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極上の趣味38

図書室の鍵を掛け、宮森は西垣をチラリと盗み見る。
正直言って、まだ苦手意識は抜けていない。
西垣が自分を睨んでいた理由は理解した。自殺した同級生、それも生死不明な人物と似ていたら、誰だって気になるだろう。
西垣の気持ちは分かる。
だが、宮森の気持ちとしては校舎から無事に脱出できた暁には、もう自分を見ないで欲しいと思っていた。見ないで欲しいと言うか、睨まないで貰いたい。
人望厚い生徒会長に睨まれているという事実だけで、宮森はハブられているのだ。平穏な高校生活を送りたいと願っている宮森にしてみたら当然の要望だった。
溜め息で苦手意識を隅に追いやり、宮森は本棚へと向かう。
「何をするんだ」
宮森の後ろを歩きながら西垣が問い掛けて来る。
嫌いではあるが、西垣は信頼出来る。それに西垣には既に手のうちを晒している。今更、隠しても意味はない。
「八年前のアルバムがなくなってたから、その前後のアルバムを確認しようと思って」
答えてから、そう言えば西垣相手だと敬語がすっぽ抜けるなと、どうでもいい事を思う。
二人で手分けして数冊のアルバムを机に運ぶ。
それを捲りながら、宮森はボンヤリと思考を巡らせる。
八年前に卒業したと言う事は当時18、今は26才。教職員に該当するのは、西垣の話だと数人いるらしい。
佐川アオイとの関係は八才差と言う事を思えば、兄弟と言うのが妥当だろう。ならば、同じ苗字の者を探せばいい。或いは顔立ちの似た人物。
前後のアルバムをチェックするのは、スナップ写真にその人物が紛れ込んでいるかも知れないからだ。
小学生と高校生。似ていたとしてもパッと見ただけでは分からないだろう。だが、他に手段はない。
アルバムを捲る宮森の隣で西垣がメモ帳を開いて何やら書いている。気になって覗き込むと、数人の名前が書いてあった。
「それは?」
幾つか見覚えのある名前があったので、教師だろう。
しかし、返って来たのは宮森が思っていたのとは違う言葉だった。
「佐川と話した事がある」
ポツンと呟かれたそれに宮森は何を言うつもりなのだろうかと、西垣の顔を見つめる。その視線を嫌ってか、横を向いて西垣が言葉を続ける。
「雑用を押し付けられたか何かで帰りが遅くなったんだ。教室に鞄を取りに行ったら佐川が一人でいた。まだ帰らないのかって声を掛けて……どうでもいい話を少しだけした。その時に、佐川が俺の事をすごいって褒めてくれたんだ」
そう言って懐かしむように目を細める。
「ちょっと前にテストで一位になった事を言ってるんだと思った。だから、ああそうぐらいしか返事しなかったんだけど、佐川の目がキラキラしてたんだ。今なら純粋だなって思うんだろうけど、その時は綺麗だなって思ったよ。すごく綺麗な目だったんだ」
噛み締めるような口調なのは、西垣なりに佐川アオイの事を思っていたからだろう。
佐川アオイが自殺したりせず、同じ高校に通っていたら……もしかしたら西垣と付き合っていたかも知れない。どっちも男だが、そう思ってしまう。
「死ぬって本当……残酷」
松村は佐川アオイを心配して家まで行ったし、島津はそれとなくイジメから庇ってやった。そして西垣も佐川アオイの事を忘れられないでいる。
こんなに心配してくれる人がいるのに死を選んだ佐川アオイは、やっぱりバカだ。
「カイチョー」
呼びかけると、宮森の存在を思い出したらしく瞬きしながら目を向けて来る。
「佐川アオイが死んだ時、どう思った?」
「そう……だな。俄には信じられなかった。何となく大変な目にあっているってのは知っていたが、何かあれば相談してくれるだろうと思っていたんだ。俺の事をすごいって言ってたから、頼ってくれると思ってた。だから……!」
感情が昂ったのか、西垣が口を押さえて黙り込む。
それを見つめて、本当に佐川アオイはバカだな、と宮森は改めて思う。
西垣はたった数分話したその光景をこの先も忘れないだろう。
憧れの相手である西垣と話したその時間は佐川アオイにとって、大事な思い出となった筈だ。そして、キラキラと目が輝かせていた佐川アオイの姿は鮮やかなまでに西垣の記憶に刻まれている。
どうしてここに佐川アオイがいないのか。
殆ど口を利いた事さえない下級生である宮森に言ってしまうぐらい、西垣は佐川アオイを忘れられないでいるのに。
「カイチョーは佐川アオイが生きてたらいいなって思った?」
宮森の言葉に西垣が呆然としたような顔で小さく頷く。
「そうだな、宮森が佐川ならいいと思ったのかも知れない」
推測や予想ではなくて、願望だったのだ。
だから、宮森を執拗に見つめていたらしい。
怖いと思っていたが、そうでもない。
西垣は色々な面において優秀だが、その内面は純粋で不器用。ただそれだけだ。
しかし、申し訳ない事に宮森は生まれた時から宮森青だった。
「証拠は何もないけど、俺は佐川アオイじゃないよ」
「分かってる。宮森が北海道から越して来たって知ってたよ」
「え、何で?」
「適当な理由を付けて宮森のデータを覗いたから」
それって職権乱用なんじゃ……。
だが、分かっていながら諦めきれなかった西垣にそれを言える筈もない。
それほどまでに願望が強かったのだろう。願望と言うより、後悔だ。
佐川アオイを助けなかった。その期待を裏切った。
ずっとそれを悔やみ続けて来たのだ、西垣は。
そんな西垣が佐川アオイの復讐として犯人に殺されるのは間違っている。
「俺が、」
口を開くと、抜け殻のようになった西垣が顔を上げる。
それをまっすぐに見つめて宮森は言葉を続ける。
「犯人を突き止めるから一緒にここから無事に出よう?」
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