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極上の趣味 25

どうしてもっと早く気付かなかったのだろう。
宮森は西垣の言葉にポカンとしていた。
当時は今ほど校舎への出入りが難しくはなかっただろう、だがそもそも小学生が高校の校舎から飛び降りる事が不自然なのだ。
その事には気付けたものの、佐川アオイがこの学校を選んだ理由まで思い至らなかった。
何の心当たりもなしに、死ぬ場所を選ぶだろうか。
絶対にないとは言えないが、西垣の言う通り誰かに会いに来たのだとしたら、あり得る話だと、宮森も思う。
佐川アオイはこの学校にいた人間に会いに来て、そこで何かがあって発作的に屋上から飛び降りた。
だとしたら、誰に会いに来た。
「教師や職員の可能性は低いだろうな」
西垣が独り言のようにそう呟く。
宮森もそれに賛成だった。
何故なら、佐川アオイは飛び降りた音で発見されたのだ。それは誰にも見咎められる事なく屋上まで辿り着いたと言う事になる。
教師や職員だった場合、どんな話し合いをしたにせよ、それが終われば外まで連れて行くだろうし、そもそも校舎内で話をする筈がない。どこか公園なりカフェなりに連れ出すのが自然だ。
ならば、佐川アオイが会いに来たのは生徒。だが、そうは言っても生徒の数は職員のそれに比べて膨大だ。その誰かを突き止めるのは不可能に思えた。
「あ、だから棚になかったんだ」
そこで宮森はすっかり忘れていた卒業アルバムを思い出す。
怪訝な顔をする西垣に八年前の卒業アルバムが紛失している事を話す。すると、西垣が考え込むように腕を組んで黙り込む。
「犯人は八年前この学校の三年生だったって事か」
十八才と十才。友人ではないだろう。ならば、兄弟と思うのが自然だ。
佐川アオイの両親は離婚を控えていたと言う。ならば、佐川某としてアルバムに載っていたのではないだろうか。
「八年前に十八と言う事は、今は二十六才。該当するのは教師か職員か」
同じ学年の生徒すら分からない宮森に、教師や職員の年齢が分かる筈もない。
そこで西垣を見つめると、眉を寄せて難しい顔をしたまま「何人かいるな」と言う。
「何人ぐらい?」
「二人……いや、三人か」
流石は生徒会長。教師や職員の情報にも詳しい。
だが、どうして言い直したのだろう。
そう質問しようと口を開きかけた途端、どこからか激昂した怒鳴り声が聞こえて来る。



何事かと顔を見合わせ、錠を外すのももどかしく廊下に転がり出る。
話し込んでる間に太陽は沈んだらしく、窓から見える外は既に薄暗い。
思わずスマホで時刻を確認すると、午後七時になろうとしていた。
そうしてる間にも怒鳴り声は聞こえている。
「こっちだ」
先に走り出した西垣を追いながら、怒鳴っているのはどうやら男らしいと当たりを付ける。だが、どこから聞こえるのかは分からない。
静かな校舎の中で声は反響して、辛うじて上から聞こえるらしいとは察しが付くのだが具体的な場所を掴むのは困難だった。
それでも真っすぐに走る西垣の後に続きながら、宮森は「何で」と問い掛ける。
「辻の声だ」
成る程。声の主が分かれば、どこからなのかも分かる。
階段を駆け上がり資材室の前まで来ると、廊下で吉野が腰を抜かして座り込んでいた。
「何があった!」
問いつめる西垣に答えたのは、資材室から出て来たヨシユキだった。
「辻が死んだよ」
その言葉にも驚いたが、ヨシユキの態度にも驚いてしまう。
どうして資材室にいたのか、森橋兄弟と一緒にいた筈ではないのか。
だが、何よりその手にナイフが握られている事に驚愕する。
「美雪、お前……」
宮森は息を飲むしか出来なかったが、西垣はすぐに声を上げる。
「辻が死んだってどういう事だ!」
「そんなの決まってるじゃん、俺が殺したんだよ」
天気の話でもするようにヨシユキが軽い口調でそう答える。
矢張りナイフに付いた血は辻の物か。だが、何故ヨシユキが辻を殺す?
「本当は吉野も殺すつもりだったんだけど、西垣たちが来ちゃったし」
残念とでも言うように肩を竦める。
呆気に取られたのは宮森だけではなかったようで、西垣も何と言ったらいいのか迷うように沈黙してしまう。あとはへたり込んだまま唸り声のような嗚咽を漏らす吉野だけ。
凍り付いてしまった空気を破ったのは、遅れてやって来た松村だった。
「美雪、」
困ったような声で松村が呼びかけると、ヨシユキが泣きそうな顔をする。
それに駆け寄り、「どうして」と声を掛ける。
取りあえずヨシユキは松村に任せ、宮森は資材室の中に足を踏み入れる。
元から整理整頓とは縁遠い場所だったが、乱闘が行われたのであろう事は一目で分かる。
積まれていたであろう机が崩れ、その下敷きになるように辻が倒れている。
何とか隙間を縫って近づいてみると、辻は首から大量に血を流して絶命していた。
這い出して西垣にそれを伝えると、トイレで渡されたハンカチを差し出される。
脈を見る為に辻の手首を取ったので血が付いていたのだ。だが、宮森はそれを受け取らずトイレへと向かう。
流石にハンカチで辻の血を拭うのは躊躇われたのだ。
備え付けの石鹸を使って手のひらと言わず、肘の辺りまで洗い流す。それでもぬるついた血の感触が離れず顔を顰める。
適当に手を振って雫を払い、戻ってみるとヨシユキと松村の姿は既になく、西垣が吉野を立たせているところだった。
「図書室にいるように言って置いた」
宮森の疑問を察したのか、西垣が淡々とした声でそう言う。
西垣と宮森が駆けつけた事で吉野の殺害を諦めたのなら、ヨシユキに他の者への殺意はなかったのだろうと思う。先ほどのやり取りから、松村とヨシユキが親しいのも分かる。
だが、辻を殺したばかりのヨシユキと松村を二人きりにしていいのだろうか。
そんな宮森の考えを無視して西垣が言う。
「行くぞ」
「行くってどこに?」
図書室ではないだろう。見たところ、吉野は怪我をしているようではないので保健室でもない。ならば、残る場所は一つだけだ。
それを肯定するように西垣が言葉を続ける。
「生徒会室だ」
そう言えば森橋兄弟はどうしたのだろう。
ヨシユキが一人で行動していた理由を知りたかったし、吉野から話も聞かなければならない。
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