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トランプ兵の反乱

夏休みを目前に控えた長閑な午後。
例によって例の如く、部室で過ごしている。
ユノさんの今日の服装はレースとフリルがふんだんに取り付けられたミニ丈のワンピース。しかもスカートが膨らんでいるので見た目、暑苦しい。
そしてこれまたレースの付いたエプロンをして、先程から生クリームを何分で泡立てられるかチャレンジしている。既に4パック目だ。
春日さんはその生クリームを浮かべたアイスココアを飲みながら旅行雑誌をペラペラと捲っている。ページの内容に目を通している様子はない。
ただ、音を立てながら捲っているだけ。
そして僕こと、君塚真澄はそんな先輩達を何となくぼんやりと眺めていた。
「…ヒマだねぇ」
手にした旅行雑誌をパタンと閉じると春日さんがしみじみとした様子で呟く。
こんな事は珍しい。
何でも面白がる事のできる春日さんがヒマなどと口にするのは始めて見た。
「そう~?」
ユノさんは楽しそうに泡立て器を動かしながら、何故か汗一つかかずに問い返す。
「こら、ユノ。一体、何を作るつもりなんだ。そんなに泡立てて」
「えへへ~」
だらしなく笑う姿が愛くるしい。
「何か、こうパッとした事でもないかねぇ」
再びそう呟くとアイスココアをジュッと音を立てて吸い上げる。
本当に純粋美形な春日さんのそんな仕種に最初の内はアンバランスさを感じたものの、今では既に慣れて来ている。
「真澄ちゃん、何かナイ?」
そんな振られても何もないんだから仕方ない。
少し俯いたまま首を振る。
「あぁ、ヒマだなぁ」
猫を思わせる仕種で欠伸をするとそのまま机に突っ伏してしまう。
「そんなにヒマなら一仕事しないか?」
戸の開く音と同時にそんな声がする。
生徒会長の五十嵐さんがニヤニヤと笑っている。
「お断り」
ヒマだヒマだと宣っていた割には顔色も変えずにあっさりと春日さんが答える。
「生徒会絡みの仕事なんて考えただけでうんざりする」
思いきり顔を顰めて更に睨み付けるようにして五十嵐さんに言う。
僕だってそんなのはお断りだ。
前回のお茶会では散々な目に合った。もう、逆らったりしないから二度と関わりは持ちたくない。
「イヤ、今回は生徒会じゃないんだ」
五十嵐さんはそう言うと、背後に立つ人物を中に通す。
「あれ、三田先生」
僕のクラスの担任だった。
まだ二十代ぐらいの良く言えば若い、悪く言えば学生気分の抜けていない教師だ。
先生は何だか気まずそうに僕を見ると「よぅ、」と手を上げる。
「こちらが今回の依頼人って訳だ」
ユノさんが顔を上げ、「ん~?」と首を傾げている。
「誰、この人」
キョトンとした顔で僕に質問して来る。
上級生のユノさんのクラスには入ってないのかも知れないけど、幾ら何でも同じ学内にいて知らない教師がいるとは。
ユノさんってやっぱり少し変。
「ウチのクラス担任ですよ」
「ふぅん、知らないな~。って、言うかホントに先生なのぉ?」
首をグニグニさせるユノさんに僕は頷いて見せる。
「どうしたんですか、」
僕がそう訊ねると先生は困ったように五十嵐さんを振り返る。
その顔は『本当にコイツらで大丈夫なのか?』と如実に不安を表していた。
春日さんは不敵とも取れる笑みを浮かべ、そんな先生の背中に問いかける。
「警察にはまだ届けていないんですか?」
ハッとしたように春日さんを見つめる。
春日さんは怯む事なく、その視線を受け止める。
「心配ですよねぇ。何たって、駅への近道だ。幾ら禁止したとしても、今どきのコーコーセーがそんなの聞く訳ないし、これから先また被害者が出ないとも限らない」
その言葉を聞いて何の話か察しが付いた。
通り魔だ。
この学校は微妙な場所に建っている。
私鉄と地下鉄の駅の中間地点にあるのだ。
だから通う生徒達の通学手段は様々だった。
徒歩や自転車、バスで通う者もいるが、圧倒的に地下鉄と私鉄で通う者が多かった。
そして地下鉄へは商店街を通って行くのだが、私鉄へのルートは二通りあった。
矢張り商店などが軒を列ねる道もあるが、ここの生徒は大抵もう一つの道を通る。
住宅と住宅の隙間のような細い道を歩く方が断然、近いからだ。
その道で梅雨に入った頃から事件は起きている。
女生徒が襲われるのだ。
噂で聞いただけだから詳細は分からない。
ただ、数人の生徒が襲われ、何れも首を絞められたのだと言う。
今までの所、運良く後ろから来た通行人(矢張り同じ学校の生徒)がやって来て、それ以上の事はないらしいのだが。
「確かぁ、ちょっと前にも誰か襲われたんだよねぇ」
春日さんが僕の顔を見てニヘラと笑う。
「ああ……先週でしたっけ?」
「そうだそうだ、思い出したよ。隣のクラスの紅林美也ちゃん」
ユノさんが泡立て器を持った手を頬に当てて答える。
「二年だったっけ?」
「そうだよぅ。誰かがたまたま通り掛かったらしくてたいした事はなかったらしいんだけどぉ、スッゴイ噂になってたねぇ」
興奮して泡立て器を振り回すので飛んで来るクリームを避けながら聞く。
「皆も始めの内は興味津々でぇ、でも今週になってからは飽きちゃったんだろうねぇ」
ユノさんがしたり顔で頷く。
「どうして、その事だと思ったんだ?」
それまで沈黙を守っていた先生が春日さんに問いかける。
春日さんは人さし指を唇に押し当ててクスクス笑う。
「ナイショ」
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