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極上の趣味 34

シンと、耳が痛いほどの静寂が流れる。
松村と西垣は何とも複雑そうにヨシユキを見つめ、司は困ったように眉を寄せている。その傍らで翼が身を縮め、吉野は怯えたように震えている。
そして島津だけは窓の外を眺めている。
宮森は彼らを見つめ、そっと口を開く。
「違いますね、久保さんを殺したのはヨシユキさんじゃない」
宮森の言葉に全員がギョッとしたように震える。
それを無視して、宮森は続ける。
「ヨシユキさんには久保さんを殺す機会がなかった筈です。辻さんを殺した後はずっと松村さんが傍にいたんでしょう?」
松村に目を向けると「ああ、もちろん」と返事がある。
「どうして辻を殺したのか、ずっと聞き出そうとしたんだけど……ヨシユキはどうしても言ってくれなくて、どうしたものかと困ってたところに島津の悲鳴が聞こえて来たんだ。さっきの君たちの話からすると、その直後に久保の死体が見つかったんだろう?だったら、宮森君の言う通りヨシユキにはアリバイがあるって事になるかな」
「だったら、やっぱりヨシユキさんじゃない、他の人が久保さんの首を絞めて殺したって事になりますね」
「ちょっと待ってよ。雪華の首に巻いてあったのは俺のネクタイだったんでしょ、だったら俺が殺したって思うのが普通なんじゃないの?」
「そう簡単には行きませんよ。ヨシユキさんがずっとネクタイを締めていたのなら、その言い分も通ったかも知れませんが、ベストに隠れてネクタイが見えないじゃないですか。最初からネクタイを外して置いて、それを誰かに渡す事だって可能ですよね」
「そんな事して何になるって言うのさ。雪華を殺したいほど嫌ってたのは俺だけなんだよ。だから雪華が俺のネクタイで殺されたんなら、俺が犯人って事でいいじゃない」
これまで淡々とした態度を取っていたヨシユキが慌てたように早口で捲し立てる。
宮森はそれを静かに見つめ、「ヨシユキさん」と呼びかける。
「誰を庇っているんですか」


辻を殺した理由を口にしない理由。
久保を殺したと強弁に言い張る理由。
それはヨシユキが誰かを庇っているからと考えれば納得が行く。
そして、ヨシユキはその誰かに前もって自分のネクタイを渡して置いたのだ。その人物が久保を殺した。
宮森にはそれが誰なのか分かっていた。
ここまでは混乱して落ち着いて考える事が出来なかったのだが、ヨシユキの話を聞いているうちに冷静さを取り戻していた。
久保が殺されたのは保健室のベッドだったと思っていいだろう。
死体を動かす理由はないし、行動が限られるこの状況でそんな事をするのは危険だからだ。
久保は、仲のいい島津とリーダーシップのある松村に付き添われて保健室に行った。そこで三人、夜を明かす事になっていたのだ。
だが、辻が殺された事により、松村は現場に駆けつけヨシユキを連れて図書室に向かった。
その時、保健室には島津と久保、女子二人しかいなかったのだ。
それに気付いた宮森が森橋兄弟を連れて保健室に行くと、久保はベッドで眠っていた。
島津の話によると、鎮静剤を飲ませて眠らせたと言う事だった。
その後、森橋兄弟が保健室を離れ、島津がトイレで襲われた。ほんの数分間、宮森は久保が眠る保健室から目を離してしまった。そして戻ったら久保が殺されていたのだ。
この間、久保を殺せた人物は皆無だろう。
ここにいる三年生と一年の翼、かれらが保健室にこっそり忍び込み久保を殺害したとして、そこから逃げるのは不可能なのだ。島津の悲鳴で駆けつけた西垣ですら、宮森の背後から来たのだから。
そうなると、久保が殺害された時間が間違っていたとしか思えない。
島津が襲われた時間よりも前、保健室から松村がいなくなってから。
そう考えれば久保の殺害が可能だった人物は一人しかいない。
「島津さん」
宮森が呼ぶと、それまで頑なに窓の外を眺めていた島津がクルリと振り返る。
その口元にはゆったりとした微笑み。
宮森が言おうとしている事を既に理解しているのか、「何?」とどこか楽しそうな声で答える。
「島津さんを殺したのは、島津さんですよね」
「うん」
アッサリと、躊躇いもなく頷く。
それに驚いたのは松村だった。
「そんな……島津、お前……何を言ってるんだ?」
「雪華を殺したのは私だよ」
断言され、それを否定する要素がない事に気付いたのか、松村が悲痛な顔で押し黙る。
「島津さんとヨシユキさん、二人は交換殺人をしたんじゃないんですか?」
「よく分かったね。そうだよ、私が雪華を殺す代わりに、ヨシユキが辻を殺したんだよ」
「やっぱり。だからヨシユキさんは辻さんを殺した動機を言えなかったんですね」
「そういう事だね。ヨシユキが辻を一発で仕留めていたら良かったんだけど……その責任感じちゃったのか、雪華の分まで被ろうとしてくれてたから」
「松村さんが出て行ってすぐに久保さんを殺したんですか」
「うん、そう」
「じゃ、やっぱり……俺が最初に見た時には久保さんはもう死んでいたんですね」
女の子が寝ているんだからマジマジ見るのはマズいだろう。そう思ってチラッとしか見ていなかった。あの時、久保は既にもの言わぬ死体だったのだ。
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