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極上の趣味 27

保健室に到着してみると、ベッドに久保が横になっていた。
その脇に椅子を置き、島津が座っている。
「二人とも無事でしたか」
宮森の問い掛けに不安そうな顔をした島津がコクンと頷く。
「何があったの」
簡単に事の顛末を語ると、「そう」と溜め息混じりに呟く。
特に驚いた様子がないのは、この緊張状態で精神が疲労している所為なのかも知れない。
「久保さんはどうしたんですか」
「ヒステリーが凄かったから鎮痛剤飲まして寝かせたわ」
そう言うと、立ち上がりベッドの周りのカーテンを引く。
「ここにいるって西垣に言ったの?」
「はい。一応」
「そう。でも、松村達の話も聞いてみないと……」
「でも久保さんは寝てるんですよね」
「うん。私もここ動く訳には行かないし……悪いけど、様子見て来て貰える?」
その言葉に宮森は逡巡する。
久保と島津を残して三人で移動したのでは余りに効率が悪い。ならば、一人で行動するのが危険なのは変わりないのだから、誰か二人が連絡係として行けばいい。
問題は誰と誰に行かせるか。
「じゃ、僕と兄さんが行って来ますよ」
翼が当然のようにそう名乗り出る。
言われてみれば、兄弟として行動した方が安心だろうし、宮森にしても司と二人で何を話せばいいのか分からないので助かる。
「宮森先輩はここに残って下さい。出来るだけ気を配ってますから、何かあったら廊下でスマホを点滅させて下さい」
電気を消してある廊下でなら、スマホの小さな明かりでも目立つだろう。
それに頷くと、翼が兄を連れて保健室を出て行く。
二人を見送り、宮森は島津と二人きりと言う事に漸く気付く。
司と何を話せばいいのか分からないのと同じく、島津とも何を話せばいいのか分からない。いや、相手が女子な分だけ司の時より話題がない。
だからと言って沈黙したのでは気詰まりだ。
どうしたものかと思案していると、島津が「座れば?」と椅子をすすめて来る。
宮森が座るのを確認するように見つめて、「辻、死んだんだ」と島津が呟く。
その声には恐怖や驚愕と言った色はなく、ただ事実を述べただけのように素っ気ない。
「辻が死んで何人かはホッとしてるでしょうね」
「どういう事ですか」
学校では常に一人で行動していた宮森は辻の噂は聞いた事があったが、その人間性までは知らない。そんなに嫌われていたのだろうかと問い返すと、島津が嬉しそうにニッコリと微笑む。
「私はホッとしてるわ」
「え……」
幾ら嫌いな相手とは言え、死んだ事を喜べるだろうか。
言葉もなく見つめていると、島津が囁くように低い声で話を続ける。
「私の事、地味な女だと思ったでしょ?」
面と向かってそう問われ、頷く訳にも行かず宮森は硬直する。
そもそも、唐突だったので質問の意味を理解出来なかった。
「中学まではこんな地味な格好してなかったんだよ。コンテストとかオーディションとか受けまくって、スカウトだってされた事があるんだ」
思い出すようにそう言う島津を改めてよく見ると、確かに顔立ちは整っている。だが、それならどうして黒髪のオカッパに眼鏡などと言う変装に近い格好をしているのだろう。
「中三の夏だった。雑誌の専属モデルに選ばれて嬉しかった……でも、その二日後には自分から辞退したのよ」
「どうしてですか」
「辻に強姦されたの」
「え……?」
余りにもサラリと言うので、一瞬聞き間違えたかと宮森は首を傾げる。
だが、島津は淡々と続ける。
「事務所からの帰り道、辻に待ち伏せされてそのまま。必死になって抵抗したわ。でも顔を殴られて……その所為で今も左目の視力が極端に悪いの」
「そんな、どうして……」
「どうせ自分の女がモデルだって自慢したかったとかそういう事でしょ。実際、そんな事言われたしね。幸いな事に顔を殴られただけで、他に怪我はなかったから腫れさえ引けば仕事を続けられる状態だった。でも、私がモデルを続ける限り辻は付き纏うって分かってたから、だったら私に価値がないって思わせるしかないじゃない。芸能界で売れたとしてもずっと辻に怯えながらなんて冗談じゃないわ。だから、髪を切って視力が落ちたのを理由に眼鏡を掛けて……冴えない女の子になるしか道はなかった。案の定、夏休みが明けてダサくなった私に辻は見向きもしなくなっていた。ホッとしたわ、私は間違ってなかったんだって安心した。でも、私は同時に自分の将来も捨ててしまったのよ。だから辻が死んだって聞いて、涙が出るほど嬉しいわ」
晴れ晴れとした笑顔でそう言う。
宮森はそれに理由もなくゾッとする。
島津が異常なのではない。そこまで恨まれる辻という人物が恐ろしかった。
「本当なら宮森くんは西垣に感謝すべきなんだよ」

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