スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

トランプ兵の反乱4

翌日になり、僕は焦って部室に向かう。
昨日、あれから春日さんとは駅で別れたのだ。
「やっぱり、今日はいいや」
ニヘラと笑うとバイバ~イと手を振って階段に消えて行く後ろ姿を見送ってしまった。
矢張り気が動顛したいたのだろう。
気が付いて慌てて追いかけたが間の悪い事に電車が発車してしまっていたのでそれきりだった。
その後、何度鳴らしても携帯は繋がらないし。
一晩、寝られないまま過ごしたのだ。僕は。
もっとキチンと確認するべきだったのだ。
「あ、グゥッタイミ~ング」
ドアを開けた途端、ほにゃらとした声でユノさんがアイスキャンディーを僕に差し出す。
「丁度良かった。早くしないと溶けちゃうから、今呼びに行こうかなぁって思ってたんだ~」
「はぁ…」
それまでの勢いを殺がれてしまい、半ば呆然としたまま差し出された物を受け取る。
「あり?オレンジじゃイヤ~?」
その声にハッとする。
「いえ!それより春日さんは、」
「どしたの?」
ソファにダランと伸びたままアイスを咥えた春日さんがきょとんとした顔つきで僕を見る。
「昨日、その…何とも?」
「昨日?」
何の事だ、みたいな顔になる。
通り魔に襲われるという事は春日さんにとって忘れてしまう程、些細な事柄だったのだろうか。
「何かあったっけぇ?」
どうやら、通り魔ごときはどうでもいい事らしい。
何だか心配していた自分が可哀想になって深く溜息をつく。
「いえ。…あ、でも一応先生には言った方がいいのかな」
最後は独り言のつもりだった。
しかし春日さんがそれに反応する。
「黙っててもヘーキだよ。と、言うより黙ってろ、だ」
「覚えてたんじゃないですか」
つい、そんなツッコミを入れてしまう。
「忘れたなんてヒトッコトも言ってないよ。でも、これ以上、話を大きくしない方がいい」
「?!」
「何のお話ぃ?」
ビックリしている僕を押し退けるようにユノさんが春日さんに近寄る。
「何でもないよ」
冷淡とも取れる態度でユノさんから目を逸らしてしまう。
「ふぅ…ん?」
ユノさんは何か勘繰っているようで、今度は僕に目を向ける。
黙ってろと言われて話して聞かせる訳にも行かず、僕はアイスを口に入れる。
「さぁて、と」
アイスキャンディーの棒を口から離し、春日さんが立ち上がる。
それに僕とユノさんが目を向けると伸びを一つする。
「どしたの、シオン?」
ユノさんが不思議そうに首を傾げるのに小さく笑う。
「そろそろ、捜査でもするかなぁって」
「捜査?」
「そ。通り魔、早いトコ捕まえないとね」
そう事もなげに言うと僕の肘を掴んで立たせる。
「勿論、有能な探偵には昔から少年の助手がいるって決まりだから」
にゃははと笑う春日さんに僕は蒼くなりながら首を振る。
冗談じゃない!!
これ以上、振り回されたら僕の繊細な心臓じゃ保たないに決まっている。
「そんな決まりはありませんって!それに有能な探偵って」
「いいから来るのダ」
細い身体のどこにそんな力があるのか。
外見からは想像もできない怪力で春日さんは僕を引きずって(ズルズルと音が出る程に!)廊下に出る。
「自分で歩きますから離して下さい!」
態勢を整えられないままに引きずられ、踵が痛む。
「ほにゃ」
奇声を発すると共に実に唐突に僕の肘を離す。
その反動を食らって僕はそのまま廊下に転げてしまうが、春日さんはそんな事お構いなしの様子で口を開く。
「さてさて。第一被害者の元にいざ行かん!だっ」
「第一被害者って…」
起き上がり転げた拍子に強かに打ってしまった膝を摩りつつ何とも言えない言葉に僕は突っ込みを入れる。
最初に被害に遭った人物の事を指して『第一被害者』と言っているのだろうが、そんな言葉は断じてない。って、言うかあっても僕が許さない。
「誰だったっけ?」
「知りませんよ、そんな」
捜査が聞いて呆れる。
そんな初歩的な事も知らずに何を捜査するつもりだったのだろう。
「ま、いいや。誰かテキト-に聞いてみっか」
「それは流石に…どうかと思いますけど。そう言えばユノさん、詳しそうでしたけど?」
「んじゃ、ユノに聞いて来て。ついでに紅林美也ちゃんが襲われた時に駆け付けた人が誰だったかも」
図書室に集合ね~とのほほんと言い捨てる春日さんの背中を何とも言えない虚脱感と共に見送る。
「あり?真澄ちゃん、どったの」
高校生の三種の神器の一つであるケータイを手にしたユノさんが少し驚いたように目を丸くする。
春日さんに言われた事を告げると、「なるほろ」と呟く。
「まぁ、シオンは行き当たりバッタリな人だから~」
「そうですね、計画性があるんだかないんだか」
「シオンに計画性なんてある訳ないじゃん」
あっさりと、しかもきっぱりと断言されちゃったよ。
「そう…なんですか?」
「そうだよぉ。んで、そこがシオンのイイ所なんじゃん」
「イイ所、ですかね?」
怪訝に思って首を捻る僕にユノさんはケータイを畳み悪戯っぽく笑って見せる。
「イイって言うかぁ、スゴいって事ね」
「凄いんですかね?」
「そりゃ!だって考えてみなよぅ。前の時もその前の時もな~んにも計画は立ててなかったんだよ?なのにシオンの思った通りになったじゃん」
ユノさんの言葉に暫し思い起こしてみる。
言われてみればそうとも思える展開だったのかも知れない。
「シオンははっきり言って頭イイのね。その場でババッと考えちゃうの。んで、その通りに行動できちゃうってスゴイ事じゃないかなぁ?」
喋りながら何やら細々と紙片に書込んでいる。
そして書き終わったのか、一度目を通すとそれをそのまま僕に差し出す。
「ハイ、」
「あ、」
受け取って目にしたそれは、得体の知れない丸ッコイ物体に目口の付いた正体不明のキャラクターが血を流しながら走ったり転げたりしている絵が印刷された、何とも言えずファンシーと言うより無気味なメモ紙だった。
「何ですか、コレ?」
僕の示すキャラクターにユノさんは顔を寄せて「あまんちゃん」と答える。
「あまん?」
「あんまんなのね、コレ。最近の一番人気って言ったらあまんちゃんでしょ。プロフィールはねぇ、カケッコが大好きだけど運動神経ゼロなんだって~。だからこんな風に転んじゃうのね。って、言うよりコッチを見て欲しいんだけどぉ」
ユノさんが最後に示した箇所には鉛筆書きのゴリゴリした字。
佐伯順、坂井柚菜、紅林美也と名前らしき物が並んでいる。
「あ、通り魔の、」
「そ。住所はそこに書いた通りだよぅ」
「どうしてそんなに詳しいんですか?」
ふと、疑問に思ったから口にしてみるとユノさんはあっさりと答える。
「だって皆、同じ学年だも~ん」
「そうだったんですか?」
「そだよ。因に順の居場所なら今、確認できると思うよぅん」
そう気軽に言うと僕の返事も待たずにケータイを再び開く。
「やっほぉ~ん、今ドコにいんのぉ?…わっかりましたぁ」
それだけ言うと通話を切ってしまう。
説明は一切しないのか、とツッコミを入れたくなる程に短い。
「図書室だってぇ。行ってくればぁ?」
「はぁ、丁度、春日さんも図書室にいる筈なんですけど」
「流石、シオン。先回りしてるぅ~」
この場合、先回りと言えるのかどうか。
それに何が『流石』なのかは分からなかった。
「そう言えば…」
春日さんに言われた質問をユノさんに伝える。
ユノさんは顎に人さし指を当てて首を捻る。
「う~ん、噂になってたから聞いたと思うんだけどなぁ…」
これ以上は無理な所まで身体毎傾けるので、それを支えてやる。
「思い出せないや」
ニパッと笑うユノさんに僕は肩を落とす。どうしてこの同好会にいる人ってこうなんだろう。
何はともあれ礼を言って別れる。
スポンサーサイト

コメントの投稿

非公開コメント

上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。