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トランプ兵の反乱5

息を切らせて図書室に向かうと酷く剣呑な雰囲気に包まれていた。
春日さんともう一人、ショートカットの女生徒が睨み合っている。否、春日さんはいつものようにヘラヘラとした笑い顔なのだ。もう一人が一方的に春日さんをきつい目で睨んでいた。
「…それが貴女のスタイルって訳?」
押し殺した低い声でショートカットの女生徒が言う。
「ま、そんな感じぃ?」
そんな言い方、絶対に相手をバカにしているとしか思えない。
「ちょっと、春日さん」
慌てて止めに入ると、ショートカットの女生徒が僕をチラと見る。
「いい気なものよね。可愛い男の子、侍らせて」
「いいでしょぉう?」
明らかに喧嘩売っているだろうが、春日さんに適う筈がない。と、言うか喧嘩になる訳がない。
何しろ本心のみと、言うよりそれしかない人なのだから。
この場合、春日さんは本当に自慢しているのだ。…自分の立場を。
相手もそれを感じ取ったのか、「外に出ましょう」と短く言い捨てるとそのまま廊下に向かってしまう。
やって来たのは日差しの厳しい中庭で、坂井さんと思しき女生徒は手を額に翳しながら春日さんを振り返る。
「聞きたい事って?」
三年生である春日さんに怯む事なく言葉を発する。
「ん~、分かってると思うんだけどぉ」
緊張感の欠片もない口調で春日さんがニコニコ笑う。
坂井さんは小さく舌打ちする。
「んとね、通り魔に遭った時の事を詳しく教えて欲しいナリね~」
『ナリ』の所だけ声を高くする。何考えてんだ、この人は。
坂井さんは顔を顰めたまま「何も言う事はない」ときっぱり答える。
「あの、どうして警察に届けなかったんですか?」
二人のやり取りに苛々してつい、口を挟んでしまう。
「どうしてって…別に」
始めて坂井さんが口籠り、僕から目を逸らす。
「言いたくない理由でもあったのかにゃ~」
茶化すように春日さんが言う。それにギロリと視線をくれて坂井さんが再び喧嘩腰になる。
「何が言いたいんだ」
「だってぇ、本当に見知らぬ男に突然襲われたりしたら怖いんじゃな~い?」
撃退した春日さんが言うとまるで現実味のない言葉だ。
「なのに、それを黙っているなんてさぁ。何だか犯人を庇っているか、」
一度、言葉を切ると不敵な笑みを浮かべる。
「狂言だったのかなぁ、って」
その言葉に坂井さんの頬が赤く染まり、目が吊り上がる。
だが、口を開かせず春日さんが言葉を続ける。
「犯人に心当たりがあるの?」
突然低くなった春日さんの確信を込めた声にシンと静かになる。
風一つない夏空の下、何処か遠くで蝉の声がする。
自分のものではない頭痛を感じるような、何処か曖昧な感覚。
「ど、うして…」
坂井さんの途切れ途切れな声に春日さんはフワッと笑う。
「私も昨日、襲われたから」
あっさりと切り札を見せる春日さんに驚いたのは僕よりも坂井さんだった。
「何っ!」
「だからアナタが言いたがらない理由も何となく分かる。でも、だからこそ捕まえなくちゃイケナイ。私の言う事はオカシイかな?」
グッと真剣な目で坂井さんを見据える。
それに怯んだのか、心細そうに顔を伏せた坂井さんが暫く考えてからポツリと呟く。
「間違ってない」
「そう?アリガト。協力してくれるよね?」
「スッゴイ癪だけど…仕方ない」
大きく息をして気分を切り替えると唐突に話し出す。
「ただ、始めに言っておくけど。特に有益な情報ではないと思う。それでも構わない?」
先程とは売って変わった坂井さんの言葉に春日さんが「勿論」と頷く。
「一ヶ月前、たまたま補習があってその所為で帰りがいつもより遅れたんだよ。まだ明るかったからいつもと同じ道を通ってたらやっぱり補習を受けていた奴が後ろから『一緒に帰ろう』って叫ぶからそこで待ってたら、突然…」
「男に襲われたって訳?」
「そう、」
「正確に何時だったか分かる?」
「私が出る時、警備員が門を閉めようとしていて『まだ中に生徒残ってますよ』って教えてあげたから…七時ちょっと前に学校を出たと思う」
「って、事はあの道までゆ~っくり歩いて十分掛かるとしてぇ、七時ちょい過ぎ?」
「多分」
「それで男に首を絞められた?」
「そう、ね。首の辺りが熱くなって物凄い圧力を感じた。でも、その時ちょっと間気を失ってたみたいで。後から来た奴に揺り起こされた」
二人のやり取りを聞いていて何だか少し気になる所があった。ので、それを坂井さんに訊ねてみる。
「後から来た人って、どこら辺にいたんですか?」
坂井さんがそれに申し訳なさそうに頬笑む。でも、その笑みの意味は分からない。
「さぁ?三十メートルぐらい離れてたかな」
「だったら、犯人にもその人の姿は見えた筈ですよね?」
「そうね」
「なら、どうして坂井さんを襲ったんでしょう?」
それに坂井さんは辛そうに俯いてしまう。
僕の言い方がキツかったのだろうか?
「だって、昨日も僕がすぐ傍にいたのに春日さんに襲い掛かって…何だか変じゃないですか?」
訳もなく慌ててしまう僕の額に春日さんが人さし指を当てる。
「正解」
「え?」
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