはなかったけど悪くもなかったし、運動も普通だったと思う」
「違う」
そう口を開いたのは、それまで黙っていた司だった。
「俺は小二の時も同じクラスだったから知ってるけど、吉野は辻にいじめられてたんだよ。行き帰りに何度か辻のランドセルを持たされてるのを見た事がある。三年になってクラスが別れたけど、四年生のクラスが決まってから暫く吉野が怯えていたのはハッキリと覚えている」
サッカー以外に興味がないのかと思ったが、意外と周囲を見ていたらしい。いや、そうではなく吉野の反応がそれだけ顕著だったと言う事なのかも知れない。
「辻が佐川をイジメていたって聞いて、だから吉野は辻の腰巾着になったのかなて思った」
自信なさそうな口調なのは、佐川アオイの時と同様に傍観者でしかなかったからだろう。
宮森はそんな司を見つめながら先ほど見た吉野の事を考える。
髪を染めて制服も軽く着崩していた様子からは、過去にいじめられっ子だったなんて到底思えない。だが、気弱そうな物腰を思うと納得出来るのも事実だった。
もしも司の言う通り、いじめられていたのだとしたら吉野が辻に媚びるのも何となく理解出来る気がする。
他にターゲットを見つけた辻に諂う事で、二度といじめられないようにしたのだ。いじめる側に立てばいじめられる事はない。
「他に何か思い当たる事はありませんか」
そう確認すると全員が曖昧に首を振る。それを見て、宮森は考えを纏める。

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