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極上の趣味 22

犯人にとって本命は辻だ。次に久保と吉野だろう。
この中で佐川アオイへのイジメに積極的だったのはその二人だけだ。
西垣と松村、島津、司は巻き込まれただけとも思えるが、戸田が突き落とされた事から無事に帰す気はないのだろうと思われる。
強いて順番を付けるとしたら。宮森はカウンターに置いてあるメモ帳を取り上げシャーペンを動かす。
島津と松村の名前を書込み、その下に司、続けて西垣。一番下に辻、久保、吉野と連ねる。
「多分この順番だと思います」
翼に渡して全員が目を通したのを確かめて口を開く。
「戸田センが突き落とされた事から犯人が本気で何か仕出かそうとしているのは皆さんにも分かっていると思います。その場合、辻さんだけは何としても殺そうとするでしょう。その事を本人に伝えるべきなんでしょうけど……」
「ねぇ、」
久保から離れた島津が声を上げる。
「今の仮説通りだと私か松村くんが最初に狙われるって事でしょう。でも、こうしてみんなでいたら犯人は手出しできないじゃない。その場合ってどうなると思う?」
宮森はその言葉に頷き用意していた答えを言う。
「飛ばしてくれたらいいのですが、もしかしたら誘き出す為の罠を用意してるかも知れません。何れにせよ、今後は一人での行動は控えるべきだと思います」
そっか、と島津が納得したように呟く。
一人になった所を殺される、ホラー映画の鉄則だ。
「犯人に共犯者がいるのは確実なようですから、少なくとも三人以上で行動するべきでしょうね」
「まぁ、そうだよね」
松村が相槌を打つ。黙っているところを見ると、西垣も同じ意見なのだろう。そう言えば真っ先に立て篭る事を提案して一人になるなと言っていた。
「ただ、このままやられっ放しと言うのもどうかと思います」
そう口を開くと、全員がキョトンとした顔をする。
小柄で気が弱く、女の子のような佐川アオイと混同していた所為だろうか。宮森の言葉を理解できないと言った顔をしている。
「救助が来るまで大人しくしてるのもいいと思いますが、黙って火曜日の朝までここにいるのも退屈でしょう。犯人について考えてみませんか」
「どうやってだ」
切り込むように鋭い声で問い掛けて来たのは西垣だった。
矢張り異常事態だからか、宮森はそれまでの恐怖も忘れて西垣をまっすぐに見据える。
「犯人からと思われる手紙があるじゃないですか、それを調べてみましょう」


全員が出したそれを見比べる。
西垣と松村のは図書室でも見た通り同じ文面だった。司のも既に見ていたので真新しい発見はない。ただ、久保と島津に届いた手紙だけは初見だった。
校舎で会った時、二人が一緒にいたので同じ文面で呼び出されたのかと思っていたが、どうやら違うようだった。
久保に届いた手紙には「3B」となっており、島津の物には「保健室」となっていた。時刻は他の三人と同じく午後三時。
「二人はどこで合流したんですか」
宮森の問い掛けに島津が答える。
「保健室に行こうとしたら雪華が声を掛けて来て手紙を見せてくれたの」
それに従い久保に目を向けるが、プイッとそっぽを向かれてしまう。どうやら本格的に嫌われたようだ。仕方ないので島津に続きを促す。
「呼び出された場所は違うけど、差出人のイニシャルで佐川くんの事だって分かったからどうしようか相談して、取りあえず私が呼び出された保健室に行ってみようって事になって歩いていたらみんなと会ったって訳よ」
「どうして先に保健室に行こうと思ったんですか」
「だって放課後は鍵が掛かっている筈でしょ。わざわざそこに呼び出すって事は何かあるのかと思って」
島津たちの予定では保健室に鍵が掛かっていたら3-Bの教室に移動して二人で待ってようとしたらしい。
実際には保健室に辿り着く前に宮森たちと会ったので、どちらにも行ってない。
「あとは辻さんと吉野さんに届いた手紙ですね」
「それは無理でしょう。吉野さんは兎も角として辻さんが素直に応じるとは思えませんよ」
横からそう言う翼に頷き返す。
これまでの行いが行いだ。辻はこの場にいる全員から嫌われているのだ。それを本人も自覚しているようだったから、この中の誰かが手紙を見せろと言って応じて貰えるとは思えなかった。
「ね、トイレ行きたい」
それまでダンマリを決め込んでいた久保が唐突に口を開く。
島津が困ったような視線を向けて来るので、宮森は小さく頷き返す。
「翼くん、一緒に行ってあげて」
女子だけで行かせるのは些か不安だった。
宮森は翼を指名したのは、唯一の下級生と言う事もあったが、犯人にとって予想外な人物だからだった。
「じゃ、俺も行く」
弟が心配なのか、単にトイレに行きたかったのか。司が立ち上がり、四人で図書室を出て行く。万が一を考えて鍵は掛けないで置く。
半数以上がいなくなった所為か、図書室の中がガランとして見える。
宮森は壁にあるリモコンで空調の温度を調整する。
「この手紙から分かった事は、全員を別々の場所に呼び出そうとしていたって事ですかね」
言いながら振り返ると、松村が「そうかな」と首を傾げる。
「僕と西垣は同じ時間の同じ場所に呼び出されてたんだよ?」
「それについては一つ仮説があります」
そう言うと松村がカウンターの前に椅子を移動させて腰掛ける。
宮森はそれに体面するように腰を降ろし、松村を見て、続けて西垣を見る。
「二人が同じ場所に呼び出されたのは、その間に犯人が何かするつもりだったんじゃないでしょうか」
「何かって?」
「さぁ……呼び出した誰かに危害を加えようとしたのかも」
「どうしてそう言いきれるのか聞いても?」
「二人が呼び出されたのが図書室だったからです」
「ああ、そうか……君が足止めしてくれる事を期待していたのか」
「多分。他の人たちが呼び出されたのはどこも無人です。今日は下校時刻がいつもより早かった事で教室に居残る人もいなかった筈です。司先輩は一人で教室にいたし、久保さんと島津さんはさっき聞いた通りです。でも、松村さんとカイチョーが呼び出されたここには僕がいた。これが偶然とは思えませんから」
松村と西垣の目から見て、宮森は屋上から飛び降りた佐川アオイと似ていたのだ。それなら犯人もそう思っていたかも知れない。そして、利用しようとしたのだ。
思わせぶりな手紙で呼び出せば、この二人の事だから宮森を問い質す事は簡単に予想出来ただろう。宮森は友達もおらずいつも一人でいるのだから三年生に話しかけられてマトモに返事も出来ないに違いない。
犯人はそう思ったのだろう。実際は大声で啖呵を切ったのだが。
「つまり、俺も犯人にとって駒の一つって事ですね。あと、戸田センも同じだと思いますよ」
職員の研修に同行せずに一人残って仕事をしていたのだ。
まさか直前になってそうなったとも思えないので、戸田は前もって教頭なり他の教師へ連絡をしていただろう。犯人はそれを知っていたとしか思えない。
怪訝そうな顔をする松村に首を傾げ宮森は自分の考えを口にする。
「タイミングです。カイチョーが鍵を渡してすぐに戸田センは突き落とされたでしょう。だから戸田センの役割は自分が集めた三年生を校舎に閉じ込める為に鍵を取り上げる事、それさえやってくれれば後は用なしどころか目障りですから」
「だったら宮森はどうして無事なんだ」
黙って話を聞いていた西垣が冷たい声でそう言う。
「どうしてって言われても分かりませんね。カイチョーは俺も死ねばいいって思ってるって事ですかね」
「そんな事は言ってない」
ムッとしたように顔を顰めるが、宮森の方こそ気分を害していた。
ただでさえ西垣には恨みがあるのだ。その上、死ねばいいと思われてるなんて、そこまで嫌われるような事したのか。そう問いつめてやりたい所だった。
「まあまあ、二人とも」
松村がおっとりと仲裁して来る。それに免じて宮森は西垣から目を逸らすに留める。
「西垣が言いたいのは、犯人はまだ宮森くん利用しようとしているんじゃないかって事だよ」
そんな事を言われても宮森には心当たりがない。
特技と言えるような物は何もないのだ。趣味ですら意識しなければ持つ事も出来なかったのだ。犯人にとって利用価値があるとは思えなかった。
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