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極上の趣味 37

「島津さんとヨシユキさんを除いた人たちでグループを作りましょう」
宮森がそう言うと、翼が困惑したように挙手する。
「何の為にですか」
「それはあとで言うよ。翼は松村さんといてくれ。あと……」
考えながらだったので、途中で口籠ってしまう。その隙を突いて西垣が言葉を引き取る。
「吉野は司と、俺が宮森と行動する」
「え……」
宮森としては到底頷けない提案だった。だが、続けられた言葉には頷かざるを得ない。
「島津は松村のグループで、ヨシユキは司のグループで監視して欲しい」
まさに宮森もそうしようとしていたのだ。
この二人を一カ所に置くほど悠長な性格をしていない。隙を見てやり取りなんかされたら全滅するかも知れないのだ。
だからと言って、西垣と二人とか……出来る事なら他のグループに入りたかった。
「翼たちは生徒会室に移動してくれ。他は取りあえず図書室で構わないだろう」
その提案を受け入れ、翼と松村が島津の傍へと向かう。
無言のまま図書室を出て行く三人を見送り、宮森は残ったメンバーを振り返る。
「俺たちが取れる手段は二つあると思います」
ヨシユキもこの場にいるのだが、構わないだろう。
主犯と思われる人物との連絡手段はないのだから、何を話してもその内容を伝える事は出来ないのだから。
「一つ目は、これ以上の被害が出ないように火曜日の朝までジッとしている事。二つ目は犯人を炙り出す事」
宮森は指を二本立てて見せると、沈黙していた司が「どうやって」と聞き返して来る。
「それは後で話します。まずは今言った二つのどっちにするか決めましょう」
「ジッとしていたからって安全とは限らないんじゃないのか?」
司がそう言うのも尤もだった。
犯人の目的が不明な上に、どんな手段を講じて来るのかも分からないのだ。それこそ爆弾を投げ入れられたらどうしようもない。
だが、それはないだろうと宮森は思っている。
現実的に考えて、殺傷能力のある爆弾を犯人が幾つも用意できるとは思えない。それに、そんな事が出来るのなら、島津とヨシユキが交換殺人をする理由もない。
「全員が大丈夫って訳じゃないですが、何人かは生き残ると思います」
「どういう意味だ」
「生徒会室に行った三人は無事だと思います」
宮森の答えに司がハッとしたように息を飲む。
そうなのだ。宮森の考えが正しかったら、ここに残った数人、或いは全員が命を落とすかも知れない。
犯人の目的を思えば、すぐに分かる事だ。
辻と久保が殺された事によって司は忘れているようだが、自分宛に届いた手紙を思い出してみればいい。
校舎に閉じ込められた三年生は全員、佐川アオイの自殺に関与していた人物ばかりだ。その事から推測されるのは、犯人が佐川アオイの復讐をしようとしているのではないか。
それを思えば、島津とヨシユキは犯人によって利用されただけかも知れない。
何しろ、辻は佐川アオイをいじめていた張本人だし、久保も積極的に悪い噂を流していたのだ。犯人にとって二人とも殺してやりたかったに違いない。
だから、二人の殺意を知って交換殺人するように誘導した。そう考えるのが自然だろう。
それと同じ理由で生徒会室に向かった三人は無事だろうと思う。
松村は佐川アオイを心配して家まで訪ねていたのだし、学年の違う翼は最初から対象外。犯人にとって駒のような島津も、佐川アオイに同情していたいわば辻の被害者だ。
だが、ここに残ったメンバーは違う。
西垣は佐川アオイがいじめられる発端となった人物だし、司はいじめを見て見ぬふりをした。吉野に至っては、佐川を生贄に差し出し自分だけ助かったようなものだ。
そして全く関係のない宮森と、共犯関係にあると思われるヨシユキは、この三人の誰かが殺されそうになり、その巻き添えになる危険性がある。
それを説明した上で宮森は同じ質問を繰り返す。
「つまり、この場にいる全員が助かりたいのなら犯人を突き止めるしかないんです」
宮森の言葉を理解したのか、司が困惑したように首を傾げる。
「言いたい事は分かった。でも、具体的にどうするんだ」
「策ならあります」
そう言って西垣を見る。
心当たりがないのか、西垣は訝しそうに宮森を見つめている。
年齢の割りに大人びているが、何しろまだ十八なのだ。人が死ぬのを間近で見るのは始めてだったろうし、しかも被害者も加害者も同級生なのだ。宮森と話した事をここで思い出せと言う方が無理な話だ。
「なぁ、提案なんだけど」
誰もが口を噤んだ瞬間を狙ったようにヨシユキが手を上げて発言する。
「そこの二年は俺を警戒してるんだろ?」
その通りだった。
連絡手段がないとは言え、ヨシユキが犯人側の人間である事は間違いないのだ。出来るだけこちらの持ち札を見せたくないと思うのは当然だった。
他の二人も宮森と同じ考えらしく、気まずそうに目を伏せている。
「だったらさ、俺は聞かないで置こうか?」
「は……、」
何を言い出すのかと思ったら。
宮森は呆気に取られてヨシユキを見つめる。
「正直、俺は雪華さえいなくなれば後はどうでもいいんだよね。だから、誰にも協力するつもりはないって訳だよ」
「そんな事言われても、」
「だからさ、」
宮森の言葉を遮るようにヨシユキが続ける。
「俺に知られないように話し合いすればいいんじゃないのって」
「でも、ヨシユキさんから目を離す訳には行きません」
「分かってるって。何しろ俺が辻を殺したんだから、それだけで色々アウトだろ。だから目は離さずに俺に聞こえないように話をすればいいんでしょ。体力自慢の司がいる事だし、そんなの簡単でしょ?」
ヨシユキから司に視線を移動させるが、本人も何の事だか分からないらしく首を傾げている。
「具体的にどうしたらいいと?」
「俺を殴って昏倒させたらいい」
マゾか。
宮森は何とも言えない顔をしてヨシユキを見つめる。
見た目チャラいけど、そういう性癖があるのだろうか。
そんな疑いの眼差しを受けてヨシユキが苦笑する。
「違うからね。別に痛い目にあうのが好きって訳じゃないから」
だからって、はいそうですかって簡単に信じられない。
たとえ事情があったとしても、また他に方法がないとしても、自分からそれを言い出すだろうか。宮森なら、他の人が言うまで黙っている。
「いいよ、そこまでしなくても。俺がヨシユキと他の場所に行けばいいんだろ」
呆れたように司がそう口を挟む。
「ヨシユキ一人なら何かあっても俺だけで何とか出来るし、元々そういう話だったからな」
続けてそう言うとヨシユキに目配せしてドアへと向かう。
どうやら頭を使うのは苦手らしい。
さっさと鍵を開けて廊下に出てしまうので、宮森は慌ててそれを追い掛ける。
「待って、」
「何だ」
振り向いた司の目を見て宮森は小さな声で囁く。
「ヨシユキさんから目を離さないで下さい」
「もちろん、そのつもりだ」
そう言ってまだ図書室にいるヨシユキに「早く来い」と催促する。そして再び宮森に目を向ける。
「お前も西垣から離れるなよ」
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